第7話
≪page1≫
○氷の壁に囲まれたユキ。壁の外では、リンとモエが立ち尽くしている。
リン「この氷…! ヒエールの仕業…!? 学校内では、授業と自主訓練以外の魔法の使用は禁止されているのに…!!」
モエ「ユキさん! 大丈夫っすか!? ユキさん!!」
リン「モエちゃん、少し離れて! この氷をぶっ壊すから! トルネオン!!」
竜巻で氷を破壊しようとするリン。
≪page2≫
だが、氷の壁には傷ひとつ付いていなかった。
リン「そ、そんな…! 今のは、あたしの最強の魔法よ…!? あたしと同じ、Aランクのあいつの魔法なら、十分砕けるはずなのに…!」
リン(ま…まさか…。今のあいつは…!?)
○氷の中のユキとヒエール。
ヒエールと対峙するユキ。彼のことをキッと睨みつける。
ユキ「私になんの用なの…?」
ヒエール「なんの用? ボクをあそこまでコケにしておいて、なんの用はないじゃないか!」
≪page3≫
ヒエールは氷扇で舞うように氷魔法をユキに向かって放つ。
ユキ「……」
氷魔法はユキに直撃した。だが、ユキはノーダメージ。その様子を見ても、ヒエールは動じていなかった。
ヒエール「やはり。君には氷魔法が効かないようだネ。どうなっているんだい? Fランクにそんな力がある訳ないだろう?」
ユキ「……」
≪page4≫
何も答えないユキ。ヒエールはそんなユキを見下すように鼻で笑った。
ヒエール「まぁ、良いサ。君が何者でも、君のことを痛め付けることが出来れば、ボクはそれで満足なんダ!」
ヒエールがさらに氷塊を放つ。ユキは身体で魔法を受け止めようと身構えるが、氷はユキの足元へ降り注いでいた。
ヒエールの狙いはユキ本人ではなかった。氷塊は地面を砕き、砕かれた石がユキに向かって飛ぶ。
ユキ「…!」
≪page5≫
ユキは冷静に氷の壁を出現させ、石を防いでいた。だが、小石のひとつがユキの頬を掠め、一筋の血を流していた。
ヒエール「ハッハッハッ! やはり、君は氷魔法を使えるようだネ! それも、かなり強大な力を! だけどね、今のボクは、君を上回る力を手に入れたのサ!」
氷の舞を踊るヒエール。そのたびに、射出された氷塊がユキの周りの地面を砕き続ける。ユキは、氷の壁を駆使してヒエールの攻撃から逃げ続ける。
≪page6≫
ユキ「氷の温度がさらに低い…。試合の時よりも強くなってる…!」
ヒエール「気付いてくれたようだネ! その通りサ! 今のボクは、さっきまでのボクじゃない! ひと握りの魔法学生しか到達することが出来ない…最強のSランクの力に目覚めたんだヨ!」
攻撃を続けるヒエール。足元の地面を破壊され、ユキはよろめきながらも回避を続ける。
ヒエール「どうせ君には氷が効かないんだろう? ボクも馬鹿じゃない。それなら、ほんの少し工夫するだけサ」
ユキ「あなたは何がしたいの…? 私を攻撃して、それが何になるの?」
≪page7≫
ヒエール「ムカつくんだヨ。君のような存在がサ。 落ちこぼれのくせに、リン君とは仲良さそうにして。ボクを散々コケにして。そんな奴は、力尽くで分からせるしかないだろう?」
○ユキの脳裏に浮かぶ前世の光景。鈴子をいじめていた少女たちの姿が浮かんでいた。
ユキ(この人は、あの子たちと同じだ…。力で自分の思い通りにしようとする…。鈴子ちゃんをいじめていた、あの子たちと一緒なんだ…)
ユキ「奇遇だね…。私も、あなたのことは許せない」
ユキがヒエールに敵意を向ける。それでも尚、ヒエールは余裕の笑みを浮かべていた。
ヒエール「まだそんな生意気な口を…。自分の状況が分かっているのかナ? ボクの魔法に押され続けているじゃないか」
≪page8≫
地面を破壊してユキを襲い続けるヒエール。ユキの表情は、雪女時代のような冷たいものへと変わった。
SE『パキンッ』
ヒエール「!?」
ユキは壁に囲われた地面を全て凍らせた。ユキの氷に覆われた地面は、ヒエールの魔法を全て無効化し、粒子のようにかき消していた。
≪page9≫
ヒエール「そ、そんな馬鹿な…!? こんな…こんなはずはないッ!!」
魔法を放ち続けるヒエール。だが、ヒエールの魔法は、氷の床に触れた瞬間、全て消え去っていく。
ユキ「…もう終わり?」
ヒエール「くッ…! ボクはSランクなんだ…! こんな奴に、負ける訳がない!!」
氷の総攻撃を放つヒエール。ユキはいくら氷の直撃を受けても平然としている。
≪page10≫
ヒエール「クソッ…! クソォッ…!!」
ヒエールに迫るユキ。その時、空を覆っていた氷の柱が砕け散っていた。
リン「よし…! ようやく氷が砕けた…! ユキ、大丈夫…!?」
リンが足に風を纏い、地上へ降り立った。
ヒエール(これはチャンス…!)
≪page11≫
ヒエールは氷でリンの手足を拘束した。ヒエールは、身動きの取れなくなったリンを盾にしていた。
リン「うっ…!?」
ヒエール「動くなヨ…! 動いたら、リン君がどうなっても知らないゾ…?」
ユキ「リンちゃん…!」
リン「くっ…! ウィード!」
後ろ手で拘束されながらも、手のひらから風の刃を発生させ氷を砕こうとするリン。だが、リンの魔法はヒエールよりも劣っていて砕くことが出来ない。
≪page12≫
リン「あんた…! 本当に最低ね…! こんなことまでするなんて…!」
ヒエール「なんだヨ…。ボクはSランクになったんだゾ! 魔法学生がもっとも憧れる、凄い魔法学生なんだゾ…!?」
リン「Sランクだからって、そんなのちっとも凄くない…! 人を傷付けて、自分のことばっかりで…! あんたみたいな奴、あたしは大嫌いよ…!!」
リンの言葉に、怒りを滲ませるヒエール。
ヒエール「ボクの気持ちも知らないで勝手なことを…。自分の立場ってものを教えてやろうか…?」
ユキ「やめろ! リンちゃんに手を出すな!」
≪page13≫
ヒエール「なら、ボクの言うことを聞きなヨ…。ボクの靴を舐めながら、ボクに働いた無礼の数々をここで詫びろ…! それで全て水に流してやるサ…!」
ユキ「…そんなことで良いなら」
ユキは躊躇わずに膝をつき、四つん這いの格好になった。
リン「ユキ…! 馬鹿な真似はやめて…! こんな奴に、あたしを傷付ける度胸なんてないんだから…!」
ヒエール「少し黙っていなヨ。これからお友達の無様な姿を見せてあげるからサ…!」
≪page14≫
リン「駄目…! お願い…やめて…!」
涙目で震えるリンを眺めながらヒエールが笑う。ユキがヒエールの靴に舌を付けようとしていたその時。モエの呪文を唱える声が響いた。
モエ「フラッパ!!」
ヒエール「これは…!」
モエは氷の柱にツタを結び、てっぺんまでよじ登っていた。モエの魔法で作られたタンポポの綿毛が、ヒエールの目の前で浮遊し始める。一見、試合で放った呪文と同じだが、無数の綿毛の先に付いている種が一斉に発光し始めた。
≪page15≫
ヒエール「うおぉッ!?」
ヒエールの前で爆竹のように弾ける種。リンはその隙にヒエールの手から逃れていた。
リン「エアル!」
両手両足を拘束されながら、リンは風魔法で横っ飛びになりながらもヒエールから距離を取る。
ヒエール「クソッ…! 逃がすか…!!」
≪page16≫
ヒエールは扇を振り、氷の刃を放った。
リン「うあッ…!」
ユキ「リンちゃん!!」
リンの脇腹に氷の刃が突き刺さっていた。出血し、動かなくなるリン、ユキは青ざめながら目を見開き、小さく震え始める。
ヒエール「き、君が…いけないんだゾ…。ボクから、逃げるから…」
モエ「リン先輩…! しっかりしてください…! リン先輩…!!」
倒れているリンの元へ駆け付けるモエ。リンの返事は聞こえない。冷静さを欠いていくユキ。
≪page17≫
ユキ「よくも…リンちゃんを…」
ヒエール「…!!」
冷気を漂わせるユキ。ゆっくりと右手をヒエールに向けてかざした。
ユキ「よくも…よくもッ!!」
巨大な氷塊がユキの四方に生成された。
≪page18≫
その直後、氷塊が一斉にヒエールに向かって飛ぶ。ヒエールも氷魔法で対抗しようとするが、ユキの攻撃には全く通用しない。
ヒエール「うわあああああっ!?」
氷塊は、ヒエールの周りの氷を砕く。その破壊力を目の当たりにして、ヒエールはすでに戦意を喪失していた。
≪page19≫
ユキ「お前は、野放しにしておいたら駄目だ…」
ヒエール「ヒェッ…!!」
殺意に満ちたユキの表情。手には細長く尖った氷塊を握っていた。
モエ「ユ、ユキ…さん…?」
ユキのあまりの迫力に、モエはそれ以上言葉を発せなくなっていた。ユキは、今にもヒエールを手にかけようとしていた。その時、僅かに意識を取り戻したリンが声を振り絞った。
リン「や…」
≪page20≫
リン「やめて…ユキ…!!」
ユキ「…ッ!!」
リンの言葉を聞き、ユキは前世で見た悪夢を思い出していた。鈴子をいじめていた少女たちを、そして、鈴子を凍らせてしまった悪夢のことを。
ヒエールの目の前まで、ユキの持つ氷塊は迫っていた。ギリギリのところで、ユキは踏みとどまっていた。
ヒエール「ば…化け物…!!」
ユキ「…う、あ…!」
人殺しの化け物になってしまった悪夢の光景。その光景と、今の状況が重なり、ユキは顔面蒼白で震えていた。
≪page21≫
ユキ「私は…化け物…?」
ヒエール(こいつだけは、許しておけない…!! 氷が効かなくても、刃物ならどうだ…!!)
ユキの動きが止まり、その隙にヒエールは懐からナイフを取り出していた。ナイフを構えたままま、ヒエールはユキの腹部へ突進する。
リン「ユキ…!」
ユキがナイフに刺されようとしていた時。
≪page22≫
ミスティ「スリープ」
ミスティの呪文を唱える声が響いた。次の瞬間、ヒエールは白目を向いて倒れていた。
モエ「ミ、ミスティ先生…!」
ミスティ「妙な霧が立ち込めていて、少し様子を見に来たんだが…。なんだか、大変なことになっていたようだね…」
ユキ「はぁ…はぁ…」
≪page23≫
ミスティ「ユキ君、大丈夫か…?」
ユキ「あっ…。は、はい…。私よりも、リンちゃんを…!」
ミスティの魔法により、ヒエールの拘束とリンの治療が行われ、この場の騒動はひとまず収束した。ユキは尚も、身体の震えは止まらなかった。
ユキ(化け物…。私は…化け物…?)
○ヒエールの騒動の翌朝。ロークのホームルーム。
≪page24≫
ローク「昨日、このクラスのヒエール・ツンドーラさんが、魔法を使ってクラスメイトを襲撃する事件が起きました…。彼の処分は、学校の方で後々決められるでしょう…」
子分A&B「ヒエール様…」
重苦しい空気に包まれる教室。リンの怪我は、ミスティの治癒魔法で完治していたが、心の方は癒えてはいなかった。
ユキ「……」
リン「……」
ユキ(私は、結局あの頃と、鈴子ちゃんを凍らせかけていた妖怪の頃と何も変わってない…。力に身を任せて…気に入らないものを排除しようとしていた…。ヒエールと同じだ…)
リン(あたしが、ヒエールよりも強かったら…。Sランクになれていたら、ユキをあんな目に遭わせずに済んだのに…!)
モエ「ユキさん…。リン先輩…」
落ち込むユキとリンを見て、モエは悲しそうな表情を浮かべていた。
≪page25≫
○放課後。学校の中庭で1人佇むユキ。
ユキ「はぁ…」
モエ「ユキさん…」
ユキの元に、神妙な面持ちのモエがやってきた。
ユキ「モ、モエちゃん…! どうしたの…?」
モエ「ユキさんには、話しておこうと思ったんです…」
ユキ「な、何を…?」
モエ「…エレナ先輩のことを」
ユキ「えっ…」
≪page26≫
ユキは、リンとヒエールの会話を思い出した。リンが涙を見せた原因、その名前がエレナだった。
モエ「ユキさんがこの学校に転入する前。エレナ先輩という方が、私たちの班にいたんです…」
○モエの回想。半年前のリン班。
リン「くっ…! こいつ、硬い…!」
Aランクの魔物と戦闘するリン。風魔法を駆使して立ち回るが、決定打になるダメージを与えられない。
エレナ「リン。避けて」
リン「…!」
リンから離れた位置から、金髪の少し長めのショートボブの少女、エレナが右手をかざしていた。
≪page27≫
エレナ「サンディラ」
エレナの右手から発せられた雷魔法が、一直線に魔物を貫いた。リンでは倒せなかった魔物を、エレナはあっさりと倒していた。
≪page28≫
リン「はぁ〜。まーたあんたに手柄を横取りされたわね〜」
エレナ「…別に。風が効かないなら、雷が効くんじゃないかと思っただけ」
リン「まったく…。相変わらず冷めてるわね〜…。もっとムキになってくれないと張り合いないわ…」
エレナ「きゃは。リンの手柄取っちゃったー。…これで良い?」
リン「わざとらしいわ!」
モエ「先輩! お疲れ様っす…!」
茂みの中からひょっこりと姿を現したモエ。
≪page29≫
リン「モエちゃん! 大丈夫? 怪我はない?」
モエ「はいっす…! 先輩たちのおかげで、もう元気全開っす!」
エレナ「それは何より。モエのサポートのお陰で、私たちも無傷で終わったわ。ありがとう」
モエ「いえ、そんな…! 当然のことをしたまでっす…!」
優しく微笑みながら、エレナはモエの頭を撫でた。それを見て、リンは頬を膨らませた。
リン「ちょっと! 手柄だけじゃなくて、モエちゃんまで取らないでよ!」
エレナ「いつからあなたの物になったの?」
モエ「あわわ! 先輩、喧嘩は駄目っすよ〜!」
喧嘩と言いつつ、笑顔でじゃれ合う3人。
≪page30≫
○そんなある日、リンたちの教室。
ローク「おめでとうございます…! シャイニスさん! Sランク到達です…!」
クラスメイトたち「おぉーっ!!」
エレナ「私が…Sランク…?」
驚くエレナと、表情に寂しさを滲ませるリン。リンはすぐに笑顔に切り替えていた。
≪page31≫
リン「おめでとう…! エレナ…! やっぱ…あんた凄いわ…!」
エレナ「…ありがとう。リン」
互いに魔法を競っていたリンに気を遣い、少し申し訳なさそうにするエレナ。だが、エレナはすぐにリンの祝福を素直に受け取っていた。そんな2人を見つめながら、モエは温かな笑顔を浮かべていた。
現在のモエ「リン先輩とエレナ先輩は、本当に仲が良くて…。ずっと、ずっとその関係は続いていくと思ったんです…。でも…」
≪page32≫
○場面は変わり、Sランク専用の宿舎の前。
冷たい表情のエレナ。衝撃を受けるリンとモエのカット。エレナは背を向けて、2人の元から離れていく。
≪page1≫
○氷の壁に囲まれたユキ。壁の外では、リンとモエが立ち尽くしている。
リン「この氷…! ヒエールの仕業…!? 学校内では、授業と自主訓練以外の魔法の使用は禁止されているのに…!!」
モエ「ユキさん! 大丈夫っすか!? ユキさん!!」
リン「モエちゃん、少し離れて! この氷をぶっ壊すから! トルネオン!!」
竜巻で氷を破壊しようとするリン。
≪page2≫
だが、氷の壁には傷ひとつ付いていなかった。
リン「そ、そんな…! 今のは、あたしの最強の魔法よ…!? あたしと同じ、Aランクのあいつの魔法なら、十分砕けるはずなのに…!」
リン(ま…まさか…。今のあいつは…!?)
○氷の中のユキとヒエール。
ヒエールと対峙するユキ。彼のことをキッと睨みつける。
ユキ「私になんの用なの…?」
ヒエール「なんの用? ボクをあそこまでコケにしておいて、なんの用はないじゃないか!」
≪page3≫
ヒエールは氷扇で舞うように氷魔法をユキに向かって放つ。
ユキ「……」
氷魔法はユキに直撃した。だが、ユキはノーダメージ。その様子を見ても、ヒエールは動じていなかった。
ヒエール「やはり。君には氷魔法が効かないようだネ。どうなっているんだい? Fランクにそんな力がある訳ないだろう?」
ユキ「……」
≪page4≫
何も答えないユキ。ヒエールはそんなユキを見下すように鼻で笑った。
ヒエール「まぁ、良いサ。君が何者でも、君のことを痛め付けることが出来れば、ボクはそれで満足なんダ!」
ヒエールがさらに氷塊を放つ。ユキは身体で魔法を受け止めようと身構えるが、氷はユキの足元へ降り注いでいた。
ヒエールの狙いはユキ本人ではなかった。氷塊は地面を砕き、砕かれた石がユキに向かって飛ぶ。
ユキ「…!」
≪page5≫
ユキは冷静に氷の壁を出現させ、石を防いでいた。だが、小石のひとつがユキの頬を掠め、一筋の血を流していた。
ヒエール「ハッハッハッ! やはり、君は氷魔法を使えるようだネ! それも、かなり強大な力を! だけどね、今のボクは、君を上回る力を手に入れたのサ!」
氷の舞を踊るヒエール。そのたびに、射出された氷塊がユキの周りの地面を砕き続ける。ユキは、氷の壁を駆使してヒエールの攻撃から逃げ続ける。
≪page6≫
ユキ「氷の温度がさらに低い…。試合の時よりも強くなってる…!」
ヒエール「気付いてくれたようだネ! その通りサ! 今のボクは、さっきまでのボクじゃない! ひと握りの魔法学生しか到達することが出来ない…最強のSランクの力に目覚めたんだヨ!」
攻撃を続けるヒエール。足元の地面を破壊され、ユキはよろめきながらも回避を続ける。
ヒエール「どうせ君には氷が効かないんだろう? ボクも馬鹿じゃない。それなら、ほんの少し工夫するだけサ」
ユキ「あなたは何がしたいの…? 私を攻撃して、それが何になるの?」
≪page7≫
ヒエール「ムカつくんだヨ。君のような存在がサ。 落ちこぼれのくせに、リン君とは仲良さそうにして。ボクを散々コケにして。そんな奴は、力尽くで分からせるしかないだろう?」
○ユキの脳裏に浮かぶ前世の光景。鈴子をいじめていた少女たちの姿が浮かんでいた。
ユキ(この人は、あの子たちと同じだ…。力で自分の思い通りにしようとする…。鈴子ちゃんをいじめていた、あの子たちと一緒なんだ…)
ユキ「奇遇だね…。私も、あなたのことは許せない」
ユキがヒエールに敵意を向ける。それでも尚、ヒエールは余裕の笑みを浮かべていた。
ヒエール「まだそんな生意気な口を…。自分の状況が分かっているのかナ? ボクの魔法に押され続けているじゃないか」
≪page8≫
地面を破壊してユキを襲い続けるヒエール。ユキの表情は、雪女時代のような冷たいものへと変わった。
SE『パキンッ』
ヒエール「!?」
ユキは壁に囲われた地面を全て凍らせた。ユキの氷に覆われた地面は、ヒエールの魔法を全て無効化し、粒子のようにかき消していた。
≪page9≫
ヒエール「そ、そんな馬鹿な…!? こんな…こんなはずはないッ!!」
魔法を放ち続けるヒエール。だが、ヒエールの魔法は、氷の床に触れた瞬間、全て消え去っていく。
ユキ「…もう終わり?」
ヒエール「くッ…! ボクはSランクなんだ…! こんな奴に、負ける訳がない!!」
氷の総攻撃を放つヒエール。ユキはいくら氷の直撃を受けても平然としている。
≪page10≫
ヒエール「クソッ…! クソォッ…!!」
ヒエールに迫るユキ。その時、空を覆っていた氷の柱が砕け散っていた。
リン「よし…! ようやく氷が砕けた…! ユキ、大丈夫…!?」
リンが足に風を纏い、地上へ降り立った。
ヒエール(これはチャンス…!)
≪page11≫
ヒエールは氷でリンの手足を拘束した。ヒエールは、身動きの取れなくなったリンを盾にしていた。
リン「うっ…!?」
ヒエール「動くなヨ…! 動いたら、リン君がどうなっても知らないゾ…?」
ユキ「リンちゃん…!」
リン「くっ…! ウィード!」
後ろ手で拘束されながらも、手のひらから風の刃を発生させ氷を砕こうとするリン。だが、リンの魔法はヒエールよりも劣っていて砕くことが出来ない。
≪page12≫
リン「あんた…! 本当に最低ね…! こんなことまでするなんて…!」
ヒエール「なんだヨ…。ボクはSランクになったんだゾ! 魔法学生がもっとも憧れる、凄い魔法学生なんだゾ…!?」
リン「Sランクだからって、そんなのちっとも凄くない…! 人を傷付けて、自分のことばっかりで…! あんたみたいな奴、あたしは大嫌いよ…!!」
リンの言葉に、怒りを滲ませるヒエール。
ヒエール「ボクの気持ちも知らないで勝手なことを…。自分の立場ってものを教えてやろうか…?」
ユキ「やめろ! リンちゃんに手を出すな!」
≪page13≫
ヒエール「なら、ボクの言うことを聞きなヨ…。ボクの靴を舐めながら、ボクに働いた無礼の数々をここで詫びろ…! それで全て水に流してやるサ…!」
ユキ「…そんなことで良いなら」
ユキは躊躇わずに膝をつき、四つん這いの格好になった。
リン「ユキ…! 馬鹿な真似はやめて…! こんな奴に、あたしを傷付ける度胸なんてないんだから…!」
ヒエール「少し黙っていなヨ。これからお友達の無様な姿を見せてあげるからサ…!」
≪page14≫
リン「駄目…! お願い…やめて…!」
涙目で震えるリンを眺めながらヒエールが笑う。ユキがヒエールの靴に舌を付けようとしていたその時。モエの呪文を唱える声が響いた。
モエ「フラッパ!!」
ヒエール「これは…!」
モエは氷の柱にツタを結び、てっぺんまでよじ登っていた。モエの魔法で作られたタンポポの綿毛が、ヒエールの目の前で浮遊し始める。一見、試合で放った呪文と同じだが、無数の綿毛の先に付いている種が一斉に発光し始めた。
≪page15≫
ヒエール「うおぉッ!?」
ヒエールの前で爆竹のように弾ける種。リンはその隙にヒエールの手から逃れていた。
リン「エアル!」
両手両足を拘束されながら、リンは風魔法で横っ飛びになりながらもヒエールから距離を取る。
ヒエール「クソッ…! 逃がすか…!!」
≪page16≫
ヒエールは扇を振り、氷の刃を放った。
リン「うあッ…!」
ユキ「リンちゃん!!」
リンの脇腹に氷の刃が突き刺さっていた。出血し、動かなくなるリン、ユキは青ざめながら目を見開き、小さく震え始める。
ヒエール「き、君が…いけないんだゾ…。ボクから、逃げるから…」
モエ「リン先輩…! しっかりしてください…! リン先輩…!!」
倒れているリンの元へ駆け付けるモエ。リンの返事は聞こえない。冷静さを欠いていくユキ。
≪page17≫
ユキ「よくも…リンちゃんを…」
ヒエール「…!!」
冷気を漂わせるユキ。ゆっくりと右手をヒエールに向けてかざした。
ユキ「よくも…よくもッ!!」
巨大な氷塊がユキの四方に生成された。
≪page18≫
その直後、氷塊が一斉にヒエールに向かって飛ぶ。ヒエールも氷魔法で対抗しようとするが、ユキの攻撃には全く通用しない。
ヒエール「うわあああああっ!?」
氷塊は、ヒエールの周りの氷を砕く。その破壊力を目の当たりにして、ヒエールはすでに戦意を喪失していた。
≪page19≫
ユキ「お前は、野放しにしておいたら駄目だ…」
ヒエール「ヒェッ…!!」
殺意に満ちたユキの表情。手には細長く尖った氷塊を握っていた。
モエ「ユ、ユキ…さん…?」
ユキのあまりの迫力に、モエはそれ以上言葉を発せなくなっていた。ユキは、今にもヒエールを手にかけようとしていた。その時、僅かに意識を取り戻したリンが声を振り絞った。
リン「や…」
≪page20≫
リン「やめて…ユキ…!!」
ユキ「…ッ!!」
リンの言葉を聞き、ユキは前世で見た悪夢を思い出していた。鈴子をいじめていた少女たちを、そして、鈴子を凍らせてしまった悪夢のことを。
ヒエールの目の前まで、ユキの持つ氷塊は迫っていた。ギリギリのところで、ユキは踏みとどまっていた。
ヒエール「ば…化け物…!!」
ユキ「…う、あ…!」
人殺しの化け物になってしまった悪夢の光景。その光景と、今の状況が重なり、ユキは顔面蒼白で震えていた。
≪page21≫
ユキ「私は…化け物…?」
ヒエール(こいつだけは、許しておけない…!! 氷が効かなくても、刃物ならどうだ…!!)
ユキの動きが止まり、その隙にヒエールは懐からナイフを取り出していた。ナイフを構えたままま、ヒエールはユキの腹部へ突進する。
リン「ユキ…!」
ユキがナイフに刺されようとしていた時。
≪page22≫
ミスティ「スリープ」
ミスティの呪文を唱える声が響いた。次の瞬間、ヒエールは白目を向いて倒れていた。
モエ「ミ、ミスティ先生…!」
ミスティ「妙な霧が立ち込めていて、少し様子を見に来たんだが…。なんだか、大変なことになっていたようだね…」
ユキ「はぁ…はぁ…」
≪page23≫
ミスティ「ユキ君、大丈夫か…?」
ユキ「あっ…。は、はい…。私よりも、リンちゃんを…!」
ミスティの魔法により、ヒエールの拘束とリンの治療が行われ、この場の騒動はひとまず収束した。ユキは尚も、身体の震えは止まらなかった。
ユキ(化け物…。私は…化け物…?)
○ヒエールの騒動の翌朝。ロークのホームルーム。
≪page24≫
ローク「昨日、このクラスのヒエール・ツンドーラさんが、魔法を使ってクラスメイトを襲撃する事件が起きました…。彼の処分は、学校の方で後々決められるでしょう…」
子分A&B「ヒエール様…」
重苦しい空気に包まれる教室。リンの怪我は、ミスティの治癒魔法で完治していたが、心の方は癒えてはいなかった。
ユキ「……」
リン「……」
ユキ(私は、結局あの頃と、鈴子ちゃんを凍らせかけていた妖怪の頃と何も変わってない…。力に身を任せて…気に入らないものを排除しようとしていた…。ヒエールと同じだ…)
リン(あたしが、ヒエールよりも強かったら…。Sランクになれていたら、ユキをあんな目に遭わせずに済んだのに…!)
モエ「ユキさん…。リン先輩…」
落ち込むユキとリンを見て、モエは悲しそうな表情を浮かべていた。
≪page25≫
○放課後。学校の中庭で1人佇むユキ。
ユキ「はぁ…」
モエ「ユキさん…」
ユキの元に、神妙な面持ちのモエがやってきた。
ユキ「モ、モエちゃん…! どうしたの…?」
モエ「ユキさんには、話しておこうと思ったんです…」
ユキ「な、何を…?」
モエ「…エレナ先輩のことを」
ユキ「えっ…」
≪page26≫
ユキは、リンとヒエールの会話を思い出した。リンが涙を見せた原因、その名前がエレナだった。
モエ「ユキさんがこの学校に転入する前。エレナ先輩という方が、私たちの班にいたんです…」
○モエの回想。半年前のリン班。
リン「くっ…! こいつ、硬い…!」
Aランクの魔物と戦闘するリン。風魔法を駆使して立ち回るが、決定打になるダメージを与えられない。
エレナ「リン。避けて」
リン「…!」
リンから離れた位置から、金髪の少し長めのショートボブの少女、エレナが右手をかざしていた。
≪page27≫
エレナ「サンディラ」
エレナの右手から発せられた雷魔法が、一直線に魔物を貫いた。リンでは倒せなかった魔物を、エレナはあっさりと倒していた。
≪page28≫
リン「はぁ〜。まーたあんたに手柄を横取りされたわね〜」
エレナ「…別に。風が効かないなら、雷が効くんじゃないかと思っただけ」
リン「まったく…。相変わらず冷めてるわね〜…。もっとムキになってくれないと張り合いないわ…」
エレナ「きゃは。リンの手柄取っちゃったー。…これで良い?」
リン「わざとらしいわ!」
モエ「先輩! お疲れ様っす…!」
茂みの中からひょっこりと姿を現したモエ。
≪page29≫
リン「モエちゃん! 大丈夫? 怪我はない?」
モエ「はいっす…! 先輩たちのおかげで、もう元気全開っす!」
エレナ「それは何より。モエのサポートのお陰で、私たちも無傷で終わったわ。ありがとう」
モエ「いえ、そんな…! 当然のことをしたまでっす…!」
優しく微笑みながら、エレナはモエの頭を撫でた。それを見て、リンは頬を膨らませた。
リン「ちょっと! 手柄だけじゃなくて、モエちゃんまで取らないでよ!」
エレナ「いつからあなたの物になったの?」
モエ「あわわ! 先輩、喧嘩は駄目っすよ〜!」
喧嘩と言いつつ、笑顔でじゃれ合う3人。
≪page30≫
○そんなある日、リンたちの教室。
ローク「おめでとうございます…! シャイニスさん! Sランク到達です…!」
クラスメイトたち「おぉーっ!!」
エレナ「私が…Sランク…?」
驚くエレナと、表情に寂しさを滲ませるリン。リンはすぐに笑顔に切り替えていた。
≪page31≫
リン「おめでとう…! エレナ…! やっぱ…あんた凄いわ…!」
エレナ「…ありがとう。リン」
互いに魔法を競っていたリンに気を遣い、少し申し訳なさそうにするエレナ。だが、エレナはすぐにリンの祝福を素直に受け取っていた。そんな2人を見つめながら、モエは温かな笑顔を浮かべていた。
現在のモエ「リン先輩とエレナ先輩は、本当に仲が良くて…。ずっと、ずっとその関係は続いていくと思ったんです…。でも…」
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○場面は変わり、Sランク専用の宿舎の前。
冷たい表情のエレナ。衝撃を受けるリンとモエのカット。エレナは背を向けて、2人の元から離れていく。