「か、彼氏……?」
「彼氏だよ、彼氏。ああ、きっと槭ちゃんを好きな男の子沢山いるんだろうなぁ」
「ないです。一度も告白されたことないし」
「ええ……そっかぁ」

文字に起こせば残念そうに見えるのに千夏さんの顔は又もや不敵な笑み。
何を思ってこの顔をしてるんだろう。

そんな最近の話や陽の昔の話を主に千夏さんを中心に話しながら食事をした。
千夏さんが時々陽にとっての黒歴史を部分的に暴露してしまうから陽は始終怒っていた気がする。
姉弟っていうのはどこもこんな感じなんだと、いつも煩いと思いながら繰り広げられる私の家での兄妹喧嘩を思い出しながら見ていたら視線に気がついた陽にムッとした顔を向けられた。

結局、人の多い校庭で食事が喉を通らない心配はなく、陽のお母さんの手作りらしい美味しい料理を楽しんだ。

「じゃあ午後も、頑張ってね」
「ん。熱中症なって倒れんなよ」

食事を終えて一度帰っていった千夏さんたちを見送り、心配をしてきた陽も背を向けて応援席へ戻っていく。

陽の言う通り、確かに騒がしかったけど一人になるとその騒がしさが遠くで聞こえているようで、私少しだけ寂しい……?
ほんの少しだけ話しただけなのにそう思うって、なんか変。

校庭の横にある坂の手すり棒に寄りかかって午後の競技の準備をする教師を見る。
忙しそうだけど全員嫌な顔していない。
寧ろ楽しそうに見えるのが謎だった。

教師という仕事が好きなのか、そういう仮面をしてるのか。
私もあんな風に働く日が来るのか……。

もう今日は考えないと決めたのに無意識に考えている自分の手を拳にして爪を皮膚に食い込ませた。

適度に痛みが走って頭の中の整理がつきやすいからよくするこの行為。
自傷行為とか言われてもこれが一番手っ取り早く楽な方法で癖になりかけてる。

教師、生徒の様子を眺め、一時頃から三時半頃まで行われた午後の部。
最後の閉会式では総合優勝、応援賞、パネル賞の発表があり、陽のクラスでもある青ブロックが応援賞、総合優勝を勝ち取った。

ほとんどの保護者も帰り始めていたが、見に来ないかと誘われた日、一緒に帰る約束もしたので陽を待つため私はその様子をじっと見ていた。