沢山考えた結果が今の私。
私の考えを陽は知らないし、私は話す気もない。
陽だからというわけではなく、相手が誰であろうと話さない。

共感してもらわなくていい。
守るために、こうした方がいいと思っただけだ。

「陽の知らないところで色々、あったんだよ」
「だから色々ってなんだって」
「陽は知らなくていい」

色々を連呼しながらこの話題を終わらせるために突き放すような言葉を放ったけれども、チクリと胸が痛んだ。
知ろうとしているのをそれ以上詮索するな、と遠回しに言われるのはどんな気持ちだろう。
より強い胸の痛みを感じた。

「陽に言って、も多分わからなくていい、どうでもいいこと、だと思う」
「……わかった」

訂正したおかげで言いたいことが強調されたのかもしれない。
流石に諦めてくれた。

「今思い出したんだけどさ。槭、二歳くらいの時に壁に頭ぶつけて救急車に運ばれていったよな。傷とか残ってんの?」

まさかの話題。
覚えらていたのが恥ずかしい。

「内出血しただけ、だから傷とかはないよ」
「頭の内出血って結構じゃね?」
「もっと激しくぶつけてたら皮膚が、切れてただろうからそんな強いものじゃ、なかったんだと思う」

話しながら自分の話題だとあまり面白くないなと思った。
大した話題も持っていない上につまらない話し方だし。
こんな話よりも陽のことを聞いた方がきっと楽しい。

「陽は保育園で一番記憶に残ってるもの、とかある?」
「うーん……あ、カッパおやじ!」
「わ、懐かしい」
「だろ。あれ絶対先生たちが用意した手紙だろうけど毎回楽しみだった」

カッパおやじは私達が年長の頃に手紙をくれていた謎の河童。
いつからいたのかは覚えていないけど、一か月に一回ほどの頻度で年長組の部屋のどこかに手紙を隠してくれていた。

短い手紙には最近の話ばかりだったから近くにいるんだということで探した末、カッパおやじは先生達だと結論が出たんだっけ。
一度、カッパおやじの手紙を見つけたことがあるが、その時も「なんかあるよ」と先生が教えてくれたので馬鹿だった私でも確信した。

遠足の時には手紙と一緒にかっぱエビせんを人数分くれた。
卒園間近はオリジナルの音楽の入っているCDとダンスが書いてある紙が添えてあった。

私達からカッパおやじに手紙を出すことも直接会うことも叶わない。
卒園まで一方通行の手紙を送ってくれた不思議な私達の友達。