「よし。帰るか」

立ち上がるのを見て、私もそろそろ帰らなきゃだなとぼーっとしていたら陽が「ほら、忘れ物するなよ」と私の荷物を持って出口に行ってしまう。

「荷物……持っていかれた」

唖然として突っ立っていたら陽は私がついてきていないことに気がつき、手招きをした。

荷物を取られた以上、陽の元へ行かなければいけない。
図書館なので走らず、待たせ過ぎないように早歩きとも見える素早さで陽に近づく。

「あれ?なんか今日歩くの早くね」
「早歩き、したから」
「早歩きできるんだ。でも、なんか普通に歩いてるよりもちょこちょこしてるっていうか、歩幅が小さくなってんの面白い」
「そういうものじゃ、ないの?」
「多分、槭が独特なだけだよ」

普通に歩いていれば遅くなったと言われ、早歩きすれば歩幅小さいと笑われるなんて陽は意外と失礼だ。
でも、陽の笑顔を見てしまえば全てどうでもよくなってしまう。

流暢に話せなくても何も気にせずに、大切な思い出も楽しそうに話してくれる。
ついでに持っていかれた私の荷物はまだ陽の手にある。
名前の通り明るく陽だまりのような陽。

今は別の学校でどうなのかは知らないが、小学校ではとてもモテていた。
至る所で陽が好きだと言っている女の子がいたし、明るい性格で男の子からも人気だった。
きっと今も変わらないんだろう。

昨日と同じように隣を歩きながら陽の横顔を盗み見る。

昔から整っていた顔は少し凛々しさを纏って大人っぽくなった。
加えて話しやすい雰囲気に少し子どもっぽさもある。
こんなの落ちない女の子がいるわけない。

そんな人と今、私は話し一緒に帰っているなんて陽を好きな誰かに見られたら……身の危険を感じてゾワっとした。
長期休みの期間でもなく同い年くらいで自分の学校では見ない人。
更には腰に届く長髪といったら、容易に特定できるのだから。

そう。
世の中、一人でも恨みを買うと恐ろしい。
わかってるのに、まだ話していたいと思う私がいる。

懐かしい思い出もお互いの学校でのことも幼馴染達の様子も聞いていたい。
私の宝物のあの日々に触れられるこの時間をもっと過ごしていたかった。

翌日から調べものを終わらせたはずの陽は私と同じように図書館に通い、前の席で本を開くようになった。
しばらくしてからは危機感や焦りに急かされて教科書を開くようになった私の真似をするようにお互い勉強をするように。
それでも私の不安は拭えず、ずっと付き纏うばかりで泣く日が多くなった。