知らないからだ。

人と上手く話せなくなってから幼馴染の皆とも距離を置いている。
一応『保育園組』という名でグループLINEはあるし、個人で連絡を取れるようにもなっているけれど私からは一度も連絡したことがない。
勿論、陽も例外ではなかった。
SNS上での会話も含めて、最後に誰かと話したのは新年の挨拶に「あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い致します」という仕事や大人の関係でしか使われなさそうな堅苦しい文章だけ。

誰がどうだ、なんて知らない。
予測しかできない。

「えっと……」

陽の視線を感じながら俯き、歩く。
どう、答えればいいんだろう。

「み、皆……元気だよ」

遠目に見る彼らは確かに明るかったし、楽しそうに笑っていた。
嘘はついていない、けど求められている答えではない気がする。

それしか言えない自分に呆れた。
他にも言えたら話だって広がるのに。

「そっか。なら、良かった」

私の予想に反して、陽は本当に嬉しそうに笑った。

「なんか連絡手段はあっても、しにくいんだよな。話す話題が出てこないし、他校に行くのも駄目だから」

驚きで歩きが止まる。
陽のような人を寄せ付ける人間でも話すことに困るんだ。

「どうした?」
「あ、ううん。何でも、ないです」
「急な敬語やめろよ。タメ口でいいから」
「はい、じゃなくて……うん」

話し方も変えるべきなのかわからず、唯一話す教師との会話の癖で敬語が出てしまう。

何処かで誰かが『さん付けされると距離感じて嫌だよね』と言った。
敬語が嫌ってそんな感じなんだろうか。

「ん、オーケー。次、敬語使ったら罰ゲームな」
「罰ゲーム……私殴られる?」
「そういう系はユーチューバーのやるようなやつだろ。もっと軽いものだよ」

本当にそうなったらどうしようと思っていた私はほっとしたが、陽は意外そうに見てきた。
何だと首を傾げたら益々目を丸くする。
陽が黙ってしまったので気まずい雰囲気が漂う。

「どうしたの?」
「いや、本当に槭だよなって思って」
「……え?」

何をどう疑われているのか、予想すらできない。
私は私だ。
谷古宇槭だ。
それぐらい幼馴染の陽が知ってて当たり前の情報なのに……。

困惑するのを隠せずにいると察した陽は早口で続けた。

「あ、槭が槭だってことはわかってるからな?俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……俺の知ってる槭の性格とか行動とか、今と全然違うからびっくりしたって言うか」

陽の知る私は何も知らずにしたいように生きていた私だ。
距離をとり始めてからの私を知らず、驚かれる仕方のないこと。
少し、傷ついているのだって自業自得。

「色々、あったから」
「色々?」