第9話

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○とある日、ユキたちの女子寮前。

寮の近くを流れる小川で、魔法の自主訓練を続けるユキ。

ユキ「うぅ〜…!」

小川を泳ぐ魚に、ユキは人差し指で狙いを付ける。魔法を放とうと力むが、ユキ1人では魔法は発動しなかった。

リン「エアル!」

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リンが魔法を唱えると、小さな風が吹き上がり魚は無傷で宙を舞った。そして風が止むと魚は着水し、再び元気に川の中を泳ぎ始めた。

ユキ「リンちゃん…!」

リン「どう? 調子は?」

ユキ(やっぱり、リンちゃんは凄いなぁ…)

リンの魔法に見惚れながら、ユキは自分の現状を答えた。

ユキ「なかなか上手く行かなくて…。何が原因なんだろう…」

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リン「そうねぇ…。ユキは氷の力があるから、魔力を練るのが普通の人より難しくなってるんだと思うの」

ユキ「そうなんだ…。それじゃ、私には無理なのかな…」

リン「そんなことないわ。だって、この前はちゃんと魔法が発動してたじゃない。…もうひとつ、上手く行かない原因があるとしたら、使いたい魔法のイメージが出来ていないことね」

ユキ「使いたい魔法…?」

リン「そう。あたしは風の魔法を使いたいと思って、頭の中で風のイメージを描いてる。魔法にとって、イメージはかなり重要な要素よ。ユキはまだ、上手くイメージ出来てないと思うの」

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ユキ「イメージか…。確かに、魔法を撃つのに必死で、イメージは出来てなかったかも…」

リン「じゃあ、さっそくだけど、使いたい魔法をイメージしてみなさい。どんな魔法でも良いから」

ユキ「私、風の魔法が良い…!」

リン「えぇ〜…?」

即答するユキ。露骨に嫌そうな顔をするリン。

ユキ「何その反応!?」

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リン「だって…。風はあたしが使ってるし…。被るから嫌なんだけど…」

ユキ「なんでも良いって言ったじゃん!?」

リン「氷まであんたと被ってるんだから…。なんか、恥ずかしいじゃない…」

ユキ「リンちゃんとお揃い、私は嬉しいけどなぁ…」

リン「うっ…」

ユキの純粋な反応に、リンは顔を赤くしながら照れ始めた。

リン「と、とにかく、風は駄目! 風以外の魔法をちゃんと考えとくのよ!」

ユキ「えぇ〜?」

○それから数日後。ユキたちの教室。

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マイ「リン〜! お願い、助けてぇ〜!」

リン「ど、どうしたの、マイ…?」

突然、リンに助けを求める活発そうなマイという名の少女。その傍らに、もう1人。眼鏡をかけている少女ミナが口を開いた。

ミナ「実は…今日任務に行く予定だったんですけど…。私たちの班で一番の実力者の子が、急に熱を出して寝込んじゃったんです…!」

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マイ「そうなの〜! ウチらが討伐することになった魔物がAランクなんだけど、肝心のAランクのヒナコが熱出しちゃったんだよ〜! ウチの班は、ヒナコ以外Cランクしかいないのに〜!」

ミナ「Aランクの魔法学生って少ないですし…。今、私たちが頼れるのは、フロウナさんしかいなくて…」

マイ「お願いリン〜! 今度スイーツ奢るから〜!」

リン「分かった分かった…! 奢るとか良いから、手伝ってあげるわよ…! エリートとしてはね…!」

マイ「ほんと!? ありがと〜! さすがエリートぉ〜!」

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リン「…って訳で、あたしはマイたちの手伝いに行って来るけど、相手がAランクなら、ユキとモエちゃんはやめといた方が良いかも…」

モエ「そうっすね…。リスクを増やすと任務に支障が出るっすから…」

リン「ごめんね…! すぐに終わらせて来るから…!」

ユキ「私、一緒に行きたい…!」

リン「えぇ…!?」

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ユキ「だって、リンちゃんが心配だから…!」

リン「あのねぇ…。あたしはAランクのエリートなのよ…? そんじょそこらの魔物にやられる訳が…」

リン(…でも、ユキは表向きはFランクでもSランクの力が使える訳だし、慣れないチームだと連携も上手く取れないだろうし…。万が一を考えたら連れて行った方が良いか…)

リン「はぁ…。しょうがないわね…」

ユキ「やった…! ありがとう、リンちゃん…!」

ユキはそっと、モエに耳打ちをした。

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ユキ「モエちゃん…! いざとなったら、私がリンちゃんのことを助けるから…!」

ユキは以前、モエからリンを助けるように頼まれていた。ユキがその約束を守ろうとしている。モエはそのことにハッと気が付いた。

モエ「ユキさん…。ありがとうございますっす…!」

ミナ(Eランクのプランティアさんはお留守番なのに、Fランクのユキさんは来るんだ…)

ユキの本当の実力を知らないミナは、ユキが同行する様子を不思議そうに見ていた。

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○場面は変わり、廃墟と化した大きな屋敷に到着した一行。

マイ「着いた〜! ここが今日の目的地〜!」

リン「あ、あの…」

リンは青ざめながら、マイに質問しようと手を小さく上げていた。

マイ「なぁに? リン?」

リン「こんな廃墟が目的地だなんて、聞いてないんだけど…」

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マイ「そりゃそうだよ〜! だって言ってないもん〜!」

リン「…帰る」

ユキ&マイ&ミナ「ええええええ!?」

帰ろうとするリンを、慌てて引き止める3人。

ユキ「ちょっと!? リンちゃん、どうしたの!?」

マイ「リンがいないと、ウチら詰むんだけど〜!?」

ミナ「フロウナさん! 考え直してください〜!」

3人に後ろから服を引っ張られ、リンは足を止めた。

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リン「だって、あんな不気味な建物がある敷地の中に入るんでしょ…? 無理無理無理無理…。あたし、そういうのほんと無理だから…!」

ユキ「そ、そういうのって…?」

マイ「あ…。そういえば、リンってホラー系が苦手なんだっけ…?」

ユキ「ホラー系?」

ミナ「レクリエーションの肝試しでも、誰よりも絶叫してましたものね…。クラスの出し物が演劇に決まって、氷の女王が子供を攫う物語が選ばれた時も、一人で泣き叫んでいましたよね…」

ユキ「え…!?」

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リン「お化けとか怪談とか!! あたしはそういうのが大嫌いなのよ!! 悪い!?」

ユキ「ガーン!」

リンの言葉を聞き、白目を剥きながらショックを受けるユキ。何故なら、ユキは元雪女。思いっきり怪談の類いなのだから。

リン「なんであんたがショック受けてんのよ…?」

ユキ「いや! なんでもない! なんでもないから! あははは…」

ユキ(前世が妖怪だったなんて、絶対言えない…)

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マイ「いやいや、あんなのただボロいだけの建物だって…! いつものように魔物をやっつけるだけの簡単なお仕事だよ!」

ミナ「そうですよ…! 変に意識するから、想像力が働いて、ありもしない物に怯えちゃうんです…!」

ユキ「リンちゃん! マイちゃんたちのためにも頑張ろうよ!」

リン「うぅ〜…! 分かったわよ…! さっさと終わらせて帰る…!」

3人の説得を受け、リンは渋々敷地内に入ることを決めた。

○荒れ果てた庭園内。

リン「ううううう〜!」

ユキの背中に隠れて震えているリン。

≪page16≫

ユキ「リンちゃん、大丈夫…?」

リン「大丈夫じゃない〜!」

マイ「Aランクのリンがこの有り様って、ウチらが大丈夫じゃないんだけど…」

ミナ「討伐対象の魔物は、この廃墟を根城にしていると目撃情報があったそうです…。神出鬼没で、気配を隠すのも上手いらしくて、かなり厄介な魔物だと聞いています…」

ミナの話を聞き、ユキは緊張感を抱いていた。

庭園を捜索する一行。すると、地面が不自然に隆起し始める。

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アンデッド『ウオオオオオ〜ッ!』

リン「いやああああああ〜ッ!?」

地面から複数のゾンビが出現。ユキにしがみつきながら泣き叫ぶリン。

マイ「こいつらは…!?」

ミナ「土の塊が死体に擬態しているDランクの魔物、アンデッドですね…! これは討伐対象ではありません…!」

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ユキ「リンちゃん…! 魔物が出たよ…!」

リン「無理っ! 無理無理ー!」

ユキ(リンちゃんが戦えないなら、私がやるしか…!)

ユキが氷の力を使おうとしていた時、マイとミナが戦闘態勢に入っていた。

ユキ「…!」

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マイ「ボムス!!」

マイが呪文を唱えると、地面から爆発が起こった。周囲のアンデッドは次々と爆発に飲まれていく。

ミナ「スプル!!」

ミナが呪文を唱えると、ミナの指先から水の弾丸が噴き出した。人差し指と中指で狙いを付け、アンデッドを打ち砕いていく。

≪page20≫

マイ「ふふん! Dランクが相手なら怖くないもんね〜!」

ミナ「調子に乗らないでください…。どこにAランクが潜んでいるのか分からないんですから…」

ユキ「す…」

ユキ「凄いね! 2人とも! カッコ良かった〜!」

マイ「えへへ〜! それほどでも〜」

ミナ「まぁ、フロウナさんに比べたら全然大したことありませんけどね…」

ユキ(爆発の魔法と水の魔法か…。私の魔法のイメージは、どうすれば良いんだろう…)

マイとミナの魔法を見て、ユキはますます魔法のイメージを決められなくなっていた。

≪page21≫

○庭園の捜索を打ち切り、屋敷の中の捜索を始める3人。

リン「こ、怖すぎる…! ユキ〜! もっとゆっくり進んで〜!」

ユキ「う、うん…」

リンは相変わらずユキにしがみつきながら、子供のように泣いていた。

マイ「このエリート、いない方がマシレベルになってない…?」

ミナ「いざという時は戦ってくれると…そう信じるしかないですね…」

≪page22≫

しばらく捜索を続ける一行。特に何事もなく、屋敷の中はひと通り調べ終わっていた。

マイ「屋敷の中なんにもないなんて〜! 思わせぶり〜!」

ミナ「他に魔物が隠れられそうな場所なんてありませんでしたよね…。今は敷地内にはいないということなのでしょうか…?」

マイ「えぇ〜!? じゃあ無駄足〜!? せっかくこんなところまで来たのに〜!」

リン「うぅ…怖い…」

ミナ「フロウナさんは相変わらずこんな感じですし、ひとまず屋敷から出ましょうか…?」

≪page23≫

マイ「はぁ〜! まったく〜! めんどくさい魔物だな〜! 出て来るならちゃっちゃと出てきて…」

その時、マイの片足が物凄い勢いで引っ張られていた。ミナとユキは、何が起きたのか理解出来ずに固まっていた。

そのままマイは宙を舞い、勢いよく地面に叩き付けられていた。

マイ「がはっ…!!」

ミナ「マイさん!!」

≪page24≫

身体を床に強く打ち付け、マイは気を失った。マイの足には、長い舌が巻き付いていた。舌は徐々にその姿を顕にし、舌の持ち主の魔物の姿も浮かび上がり始める。

ミナ「カメレオンの魔物…!? それもかなりの大きさ…! こ、これが、Aランクの魔物…!」

≪page25≫

ユキ「マイちゃん! しっかりして! マイちゃん!!」

ユキがマイに呼び掛けるが、マイの返事はない。カメレオンの魔物は、マイを捕食しようと自分の元へと引き寄せ始めた。

ユキ「リンちゃん! マイちゃんが…!! このままだと食べられちゃう…!!」

リン「わ、分かってる…! 分かってるけど!! 足に力が、入らなくて…!!」

ユキ「リンちゃん…」

リンは必死に立ち上がろうとしている。だが、恐怖で腰が抜けてしまっていた。

≪page26≫

ユキ「リンちゃん…! 大丈夫だよ…! 私に任せて…!」

リン「…うぅ! ごめん、ユキ…!」

ユキは優しくリンに語り掛けた。リンはしがみついていたユキから手を離す。ユキがAランクの魔物と対峙しようとしていた時だった。

ユキ「えっ?」

ユキの足元が突然砕けた。そのままユキは、見えない何かに地下へと引きずり込まれていた。

リン「ユキ…!!」

≪page27≫

ユキ「うわあああああっ!?」

○屋敷の地下に広がる空洞。

ユキ「うっ…! 一体、何が…?」

魔物『シュウウウウ…』

ユキを地下に引きずり込んだ魔物が姿を現した。その魔物は、先程の魔物と同じカメレオンの魔物だった。だが、身体のサイズがひと回り大きい。

ユキ「魔物がもう一体…!?」

≪page28≫

ユキ「…私はマイちゃんを助けないといけないんだ…! 邪魔しないで…!」

ユキは魔物を凍らせようと右手をかざす。

魔物『シュウウウウ…』

ユキ「えっ…!?」

次の瞬間、魔物は姿を消していた。攻撃目標を見失ったユキは、慌てて周囲を見回す。

ユキ「いない…! どこにいったの…!?」

≪page29≫

ユキ「…!」

空気の流れで、攻撃が来ていることを察知したユキ。直ぐ様氷の壁を生成し、防御態勢に入る。

ユキの氷の壁は、かろうじて見えない攻撃を受け止めた。その直後、うっすらと魔物の姿が浮かび上がっていた。

≪page30≫

ユキ「そこ…!」

ユキが氷塊を生成、そのまま魔物へ氷塊を飛ばす。

だが、その直後、カメレオンの魔物は体色を周囲に溶け込ませ姿を消してしまう。

≪page31≫

なかなか魔物を仕留めることが出来ず、ユキの表情は、焦りの色を滲ませていた。

ユキ「この魔物、強い…!」

回想のリン『Sランクの魔物の被害も、年々増え続けているって話だし…』

ユキ(これは、Sランクの魔物…!?)

姿が消えると、魔物の気配も消える。ユキは精神を集中させ気配を探るが、魔物の位置を特定することが出来ずにいる。

ユキの真上、空洞の天井にカメレオンの魔物は潜んでいた。

≪page32≫

ユキ「…!?」

突如、地面を破壊する激しい衝撃がユキを襲う。ユキを狙って、カメレオンが天井から飛び掛かっていた。

ユキはなんとか攻撃を避けていた。

ユキ(攻撃されるギリギリまで、魔物の気配が分からない…!)

ユキ(リンちゃん…!)

魔物を前に、冷や汗を流すリンとミナ。