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◯孤児院 談話室

リリを助けてから数日たったある日、孤児院で噂好きの男の子ルークと友達のクリスが話していたとある噂をファダは耳にした。

ルーク「なあ、あの話聞いたか?何でも死んだ人間が生き返ったらしいぞ!」

クリスは眼鏡をあげて信じないような顔をしている。

クリス「嘘つくなよルーク。蘇生魔法は昔から禁忌とされていて、使った人間は重罪だ?」

ルーク「本当だって!!噂好きのパン屋のおばさんから聞いたんだから。もうすぐ結婚するはずだったカフェ店員の男の人の婚約者が死んじゃったんだって。その人死んじゃって以来凄い落ち込んじゃって、今にも死にそうな感じだったらしいんどけど、この前凄い笑顔でパン屋に来たらしいんだ。それで、パン屋のおばさんが理由を聞いたら彼こう言ったんだよ」

クリス「なんて?」

ルーク「『彼女が帰ってきたので』って!!」

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クリス「それって彼女が亡くなって、精神がおかしくなっているのでは?」

クリスは、疑った目でルークを見た。

ルーク「パン屋のおばさんも最初はそう思ったらしいんだけど、次の日に2人で歩いてるのを見たらしいんだ!」

クリス「本当か?単なる他人の空似じゃなくて?」

ルーク「パン屋のおばさんが、婚約者も何回かうちに買いに来たから間違うはずない!って言ってた」

クリス「じゃあ本当に死んだ人間が生き返ったってことか?俄かに信じがたい話だね」

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ルーク「ほんっと、クリスって俺の話信用しないよな!」

クリス「面白いとは思うよ?信じるかは別として。それより、僕お腹すいたから食堂行こうよ」

ルーク「お前本当マイペースだよな」

2人は言い合いながら、談話室から出て行く。

ファダ「死んだ人間が生き返った……」

ファダは、何故か胸騒ぎがするように感じ胸元をギュッと掴んだ。

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◯上空 青空

はるか上空2人の男が箒に跨りながら、街を見下ろしていた。2人は黒と金を基調とした軍服を見に纏い胸元にはマークのはいったバッジをつけていた。

ヴォル「たいちょ〜。聞いていいすか?」

隊長「なんだ?」

ヴォル「何で今回は隊長も来たんすか?使徒もマーラも出たって報告無いし、俺だけもしくは下の奴らでも良かったのに」

隊長「根拠は無いが、嫌な予感がした」

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ヴォルは頭の後ろに腕を組んで、シシッと笑う。

ヴォル「あー、またいつものやつっすね。まあ、オレは隊長いればすぐ終わるんでラッキー!としか思ってないっすけど」

隊長はため息をつく。

隊長「お前は・・・・・・まったく。無駄口はそこまでだ。いくぞ」

ヴォル「はいはい」

2人は一気に近くの原っぱへと降下して行った。

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◯街の近く 原っぱ

2人は原っぱへふわりと着手し、箒に魔法をかけ小さくすると仕舞い込んだ。

隊長「それで、情報はちゃんと頭に入っているのか?」

ヴォル「ちょ、はいってますよ!ノーティからの情報だとこの街のカフェの店員がターゲットらしいっす。何でも、婚約者が先月死んだらしいっすけど、数日前に2人で歩いていた目撃情報があったみたいっす。婚約者の葬式の目撃も墓も見つかったみたいなので、もう思いっきり黒っすね!」

隊長「ああ、あいつが好きそうなシチュエーションだな」

ヴォル「今の時間だったら、カフェにいると思うっすよ。さっさと片付けてメシ行きましょう!メシ!」

隊長「俺は奢らないからな」

ヴォル「え〜、隊長の意地悪。この街小さいっすけど、野菜が美味しいって有名らしいっすよって、置いてかないで下さいよ〜」

隊長と呼ばれた男は、話の途中で歩き出し建物がある方へと歩いて行った。

「ここだな」

 2人が降り立った原っぱから、少し歩いたところにある、小さいながらも雰囲気のあるカフェの前で足を止めた。

「ターゲットは1人で店番っすね。ちょうどいい」

「話の分かる奴だといいが」

「そっすね。でも、素直に応じる奴なんてそうそういないっすけどねー」

「本来それを説得させるのが、我々の義務だ。ヴォル」

「へーい」

ヴォルと呼ばれた男は生返事しながら、カフェの扉を開けた。

「いらっしゃいま・・・・・・っ」

扉を開け、目が合った瞬間店員の顔が明らかに引き攣るのが分かった。

「こんにちわ〜。お、その反応はオレ達のこと知ってそうな顔してるっすね?」

「な、何を言ってるんですか?私は貴方達の事何か知りません!」

「まーたそんな事言って。オレ結構嘘ついてるの見破るの得意なんすよね〜」

店員の息遣いが荒くなるのを感じる。

「ヴォル」

「ういーす。んん、改めましてブルーノ・オリバーさん初めまして〜。その様子だとだいだい見当は付いてると思うっすけど改めて説明するっすね。我々は国家防衛機関アルテアの特殊部隊ステラの隊員っす。あんたの婚約者についてお話いいっすか?」

「わ、私の婚約者は何も悪い事はしてません!貴方がたに何もお話しすることはありませし、お引き取りください!!」

ブルーノが叫ぶと同時に部屋の窓が音をたてて割れた。食器類やコーヒーの瓶も粉々に割れ、コーヒーの匂いが鼻を掠める。

「あ、ちょっと!」

爆風で怯んだ隙に、ブルーノは扉から一目散に逃げ出した。

「おい、逃げたぞ」

「すんません!油断しすぎました」

「これも勉強だとお前に全て任せて見守っていた俺にも責任はあるが、お前の甘さが招いたミスだな。それとお前まだ本調子ではないな?」 

「う・・・・・・」

「全くお前は・・・・・・。話は後だ、追うぞ」

「了解」



******



「ファダ、お使いに行ってもらえますか?」

「はい分かりました。何を買ってくればいいですか?」

「アンヌが風邪で寝込んでしまって。体にいいものを食べさせようと思うの。なのに、卵が切れちゃったから卵お願いできる?」

「分かりました」

ファダはお金を受け取ると、街の市場へと向かう。孤児院の庭には、子供達がボール遊びをしており、遠目で見てると子供達はファダを見つけ駆け寄って来た。

「ファダ!遊ぼうよ」

「ごめんよ。今からお使いなんだ」

「え〜」

「帰って来たら、遊ぼう」

「あれ?ファダ大丈夫?顔色悪いよ?」

「え、本当に?大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

ファダは、子供達の頭を撫でる。

「気をつけてね」

「うん」

(言われてみれば最近妙に疲れやすいな)

 市場はいつも通りに賑わっていた。ファダは卵を買いお釣りを受け取ると何やら奥の方が騒がしい事に気づいた。

「どいてくれ!!」

「うわ!」

ブルーノは周りの人にぶつかりながら走り去って行った。

「あ、あれは」

「あー、噂のブルーノさんね。婚約者が生き返ったっていう」

「おばちゃんも知ってるんだ」

「そりゃあ!小さい街だからね。噂はすぐ広まるよ」

「おばちゃんは、死んだ人間が生き返ると思う?」

「うーん、おばちゃんも詳しくは知らないけどさ、本当に生き返ったって言うならそれ相応の対価がなきゃ無理な話だよ」

「対価・・・・・・」

「おばちゃんは、タダで死人が生き返るとは思えないんだよ。って、なーに暗い顔してるんだい?ほら!これおまけしておくから元気だしな!」

「わっ、こんなに?」

「若いのに遠慮するんじゃないよ」

おばちゃんは、ファダに野菜の入った袋を渡した。
どれも大きく美味しそうだ。ファダはお礼を言い店を後にした。
 孤児院へと早く戻ろうと駆け足で帰宅途中、突然視界の端に黒色の軍服を着た男2人を目にし足を止めた。

「え!?」

2人は屋根から屋根へと飛んでいるようだった。まるで羽が生えてるような華麗な動作。

「うお!あの子こっち見てる。隊長バレちゃいましたね」

「1人くらいなら問題ないが・・・・・・。あの子供」

目を細めると少し考えるような様子を見せた。

「隊長?」

「ヴォル、あの子供拾ってこい」

「え!?捨て猫じゃないんだから、拾ってこいって言っても」

「それくらい担げるだろ?」

「ホント隊長って、横暴っすね!!了解しました〜」

ヴォルは言い終えるや否や屋根から飛び降り、ファダの目の前に着地した。 

「ごめんね〜。黙ってオレらに着いてきてくれるっすか?」

「はぁ?え、あ、ちょっと!?」

「よいしょ。って軽っ!!ちゃんと、食べてるっすか?」

ヴォルはファダを肩に担ぐと、隊長の元へと戻った。

「・・・・・・」

「あ、あの何か?」

「申し訳ないが、話は後で話す。いくぞ」

「ういーす」

「そんな急に・・・・・・って、うわぁ!!!」

「道草くっちまったから、スピードあげるっすよ」

(この人達誰!?俺どこに連れてかれるんだよ)



******



「とうちゃーく」

「おえ・・・・・・」

「大丈夫すか?」

(大丈夫な訳ないだろ・・・・・・。早く地面に降ろしてくれ)

ファダの顔は真っ青になり、手は口元をおさえている。口を開いたら今にも吐きそうだ。

「降ろすっすね。お疲れさん」

(死ぬかと思った。人間ってあんなにスピードでるのか)

「ごめんねー。うちの隊長何か君に気になる事あるみたいなんすよね」

「気になること?」

「隊長口数多い人じゃないから、俺もよく分かんないっすけど、こう言う時の隊長の勘は当たるんすよね」

「少年、手荒くしてしまい申し訳ない。少し待っていてもらえるか?」

「はぁ。あの、ここって・・・・・・」

ファダの目の前には、小さいながらも手がちゃんと行き届いていそうな民家があった。庭には色とりどりの花が咲いている。

「キミも聞いたことあるんじゃないすか?ここは、例の婚約者達の家っすよ」

(やっぱり噂は本当だったのか。)

「俺も!中に入っていいですか・・・・・・?」

「え!いや、一般人の子に目の前で見せるのは、ちょっとー」

「俺を勝手に連れてきたんですから、いいじゃないですか?」

「それはそうなんすけど・・・・・・」

「いいだろう」

「隊長!?」

「だが真実を知った後、逃げるなよ?」

(ぞくっ・・・・・・)

ファダはまるで蛇に睨まれた蛙のように、恐怖で身がすくんでしまった。

「行くぞ」

「了解。ほら、固まってないで行くっすよ?」

「は、はい」

 ファダ達が部屋に入ると、まるで花束に顔を突っ込んだような強い花の香りがし、むせりそうになる。だが、ファダは花の香りにまじって嗅いだことないような匂いがするのに気づいた。

「あ、貴方達勝手に!!」

部屋にいたのは、カフェ店員のブルーノと婚約者の女性。だが、女性の様子がおかしい事にファダは気づいた。

(なんて言うか生気がなさすぎて、まるで)

「道草くってたんで、遅くなりましたー。今度は逃がさないっすよ?」

「くっ・・・・・・」

「単刀直入に言う。自分で契約を解除するか、無理矢理俺達に解除されるかどちらか選べ」

「少年、ちょっと離れてた方いいっすよ」

ファダはピリッとした雰囲気に圧倒されながら、邪魔にならないよう端の方へと移動した。

「僕達の邪魔をするな!!!」

「うわ!!」

突然風が吹き荒れる。ファダは目を開けてるのがやっとのくらいだった。

「説得は無理そうっすね」

「あぁ」

「隊長、オレがやるっす」

「またさっきみたいな事はするなよ」

「今度は大丈夫っす」

ヴォルは向かい風の中婚約者の背後へとまわると、首元に杖を向ける。

「ブルーノ・・・・・・」

「っ・・・・・・、やめろ!!彼女には手を出すな!!」

「あんたが、命令に従わないからっすよ。オレらは、国家防衛機関アルテア特殊部隊ステラ。あんたのようにイかれた魔法師と契約したせいで、生き返った死人を排除する為にきたっす」

「イかれた魔法師なんかじゃない!!あの方は・・・・・・、あの方は!ちゃんと私の願いを叶えてくれた!!その証拠に彼女は生き返ったんだ」

「ふーん」

ヴォルは、杖の先を彼女の腕の方へと向けると、呪文を唱える。

『アーレス』

ヴォルが呪文を唱えた途端、彼女の腕がゴトリと嫌な音を立てて落ちた。しかし、彼女の表情に全く変化は無かった。

「アンヌに何するんだ!!」

「・・・・・・」

「ほーら、これが証拠っすよ?腕もがれたのに、顔色一つ変えない。人形と一緒。本当はあんたも分かってたっすよね。でも、気づきたくなかった」

ブルーノは、がくりとひざから崩れ落ちた。

「・・・・・・ああ、最初は嬉しかったよ。彼女が生き返ったんだって。でも!触っても体温は低いし、笑う事も無くなった。違和感だらけだったけど、彼女がいてくれたらそれでいいと思った!!周りから変な目で見られても、私が可笑しくなってしまえば幸せに生きていけるって」

ブルーノの啜り泣く声が聞こえてくる。アンヌはそんなブルーノの姿を見てもやはり表情一つ変わらなかった。

「自分でけりをつけるっすか?」

「あぁ、こんな形で生き返らせてもアンヌは喜ばない。」 

「生き返った人間を、オレ達はドールと呼んでるっす。その名の通りこいつらに感情や痛覚などがない。生前の少ない記憶と魔法だけで動いてる。真っ二つに切ってもこいつらは死なない。肉体が無くなるまで動くっす」

「じゃあ、どうやって・・・・・・」

「燃やすしかないっす。ドール達の肉体は、とても脆いからちょっとの魔力で直ぐ燃えるっすよ」

ブルーノからは一瞬当惑の色が見えたが、次に顔を上げたときには覚悟に染まっていた。その顔を見たヴォルは、にやりと笑い杖を下した。

「アンヌごめん。私のエゴで君のことをこの世界にとどめてしまった。私がいつ君のところに行くか分からないけれど、待っていてほしい。愛してるよ」

アンヌは表情こそ変えなかったが、じっとブルーノの瞳を見つめていた。

『ヴェスタ』

ブルーノは、アンヌの手を握ると呪文を唱えた。するとみるみるとアンヌの身体は緑色の炎に包まれた。

「アンヌ!?ま、待ってくれ」

ブルーノが手を伸ばした頃には、炎は消え床には灰だけが残っていた。灰の中には、小さいながらも赤い石が煌めく指輪が落ちていた。

「うっうう・・・・・・」

ヴォルは指輪を拾うと、ブルーノへと渡す。

「よく見えなかったけど、最期アンヌが微笑んでるように見えました」

「そうっすか」

「ありがとうございました」

「お礼を言われる事はして無いっすよ。オレ達はただ始末しにきたんすから」
 
「それでも貴方達は、私を正しい道に行くように正してくれました」

「・・・・・・また契約なんかしたらダメっすよー。あいつらは、弱い心につけ込んでくるから。肩の印も消えてるっすよ」

(肩の印・・・・・・)

ファダは自分の肩をギュッと掴む。顔色が悪くなっているようだった。

「はい」

 ヴォル達はブルーノの家を後にすると、外はすっかり夜の帷が下がっていた。ファダは、空気のように終始ずっと黙りこくっていた。

「しょーねん。大丈夫すか?ずっと黙ってたっすね?」

「驚いたか?」

「そう言う隊長だって、見てただけじゃないすか」

「お前にやらせないと意味ないだろ?」

「あ、あの」

ファダはやっと口をあけたが、声が震えているようだった。

「俺を連れてきた理由って・・・・・・」

「そうっすよ!!隊長いい加減に教えて下さいよ」

「その様子だと、気づいてるようだな」

隊長は、杖を取り出すとファダへと向ける。

「隊長!?」

「肩を見せろ」