「槭」
槭。
私の名前。
学校の人か、親戚か。
親戚だったらまず声で気がつく。
なら、学校の人?
何のために?
そもそも私の名前まで知っている人がいること自体が驚きだ。
話すのが苦手な私が自ら人に話しかけにはいかない。
私だったら席でじっとしている人の名前をわざわざ覚えようともしない。
一つ、可能性があるのは……幼馴染。
あの頃の私を知っているのなら名前を覚えられていてもおかしくない。
「槭」
もう一度、名前を呼ばれる。
二度も呼ばれたら、微動だにしない私に声をかけていると嫌でもわかる。
さすがにこのままこの場を去れない。
深呼吸を一つ。
覚悟を決めてぎこちなく振り返った。
「やっと見たな」
堂々とそこに立つ男の子は最後に見た時よりも少し雰囲気が変わっているが、確かに……私の知っている相手だ。
黒いサラサラした短髪。
彼の最大の魅力は笑顔。
笑うと見える綺麗な歯に細長くなる目は彼を引き立て人を引き寄せる。
「陽……」
「懐かしいな、その呼び方」
東濱 陽太。
私の生まれた時からの幼馴染の一人で保育園の頃は皆に"陽"と呼ばれていた。
保育園から小学校まで同じでも、中学校は近くの違う学校で別れたはず。
彼の家の学区的には私の通う中学校なのに別の学校に行った時は驚いた。
同じ区内だし、彼の家の方がここからは近いからこの場にいるのに対しては何も感じることはない。
ただ、私に声をかける意味がわからない。
いくら幼馴染とはいえ、用がなければ話しかける必要なんてないけれども、しばらく会っていないのに用事なんてあるとは思えない。
「何か、用ですか?」
震えそうになる声を抑えると自分でも驚くような冷たい声が出た。
これなら震えていた方が悪い印象を与える可能性が少ない。
今の言葉を取り消せるものなら取り消したかった。
「え、ああ……ごめん。何も用はないんだけど声かけた」
よく見せる特徴的な笑顔ではなく、愛想笑いだと分かる微妙な笑い。
表情に出さないように心がけはしたが、内心今すぐ逃げ出したくなる。
「本、借りに来たのか?」
話題を探るように私が手に持っている本をチラリと見てここに来た目的を訪ねてきた。
今度は努めて優しくゆっくりと話す。
槭。
私の名前。
学校の人か、親戚か。
親戚だったらまず声で気がつく。
なら、学校の人?
何のために?
そもそも私の名前まで知っている人がいること自体が驚きだ。
話すのが苦手な私が自ら人に話しかけにはいかない。
私だったら席でじっとしている人の名前をわざわざ覚えようともしない。
一つ、可能性があるのは……幼馴染。
あの頃の私を知っているのなら名前を覚えられていてもおかしくない。
「槭」
もう一度、名前を呼ばれる。
二度も呼ばれたら、微動だにしない私に声をかけていると嫌でもわかる。
さすがにこのままこの場を去れない。
深呼吸を一つ。
覚悟を決めてぎこちなく振り返った。
「やっと見たな」
堂々とそこに立つ男の子は最後に見た時よりも少し雰囲気が変わっているが、確かに……私の知っている相手だ。
黒いサラサラした短髪。
彼の最大の魅力は笑顔。
笑うと見える綺麗な歯に細長くなる目は彼を引き立て人を引き寄せる。
「陽……」
「懐かしいな、その呼び方」
東濱 陽太。
私の生まれた時からの幼馴染の一人で保育園の頃は皆に"陽"と呼ばれていた。
保育園から小学校まで同じでも、中学校は近くの違う学校で別れたはず。
彼の家の学区的には私の通う中学校なのに別の学校に行った時は驚いた。
同じ区内だし、彼の家の方がここからは近いからこの場にいるのに対しては何も感じることはない。
ただ、私に声をかける意味がわからない。
いくら幼馴染とはいえ、用がなければ話しかける必要なんてないけれども、しばらく会っていないのに用事なんてあるとは思えない。
「何か、用ですか?」
震えそうになる声を抑えると自分でも驚くような冷たい声が出た。
これなら震えていた方が悪い印象を与える可能性が少ない。
今の言葉を取り消せるものなら取り消したかった。
「え、ああ……ごめん。何も用はないんだけど声かけた」
よく見せる特徴的な笑顔ではなく、愛想笑いだと分かる微妙な笑い。
表情に出さないように心がけはしたが、内心今すぐ逃げ出したくなる。
「本、借りに来たのか?」
話題を探るように私が手に持っている本をチラリと見てここに来た目的を訪ねてきた。
今度は努めて優しくゆっくりと話す。