第6話
≪page1≫
○マジケットのコートで対峙しているリン班とヒエール班
ヒエール「フッフッフ…! ボクの魔法の強大さに腰が引けてしまったかナ? さっきまでの試合は魔力を抑えていたのサ」
ユキ(氷の魔法…。リンちゃんも使ってたけど、リンちゃんの魔法よりも氷の温度が低くて強度が高い…)
マジケットのコートは一面凍っていた。ユキは地面から突き出た巨大な尖った氷塊に触れ、氷の質を見極めている。
≪page2≫
リン「悔しいけど、氷魔法だけならあたしよりあいつの方が強い…! 風魔法なら負けないけど…!」
モエ「あわわわ…! 地面が凍ってて、これじゃ種が植えられないっす〜!」
コートのセンターサークルの上には、ロークが魔法で浮かせているボールがある。リンとヒエールはボールの前で向かいあった。
ローク「それでは、試合開始です!」
ロークの合図でボールは上空へと飛び上がった。その瞬間にリンは風魔法を唱えた。
≪page3≫
リン「エアル!」
足元で風の爆発を起こし、リンがボールを取ることに成功した。
ヒエール「それは譲ってあげるよ。せめてもの情けって奴サ」
リン「それはどうも!」
≪page4≫
リンは風を使い、コートに触れることなくリングへと向かっていく。そのままダンクを決めようとボールを振りかぶった。
ヒエール「フォルグ」
リン「!?」
リンの視界は突如、真っ白の霧に包まれていた。視界を奪われたリンは狙いを付けることが出来ない。ボールはリングの淵に弾かれていた。
リン「くっ!」
≪page5≫
子分A「ノビーテ!」
子分Aが魔法を唱えると、子分Aの腕はキリンの首のように伸びていく。そのままリンのボールを奪った。
リン「あっ!」
子分A「ヒエール様!」
子分Aがヒエールにパス。ニヤつきながらボールを受け取るヒエール。
ユキ「させない!」
子分B「それはこっちの台詞だ。バルーク!」
≪page6≫
子分Bが身体を風船のように膨らませユキをマーク。モエも慌てて駆け付けようとするが、氷に足を滑らせ尻餅をついた。
モエ「あうっ!」
ユキ「くっ…! そこをどいて!」
ヒエール「やれやれ。まともに動けているのはリン君だけか。本当に張り合いがない…ネ!」
ヒエールがボールを軽く放り投げる。すると、氷の柱が次々と突き出し、ボールをゴールへと運んでいく。
≪page7≫
そして、そのままボールはリングを潜った。突き出た柱はゴールの直後に砕け散った。
リン「やられた…!」
ヒエールに先制のスリーポイントを決められ、肩を落とすユキとモエ。リンは俯く2人に笑顔を向けた。
リン「まだ始まったばっかりよ! こっから巻き返しましょう!」
ユキ「…うん!」
モエ「はいっす!」
≪page8≫
リンのエンドスローインで試合再開。モエにボールが渡るが、その瞬間、モエの視界が霧に包まれる。
ヒエール「フォルグ」
モエ「わわっ!?」
子分A「ノビーテ!」
子分Aの腕を伸ばす魔法でボールを奪われるモエ。ボールはヒエールへパスされる。リンがエアルで空中を浮遊し、ボールの元へ向かう。
子分B「バルーク!」
リン「あーもう! 邪魔っ!」
リン(霧を風で吹き飛ばそうにも、それだとモエちゃんがボールをまともに投げられなくなる…! 厄介極まりない…!)
≪page9≫
身体を膨らませリンの進路を妨害する子分B。その隙にヒエールは氷魔法を操りゴールを決める。
その後もヒエール班の得点が続き、18-0の一方的な試合展開に。
リン「なんとか流れを変えないと…。モエちゃん、あれやるわよ!」
モエ「い、良いんすか…?」
リン「おあいこよ! 気にしない!」
リンのエンドスローイン。ユキがボールを受け取る。それを見たヒエールが魔法の詠唱を始めようと口を開く。
≪page10≫
モエ「フラッフ!」
モエが呪文を唱えた。モエの手に綿毛のタンポポが出現し、綿毛にモエが息を吹きかける。
ヒエール「うッ!?」
綿毛がヒエールの周りに浮遊し、呪文の詠唱を妨害する。
子分B「ヒエール様! …お前ら、卑怯だぞ!」
リン「散々人のこと邪魔しといて何言ってんの!それに、あれはただ綿毛が飛んでるだけ! ルール違反はしてないっつーの! …ユキ! 行くわよ!」
ユキ「うん!」
≪page11≫
リン「エアル!」
リンが呪文を唱えると、ユキの足元に風が発生した。ユキは風で空中を翔ける。
子分A&B「何ィ!?」
ユキに魔法を掛けるとは思っていなかった子分たち。不意をつかれた彼らの間を抜け、ユキはゴールへ突っ込む。
ユキ「おりゃあっ!」
≪page12≫
ユキのダンクシュート。得点は3-18に。
子分A「油断した…! すみません、ヒエール様…!」
ヒエール「別に良いサ。このくらいサービスしてあげるのが優しさってものだヨ…!」
笑顔をやや引きつらせながらも、まだ余裕を見せるヒエール。反面、リン班は試合の流れを掴み始めていた。
≪page13≫
モエ「フラッフ!」
リン「エアル!」
ユキ「いっけええええ!!」
モエのタンポポの綿毛と、リンの風のサポートで、リン班は得点を伸ばし、試合は18-18の同点になっていた。
リン「よっしゃ! 完全に主導権は掴んだわ! このまま引き離しましょう!」
ヒエール(マズいゾ…。完全にあいつらのペースじゃないか…。このままだと負ける…!)
≪page14≫
試合終了の時間が迫り、焦るヒエール。リンの足元をジッと見ながら思考を巡らせている。そして、子分Bに耳打ちをした。
ヒエール「君はあのチビの魔法を遮るのに集中してくれ」
ニヤリと笑うヒエール。子分Bがモエの前で思いっきり身体を膨らませていた。
モエ「フラッフ!」
子分B「バルーク!」
モエの綿毛は子分Bが全て遮り、ヒエールが呪文を唱える隙を作っていた。
ヒエール「フォルグ」
リン「うっ! また霧!」
リンが霧に包まれる。リンの姿は、試合を観戦しているクラスメイトやロークからも見えていない。
≪page15≫
ヒエール「ブリーズ」
リン「なっ…!?」
コートの氷がリンの足まで伸び、リンは拘束され身動きが取れなくなっていた。
子分A「ノビーテ!」
子分Aがリンからボールを奪うと、そのままヒエールにパス。ヒエールは氷の柱を操りシュートを決めた。その直後、ヒエールはリンの足を覆っていた魔法を解いた。霧が晴れた頃には、すでに魔法の痕跡は消失していた。
≪page16≫
リン「ちょっと!! 今のは明らかに反則じゃない!!」
ヒエール「フッ…。そんな証拠どこにあるんだい?」
リン「なんですって…!? そんなの先生に聞けば…」
ローク「すみません…! 私からも確認が難しくて…」
リン「そんな…」
ヒエール「フッフッフ…。もう時間が無いヨ? どうやら、このままボクらの勝ちのようだネェ」
≪page17≫
モエ「うぅ…」
ボールを持ちながら弱気になるモエ。そんなモエの視界に、ユキの横顔が写った。
ユキ「モエちゃん…。私に任せて…!」
モエ「ユキさん…?」
ユキ「ルールを破って、リンちゃんを凍らせるなんて許せない…。あんな奴には、絶対に負けたくない…!」
モエ「は、はいっす…! ユキさん、お願いしますっす!」
モエのエンドスローイン。ユキにボールが渡る。次の瞬間、ユキの身体は霧に包まれていた。
ヒエール「フォルグ」
≪page18≫
ユキの視界を奪い満足そうに笑うヒエール。さらに駄目出しの魔法を唱える。
ヒエール「ブリーズ」
ユキの両足が凍り付く。ユキは視界も身動きも封じられていた。
ヒエール「Fランク如きにここまでする必要はないだろうけどネェ。今までのお返しだよ。試合終了まで無様に凍っていたまえ」
リン「ユキ…!」
子分A&B「おっと! ここは通さない!」
リンはユキを助けに向かおうとするが、子分A&Bに阻まれていた。
≪page19≫
ユキ「……ありがとう」
ヒエール「は?」
急にお礼を言われポカンとするヒエール。次の瞬間、ユキの足に纏わりついていた氷は、まるで砂のように脆く崩れ落ちていた。
ヒエール「何ッ!?」
ユキ「霧のおかげでみんなに見られなくて済む」
ユキは凍った足場でも、霧の中でも、お構いなしにドリブルを始めた。普通のコートの上のようにゴールへ向かって突き進んでいく。
≪page20≫
ヒエール(なんであいつはこの状況で普通に動けるんだ!? しかも、ボクの氷が効いてない!? まるで、“氷に耐性がある”みたいじゃないか!!)
ユキ(霧の中は、雪山に住んでいた私にとって、日常の光景だから…)
驚愕するヒエールを余所にゴールを目指すユキ。苛立つヒエールは手段を選ばずさらに魔法を唱えた。
ヒエール「生意気なんだよお前ェ!! ブリズ!!」
霧の中で攻撃魔法を放つヒエール。尖った氷の刃がユキに襲い掛かる。
ユキ「……」
顔に氷魔法が直撃したユキ。だが、ユキには氷が通用しない。ヒエールの攻撃を物ともせず、ゴールに向かって突き進む。
≪page21≫
ヒエール「なんで効かないんだヨォ!? ブリズ!!」
さらにユキを襲う氷の刃。ユキは反則を続けるヒエールを睨んだ。
ヒエール「うおわああああッ!?」
ヒエールの周りに3本の巨大な氷の柱が出現した。これはヒエールの魔法ではない。ユキがヒエールを氷の柱の間に挟んでいた。
ヒエール「馬鹿な…。このボクが…氷に負け…た…?」
ユキ「ふっ!」
ユキはスリーポイントシュートを放った。
≪page22≫
次の瞬間、ユキを覆っていた霧は晴れ、ボールはリングを潜っていた。点数は21-21の同点に。
ローク「試合終了の時間です…! 同点なので、これから延長戦に…」
子分A&B「ヒエール様ァ!! しっかりしてください〜!!」
ローク「おや…? ツンドーラさん、どうしたんですか…?」
氷の柱に挟まり気を失っているヒエール。ロークは不思議そうに彼を眺めていた。
子分B「分かりません…! 何故か自分の魔法に挟まって気を失っているんです〜!」
≪page23≫
ローク「それは困りましたね…。ツンドーラさんが気絶して延長戦が出来ないとなると…リン班の優勝ですかね」
リン「へ? えっと…。や…やったぁ〜!」
リン(なんか釈然としないけど…)
ユキ「やったね、リンちゃん!」
無邪気に喜ぶユキに、リンはムッとしながらそっと耳打ちをした。
リン「ユキ…! あんたでしょ…! ヒエールを気絶させちゃったのは…! ちょっとやりすぎよ!」
ユキ「ご、ごめん…」
モエ「リン先輩…! ユキさんは、先輩のために怒っていたんです…! だから…」
≪page24≫
申し訳なさそうにするユキと、そんなユキを庇うモエ。いじらしい2人を見て、リンはすっかり説教する気が失せていた。
リン「はぁ〜…。ほんと馬鹿ユキなんだから…。まぁ、あんたのそういうところ、嫌いじゃないけど…」
ユキ「え? 何か言った?」
リン「う、うるさいわね! やっぱり少し反省しなさい…!」
キョトンとしながら真顔で聞き返すユキ。そんなユキに、顔を真っ赤にしながら怒るリン。ユキとモエは再び慌てていた。
○夕方の魔法学校、医務室から出て来たヒエール。
≪page25≫
子分A「ヒエール様、大丈夫ですか…?」
子分B「何か必要な物があれば言ってください…!」
ヒエール「うるさいネ…。少し、1人にしてくれ…」
不機嫌そうに子分A&Bを追い払うヒエール。困惑した表情のまま立ち尽くす子分2人。
○校舎裏を1人歩くヒエール。
ヒエール「あのFランク…絶対に許さんゾ…。あいつの氷の力、何か裏があるに違いない…。うっ…。まだ少し目眩がする…」
ミスティ「おやおや。大丈夫かい?」
≪page26≫
○ヒエールの前にミスティが現れた。フラつく彼を気に掛けるミスティ。
ヒエール「ミスティ先生…。こんなところで何をしているのですか?」
ミスティ「ふふふ…。薬の調合に使うキノコが生えてないか探しにね。…と、薬と言えば。これ、飲んでみるかい?」
小さなビンに入った薬を手渡すミスティ。
≪page27≫
ヒエール「なんですか…これ…?」
ミスティ「最近仕入れた都会の薬だよ。魔力の流れを良くするものらしいが…。まぁ、気休め程度のものだろうね。体調が悪そうに見えたからさ。良かったらどうぞ」
ヒエール「あ、ありがとうございます…」
ヒラヒラと手を振りながら立ち去るミスティ。
ヒエール「なんだこの見るからに怪しい薬は…。こんな物を飲んだところで…」
そうは言いつつ薬を飲むヒエール。薬を飲み干したヒエールは、目を細めながら空のビンを見つめている。
ヒエール「うッ…!?」
目を見開くヒエール。彼の身体から魔力が溢れている。
≪page28≫
ヒエール「うおおおおッ!? これはァ!? 今までにない魔力の高まりを感じるゾォ!!」
○ユキたちが暮らす女子寮。
リン「いやぁ〜。今日は疲れたわねぇ…。ヒエールのせいで余計に…」
モエ「リン先輩、お疲れ様でしたっす…!」
リン「それはあなたたちもね…! おかげで優勝出来たし…! あっ。優勝といえば祝勝会よね…! せっかくだし、みんなでお祝いしましょうか!」
ユキ「祝勝会…? 私、やったことない…」
≪page29≫
モエ「ユキさんにとって、初めての祝勝会っすね…!」
リン「だったら余計にお祝いしないと…! ちょっと買い出しに行きましょうか! 学校の売店はまだ開いているはずよね…」
ユキ(お祝いか…。鈴子ちゃんも、何かあるたびにいろいろお祝いしてくれたっけ…)
○ユキの回想。現代のハンバーガーショップで一緒に座るユキと鈴子。
鈴子「雪ちゃん! 今日は雪ちゃんと出会ってから1週間のお祝い! ほら、食べて食べて!」
ユキ「あ、ありがとう…。で、でも、それってお祝いすることなのかな…?」
鈴子「あたしは雪ちゃんと一緒にいるとずっとハッピーなの! だから、いつでも何度でもお祝いしても良いの〜! 」
ユキ「うん…! 私も、鈴子ちゃんと一緒にいると幸せ…!」
笑い合うユキと鈴子。
○回想終了。
前世の記憶を思い出し、切なげな笑みを浮かべるユキ。
≪page30≫
リン「ユキ? 何してるの! 早く行くわよ!」
ユキ「う、うん…!」
○寮から出る3人。夕焼けの中、校舎にある売店へと向かう。
リンとモエが笑いながら会話している中、3人の最後尾を歩くユキ。
ユキ(リンちゃんとモエちゃん、2人は私にとってかけがえのない大切な友達…。でも、鈴子ちゃんのことを思い出すと、やっぱりちょっと寂しくなっちゃうな…)
鈴子のことを思い出し、上の空になっているユキ。そんなユキの足元は不自然に盛り上がっていた。
≪page31≫
リン「ん…? 急に視界が悪く…」
リンたちの周辺には、深く濃い霧が立ち込めていた。
SE『ズガァァンッ!』
リンとモエ「えっ!?」
リンとモエから離れて歩いていたユキ。彼女だけ、地面から突き出した無数の巨大な氷の柱に、取り囲まれるように閉じ込められていた。上空を覆い隠すように突き出した氷の柱によって、ユキは脱出出来なくなっていた。
ユキ「これは…!?」
ヒエール「ブリズグラッジ…」
新たに習得した呪文を唱えるヒエール。両手に冷気が集まっていく。
≪page32≫
ヒエール「フッフッフッ…。やぁ、Fランク君…。借りを返しに来たヨ…」
霧の中からユキの前に現れたヒエールは、両手に大きな氷の扇子を構えていた。
≪page1≫
○マジケットのコートで対峙しているリン班とヒエール班
ヒエール「フッフッフ…! ボクの魔法の強大さに腰が引けてしまったかナ? さっきまでの試合は魔力を抑えていたのサ」
ユキ(氷の魔法…。リンちゃんも使ってたけど、リンちゃんの魔法よりも氷の温度が低くて強度が高い…)
マジケットのコートは一面凍っていた。ユキは地面から突き出た巨大な尖った氷塊に触れ、氷の質を見極めている。
≪page2≫
リン「悔しいけど、氷魔法だけならあたしよりあいつの方が強い…! 風魔法なら負けないけど…!」
モエ「あわわわ…! 地面が凍ってて、これじゃ種が植えられないっす〜!」
コートのセンターサークルの上には、ロークが魔法で浮かせているボールがある。リンとヒエールはボールの前で向かいあった。
ローク「それでは、試合開始です!」
ロークの合図でボールは上空へと飛び上がった。その瞬間にリンは風魔法を唱えた。
≪page3≫
リン「エアル!」
足元で風の爆発を起こし、リンがボールを取ることに成功した。
ヒエール「それは譲ってあげるよ。せめてもの情けって奴サ」
リン「それはどうも!」
≪page4≫
リンは風を使い、コートに触れることなくリングへと向かっていく。そのままダンクを決めようとボールを振りかぶった。
ヒエール「フォルグ」
リン「!?」
リンの視界は突如、真っ白の霧に包まれていた。視界を奪われたリンは狙いを付けることが出来ない。ボールはリングの淵に弾かれていた。
リン「くっ!」
≪page5≫
子分A「ノビーテ!」
子分Aが魔法を唱えると、子分Aの腕はキリンの首のように伸びていく。そのままリンのボールを奪った。
リン「あっ!」
子分A「ヒエール様!」
子分Aがヒエールにパス。ニヤつきながらボールを受け取るヒエール。
ユキ「させない!」
子分B「それはこっちの台詞だ。バルーク!」
≪page6≫
子分Bが身体を風船のように膨らませユキをマーク。モエも慌てて駆け付けようとするが、氷に足を滑らせ尻餅をついた。
モエ「あうっ!」
ユキ「くっ…! そこをどいて!」
ヒエール「やれやれ。まともに動けているのはリン君だけか。本当に張り合いがない…ネ!」
ヒエールがボールを軽く放り投げる。すると、氷の柱が次々と突き出し、ボールをゴールへと運んでいく。
≪page7≫
そして、そのままボールはリングを潜った。突き出た柱はゴールの直後に砕け散った。
リン「やられた…!」
ヒエールに先制のスリーポイントを決められ、肩を落とすユキとモエ。リンは俯く2人に笑顔を向けた。
リン「まだ始まったばっかりよ! こっから巻き返しましょう!」
ユキ「…うん!」
モエ「はいっす!」
≪page8≫
リンのエンドスローインで試合再開。モエにボールが渡るが、その瞬間、モエの視界が霧に包まれる。
ヒエール「フォルグ」
モエ「わわっ!?」
子分A「ノビーテ!」
子分Aの腕を伸ばす魔法でボールを奪われるモエ。ボールはヒエールへパスされる。リンがエアルで空中を浮遊し、ボールの元へ向かう。
子分B「バルーク!」
リン「あーもう! 邪魔っ!」
リン(霧を風で吹き飛ばそうにも、それだとモエちゃんがボールをまともに投げられなくなる…! 厄介極まりない…!)
≪page9≫
身体を膨らませリンの進路を妨害する子分B。その隙にヒエールは氷魔法を操りゴールを決める。
その後もヒエール班の得点が続き、18-0の一方的な試合展開に。
リン「なんとか流れを変えないと…。モエちゃん、あれやるわよ!」
モエ「い、良いんすか…?」
リン「おあいこよ! 気にしない!」
リンのエンドスローイン。ユキがボールを受け取る。それを見たヒエールが魔法の詠唱を始めようと口を開く。
≪page10≫
モエ「フラッフ!」
モエが呪文を唱えた。モエの手に綿毛のタンポポが出現し、綿毛にモエが息を吹きかける。
ヒエール「うッ!?」
綿毛がヒエールの周りに浮遊し、呪文の詠唱を妨害する。
子分B「ヒエール様! …お前ら、卑怯だぞ!」
リン「散々人のこと邪魔しといて何言ってんの!それに、あれはただ綿毛が飛んでるだけ! ルール違反はしてないっつーの! …ユキ! 行くわよ!」
ユキ「うん!」
≪page11≫
リン「エアル!」
リンが呪文を唱えると、ユキの足元に風が発生した。ユキは風で空中を翔ける。
子分A&B「何ィ!?」
ユキに魔法を掛けるとは思っていなかった子分たち。不意をつかれた彼らの間を抜け、ユキはゴールへ突っ込む。
ユキ「おりゃあっ!」
≪page12≫
ユキのダンクシュート。得点は3-18に。
子分A「油断した…! すみません、ヒエール様…!」
ヒエール「別に良いサ。このくらいサービスしてあげるのが優しさってものだヨ…!」
笑顔をやや引きつらせながらも、まだ余裕を見せるヒエール。反面、リン班は試合の流れを掴み始めていた。
≪page13≫
モエ「フラッフ!」
リン「エアル!」
ユキ「いっけええええ!!」
モエのタンポポの綿毛と、リンの風のサポートで、リン班は得点を伸ばし、試合は18-18の同点になっていた。
リン「よっしゃ! 完全に主導権は掴んだわ! このまま引き離しましょう!」
ヒエール(マズいゾ…。完全にあいつらのペースじゃないか…。このままだと負ける…!)
≪page14≫
試合終了の時間が迫り、焦るヒエール。リンの足元をジッと見ながら思考を巡らせている。そして、子分Bに耳打ちをした。
ヒエール「君はあのチビの魔法を遮るのに集中してくれ」
ニヤリと笑うヒエール。子分Bがモエの前で思いっきり身体を膨らませていた。
モエ「フラッフ!」
子分B「バルーク!」
モエの綿毛は子分Bが全て遮り、ヒエールが呪文を唱える隙を作っていた。
ヒエール「フォルグ」
リン「うっ! また霧!」
リンが霧に包まれる。リンの姿は、試合を観戦しているクラスメイトやロークからも見えていない。
≪page15≫
ヒエール「ブリーズ」
リン「なっ…!?」
コートの氷がリンの足まで伸び、リンは拘束され身動きが取れなくなっていた。
子分A「ノビーテ!」
子分Aがリンからボールを奪うと、そのままヒエールにパス。ヒエールは氷の柱を操りシュートを決めた。その直後、ヒエールはリンの足を覆っていた魔法を解いた。霧が晴れた頃には、すでに魔法の痕跡は消失していた。
≪page16≫
リン「ちょっと!! 今のは明らかに反則じゃない!!」
ヒエール「フッ…。そんな証拠どこにあるんだい?」
リン「なんですって…!? そんなの先生に聞けば…」
ローク「すみません…! 私からも確認が難しくて…」
リン「そんな…」
ヒエール「フッフッフ…。もう時間が無いヨ? どうやら、このままボクらの勝ちのようだネェ」
≪page17≫
モエ「うぅ…」
ボールを持ちながら弱気になるモエ。そんなモエの視界に、ユキの横顔が写った。
ユキ「モエちゃん…。私に任せて…!」
モエ「ユキさん…?」
ユキ「ルールを破って、リンちゃんを凍らせるなんて許せない…。あんな奴には、絶対に負けたくない…!」
モエ「は、はいっす…! ユキさん、お願いしますっす!」
モエのエンドスローイン。ユキにボールが渡る。次の瞬間、ユキの身体は霧に包まれていた。
ヒエール「フォルグ」
≪page18≫
ユキの視界を奪い満足そうに笑うヒエール。さらに駄目出しの魔法を唱える。
ヒエール「ブリーズ」
ユキの両足が凍り付く。ユキは視界も身動きも封じられていた。
ヒエール「Fランク如きにここまでする必要はないだろうけどネェ。今までのお返しだよ。試合終了まで無様に凍っていたまえ」
リン「ユキ…!」
子分A&B「おっと! ここは通さない!」
リンはユキを助けに向かおうとするが、子分A&Bに阻まれていた。
≪page19≫
ユキ「……ありがとう」
ヒエール「は?」
急にお礼を言われポカンとするヒエール。次の瞬間、ユキの足に纏わりついていた氷は、まるで砂のように脆く崩れ落ちていた。
ヒエール「何ッ!?」
ユキ「霧のおかげでみんなに見られなくて済む」
ユキは凍った足場でも、霧の中でも、お構いなしにドリブルを始めた。普通のコートの上のようにゴールへ向かって突き進んでいく。
≪page20≫
ヒエール(なんであいつはこの状況で普通に動けるんだ!? しかも、ボクの氷が効いてない!? まるで、“氷に耐性がある”みたいじゃないか!!)
ユキ(霧の中は、雪山に住んでいた私にとって、日常の光景だから…)
驚愕するヒエールを余所にゴールを目指すユキ。苛立つヒエールは手段を選ばずさらに魔法を唱えた。
ヒエール「生意気なんだよお前ェ!! ブリズ!!」
霧の中で攻撃魔法を放つヒエール。尖った氷の刃がユキに襲い掛かる。
ユキ「……」
顔に氷魔法が直撃したユキ。だが、ユキには氷が通用しない。ヒエールの攻撃を物ともせず、ゴールに向かって突き進む。
≪page21≫
ヒエール「なんで効かないんだヨォ!? ブリズ!!」
さらにユキを襲う氷の刃。ユキは反則を続けるヒエールを睨んだ。
ヒエール「うおわああああッ!?」
ヒエールの周りに3本の巨大な氷の柱が出現した。これはヒエールの魔法ではない。ユキがヒエールを氷の柱の間に挟んでいた。
ヒエール「馬鹿な…。このボクが…氷に負け…た…?」
ユキ「ふっ!」
ユキはスリーポイントシュートを放った。
≪page22≫
次の瞬間、ユキを覆っていた霧は晴れ、ボールはリングを潜っていた。点数は21-21の同点に。
ローク「試合終了の時間です…! 同点なので、これから延長戦に…」
子分A&B「ヒエール様ァ!! しっかりしてください〜!!」
ローク「おや…? ツンドーラさん、どうしたんですか…?」
氷の柱に挟まり気を失っているヒエール。ロークは不思議そうに彼を眺めていた。
子分B「分かりません…! 何故か自分の魔法に挟まって気を失っているんです〜!」
≪page23≫
ローク「それは困りましたね…。ツンドーラさんが気絶して延長戦が出来ないとなると…リン班の優勝ですかね」
リン「へ? えっと…。や…やったぁ〜!」
リン(なんか釈然としないけど…)
ユキ「やったね、リンちゃん!」
無邪気に喜ぶユキに、リンはムッとしながらそっと耳打ちをした。
リン「ユキ…! あんたでしょ…! ヒエールを気絶させちゃったのは…! ちょっとやりすぎよ!」
ユキ「ご、ごめん…」
モエ「リン先輩…! ユキさんは、先輩のために怒っていたんです…! だから…」
≪page24≫
申し訳なさそうにするユキと、そんなユキを庇うモエ。いじらしい2人を見て、リンはすっかり説教する気が失せていた。
リン「はぁ〜…。ほんと馬鹿ユキなんだから…。まぁ、あんたのそういうところ、嫌いじゃないけど…」
ユキ「え? 何か言った?」
リン「う、うるさいわね! やっぱり少し反省しなさい…!」
キョトンとしながら真顔で聞き返すユキ。そんなユキに、顔を真っ赤にしながら怒るリン。ユキとモエは再び慌てていた。
○夕方の魔法学校、医務室から出て来たヒエール。
≪page25≫
子分A「ヒエール様、大丈夫ですか…?」
子分B「何か必要な物があれば言ってください…!」
ヒエール「うるさいネ…。少し、1人にしてくれ…」
不機嫌そうに子分A&Bを追い払うヒエール。困惑した表情のまま立ち尽くす子分2人。
○校舎裏を1人歩くヒエール。
ヒエール「あのFランク…絶対に許さんゾ…。あいつの氷の力、何か裏があるに違いない…。うっ…。まだ少し目眩がする…」
ミスティ「おやおや。大丈夫かい?」
≪page26≫
○ヒエールの前にミスティが現れた。フラつく彼を気に掛けるミスティ。
ヒエール「ミスティ先生…。こんなところで何をしているのですか?」
ミスティ「ふふふ…。薬の調合に使うキノコが生えてないか探しにね。…と、薬と言えば。これ、飲んでみるかい?」
小さなビンに入った薬を手渡すミスティ。
≪page27≫
ヒエール「なんですか…これ…?」
ミスティ「最近仕入れた都会の薬だよ。魔力の流れを良くするものらしいが…。まぁ、気休め程度のものだろうね。体調が悪そうに見えたからさ。良かったらどうぞ」
ヒエール「あ、ありがとうございます…」
ヒラヒラと手を振りながら立ち去るミスティ。
ヒエール「なんだこの見るからに怪しい薬は…。こんな物を飲んだところで…」
そうは言いつつ薬を飲むヒエール。薬を飲み干したヒエールは、目を細めながら空のビンを見つめている。
ヒエール「うッ…!?」
目を見開くヒエール。彼の身体から魔力が溢れている。
≪page28≫
ヒエール「うおおおおッ!? これはァ!? 今までにない魔力の高まりを感じるゾォ!!」
○ユキたちが暮らす女子寮。
リン「いやぁ〜。今日は疲れたわねぇ…。ヒエールのせいで余計に…」
モエ「リン先輩、お疲れ様でしたっす…!」
リン「それはあなたたちもね…! おかげで優勝出来たし…! あっ。優勝といえば祝勝会よね…! せっかくだし、みんなでお祝いしましょうか!」
ユキ「祝勝会…? 私、やったことない…」
≪page29≫
モエ「ユキさんにとって、初めての祝勝会っすね…!」
リン「だったら余計にお祝いしないと…! ちょっと買い出しに行きましょうか! 学校の売店はまだ開いているはずよね…」
ユキ(お祝いか…。鈴子ちゃんも、何かあるたびにいろいろお祝いしてくれたっけ…)
○ユキの回想。現代のハンバーガーショップで一緒に座るユキと鈴子。
鈴子「雪ちゃん! 今日は雪ちゃんと出会ってから1週間のお祝い! ほら、食べて食べて!」
ユキ「あ、ありがとう…。で、でも、それってお祝いすることなのかな…?」
鈴子「あたしは雪ちゃんと一緒にいるとずっとハッピーなの! だから、いつでも何度でもお祝いしても良いの〜! 」
ユキ「うん…! 私も、鈴子ちゃんと一緒にいると幸せ…!」
笑い合うユキと鈴子。
○回想終了。
前世の記憶を思い出し、切なげな笑みを浮かべるユキ。
≪page30≫
リン「ユキ? 何してるの! 早く行くわよ!」
ユキ「う、うん…!」
○寮から出る3人。夕焼けの中、校舎にある売店へと向かう。
リンとモエが笑いながら会話している中、3人の最後尾を歩くユキ。
ユキ(リンちゃんとモエちゃん、2人は私にとってかけがえのない大切な友達…。でも、鈴子ちゃんのことを思い出すと、やっぱりちょっと寂しくなっちゃうな…)
鈴子のことを思い出し、上の空になっているユキ。そんなユキの足元は不自然に盛り上がっていた。
≪page31≫
リン「ん…? 急に視界が悪く…」
リンたちの周辺には、深く濃い霧が立ち込めていた。
SE『ズガァァンッ!』
リンとモエ「えっ!?」
リンとモエから離れて歩いていたユキ。彼女だけ、地面から突き出した無数の巨大な氷の柱に、取り囲まれるように閉じ込められていた。上空を覆い隠すように突き出した氷の柱によって、ユキは脱出出来なくなっていた。
ユキ「これは…!?」
ヒエール「ブリズグラッジ…」
新たに習得した呪文を唱えるヒエール。両手に冷気が集まっていく。
≪page32≫
ヒエール「フッフッフッ…。やぁ、Fランク君…。借りを返しに来たヨ…」
霧の中からユキの前に現れたヒエールは、両手に大きな氷の扇子を構えていた。