第6話

≪page1≫

○マジケットのコートで対峙しているリン班とヒエール班

ヒエール「フッフッフ…! ボクの魔法の強大さに腰が引けてしまったかナ? さっきまでの試合は魔力を抑えていたのサ」

ユキ(氷の魔法…。リンちゃんも使ってたけど、リンちゃんの魔法よりも氷の温度が低くて強度が高い…)

マジケットのコートは一面凍っていた。ユキは地面から突き出た巨大な尖った氷塊に触れ、氷の質を見極めている。

≪page2≫

リン「悔しいけど、氷魔法だけならあたしよりあいつの方が強い…! 風魔法なら負けないけど…!」

モエ「あわわわ…! 地面が凍ってて、これじゃ種が植えられないっす〜!」

コートのセンターサークルの上には、ロークが魔法で浮かせているボールがある。リンとヒエールはボールの前で向かいあった。

ローク「それでは、試合開始です!」

ロークの合図でボールは上空へと飛び上がった。その瞬間にリンは風魔法を唱えた。

≪page3≫

リン「エアル!」

足元で風の爆発を起こし、リンがボールを取ることに成功した。

ヒエール「それは譲ってあげるよ。せめてもの情けって奴サ」

リン「それはどうも!」

≪page4≫

リンは風を使い、コートに触れることなくリングへと向かっていく。そのままダンクを決めようとボールを振りかぶった。

ヒエール「フォルグ」

リン「!?」

リンの視界は突如、真っ白の霧に包まれていた。視界を奪われたリンは狙いを付けることが出来ない。ボールはリングの淵に弾かれていた。

リン「くっ!」

≪page5≫

子分A「ノビーテ!」

子分Aが魔法を唱えると、子分Aの腕はキリンの首のように伸びていく。そのままリンのボールを奪った。

リン「あっ!」

子分A「ヒエール様!」

子分Aがヒエールにパス。ニヤつきながらボールを受け取るヒエール。

ユキ「させない!」

子分B「それはこっちの台詞だ。バルーク!」

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子分Bが身体を風船のように膨らませユキをマーク。モエも慌てて駆け付けようとするが、氷に足を滑らせ尻餅をついた。

モエ「あうっ!」

ユキ「くっ…! そこをどいて!」

ヒエール「やれやれ。まともに動けているのはリン君だけか。本当に張り合いがない…ネ!」

ヒエールがボールを軽く放り投げる。すると、氷の柱が次々と突き出し、ボールをゴールへと運んでいく。

≪page7≫

そして、そのままボールはリングを潜った。突き出た柱はゴールの直後に砕け散った。

リン「やられた…!」

ヒエールに先制のスリーポイントを決められ、肩を落とすユキとモエ。リンは俯く2人に笑顔を向けた。

リン「まだ始まったばっかりよ! こっから巻き返しましょう!」

ユキ「…うん!」

モエ「はいっす!」

≪page8≫

リンのエンドスローインで試合再開。モエにボールが渡るが、その瞬間、モエの視界が霧に包まれる。

ヒエール「フォルグ」

モエ「わわっ!?」

子分A「ノビーテ!」

子分Aの腕を伸ばす魔法でボールを奪われるモエ。ボールはヒエールへパスされる。リンがエアルで空中を浮遊し、ボールの元へ向かう。

子分B「バルーク!」

リン「あーもう! 邪魔っ!」

リン(霧を風で吹き飛ばそうにも、それだとモエちゃんがボールをまともに投げられなくなる…! 厄介極まりない…!)

≪page9≫

身体を膨らませリンの進路を妨害する子分B。その隙にヒエールは氷魔法を操りゴールを決める。

その後もヒエール班の得点が続き、18-0の一方的な試合展開に。

リン「なんとか流れを変えないと…。モエちゃん、あれやるわよ!」

モエ「い、良いんすか…?」

リン「おあいこよ! 気にしない!」

リンのエンドスローイン。ユキがボールを受け取る。それを見たヒエールが魔法の詠唱を始めようと口を開く。

≪page10≫

モエ「フラッフ!」

モエが呪文を唱えた。モエの手に綿毛のタンポポが出現し、綿毛にモエが息を吹きかける。

ヒエール「うッ!?」

綿毛がヒエールの周りに浮遊し、呪文の詠唱を妨害する。

子分B「ヒエール様! …お前ら、卑怯だぞ!」

リン「散々人のこと邪魔しといて何言ってんの!それに、あれはただ綿毛が飛んでるだけ! ルール違反はしてないっつーの! …ユキ! 行くわよ!」

ユキ「うん!」

≪page11≫

リン「エアル!」

リンが呪文を唱えると、ユキの足元に風が発生した。ユキは風で空中を翔ける。

子分A&B「何ィ!?」

ユキに魔法を掛けるとは思っていなかった子分たち。不意をつかれた彼らの間を抜け、ユキはゴールへ突っ込む。

ユキ「おりゃあっ!」

≪page12≫

ユキのダンクシュート。得点は3-18に。

子分A「油断した…! すみません、ヒエール様…!」

ヒエール「別に良いサ。このくらいサービスしてあげるのが優しさってものだヨ…!」

笑顔をやや引きつらせながらも、まだ余裕を見せるヒエール。反面、リン班は試合の流れを掴み始めていた。

≪page13≫

モエ「フラッフ!」

リン「エアル!」

ユキ「いっけええええ!!」

モエのタンポポの綿毛と、リンの風のサポートで、リン班は得点を伸ばし、試合は18-18の同点になっていた。

リン「よっしゃ! 完全に主導権は掴んだわ! このまま引き離しましょう!」

ヒエール(マズいゾ…。完全にあいつらのペースじゃないか…。このままだと負ける…!)

≪page14≫

試合終了の時間が迫り、焦るヒエール。リンの足元をジッと見ながら思考を巡らせている。そして、子分Bに耳打ちをした。

ヒエール「君はあのチビの魔法を遮るのに集中してくれ」

ニヤリと笑うヒエール。子分Bがモエの前で思いっきり身体を膨らませていた。

モエ「フラッフ!」

子分B「バルーク!」

モエの綿毛は子分Bが全て遮り、ヒエールが呪文を唱える隙を作っていた。

ヒエール「フォルグ」

リン「うっ! また霧!」

リンが霧に包まれる。リンの姿は、試合を観戦しているクラスメイトやロークからも見えていない。

≪page15≫

ヒエール「ブリーズ」

リン「なっ…!?」

コートの氷がリンの足まで伸び、リンは拘束され身動きが取れなくなっていた。

子分A「ノビーテ!」

子分Aがリンからボールを奪うと、そのままヒエールにパス。ヒエールは氷の柱を操りシュートを決めた。その直後、ヒエールはリンの足を覆っていた魔法を解いた。霧が晴れた頃には、すでに魔法の痕跡は消失していた。

≪page16≫

リン「ちょっと!! 今のは明らかに反則じゃない!!」

ヒエール「フッ…。そんな証拠どこにあるんだい?」

リン「なんですって…!? そんなの先生に聞けば…」

ローク「すみません…! 私からも確認が難しくて…」

リン「そんな…」

ヒエール「フッフッフ…。もう時間が無いヨ? どうやら、このままボクらの勝ちのようだネェ」

≪page17≫

モエ「うぅ…」

ボールを持ちながら弱気になるモエ。そんなモエの視界に、ユキの横顔が写った。

ユキ「モエちゃん…。私に任せて…!」

モエ「ユキさん…?」

ユキ「ルールを破って、リンちゃんを凍らせるなんて許せない…。あんな奴には、絶対に負けたくない…!」

モエ「は、はいっす…! ユキさん、お願いしますっす!」

モエのエンドスローイン。ユキにボールが渡る。次の瞬間、ユキの身体は霧に包まれていた。

ヒエール「フォルグ」

≪page18≫

ユキの視界を奪い満足そうに笑うヒエール。さらに駄目出しの魔法を唱える。

ヒエール「ブリーズ」

ユキの両足が凍り付く。ユキは視界も身動きも封じられていた。

ヒエール「Fランク如きにここまでする必要はないだろうけどネェ。今までのお返しだよ。試合終了まで無様に凍っていたまえ」

リン「ユキ…!」

子分A&B「おっと! ここは通さない!」

リンはユキを助けに向かおうとするが、子分A&Bに阻まれていた。

≪page19≫

ユキ「……ありがとう」

ヒエール「は?」

急にお礼を言われポカンとするヒエール。次の瞬間、ユキの足に纏わりついていた氷は、まるで砂のように脆く崩れ落ちていた。

ヒエール「何ッ!?」

ユキ「霧のおかげでみんなに見られなくて済む」

ユキは凍った足場でも、霧の中でも、お構いなしにドリブルを始めた。普通のコートの上のようにゴールへ向かって突き進んでいく。

≪page20≫

ヒエール(なんであいつはこの状況で普通に動けるんだ!? しかも、ボクの氷が効いてない!? まるで、“氷に耐性がある”みたいじゃないか!!)

ユキ(霧の中は、雪山に住んでいた私にとって、日常の光景だから…)

驚愕するヒエールを余所にゴールを目指すユキ。苛立つヒエールは手段を選ばずさらに魔法を唱えた。

ヒエール「生意気なんだよお前ェ!! ブリズ!!」

霧の中で攻撃魔法を放つヒエール。尖った氷の刃がユキに襲い掛かる。

ユキ「……」

顔に氷魔法が直撃したユキ。だが、ユキには氷が通用しない。ヒエールの攻撃を物ともせず、ゴールに向かって突き進む。

≪page21≫

ヒエール「なんで効かないんだヨォ!? ブリズ!!」

さらにユキを襲う氷の刃。ユキは反則を続けるヒエールを睨んだ。

ヒエール「うおわああああッ!?」

ヒエールの周りに3本の巨大な氷の柱が出現した。これはヒエールの魔法ではない。ユキがヒエールを氷の柱の間に挟んでいた。

ヒエール「馬鹿な…。このボクが…氷に負け…た…?」

ユキ「ふっ!」

ユキはスリーポイントシュートを放った。

≪page22≫

次の瞬間、ユキを覆っていた霧は晴れ、ボールはリングを潜っていた。点数は21-21の同点に。

ローク「試合終了の時間です…! 同点なので、これから延長戦に…」

子分A&B「ヒエール様ァ!! しっかりしてください〜!!」

ローク「おや…? ツンドーラさん、どうしたんですか…?」

氷の柱に挟まり気を失っているヒエール。ロークは不思議そうに彼を眺めていた。

子分B「分かりません…! 何故か自分の魔法に挟まって気を失っているんです〜!」

≪page23≫

ローク「それは困りましたね…。ツンドーラさんが気絶して延長戦が出来ないとなると…リン班の優勝ですかね」

リン「へ? えっと…。や…やったぁ〜!」

リン(なんか釈然としないけど…)

ユキ「やったね、リンちゃん!」

無邪気に喜ぶユキに、リンはムッとしながらそっと耳打ちをした。

リン「ユキ…! あんたでしょ…! ヒエールを気絶させちゃったのは…! ちょっとやりすぎよ!」

ユキ「ご、ごめん…」

モエ「リン先輩…! ユキさんは、先輩のために怒っていたんです…! だから…」

≪page24≫

申し訳なさそうにするユキと、そんなユキを庇うモエ。いじらしい2人を見て、リンはすっかり説教する気が失せていた。

リン「はぁ〜…。ほんと馬鹿ユキなんだから…。まぁ、あんたのそういうところ、嫌いじゃないけど…」

ユキ「え? 何か言った?」

リン「う、うるさいわね! やっぱり少し反省しなさい…!」

キョトンとしながら真顔で聞き返すユキ。そんなユキに、顔を真っ赤にしながら怒るリン。ユキとモエは再び慌てていた。

○夕方の魔法学校、医務室から出て来たヒエール。

≪page25≫

子分A「ヒエール様、大丈夫ですか…?」

子分B「何か必要な物があれば言ってください…!」

ヒエール「うるさいネ…。少し、1人にしてくれ…」

不機嫌そうに子分A&Bを追い払うヒエール。困惑した表情のまま立ち尽くす子分2人。

○校舎裏を1人歩くヒエール。

ヒエール「あのFランク…絶対に許さんゾ…。あいつの氷の力、何か裏があるに違いない…。うっ…。まだ少し目眩がする…」

ミスティ「おやおや。大丈夫かい?」

≪page26≫

○ヒエールの前にミスティが現れた。フラつく彼を気に掛けるミスティ。

ヒエール「ミスティ先生…。こんなところで何をしているのですか?」

ミスティ「ふふふ…。薬の調合に使うキノコが生えてないか探しにね。…と、薬と言えば。これ、飲んでみるかい?」

小さなビンに入った薬を手渡すミスティ。

≪page27≫

ヒエール「なんですか…これ…?」

ミスティ「最近仕入れた都会の薬だよ。魔力の流れを良くするものらしいが…。まぁ、気休め程度のものだろうね。体調が悪そうに見えたからさ。良かったらどうぞ」

ヒエール「あ、ありがとうございます…」

ヒラヒラと手を振りながら立ち去るミスティ。

ヒエール「なんだこの見るからに怪しい薬は…。こんな物を飲んだところで…」

そうは言いつつ薬を飲むヒエール。薬を飲み干したヒエールは、目を細めながら空のビンを見つめている。

ヒエール「うッ…!?」

目を見開くヒエール。彼の身体から魔力が溢れている。

≪page28≫

ヒエール「うおおおおッ!? これはァ!? 今までにない魔力の高まりを感じるゾォ!!」

○ユキたちが暮らす女子寮。

リン「いやぁ〜。今日は疲れたわねぇ…。ヒエールのせいで余計に…」

モエ「リン先輩、お疲れ様でしたっす…!」

リン「それはあなたたちもね…! おかげで優勝出来たし…! あっ。優勝といえば祝勝会よね…! せっかくだし、みんなでお祝いしましょうか!」

ユキ「祝勝会…? 私、やったことない…」

≪page29≫

モエ「ユキさんにとって、初めての祝勝会っすね…!」

リン「だったら余計にお祝いしないと…! ちょっと買い出しに行きましょうか! 学校の売店はまだ開いているはずよね…」

ユキ(お祝いか…。鈴子ちゃんも、何かあるたびにいろいろお祝いしてくれたっけ…)

○ユキの回想。現代のハンバーガーショップで一緒に座るユキと鈴子。

鈴子「雪ちゃん! 今日は雪ちゃんと出会ってから1週間のお祝い! ほら、食べて食べて!」

ユキ「あ、ありがとう…。で、でも、それってお祝いすることなのかな…?」

鈴子「あたしは雪ちゃんと一緒にいるとずっとハッピーなの! だから、いつでも何度でもお祝いしても良いの〜! 」

ユキ「うん…! 私も、鈴子ちゃんと一緒にいると幸せ…!」

笑い合うユキと鈴子。

○回想終了。

前世の記憶を思い出し、切なげな笑みを浮かべるユキ。

≪page30≫

リン「ユキ? 何してるの! 早く行くわよ!」

ユキ「う、うん…!」

○寮から出る3人。夕焼けの中、校舎にある売店へと向かう。

リンとモエが笑いながら会話している中、3人の最後尾を歩くユキ。

ユキ(リンちゃんとモエちゃん、2人は私にとってかけがえのない大切な友達…。でも、鈴子ちゃんのことを思い出すと、やっぱりちょっと寂しくなっちゃうな…)

鈴子のことを思い出し、上の空になっているユキ。そんなユキの足元は不自然に盛り上がっていた。

≪page31≫

リン「ん…? 急に視界が悪く…」

リンたちの周辺には、深く濃い霧が立ち込めていた。

SE『ズガァァンッ!』

リンとモエ「えっ!?」

リンとモエから離れて歩いていたユキ。彼女だけ、地面から突き出した無数の巨大な氷の柱に、取り囲まれるように閉じ込められていた。上空を覆い隠すように突き出した氷の柱によって、ユキは脱出出来なくなっていた。

ユキ「これは…!?」

ヒエール「ブリズグラッジ…」

新たに習得した呪文を唱えるヒエール。両手に冷気が集まっていく。

≪page32≫

ヒエール「フッフッフッ…。やぁ、Fランク君…。借りを返しに来たヨ…」

霧の中からユキの前に現れたヒエールは、両手に大きな氷の扇子を構えていた。