動かない私を見てウザそうに軽く叫ぶ相羽さん。
ビクッと体が動く。

「やることは同じなんだよ。大衆に晒されるか私たちで留めるか。どっちがいい?」

圧力が凄かった。
外なのに空気が薄い。
吸気が上手くいかない。

「ねぇ、どっちなのって」

覚悟を決めて浅く、息を吐き重い足を前出す。
二人が威圧を緩めたのが肌で感じ取れた。

一定の距離を開けて着いたのは校舎裏のような、滅多に人がこないと思われる場所だった。
定期的に手入れされているのが見られる大木が一本校舎から少し離れて立っている。

「さ、答えて。陽太とはどういう関係?」

"友達"って答えていいのかな。

「十、九」

もしも、この二人が陽に言って友達だと思われていなかったら図書館に行くのだって気まずくなるし、話すなんて以ての外。
図書館から帰るあの時間も、なくなる。

「八、七、六」
「っ……」

嫌だ。
会えなくなるのも、話せなくなるのも、懐かしいねって幼馴染の私達だけが知ってる昔の話で笑い合うのも。
全部できなくなるなんて嫌だ。

「五、四、三」

もう当たり前になってしまった。
あの風景がなくなってほしくない。

「二……」

また、欲張りで自己中心的な願いが頭を埋め尽くす。

「嫌、です」
「は?」

震えた小さな声。
だけど、校庭の騒がしさとは真逆の静かなこの場所では彼女たちに十分聞こえる声だった。

「ふざけんのも大概にしろ」

思わず悲鳴を上げたくなる低い声。
まさに怒りが言葉にのっている。

「私が本気じゃないとでも思った?どうせ怒られるのが怖くて暴力なんてふるえやしないって?舐めんなよ」
「何の覚悟もなしにこんなことするわけないでしょ。もう中学生で、来年には高校生になるんだからそれぐらい考えてるし」

怒りは凄まじい。
大きく、心に刺さる鋭利な怒りの言葉を向けられたのはあの日以来で記憶の中か現実か、一瞬混乱した。

「私あんたみたいな奴、心底嫌ってるんだよね。それにこんなに怒ってたら私でも何をするかわからないや」

相羽さんの言いたいのはきっと"どんなに辛いことであっても逃げるなよ"ということだと思う。

ゆっくり相羽さんが近づいてくる。
その迫力に一歩後退りをしてしまった。
逃げると思ったのか花観さんが後ろへ回り、私の腕は背中に押さえつけられて不気味な、嫌な笑みが目の前に。