「今夜は、二百年ぶりのカウシュマー流星群が見られます。天気も全国各地で晴れということで天体観測日和になるでしょう。」
 僕は、ニュースが十時を知らせると同時にテレビの電源を消した。
「はぁ……まだこんな時間か……」
「今日はもう起きようかな……」
 また、一日が始まる。終わりのない迷路を歩き続けるのは、何も面白くない。
 ある日突然今までの常識を覆すようなことが起きるのは、小説やゲームの中だけ。
 朝食を作る為に僕は階段を重い足取りで降りた。理由は明白、(かあ)さんがまだ家にいたのだ。
 いつもは十二時に起床する為僕は、母さんと出くわす事はない。
「あら、今日は早いのね。今夜は、流星群が見られるそうよ」
「うん……」
 そっけない返事をした後、キッチンに向かう。
「卵もうすぐきれるから(すい)今日買ってきてくれない?」
「母さんスーパーのパートだろ、自分で買ったら?」
「せっかく早起きしたんだし、今日の夜ご飯は、彗の大好きなオムライスにするから、お願い!」
「分かったよ……」
 そうして母さんは、パートへ行った。
 母さんの考えはよくわからない。
 早起きをしたからといっても、もうお昼にもなる時間だ。それだけのために僕がわざわざ家を出る理由にはならないしまだ僕を食べ物で釣れる程幼いと思っている。
 フライパンの上に卵を落として目玉焼きとウインナーを焼く。それとお米だけの至ってシンプルなものだ。
「頂きます」
 目玉焼きは、半熟派の僕は少し固くなった目玉焼きを喉に通し「少し焼きすぎたかな」
 と呟いた。
 朝食を終え僕はお皿を片付け、自室に戻る。
 いつもより早く起きてしまったことですることの無くなってしまった僕は、もう一度寝ることにした。
 カーテンの隙間から差し込む夕日で僕は目覚めた。
「何が大切な夢を見ていた気がする……」
 その時僕のお腹は大きい音を鳴らした。
 昼食を作ろうとリビングに行き、冷蔵庫を開けるとある重大なことに気がついた。
「卵がない……」
 僕は朝ごはんで卵を使い切ってしまったのだ。
 時計を見ると今は十七時前だった。
 急いでスーパーに向かう準備を終え、僕は自分の自転車にまたがった。
「どこのスーパーに行こう……」
 母さんの勤め先のスーパーが一番近いが気まずい。
 駅前のスーパーに行くことを決めた僕は、ゆっくりとペダルを漕ぎ始めた。
 年暮れの冷たい風が体に触れる中、僕はスーパーの近くに着いた。
「なんで僕は気がづかなかったんだ……」
 そう後悔する僕の前には何人かの見知った顔がいた。
 時間は夕方、この市で一番栄えている駅に行ったのだ当然下校をしている同級生がいる。
「関わったら厄介だ……」
 急いでスーパーに向かった僕だかこういう時に限り相手は僕に気がついた。
「あれ、彗じゃないか?」
「ほんとだ、彗だ。」
「おーい、彗」
 そう僕を呼び止める同級生達だが僕は無視を決め込む。
 スーパーに到着した僕は、卵を買うついでにチョコレートのお菓子とエナジードリンクをいくらか買いすぐさま家に帰った。
 「あら、遅かったのね」
 僕が帰宅した頃には、母さんは夕飯の支度をしていた。
 「うん、寝てたんだ」
 「そうなの。卵そこ置いといてくれる?」
 「分かった」
 そうして僕は母さんが指定した場所に卵を置き自室に戻った。
 「勉強しよう」
 特にすることのなくなった僕は参考書を机の上に広げ、勉強を始めた。
 「彗ご飯よ」
 「もうこんな時間か……」
 母さんに呼ばれた僕はリビングに向かい、席に着く。
 そこには、太陽のように黄金に輝くオムライスの姿があった。
 僕はスプーンをそっとのせる。
 スプーンの上からでも伝わるフワフワの卵。
 優しくスプーンですくい口の中に包み込む。
 「美味しい」
 ただそれだけ、この味の前では、誰もが語彙を失ってしまう。
 一口の幸せを嚙み締めた後、また一口と右手が止まらない。
 気が付くとお皿の上にあったオムライスは、なくなっていた。
 「ご馳走様。美味しかったよ母さん」
 「本当に彗は、オムライスが好きなのね」
 母さんと他愛もない会話をしていたら気付くと時計の針は、二十時を指していた。
 母さんとの会話を切り上げた僕は自室に戻り出かける準備をする。
 準備を終えた僕は、出かけることを一応母さんに伝える。
 「母さん、ちょっと出かけてくるね」
 「こんな時間から何するの?」
 「星を見に行くんだ」
 「そう、気を付けていってらっしゃい」
 母さんに外出をする報告をした僕は、外へ出た。
 辺りは真っ暗で街頭の光がよく目立つ。
 夕方同様自転車に跨った僕は、冬の夜の冷たい風を浴びながらペダルを漕ぎだした。
 僕が向かった先は学校。通っている学校という程、登校はしていないが一応はそういうことになっている。
 学校に到着した僕は、自転車を目立たない所に隠す。
 そうして僕は夜の学校に足を踏み入れた。