周りを見渡すとチラホラと見知った顔が視界に入る。
私の知らない顔で周りの人と戯れ、笑う彼ら。
たった一年と少し。
あっさりと変わってしまうものなんだなと心に小さな穴が開き、風が通っていく感じがした。

ハッとして思考を切り替える。
傷つくためにここに来たわけじゃない。
陽を見に来たんだから、他の人を考えていてはせっかく誘ってもらっておいて失礼極まりないじゃないか。

私はもう一度陽を探す。
応援席に行くところまで見ていたのでそのあたりを目を細めて一人一人の顔を見るが又もや陽が見当たらない。

お手洗いに行ったのか忘れ物でもしたのか。
何にせよ見当たらない人を今必死に探さなくとも少しすれば全員がここに集まる。
その時にきっと見つかるはず。

日光の当たる眩しい場所を見過ぎて目がちかちかした。
目頭を押さえて少しの間、目を閉じていると突然誰かの手が目を隠す。

「わっ!?」

私の手よりもずっと温かい手。
誰なのか確かめたくてその手首を掴み、そっと目から離して後ろを向く。

「……やっぱり、陽の手だった」
「あちゃぁ、バレてたか」

案の定というか私にこんなことをするのは今のところ陽しかいない。

「でも、びっくりした」
「びっくりしてもらわなきゃ困る」
「なんで?」
「それを聞くな。察しろ」

分からないから聞いているのに察しろ、なんて無茶な話をする。

教えてほしかったという気持ちを少しだけ表に出してしまったのを感じ取ったのか「槭も誤魔化したことあったろ」と笑われた。
確かに陽に『槭らしくない』と言われたとき色々あったのだと誤魔化した。
お互い様だ。

陽は話を逸らし、自分の出る種目について教えてくれた。

「俺、徒競走と四種競技と千五百メートル走と学年種目のムカデに出るんだ。ついでに表現種目……ダンスだな」
「千五百メートルって凄い、ね」
「クラスから二人選ばれて、そこからブロックごとに五人選出するんだって。全学年で十五クラス。かける二だから三十人中の五人」

サラッというけれど、それってそんな普通に言うことじゃなくない?

運動のできない私にとって千五百メートルを走り切るというだけでも辛いのに単純に考えて一学年五クラス。
上級生の十人を差し置いて選ばれるのは凄い。
もっと誇ったり自慢してもいいと思う。

そうしないのが陽の良い所の一つなのは重々理解している。
だからといって、自身の凄さをアピールしないのもどうなんだろう。

自分を軽く見てしまう気持ちはよく知っているから否定はできない。
その気持ちを尊重するべきだと言う考えの方が大きい。
なのに人には自分自身を大切にしてほしいと思ってしまう。