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◯ 回想突入 しんしんと雪が降ってる住宅街

フードを被った傷だらけの女性フロールが、フラフラになりながらも懸命に歩いている。女性の腕の中には小さな赤ちゃん。女性の周りを三つの光が飛び交う。

ペタラ「フロール様、 少しお休みになられた方が!!」

フロール「大丈夫です。一刻も早くこの子を安全な場所に……。それに、(わたくし)はもう永くはない……」

ペタラ「フロール様!!」

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◯回想

フロールはペタラに手を伸ばすと片方の手に乗せて、陽だまりのような顔で優しく微笑む。

フロール「(わたくし)から最期のお願いです。聞いてくれますね……」

ペタラ「さ、最期だなんて!」

フロール「ペタラ、そんな顔しないで。……この子をお願いね」

フロールは、赤ちゃんの顔を優しく撫でる。赤ちゃんの頬に涙が落ちる。

フロール(どうか生き延びて。幸せにおなりなさい)

◯回想終了

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◯大空と原っぱが広がる場所 穏やかな場所

昼寝から目を覚ましたファダ。目元を触ると自分が泣いているのが分かった。

ファダ「何だ・・・・・・?」

ファダは胸元に手をおき、服をギュッとつかむ。

ファダ(泣いていたのか?でも何故か暖かい)

風が涙を乾かしてくれるまで、ファダは再び目を閉じる。すると、遠くからファダを呼ぶ声がする。

ララ「ファダ!! こんなところにいた!」

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ララはファダの頭の方へ立つとファダを見下ろす。

ララ「もう!またお昼寝して!」

ファダ「ララ、どうしたんだ?」

ララ「どうしたんだ?じゃないわよ。掃除の時間なのに、見当たらないから探しに来たの。また先生達に怒られるわよ」

ファダ「あぁ、もうそんな時間か」

ララはしゃがむと、クンクンとファダの匂いを嗅ぐ。

ララ「あれ?ファダから懐かしい匂いがする」

ファダ「懐かしい匂い?」

ララは手を口に当ててクスクスと笑う。

ララ「ええ!優しくてポカポカする匂い」

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ララはファダの腕を引っ張る。

ララ「は!こんなゆっくり話してる時間は無いのよ。私まで怒られちゃう!早く行きましょう」

ファダ「おい、引っ張るなよ」

ファダ(懐かしい匂いか……)

◯孤児院 教室

孤児院へ戻るとすでに掃除は終わっていた。二人してこっぴどく叱られると、ララは俺をひと睨みして同年代の子達の中へ戻っていった。

ファダ(ララには、酷いことしたな。今度謝ろう)

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◯孤児院 ファダの部屋

ファダはベットに寝そべり、天井をぼんやりと見つめていた。

ファダ「・・・・・・」

◯回想突入 孤児院

ファダは将来のことで悩んでいた。孤児院は19歳を迎えるまでに就職先を見つけて出なければならなかった。だが、魔力も殆どなく何かやりたいこともないファダはどうすればいいか悩んでいた。孤児院の先生は、そんなファダを見かねて孤児院で働かないかと伝えていた。

先生「ファダ、やりたい事が見つからないならここで働くのはどう?」

ファダ「先生、嬉しいけど俺魔法得意じゃないし小さい子の相手するのも得意じゃない」

先生「そうかしら?小さい子の相手は貴方が思ってるより上手よ?」

ファダ「・・・・・・」

○回想終了

ファダ「将来か……」

ファダ「……俺は何のために産まれてきたんだ」

ファダは夕食も食べずに眠りについた。

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◯孤児院 談話室

ファダは、何やら騒がしい声で目を覚ます。声が聞こえてくる談話室へと向かった。

ファダ「何かあったのか?」

ファダ「ララ?」

ファダは談話室へ入ると、あちこちで啜り泣きが聞こえてくる。ファダはララを見つけると声をかける。ララは目を真っ赤に腫らして、下唇を噛んで下を向いている。

ララ「ファダーーーー!!!」

ララはファダの存在に気づくと、ファダに飛びつく。

ファダ「どうしたんだよ?そんなに泣いて。しかもこの空気」

ララ「あ、あのね。リリがいなくなっちゃって……」

ファダ「リリが!?」

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ララの目から大粒の涙が落ちる。

ララ「昨日寝る前はいたのにどこ行っちゃったのかな?もしかしたら、私のこと嫌いになっちゃって出ていったのかな?」

ファダ「そんなことないきっとすぐ見つかるよ」

ララ「ほんと……?」

ララはいつもとは違い、取り乱した様子だった。俺は落ち着かせるように頭を撫でてやりながら周りを見渡す。

ファダ(他の泣いてる奴らも多分同じ理由だろうな)

ファダ「俺が探してきてやるから待ってろ」

ララ「や、約束だよ?リリを探してきて」

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ファダが右手の小指を差し出すとララは涙で濡れた指を力強く絡ませてきた。

ファダ「ああ、約束だ」

ファダは指切りをすると立ち上がり、鳥籠の近くを確認する。鳥籠の近くの窓が空いているのが分かり、そこから身を乗り出しキョロキョロすると森の方へ目を向けた。

ファダ「じゃあ行って来るから」

ララ「気をつけてね!」

ファダ(しかし、小鳥だもんな。最悪遠くへ行ってしまったかも……)

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◯孤児院近く森の中

ファダはまず小鳥がいそうな森へと足を踏み入れた。ファダが進むにつれ目の前が全く見えないくらい霧に包まれる。

「凄い霧だな………全く見えない」

数メートル先も見えない濃い霧のなか、ふと血の匂いが鼻を掠めた。ファダは嫌な予感がし、鼓動が早くなる。

ファダ(これ・・・・・・、血の匂い!?)

ファダ「リリ!! いないのか!?」

ファダは微かな血の匂いを頼りに、進んでいく。血の匂いはどんどん濃くなっていった。

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◯森の中 濃霧

ファダは、駆け足になりながら目を凝らしながら辺りを見渡す。

ファダ(血の匂いの正体が、リリじゃないことを願うが……。もしかしたら、誰か怪我をして動けないのか?)

ファダ「……っ」

ファダは目の前の光景に息を呑んだ。ファダの望まない最悪な結末が目の前にあった。

ファダ「リリ!!」

リリは毛がところどころむしられ、血まみれの状態でぐったりしている。呼吸も、浅く危険な状態なのはすぐに分かった。

ファダ「早く、手当を」

ファダは自分の服の袖を破くと、慣れない手つきで止血を始めた。白だった布がみるみる赤く染まっていく。

ファダ(俺にもっと魔法の力があったら!!)

ファダはやらないよりかはいいと思い苦手な治癒魔法を施しながら止血をする。だが、血は止まらない。それを見たファダは唇を噛み締める。

男性「お困りのようですか?」

突然気配もなく、ファダの後ろから声がした。ファダは、勢いよく後ろを振り向く。

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優しそうだが、不思議な雰囲気をもつ紳士が立っていた。素人目からでも分かる高価そうな生地でできたコートに身を包み、帽子を深く被っていた。ファダは下から見上げる状態ではあったが、顔は良く見えなかった。

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ファダは相手の不思議な雰囲気に圧倒されていたが、我にかえり助けを求める。

ファダ「お、俺の住んでる孤児院で飼ってる鳥なんだが、かなり大きな怪我をしたらしく危険な状態なんだ。 もし、この辺で手当できるところがあったら教えて欲しい!」

男性「あぁ、可哀想に……。おおかた獣にやられたのでしょう。この状態だと、すぐに死んでしまいますね」

男性は優しく小鳥を撫でる。

ファダ「……そんな」

男性「悲しい顔をしないで。私が助けてあげましょう」

ファダ「本当か!頼む。助けてくれ」

ファダは男性に懇願する。

男性「ええ、綺麗に元通りに()してあげますよ。ですが……」

男性は口元に人差し指を置きニヤリと笑う。

ファダ(びくっっ)

優しく不思議な雰囲気をまとっていた紳士だったが、一瞬とてつもない殺気を感じ、ファダは体を震わせた。

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男性「貴方にも手伝って頂きますがよろしいですか?」

ファダ「俺にも出来ることがあれば何だってする!」

男性「何だってですか。では……、契約をしましょう?」

ファダ「け、契約?」

紳士は指をファダの心臓に当てるとファダは、後退りをする。

男性「ええ!ここまでの状態だと、治癒魔法は使えません。ですが、私にはある魔法が使える」

ファダ「蘇生魔法は駄目なはずじゃ……」

男性「ふふ。私のは蘇生魔法何かではありません。まあ、詳しくは言えませんがね」

ファダ(どうする?死んだ者を生き返らせる魔法は昔から禁忌と言われてる……。だが、俺が知らないだけなのか?)

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男性「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。私と契約をし、1年後に貴方がこの世で生きていくうえで1番大切なものを頂きにまいります」

ファダ「大切なもの?」

紳士はにこやかに笑う。その笑みは、ファダにとっては恐怖を助長させるだけだった。

男性「はい。詳しくはお伝えできませんがね。その覚悟があれば何だって直してあげますよ?」

ファダ(覚悟……。何も情報がないなかで、契約なんてリスクが高すぎないか?でも、ララと絶対に連れて帰ると約束した)
ファダは下を向き、拳を強く握りしめた。

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ファダ「分かった。契約するよ」

上を向いたファダの目は、不安と覚悟が入り混じった色をしていた。

男性「懸命な判断だと思いますよ?では早速始めましょう」

ファダ「うわっ!」

風が一気に強くなる。あたりは更に暗くなり、この世界に、俺達だけになったのでは?と思うくらいやけに静かだった。

男性「では、小鳥に触れていてください」

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◯森の中 風が強くなり周りの葉っぱが飛ぶ

ファダ「分かった」

男性「では……、『モールぺウス』」

紳士はリリに手をかざすと、呪文を唱えた。するとみるみる傷が癒えていき羽をピクつかせた。

ファダ「リリ!」

ぐったりと虫の息だったリリはまるで先ほどの状態が嘘のように、ファダの周りを飛び回っていた。

ファダ「痛っ」

ファダは喜びもつかのま突然背中に痛みがはしる。

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男性「貴方に印をつけさせていただきました。今は丸い黒子のような印ですが、徐々に形を変えていきます。花が開花した頃にまた会いにきますので、今日の約束は努努お忘れなきように……。私は次の用事がありますのでここでお暇致します」

紳士は森の奥へと向かって行く。

ファダ「ま、まってくれ!大切なものっていったいなんだ!?」

ファダは男性を呼び止めた。男性は振り向く。

男性「言ったでしょう?それはお教えできません」

ファダ「・・・・・・」

ファダ「では、ごきげんよう」

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紳士は霧の中へと消えていきすぐに見えなくなった。紳士がいなくなった後は嘘のように霧が晴れてきた。日が差し込み、まだ明るい時間帯だとわかる。

ファダ「不思議な雰囲気の紳士だったな……」

ファダ(大切なものっていうのが分からないけれど。でも、リリは助かった。これで皆悲しまずにすむ)

「リリ帰ろうか。皆待ってるよ」

チチッとリリが返事をすると、ファダは元来た道を戻っていく。

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◯孤児院 談話室

ララ「ファダ遅い……」

既に日は落ち、辺りは闇につつまれた。ララはファダ達の帰りを待ち続けていた。

先生「そんなに心配しなくても大丈夫よ?きっと元気に帰ってくるわ」

ララ「先生……」

きっちりと髪を後ろへ撫でつけたお団子ヘアーの女性が、ララの頭を優しく撫でる。

先生「ほら、噂をすれば玄関から音がしたわ。きっとファダよ」

「私、お迎えしてくる!」

ララは椅子から飛び降りると、一目散に玄関へ走って行った。

《page21》

◯孤児院 玄関

ララはファダにいきなり抱きつく。

ララ「ファダ!!お帰りなさい」

ファダ「うわ!ララいきなり抱きつくと危ないだろ?」

ララ「わたし心配で……、リリは見つかった!?」

ファダ「ああ、無事だよ。ほら?」

ファダは、肩に乗せていたリリをララに見せると、チチッと元気よく鳴いた。

ララ「リリ、元気で良かった……。ファダ見つけてくれてありがとう」

リリを受け取ると、ララはリリをギュッと抱きしめた。

ファダ「どうってことないよ」

《page22》

ララ「ファダ大丈夫?」

ファダ「え?」

ララはいつもと違うファダの様子に気付いたのか、問いかけた。ファダはかがみ、ララの頭を優しく撫でる。

ファダ「うん、大丈夫だよ。結構森の奥まで行ってたからさ。とりあえず、今日は寝ようか?」

ララ「うん……」

先生は、そんな二人の様子をじっと見つめていた。

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◯森の奥深く闇に包まれている館

ファダと契約した紳士(レフコース)と若い男性(マニマ)が窓際で話している。

レフコース「……」

マニマ「何かありましたか?レフコース様」

レフコース「いや、今日印をつけた少年どこかで会った気がして」

マニマ「へぇ……」

レフコース「何かひっかかるんですよねぇ」