自然は多くても、すぐそこは二子玉や横浜などの人口が集まる地域。

田舎とも都会ともいえないような絶妙な位置にある市内の中学校が私、谷古宇 槭(やこう かえで)の通う学校だ。

校舎の四階、裏門から見て一番右が二年四組の私の使う教室。
更に黒板を前にして左から一列目の一番前が出席番号順の今の席。

教室から見える桜もさっさと緑色の葉をつけ始め、花見の時期が終わった頃、私は自分の席で固まりながら外を眺めていた。

心の中では満開の桜の下にいる自分が風と共に舞い踊っているところ。

想像上の私は楽しくて仕方ないといった様子で目は光り輝き、腰より少し上まで伸ばされた焦げ茶色の髪は日光によって少し透け、所々が茶色に見える。

私が私の容姿に唯一つ自信の持てる少し茶色がかった長い髪。
人よりも指通りが良いと褒められてから大切にしていた。
容姿は全く一緒だというのに現実の私はあんな風には見られないだろうし、自分でも思わない。
私もあんな風に自由に周りの目を気にせずに自然と一体になってみたい。
そう思うことがあるから、桜と共に舞い踊る私が頭にいる。

しかし、願望から生み出された私は現実の人の声が連れ去ってしまう。

「谷古宇さん、聞いてる?」

大柄な社会科教師でもあり、学年主任でもある男性が前まで来て自分の持っていたファイルを机に叩きつけた。

目の前に教師の使う椅子や机があるというのにこの席に慣れない私は教師の前で堂々と授業をさぼっているように思われてしまう。

小学一年生の時点で百三十センチメートルはあった長身の私はいつも後ろの席に座っていたから前の席では教師との距離感をおかしく感じながらちゃんと授業聞かなきゃ、と思う。

「谷古宇さん!」

心の中でそうは思うのに、表の行動は全く変化していない私に社会の教師は大きすぎる声を出されてようやく意識が完全に現実へ戻ってきた。

クラスメイトは空気の重さに皆、口を閉ざしている。

「二年生の始めで気が緩んでる。ファイルに挟んであるプリント見ろって言ったのに。教科書にもマークしといてって言ったよね」

言う通り二年生だというのに気が抜けていることは確かだ。

だって、よくよく見たら教科書のページは全然違うし、シャープペンシルの芯も出ていない。
これじゃあ私が教師の立場でも怒ってしまう生徒像。

最悪だ。
二年生が始まったばかりで一年前よりも、もっと気を引き締めていかなければと意気込んでいたのに。