これにも、答えられない彼女たち。
ついさっきまでの私みたい。
そう思うと、彼女たちが今感じている恐怖に同情する。
やってきたのは向こうだけど、陽を止めた方が……いい?

迷っていると、陽は表情を柔らかくして聞いた。

「槭、彼奴らのこと前から知ってた?」
「し、らない」
「槭が何かしたわけじゃないんだよな?」
「ち、違う。待って、たら声かけられて……陽とどんな、関係なんだって言わ、れて。わ、私が答えられなかったの。そしたら……。でも、私も悪い。聞かれてたのに、ずっと、黙ってた。」

質問してるのに答えてもらえない上に言葉を発してくれないなんて、今考えたら酷いことをしていた。
私だって充分酷い人。

「そうか。それはやられた側からするとちょっと嫌だったかもな」
「う、ん」

陽はちゃんと駄目なことは駄目だと言う。
だから、改めてそのことについて考えられる。

陽に隠れて見えなかった二人を視界にとらえ、しっかり頭を下げて謝った。

「私も、酷いことして、すみませんでした」

しばらくそうしていると陽に「もういいよ」と言われたので恐る恐る顔を上げる。

「なぁ。あんたらからしたら槭の態度がすごく嫌なことだったとして、だからって殴るのか。殴っただけでも当たり所が運が悪ければ人は死ぬ。怒りに任せて気がついたら人が死んでました、なんて冗談じゃない」
「……殴って、ない」

花観さんが小さくとも芯のある声で言った。

「は?」
「まだ殴ってないのに、こんなに言われる筋合いない」

今度は陽に向ける鋭い眼差しも、陽はねじ伏せる。

「人を怯えさせてよく言えるな」

陽の声が更に低くなり、威圧感が増す。

「詳しくは分からないけど槭を殴ろうっていう、大きくいえば殺意があって振り被っては見たけど俺が来て失敗した。そうだろ」

二人は何も言わない。

「殴った殴ってないの問題じゃない。怯えは人の心に染みついて心の病気になることもある。その病気ってのは自分で命を投げ出すような深刻なものもあるんだぞ。それ、わかってたか」
「威圧、してないし。勝手に怯えられても私達だって困る」
「怯えてるのが分かってたってことだな。なら、表情とか声音とか変えればよかった話だ。上からものを言う奴と誰が好んで話す?」