「何を考えて黙ってたのかは知らないけど、槭はもっと自分のしたいことしてもいいと思うぞ。もしも俺の家族がどう、とか考えてんだったら尚更。槭が一人で昼ご飯を楽しみたいのなら断ればいいし、誰かと食べたかったんなら一緒に食べればいい。さっきみたいに俯いてるだけじゃ何もしてあげられない」

私がしたいこと……。
その点は難題だけど自分で何もせず俯いているだけじゃ、周りが助けてくれるはず、なんていう甘え。
そんなんじゃ、駄目だ。

「ほら、また」

無意識に下を向いていた私の頭を陽がチョップした。
普通に痛くて両手で頭を抑える。

「自分でどうしようもない時はどうすればいいか聞けばいい。助けてって言えば良い。言えないのなら心の中で自分と相談すればいい。槭は一人で生きてるわけじゃないんだよ」

思わず目を見開き、目頭が熱くなった。
始めて言われた言葉たちを噛み締める。

聞ける相手が、助けを求められる相手がいるのなら助けてと言ってもいい。
言えないのなら自分に相談すればいい。
心の中なら私に味方してくれる自分がいる。
地球上でも、私の中の世界でも私は一人じゃない。

「で、どうする?」

「昼ごはん食べる?」と続ける。

私のしたいこと……。
先を見てしまったら何も思い浮かばずとも、今この瞬間に私がしたいことはわかる。

「一緒にご飯、食べる」

最後の一語を言い終えるとさっきと同じく私の腕を掴んで「そうと決まれば早く行こうぜ。俺腹ペコなんだよ」と陽の家族の元まで連れられた。

陽は二つ年上のお姉さん、千夏さんとご両親と住んでいて、全員陽の後ろについてきた私を見ると笑顔で迎えてくれた。
千夏さんに関しては陽が私の腕を掴んでいたこともあってか笑顔というよりニヤッという不敵な笑みで、第一印象がこの顔だったら距離を置くかもしれないと思う顔だった。

「槭ちゃん、また一段と可愛くなっちゃって……彼氏とかできた?」

「少し多めに作ったから遠慮せずたくさん食べて」と言われて有り難くいただいているといきなりの質問に箸でつかんでいた卵焼きを落としそうになる。
驚いてバっと千夏さんを見た。
何故かその隣にいる陽も固まっているが、あまり気に留めず千夏さんに聞き返す。