第4話

≪page1≫

魔物を討伐し、ユキとリンが打ち解け、すっかり気が抜けた3人は、しばらく座り込んで動けなくなっていた。

リン「…朝までこの村で休ませてもらいましょう。どこか泊めてくれる家を探さないと!」

リンがまだ起きている村人がいないか様子を見ようと立ち上がる。

その時、モエの肩に光の矢が突き刺さる。

モエ「…うっ」

モエはその場に倒れた。突然のことに、ユキとリンは呆然と倒れたモエを見つめている。

リン「……え?」

動揺して青ざめ、汗が噴き出すリン。

≪page2≫

モエ「い、痛いっ…!うぅっ…!」

リン「モ、モエちゃん!? 大丈夫!? 一体、何が…!?」

モエ「わ、分からない…っす…。い…いきなり、肩が…。ううぅッ…!!」

激痛で泣き出すモエ。モエの肩からは血が溢れている。どんどん血の気が引いていくリン。

リン(矢を引き抜けば出血は酷くなるはず…! どうする…!? どうすればいいの…!?)

ユキは光の矢が飛んできたのを目撃していた。矢が放たれたと思われる方向を睨んだ。

ユキ「あそこに誰かいる…!」

≪page3≫

魔法で作ったと思われる光の弓を持つ、フードを目深に被ったローブ姿の謎の人物が立っていた。

リン「誰なのあいつ…ッ!?」

モエを傷付けられ頭に血が上るリン。相手の目的は全く分からないが、敵であることは間違いなかった。

敵「……」

弓がリンたちに向けて構えられた。

リン「……!」

まだ攻撃するつもりの敵を見て、リンは歯を食いしばる。

≪page4≫

リン「…ユキはモエちゃんを連れてここから離れて! それから…村の医者を探して怪我を診てもらって…! お願い…!」

静かに怒りを燃やすリン。

リン「こいつはあたしが引き受けるから…!!」

ユキ「わ、分かった…!」

リンの気迫に押され、ユキはすぐこの場から離れることを決めた。

モエ「リ…リン…先輩…」

負傷したモエに肩を貸し、なんとか立たせると必死で村へと運ぶユキ。

≪page5≫

2人が立ち去るのを見届けると、リンはローブの人物に怒りをぶつける。

リン「ナメた真似してくれたわね…。私の大事なモエちゃんを傷付けるなんて…。肩から血が溢れて…! あんなに…痛そうに…!!」

リンの周囲に風が舞う。表情が怒りの感情で塗り潰される。謎の人物のローブも風で揺れる。

リン「百倍返しじゃ気が収まらないわよッ!!」

激昂するリン。突風が吹き荒ぶ。両手に風の魔力を込める。

≪page6≫

リン「トルネオンッ!!」

リンが使える最強の風の魔法を放った。両手から風を発生させ、それを地面に向けると、巨大な2つの竜巻が生まれた。その竜巻は、敵の元へと突き進む。敵は竜巻に巻き込まれまいと距離を取るが、凄まじい風圧に弓を構える腕が震えている。

敵「……チッ」

≪page7≫

リンに狙いを付けられず、舌打ちをするローブ姿の人物。その隙をつき、接近戦を仕掛けるリン。

リン「エアル!」

リンは足に風の魔力を纏っていた。足元で追い風を受け、リンは加速する。

リン「おらっ!!」

勢いに身を任せ飛び上がるリン。そして、敵の頭上から飛び蹴りを放った。敵は咄嗟に腕で蹴りをガードする。

≪page8≫

敵「うっ…!」

リン(この声、女か…!)

敵の声の高さで、性別を判断するリン。リンに蹴られよろめく敵。接近戦は分が悪いと執拗に距離を取ろうとする。

リン「誰なのよあんたは…ッ!? 魔法使ってるってことは魔法学生なのよねッ!? こんなことして、許されると思ってるの…!?」

敵「……」

謎の敵は何も答えない。そのまま光の矢がリンに向けて放たれた。リンは足元で風を爆発させ、上空へ飛び上がった。

上空へ逃げたリンに、敵は弓矢を放ち続ける。

≪page9≫

リン「ブリズ!」

リンは負けじと、氷の刃で矢を撃ち落とそうとする。だが、矢はあっさりと氷の刃を砕いた。

リン「なっ…!?」

矢はリンに向かって突き進む。リンは上空で身体を捻って矢を躱した。

≪page10≫

リン「私の魔法が打ち負けた…!? そ、そんな…」

動揺するリン。尚も弓で狙いを付ける敵。リンは空中で狙われることを恐れ、足元で風を起こし、すぐに地面に着地した。

リン(落ち着け…! あいつは弓しか使って来ない…! 攻撃自体は直線的で読みやすい! 隙をついて、また接近すれば…!)

≪page11≫

その時、リンの左肩に光の矢が突き刺さった。

リン「え…!?」

上空に放たれた光の矢のうちの1本が、リンの肩を貫いていた。

リン「う…くぅッ…!」

痛みに顔を歪めるリン。

≪page12≫

リン(さっき撃った矢がまだ生きてた…!? そんなことも出来るなんて…!!)

敵はわざと上空へ向かって無数の矢を放った。リンは思わず空を見上げた。

空からは、光の矢が雨のように降ってきていた。

≪page13≫

リン「くっ…! ブリズオン!!」

リンは、氷と風を組み合わせた魔法を放つ。氷だけでは防げなかった矢を、今度はかろうじて弾くことが出来た。

リン「……ッ! しまっ…」

上空に気を取られているリンに、敵は冷静に狙いを定めていた。

≪page14≫

リン「うあぁッ!!」

リンの右足は射抜かれた。ふとももに矢は突き刺さっている。リンは左足に体重をかけ、なんとか倒れず踏ん張った。

リン(攻撃を防ぐので精一杯で、まともにやり合えば打ち負ける…! どうすればいいの…!?)

リンは風を使って片足分の機動力をカバーする。前方から放たれる矢を、ブリズオンでなんとか防ぎ続ける。

リン(あいつは上からも攻撃出来る…! 前ばかりに気を取られるな…! 上にも注意を払え…!)

≪page15≫

そんなリンを嘲笑うように、敵は地面に向かって3本の矢を放った。矢は地中へと潜る。

リン(えっ…!? 下…!?)

予想していなかった下への射撃に、リンの思考は一瞬止まってしまう。次の瞬間、地面から矢が飛び出した。

リン「うわぁっ!?」

リンはなんとか2本の矢を躱す。

≪page16≫

リン「うぐっ…!」

躱せなかった最後の矢が、リンの左ふくらはぎに突き刺さった。

両足を射抜かれ、立っていることが出来なくなったリンはその場に倒れた。

静かにリンを見下ろす敵。リンは唇を噛み締めた。

敵「……」

リン(こ、こいつ…! 強い…!! 私よりも…! !)

≪page17≫

リン「あんた…私より強いってことは、Sランクの魔法学生なんでしょ…? どうして、こんなことを…!?」

敵「……」

敵は何も答えない。地面に倒れているリンに向けて光の弓を構える敵。両足を撃ち抜かれ立ち上がれない。魔法で攻撃しても避けられる。為す術がなかった。

リン「うっ…!」

死を覚悟して目を瞑るリン。

ユキ「やめろッ!!」

≪page18≫

ユキの声が響いた。モエを村人に託し、リンの元へ戻ってきていた。リンはユキに向かって叫ぶ。

リン「ユキ…!」

ユキが来て一瞬安堵してしまうリン。すぐに我に返り、ユキに向かって叫んだ。

リン「な、何してるのよ!! 早く逃げなさい!! あんたが敵う相手じゃない!!」

ユキ「嫌だ…!」

敵(…こいつは確か、新しく入った新入生だったな。魔力はほとんどない。Fランクの雑魚。話にならない)

リン「ブリズッ!!」

リンは魔法で敵を狙い続けるが当たらない。身動きが取れず右腕しか使えない。そのせいで攻撃が単調になり、相手に全部読まれてしまう。

≪page19≫

ユキを狙おうと弓を構える敵。それを見て、リンは焦る。

リン「ユキ…っ!! お願いだから早く逃げて…!!」

だが、ユキは逃げる素振りを見せない。

リン「なんでよ…!! 逃げなさいよ…!!」

首を振り拒否するユキ。

リン「なんでよ…! なんでなのよ…!」

言うことを聞いてくれないユキに、リンは項垂れる。

≪page20≫

ユキ「リンちゃんは、私の友達だから…!」

リン「ユ、ユキ…」

ユキの言葉に、リンは涙を零した。

敵(友達…。くだらない…! あいつはここで殺す)

ユキに向け、弓を構える敵。リンは拳を握り締め、涙を流しながら目を瞑った。

ユキ「…リンちゃん」

≪page21≫

ユキは敵の方を向きながら、優しい声色でリンに語り掛けた。

ユキ「私の“魔法”使うけど、良いよね…?」

リン「……え?」

敵(…死ね。Fランク…!)

敵がユキに向け5本の矢を同時に放った。

リン「ユキ…ッ!!」

≪page22≫

リンが矢を撃ち落とそうと手をかざす。

リンが魔法を撃つ前に、矢は空中で凍り付き、そのまま地面に落下した。

敵「……!?」

驚愕するリンと敵。ユキの身体からは冷気が立ち込めていた。リンも敵も、まだ何が起こったのか把握出来ていない。

敵(なんだ今のは…? 何が起こった…?)

動揺しながらも、弓を構える敵。次は上空に向けて矢を放った。矢の雨がユキに降り注ぐ。

リン「あんな数…! ここからじゃ防げない…!」

ユキに迫る矢の雨に、リンは絶望感を漂わせる。

≪page23≫

ユキの背後から、巨大な氷の柱が出現した。氷の柱は、ユキの頭上を覆うように、津波が凍ったような形状へと変化した。

光の矢は全て、氷の壁に阻まれた。

リン「……これは!」

リンは記憶を辿る。以前、平原で氷漬けになった魔物を思い出していた。

リン(やっぱりあれは、ユキの魔法…!?)

敵「……くッ!!」

≪page24≫

敵は上空、さらに前方に向かって矢を撃ち、続けざまに地面に向かって矢を放った。矢は全方位からユキを襲う。

ユキ「はぁッ!!」

ユキはさらに冷気を強めた。地面は完全に凍り、地面から突き出た矢は凍り付いた。空中の矢も全て凍り付き、力なく地面に落下した。

敵(さっきから訳が分からない…! 勝手に矢が凍るなんて…! あいつはFランクのゴミのはず…)

≪page25≫

敵は改めてユキのことを見た。ユキは、微かに髪を逆立てながら、静かに氷の弓を構えていた。

敵「そ…そんな…馬鹿な…」

敵(あれは…私と同じ力…!?)

動揺する敵に構わず、ユキは敵に狙いを定める。

≪page26≫

ユキ「…ふっ!!」

ユキが氷の矢を放つ。敵の右足に氷の矢が突き刺さった。

敵「……うあッ!?」

足を射抜かれた激痛でよろめく敵。

リンは、ユキの実力を目の辺りにして呆気にとられている。

≪page27≫

敵(クソッ…! 私の足が…!)

ユキ「……」

ユキは氷の弓を構えながらも、追撃しなかった。

敵「……ッ!!」

敵(こいつ…!! 私を見逃そうとしてるの…!?)

ローブの隙間から、怒りに満ちた口元が見える。

≪page28≫

敵(許さない…!! 殺す…!! 次は絶対、殺してやるッ!!)

ユキの慈悲に苛立ちながら、足を引きずりながら敵は暗闇に姿を消した。

リンはゆっくりと満身創痍の身体を起こした。

リン「ユキ、あんた…。そんな力が使えるのに、なんで今まで使わなかったのよ…!?」

リンは恐る恐るユキに尋ねた。ユキは笑いながらケロッと答える。

≪page29≫

ユキ「約束したから。リンちゃんと」

リン「……あっ」

○回想のリン

リン『さっきのあなたの力。あれは危険な力なの。しかも、あなたは記憶を失っている。そんな状態で力を使えば何が起こるか分からない…。思わぬ被害を出さないためにも、あの力の使用は控えて』

○回想終了

リン「あんた…。あれを今まで守ってたの…!?」

ユキ「う、うん…」

≪page30≫

リン「あははははっ…!」

思わず吹き出すリン。涙を拭い、ユキに向き直る。

リン「やっぱりあんた…。馬鹿ユキね…!」

ユキ「えぇ〜っ!? なんで!?」

約束を守っていたのに馬鹿ユキと呼ばれ、ユキはオーバーリアクションでショックを受けていた。

≪page31≫

○夜が明け、日が昇るイムテ村

○イムテ村の診療所内

リンのバストアップ。胸から下は映っていない。

リン「モエちゃん、大丈夫…?」

肩に包帯を巻いているモエに、リンは心配そうに声を掛けた。モエは元気なことを精一杯アピールした。

モエ「大丈夫っす…! 私は全然元気っすから…! 痛っ…!」

リン「もう! 無理しちゃ駄目よ。痛くて当然! しっかり休みなさい!」

≪page32≫

リンの全身が映る。肩と両足に包帯を巻いた満身創痍状態。自分を差し置いて、モエの心配をするリンに呆れるユキ。

ユキ「それはリンちゃんもね」

リン「はい…」

申し訳なさそうに項垂れるリン。

リン「ごめんね…。あたしがしっかりしなきゃいけないのに、こんな有り様で…」

ユキ「何言ってるの! リンちゃんがいたから、私はモエちゃんをお医者さんに連れて行けたんだから!」

モエ「そ、そうっすよ! 悪いのは全部、あのローブの人っす! リン先輩には胸を張って欲しいっす!」

リン「あ、ありがとう…。2人とも…」

2人の優しさに感謝し、穏やかな笑みを浮かべるリン。

リン「それにしても、どうやって帰ろうかしら…。これ…」

ユキとモエ「う…」

まともに歩けそうにないリンを見て、困り果てるユキとモエ。

≪page33≫

○昼間の街道

リンを背負って進む汗だくのユキ。

ユキ「はぁ…はぁ…」

リン「ユキ…無理しなくて良いわよ…? 重かったら降ろして良いから…」

心配そうに見つめるモエ。疲れを見せながらも笑顔を作るユキ。

ユキ「大丈夫…! 友達だから…!」

リン「気持ちが重い…!」

ボロボロで帰路につく3人。リンは満更でもない笑みを浮かべていた。