第9話
≪page1≫
○とある日、ユキたちの女子寮前。
寮の近くを流れる小川で、魔法の自主訓練を続けるユキ。
ユキ「うぅ〜…!」
小川を泳ぐ魚に、ユキは人差し指で狙いを付ける。魔法を放とうと力むが、ユキ1人では魔法は発動しなかった。
リン「エアル!」
≪page2≫
リンが魔法を唱えると、小さな風が吹き上がり魚は無傷で宙を舞った。そして風が止むと魚は着水し、再び元気に川の中を泳ぎ始めた。
ユキ「リンちゃん…!」
リン「どう? 調子は?」
ユキ(やっぱり、リンちゃんは凄いなぁ…)
リンの魔法に見惚れながら、ユキは自分の現状を答えた。
ユキ「なかなか上手く行かなくて…。何が原因なんだろう…」
≪page3≫
リン「そうねぇ…。ユキは氷の力があるから、魔力を練るのが普通の人より難しくなってるんだと思うの」
ユキ「そうなんだ…。それじゃ、私には無理なのかな…」
リン「そんなことないわ。だって、この前はちゃんと魔法が発動してたじゃない。…もうひとつ、上手く行かない原因があるとしたら、使いたい魔法のイメージが出来ていないことね」
ユキ「使いたい魔法…?」
リン「そう。あたしは風の魔法を使いたいと思って、頭の中で風のイメージを描いてる。魔法にとって、イメージはかなり重要な要素よ。ユキはまだ、上手くイメージ出来てないと思うの」
≪page4≫
ユキ「イメージか…。確かに、魔法を撃つのに必死で、イメージは出来てなかったかも…」
リン「じゃあ、さっそくだけど、使いたい魔法をイメージしてみなさい。どんな魔法でも良いから」
ユキ「私、風の魔法が良い…!」
リン「えぇ〜…?」
即答するユキ。露骨に嫌そうな顔をするリン。
ユキ「何その反応!?」
≪page5≫
リン「だって…。風はあたしが使ってるし…。被るから嫌なんだけど…」
ユキ「なんでも良いって言ったじゃん!?」
リン「氷まであんたと被ってるんだから…。なんか、恥ずかしいじゃない…」
ユキ「リンちゃんとお揃い、私は嬉しいけどなぁ…」
リン「うっ…」
ユキの純粋な反応に、リンは顔を赤くしながら照れ始めた。
リン「と、とにかく、風は駄目! 風以外の魔法をちゃんと考えとくのよ!」
ユキ「えぇ〜?」
○それから数日後。ユキたちの教室。
≪page6≫
マイ「リン〜! お願い、助けてぇ〜!」
リン「ど、どうしたの、マイ…?」
突然、リンに助けを求める活発そうなマイという名の少女。その傍らに、もう1人。眼鏡をかけている少女ミナが口を開いた。
ミナ「実は…今日任務に行く予定だったんですけど…。私たちの班で一番の実力者の子が、急に熱を出して寝込んじゃったんです…!」
≪page7≫
マイ「そうなの〜! ウチらが討伐することになった魔物がAランクなんだけど、肝心のAランクのヒナコが熱出しちゃったんだよ〜! ウチの班は、ヒナコ以外Cランクしかいないのに〜!」
ミナ「Aランクの魔法学生って少ないですし…。今、私たちが頼れるのは、フロウナさんしかいなくて…」
マイ「お願いリン〜! 今度スイーツ奢るから〜!」
リン「分かった分かった…! 奢るとか良いから、手伝ってあげるわよ…! エリートとしてはね…!」
マイ「ほんと!? ありがと〜! さすがエリートぉ〜!」
≪page8≫
リン「…って訳で、あたしはマイたちの手伝いに行って来るけど、相手がAランクなら、ユキとモエちゃんはやめといた方が良いかも…」
モエ「そうっすね…。リスクを増やすと任務に支障が出るっすから…」
リン「ごめんね…! すぐに終わらせて来るから…!」
ユキ「私、一緒に行きたい…!」
リン「えぇ…!?」
≪page9≫
ユキ「だって、リンちゃんが心配だから…!」
リン「あのねぇ…。あたしはAランクのエリートなのよ…? そんじょそこらの魔物にやられる訳が…」
リン(…でも、ユキは表向きはFランクでもSランクの力が使える訳だし、慣れないチームだと連携も上手く取れないだろうし…。万が一を考えたら連れて行った方が良いか…)
リン「はぁ…。しょうがないわね…」
ユキ「やった…! ありがとう、リンちゃん…!」
ユキはそっと、モエに耳打ちをした。
≪page10≫
ユキ「モエちゃん…! いざとなったら、私がリンちゃんのことを助けるから…!」
ユキは以前、モエからリンを助けるように頼まれていた。ユキがその約束を守ろうとしている。モエはそのことにハッと気が付いた。
モエ「ユキさん…。ありがとうございますっす…!」
ミナ(Eランクのプランティアさんはお留守番なのに、Fランクのユキさんは来るんだ…)
ユキの本当の実力を知らないミナは、ユキが同行する様子を不思議そうに見ていた。
≪page11≫
○場面は変わり、廃墟と化した大きな屋敷に到着した一行。
マイ「着いた〜! ここが今日の目的地〜!」
リン「あ、あの…」
リンは青ざめながら、マイに質問しようと手を小さく上げていた。
マイ「なぁに? リン?」
リン「こんな廃墟が目的地だなんて、聞いてないんだけど…」
≪page12≫
マイ「そりゃそうだよ〜! だって言ってないもん〜!」
リン「…帰る」
ユキ&マイ&ミナ「ええええええ!?」
帰ろうとするリンを、慌てて引き止める3人。
ユキ「ちょっと!? リンちゃん、どうしたの!?」
マイ「リンがいないと、ウチら詰むんだけど〜!?」
ミナ「フロウナさん! 考え直してください〜!」
3人に後ろから服を引っ張られ、リンは足を止めた。
≪page13≫
リン「だって、あんな不気味な建物がある敷地の中に入るんでしょ…? 無理無理無理無理…。あたし、そういうのほんと無理だから…!」
ユキ「そ、そういうのって…?」
マイ「あ…。そういえば、リンってホラー系が苦手なんだっけ…?」
ユキ「ホラー系?」
ミナ「レクリエーションの肝試しでも、誰よりも絶叫してましたものね…。クラスの出し物が演劇に決まって、氷の女王が子供を攫う物語が選ばれた時も、一人で泣き叫んでいましたよね…」
ユキ「え…!?」
≪page14≫
リン「お化けとか怪談とか!! あたしはそういうのが大嫌いなのよ!! 悪い!?」
ユキ「ガーン!」
リンの言葉を聞き、白目を剥きながらショックを受けるユキ。何故なら、ユキは元雪女。思いっきり怪談の類いなのだから。
リン「なんであんたがショック受けてんのよ…?」
ユキ「いや! なんでもない! なんでもないから! あははは…」
ユキ(前世が妖怪だったなんて、絶対言えない…)
≪page15≫
マイ「いやいや、あんなのただボロいだけの建物だって…! いつものように魔物をやっつけるだけの簡単なお仕事だよ!」
ミナ「そうですよ…! 変に意識するから、想像力が働いて、ありもしない物に怯えちゃうんです…!」
ユキ「リンちゃん! マイちゃんたちのためにも頑張ろうよ!」
リン「うぅ〜…! 分かったわよ…! さっさと終わらせて帰る…!」
3人の説得を受け、リンは渋々敷地内に入ることを決めた。
○荒れ果てた庭園内。
リン「ううううう〜!」
ユキの背中に隠れて震えているリン。
≪page16≫
ユキ「リンちゃん、大丈夫…?」
リン「大丈夫じゃない〜!」
マイ「Aランクのリンがこの有り様って、ウチらが大丈夫じゃないんだけど…」
ミナ「討伐対象の魔物は、この廃墟を根城にしていると目撃情報があったそうです…。神出鬼没で、気配を隠すのも上手いらしくて、かなり厄介な魔物だと聞いています…」
ミナの話を聞き、ユキは緊張感を抱いていた。
庭園を捜索する一行。すると、地面が不自然に隆起し始める。
≪page17≫
アンデッド『ウオオオオオ〜ッ!』
リン「いやああああああ〜ッ!?」
地面から複数のゾンビが出現。ユキにしがみつきながら泣き叫ぶリン。
マイ「こいつらは…!?」
ミナ「土の塊が死体に擬態しているDランクの魔物、アンデッドですね…! これは討伐対象ではありません…!」
≪page18≫
ユキ「リンちゃん…! 魔物が出たよ…!」
リン「無理っ! 無理無理ー!」
ユキ(リンちゃんが戦えないなら、私がやるしか…!)
ユキが氷の力を使おうとしていた時、マイとミナが戦闘態勢に入っていた。
ユキ「…!」
≪page19≫
マイ「ボムス!!」
マイが呪文を唱えると、地面から爆発が起こった。周囲のアンデッドは次々と爆発に飲まれていく。
ミナ「スプル!!」
ミナが呪文を唱えると、ミナの指先から水の弾丸が噴き出した。人差し指と中指で狙いを付け、アンデッドを打ち砕いていく。
≪page20≫
マイ「ふふん! Dランクが相手なら怖くないもんね〜!」
ミナ「調子に乗らないでください…。どこにAランクが潜んでいるのか分からないんですから…」
ユキ「す…」
ユキ「凄いね! 2人とも! カッコ良かった〜!」
マイ「えへへ〜! それほどでも〜」
ミナ「まぁ、フロウナさんに比べたら全然大したことありませんけどね…」
ユキ(爆発の魔法と水の魔法か…。私の魔法のイメージは、どうすれば良いんだろう…)
マイとミナの魔法を見て、ユキはますます魔法のイメージを決められなくなっていた。
≪page21≫
○庭園の捜索を打ち切り、屋敷の中の捜索を始める3人。
リン「こ、怖すぎる…! ユキ〜! もっとゆっくり進んで〜!」
ユキ「う、うん…」
リンは相変わらずユキにしがみつきながら、子供のように泣いていた。
マイ「このエリート、いない方がマシレベルになってない…?」
ミナ「いざという時は戦ってくれると…そう信じるしかないですね…」
≪page22≫
しばらく捜索を続ける一行。特に何事もなく、屋敷の中はひと通り調べ終わっていた。
マイ「屋敷の中なんにもないなんて〜! 思わせぶり〜!」
ミナ「他に魔物が隠れられそうな場所なんてありませんでしたよね…。今は敷地内にはいないということなのでしょうか…?」
マイ「えぇ〜!? じゃあ無駄足〜!? せっかくこんなところまで来たのに〜!」
リン「うぅ…怖い…」
ミナ「フロウナさんは相変わらずこんな感じですし、ひとまず屋敷から出ましょうか…?」
≪page23≫
マイ「はぁ〜! まったく〜! めんどくさい魔物だな〜! 出て来るならちゃっちゃと出てきて…」
その時、マイの片足が物凄い勢いで引っ張られていた。ミナとユキは、何が起きたのか理解出来ずに固まっていた。
そのままマイは宙を舞い、勢いよく地面に叩き付けられていた。
マイ「がはっ…!!」
ミナ「マイさん!!」
≪page24≫
身体を床に強く打ち付け、マイは気を失った。マイの足には、長い舌が巻き付いていた。舌は徐々にその姿を顕にし、舌の持ち主の魔物の姿も浮かび上がり始める。
ミナ「カメレオンの魔物…!? それもかなりの大きさ…! こ、これが、Aランクの魔物…!」
≪page25≫
ユキ「マイちゃん! しっかりして! マイちゃん!!」
ユキがマイに呼び掛けるが、マイの返事はない。カメレオンの魔物は、マイを捕食しようと自分の元へと引き寄せ始めた。
ユキ「リンちゃん! マイちゃんが…!! このままだと食べられちゃう…!!」
リン「わ、分かってる…! 分かってるけど!! 足に力が、入らなくて…!!」
ユキ「リンちゃん…」
リンは必死に立ち上がろうとしている。だが、恐怖で腰が抜けてしまっていた。
≪page26≫
ユキ「リンちゃん…! 大丈夫だよ…! 私に任せて…!」
リン「…うぅ! ごめん、ユキ…!」
ユキは優しくリンに語り掛けた。リンはしがみついていたユキから手を離す。ユキがAランクの魔物と対峙しようとしていた時だった。
ユキ「えっ?」
ユキの足元が突然砕けた。そのままユキは、見えない何かに地下へと引きずり込まれていた。
リン「ユキ…!!」
≪page27≫
ユキ「うわあああああっ!?」
○屋敷の地下に広がる空洞。
ユキ「うっ…! 一体、何が…?」
魔物『シュウウウウ…』
ユキを地下に引きずり込んだ魔物が姿を現した。その魔物は、先程の魔物と同じカメレオンの魔物だった。だが、身体のサイズがひと回り大きい。
ユキ「魔物がもう一体…!?」
≪page28≫
ユキ「…私はマイちゃんを助けないといけないんだ…! 邪魔しないで…!」
ユキは魔物を凍らせようと右手をかざす。
魔物『シュウウウウ…』
ユキ「えっ…!?」
次の瞬間、魔物は姿を消していた。攻撃目標を見失ったユキは、慌てて周囲を見回す。
ユキ「いない…! どこにいったの…!?」
≪page29≫
ユキ「…!」
空気の流れで、攻撃が来ていることを察知したユキ。直ぐ様氷の壁を生成し、防御態勢に入る。
ユキの氷の壁は、かろうじて見えない攻撃を受け止めた。その直後、うっすらと魔物の姿が浮かび上がっていた。
≪page30≫
ユキ「そこ…!」
ユキが氷塊を生成、そのまま魔物へ氷塊を飛ばす。
だが、その直後、カメレオンの魔物は体色を周囲に溶け込ませ姿を消してしまう。
≪page31≫
なかなか魔物を仕留めることが出来ず、ユキの表情は、焦りの色を滲ませていた。
ユキ「この魔物、強い…!」
回想のリン『Sランクの魔物の被害も、年々増え続けているって話だし…』
ユキ(これは、Sランクの魔物…!?)
姿が消えると、魔物の気配も消える。ユキは精神を集中させ気配を探るが、魔物の位置を特定することが出来ずにいる。
ユキの真上、空洞の天井にカメレオンの魔物は潜んでいた。
≪page32≫
ユキ「…!?」
突如、地面を破壊する激しい衝撃がユキを襲う。ユキを狙って、カメレオンが天井から飛び掛かっていた。
ユキはなんとか攻撃を避けていた。
ユキ(攻撃されるギリギリまで、魔物の気配が分からない…!)
ユキ(リンちゃん…!)
魔物を前に、冷や汗を流すリンとミナ。
≪page1≫
○とある日、ユキたちの女子寮前。
寮の近くを流れる小川で、魔法の自主訓練を続けるユキ。
ユキ「うぅ〜…!」
小川を泳ぐ魚に、ユキは人差し指で狙いを付ける。魔法を放とうと力むが、ユキ1人では魔法は発動しなかった。
リン「エアル!」
≪page2≫
リンが魔法を唱えると、小さな風が吹き上がり魚は無傷で宙を舞った。そして風が止むと魚は着水し、再び元気に川の中を泳ぎ始めた。
ユキ「リンちゃん…!」
リン「どう? 調子は?」
ユキ(やっぱり、リンちゃんは凄いなぁ…)
リンの魔法に見惚れながら、ユキは自分の現状を答えた。
ユキ「なかなか上手く行かなくて…。何が原因なんだろう…」
≪page3≫
リン「そうねぇ…。ユキは氷の力があるから、魔力を練るのが普通の人より難しくなってるんだと思うの」
ユキ「そうなんだ…。それじゃ、私には無理なのかな…」
リン「そんなことないわ。だって、この前はちゃんと魔法が発動してたじゃない。…もうひとつ、上手く行かない原因があるとしたら、使いたい魔法のイメージが出来ていないことね」
ユキ「使いたい魔法…?」
リン「そう。あたしは風の魔法を使いたいと思って、頭の中で風のイメージを描いてる。魔法にとって、イメージはかなり重要な要素よ。ユキはまだ、上手くイメージ出来てないと思うの」
≪page4≫
ユキ「イメージか…。確かに、魔法を撃つのに必死で、イメージは出来てなかったかも…」
リン「じゃあ、さっそくだけど、使いたい魔法をイメージしてみなさい。どんな魔法でも良いから」
ユキ「私、風の魔法が良い…!」
リン「えぇ〜…?」
即答するユキ。露骨に嫌そうな顔をするリン。
ユキ「何その反応!?」
≪page5≫
リン「だって…。風はあたしが使ってるし…。被るから嫌なんだけど…」
ユキ「なんでも良いって言ったじゃん!?」
リン「氷まであんたと被ってるんだから…。なんか、恥ずかしいじゃない…」
ユキ「リンちゃんとお揃い、私は嬉しいけどなぁ…」
リン「うっ…」
ユキの純粋な反応に、リンは顔を赤くしながら照れ始めた。
リン「と、とにかく、風は駄目! 風以外の魔法をちゃんと考えとくのよ!」
ユキ「えぇ〜?」
○それから数日後。ユキたちの教室。
≪page6≫
マイ「リン〜! お願い、助けてぇ〜!」
リン「ど、どうしたの、マイ…?」
突然、リンに助けを求める活発そうなマイという名の少女。その傍らに、もう1人。眼鏡をかけている少女ミナが口を開いた。
ミナ「実は…今日任務に行く予定だったんですけど…。私たちの班で一番の実力者の子が、急に熱を出して寝込んじゃったんです…!」
≪page7≫
マイ「そうなの〜! ウチらが討伐することになった魔物がAランクなんだけど、肝心のAランクのヒナコが熱出しちゃったんだよ〜! ウチの班は、ヒナコ以外Cランクしかいないのに〜!」
ミナ「Aランクの魔法学生って少ないですし…。今、私たちが頼れるのは、フロウナさんしかいなくて…」
マイ「お願いリン〜! 今度スイーツ奢るから〜!」
リン「分かった分かった…! 奢るとか良いから、手伝ってあげるわよ…! エリートとしてはね…!」
マイ「ほんと!? ありがと〜! さすがエリートぉ〜!」
≪page8≫
リン「…って訳で、あたしはマイたちの手伝いに行って来るけど、相手がAランクなら、ユキとモエちゃんはやめといた方が良いかも…」
モエ「そうっすね…。リスクを増やすと任務に支障が出るっすから…」
リン「ごめんね…! すぐに終わらせて来るから…!」
ユキ「私、一緒に行きたい…!」
リン「えぇ…!?」
≪page9≫
ユキ「だって、リンちゃんが心配だから…!」
リン「あのねぇ…。あたしはAランクのエリートなのよ…? そんじょそこらの魔物にやられる訳が…」
リン(…でも、ユキは表向きはFランクでもSランクの力が使える訳だし、慣れないチームだと連携も上手く取れないだろうし…。万が一を考えたら連れて行った方が良いか…)
リン「はぁ…。しょうがないわね…」
ユキ「やった…! ありがとう、リンちゃん…!」
ユキはそっと、モエに耳打ちをした。
≪page10≫
ユキ「モエちゃん…! いざとなったら、私がリンちゃんのことを助けるから…!」
ユキは以前、モエからリンを助けるように頼まれていた。ユキがその約束を守ろうとしている。モエはそのことにハッと気が付いた。
モエ「ユキさん…。ありがとうございますっす…!」
ミナ(Eランクのプランティアさんはお留守番なのに、Fランクのユキさんは来るんだ…)
ユキの本当の実力を知らないミナは、ユキが同行する様子を不思議そうに見ていた。
≪page11≫
○場面は変わり、廃墟と化した大きな屋敷に到着した一行。
マイ「着いた〜! ここが今日の目的地〜!」
リン「あ、あの…」
リンは青ざめながら、マイに質問しようと手を小さく上げていた。
マイ「なぁに? リン?」
リン「こんな廃墟が目的地だなんて、聞いてないんだけど…」
≪page12≫
マイ「そりゃそうだよ〜! だって言ってないもん〜!」
リン「…帰る」
ユキ&マイ&ミナ「ええええええ!?」
帰ろうとするリンを、慌てて引き止める3人。
ユキ「ちょっと!? リンちゃん、どうしたの!?」
マイ「リンがいないと、ウチら詰むんだけど〜!?」
ミナ「フロウナさん! 考え直してください〜!」
3人に後ろから服を引っ張られ、リンは足を止めた。
≪page13≫
リン「だって、あんな不気味な建物がある敷地の中に入るんでしょ…? 無理無理無理無理…。あたし、そういうのほんと無理だから…!」
ユキ「そ、そういうのって…?」
マイ「あ…。そういえば、リンってホラー系が苦手なんだっけ…?」
ユキ「ホラー系?」
ミナ「レクリエーションの肝試しでも、誰よりも絶叫してましたものね…。クラスの出し物が演劇に決まって、氷の女王が子供を攫う物語が選ばれた時も、一人で泣き叫んでいましたよね…」
ユキ「え…!?」
≪page14≫
リン「お化けとか怪談とか!! あたしはそういうのが大嫌いなのよ!! 悪い!?」
ユキ「ガーン!」
リンの言葉を聞き、白目を剥きながらショックを受けるユキ。何故なら、ユキは元雪女。思いっきり怪談の類いなのだから。
リン「なんであんたがショック受けてんのよ…?」
ユキ「いや! なんでもない! なんでもないから! あははは…」
ユキ(前世が妖怪だったなんて、絶対言えない…)
≪page15≫
マイ「いやいや、あんなのただボロいだけの建物だって…! いつものように魔物をやっつけるだけの簡単なお仕事だよ!」
ミナ「そうですよ…! 変に意識するから、想像力が働いて、ありもしない物に怯えちゃうんです…!」
ユキ「リンちゃん! マイちゃんたちのためにも頑張ろうよ!」
リン「うぅ〜…! 分かったわよ…! さっさと終わらせて帰る…!」
3人の説得を受け、リンは渋々敷地内に入ることを決めた。
○荒れ果てた庭園内。
リン「ううううう〜!」
ユキの背中に隠れて震えているリン。
≪page16≫
ユキ「リンちゃん、大丈夫…?」
リン「大丈夫じゃない〜!」
マイ「Aランクのリンがこの有り様って、ウチらが大丈夫じゃないんだけど…」
ミナ「討伐対象の魔物は、この廃墟を根城にしていると目撃情報があったそうです…。神出鬼没で、気配を隠すのも上手いらしくて、かなり厄介な魔物だと聞いています…」
ミナの話を聞き、ユキは緊張感を抱いていた。
庭園を捜索する一行。すると、地面が不自然に隆起し始める。
≪page17≫
アンデッド『ウオオオオオ〜ッ!』
リン「いやああああああ〜ッ!?」
地面から複数のゾンビが出現。ユキにしがみつきながら泣き叫ぶリン。
マイ「こいつらは…!?」
ミナ「土の塊が死体に擬態しているDランクの魔物、アンデッドですね…! これは討伐対象ではありません…!」
≪page18≫
ユキ「リンちゃん…! 魔物が出たよ…!」
リン「無理っ! 無理無理ー!」
ユキ(リンちゃんが戦えないなら、私がやるしか…!)
ユキが氷の力を使おうとしていた時、マイとミナが戦闘態勢に入っていた。
ユキ「…!」
≪page19≫
マイ「ボムス!!」
マイが呪文を唱えると、地面から爆発が起こった。周囲のアンデッドは次々と爆発に飲まれていく。
ミナ「スプル!!」
ミナが呪文を唱えると、ミナの指先から水の弾丸が噴き出した。人差し指と中指で狙いを付け、アンデッドを打ち砕いていく。
≪page20≫
マイ「ふふん! Dランクが相手なら怖くないもんね〜!」
ミナ「調子に乗らないでください…。どこにAランクが潜んでいるのか分からないんですから…」
ユキ「す…」
ユキ「凄いね! 2人とも! カッコ良かった〜!」
マイ「えへへ〜! それほどでも〜」
ミナ「まぁ、フロウナさんに比べたら全然大したことありませんけどね…」
ユキ(爆発の魔法と水の魔法か…。私の魔法のイメージは、どうすれば良いんだろう…)
マイとミナの魔法を見て、ユキはますます魔法のイメージを決められなくなっていた。
≪page21≫
○庭園の捜索を打ち切り、屋敷の中の捜索を始める3人。
リン「こ、怖すぎる…! ユキ〜! もっとゆっくり進んで〜!」
ユキ「う、うん…」
リンは相変わらずユキにしがみつきながら、子供のように泣いていた。
マイ「このエリート、いない方がマシレベルになってない…?」
ミナ「いざという時は戦ってくれると…そう信じるしかないですね…」
≪page22≫
しばらく捜索を続ける一行。特に何事もなく、屋敷の中はひと通り調べ終わっていた。
マイ「屋敷の中なんにもないなんて〜! 思わせぶり〜!」
ミナ「他に魔物が隠れられそうな場所なんてありませんでしたよね…。今は敷地内にはいないということなのでしょうか…?」
マイ「えぇ〜!? じゃあ無駄足〜!? せっかくこんなところまで来たのに〜!」
リン「うぅ…怖い…」
ミナ「フロウナさんは相変わらずこんな感じですし、ひとまず屋敷から出ましょうか…?」
≪page23≫
マイ「はぁ〜! まったく〜! めんどくさい魔物だな〜! 出て来るならちゃっちゃと出てきて…」
その時、マイの片足が物凄い勢いで引っ張られていた。ミナとユキは、何が起きたのか理解出来ずに固まっていた。
そのままマイは宙を舞い、勢いよく地面に叩き付けられていた。
マイ「がはっ…!!」
ミナ「マイさん!!」
≪page24≫
身体を床に強く打ち付け、マイは気を失った。マイの足には、長い舌が巻き付いていた。舌は徐々にその姿を顕にし、舌の持ち主の魔物の姿も浮かび上がり始める。
ミナ「カメレオンの魔物…!? それもかなりの大きさ…! こ、これが、Aランクの魔物…!」
≪page25≫
ユキ「マイちゃん! しっかりして! マイちゃん!!」
ユキがマイに呼び掛けるが、マイの返事はない。カメレオンの魔物は、マイを捕食しようと自分の元へと引き寄せ始めた。
ユキ「リンちゃん! マイちゃんが…!! このままだと食べられちゃう…!!」
リン「わ、分かってる…! 分かってるけど!! 足に力が、入らなくて…!!」
ユキ「リンちゃん…」
リンは必死に立ち上がろうとしている。だが、恐怖で腰が抜けてしまっていた。
≪page26≫
ユキ「リンちゃん…! 大丈夫だよ…! 私に任せて…!」
リン「…うぅ! ごめん、ユキ…!」
ユキは優しくリンに語り掛けた。リンはしがみついていたユキから手を離す。ユキがAランクの魔物と対峙しようとしていた時だった。
ユキ「えっ?」
ユキの足元が突然砕けた。そのままユキは、見えない何かに地下へと引きずり込まれていた。
リン「ユキ…!!」
≪page27≫
ユキ「うわあああああっ!?」
○屋敷の地下に広がる空洞。
ユキ「うっ…! 一体、何が…?」
魔物『シュウウウウ…』
ユキを地下に引きずり込んだ魔物が姿を現した。その魔物は、先程の魔物と同じカメレオンの魔物だった。だが、身体のサイズがひと回り大きい。
ユキ「魔物がもう一体…!?」
≪page28≫
ユキ「…私はマイちゃんを助けないといけないんだ…! 邪魔しないで…!」
ユキは魔物を凍らせようと右手をかざす。
魔物『シュウウウウ…』
ユキ「えっ…!?」
次の瞬間、魔物は姿を消していた。攻撃目標を見失ったユキは、慌てて周囲を見回す。
ユキ「いない…! どこにいったの…!?」
≪page29≫
ユキ「…!」
空気の流れで、攻撃が来ていることを察知したユキ。直ぐ様氷の壁を生成し、防御態勢に入る。
ユキの氷の壁は、かろうじて見えない攻撃を受け止めた。その直後、うっすらと魔物の姿が浮かび上がっていた。
≪page30≫
ユキ「そこ…!」
ユキが氷塊を生成、そのまま魔物へ氷塊を飛ばす。
だが、その直後、カメレオンの魔物は体色を周囲に溶け込ませ姿を消してしまう。
≪page31≫
なかなか魔物を仕留めることが出来ず、ユキの表情は、焦りの色を滲ませていた。
ユキ「この魔物、強い…!」
回想のリン『Sランクの魔物の被害も、年々増え続けているって話だし…』
ユキ(これは、Sランクの魔物…!?)
姿が消えると、魔物の気配も消える。ユキは精神を集中させ気配を探るが、魔物の位置を特定することが出来ずにいる。
ユキの真上、空洞の天井にカメレオンの魔物は潜んでいた。
≪page32≫
ユキ「…!?」
突如、地面を破壊する激しい衝撃がユキを襲う。ユキを狙って、カメレオンが天井から飛び掛かっていた。
ユキはなんとか攻撃を避けていた。
ユキ(攻撃されるギリギリまで、魔物の気配が分からない…!)
ユキ(リンちゃん…!)
魔物を前に、冷や汗を流すリンとミナ。