第4話
≪page1≫
魔物を討伐し、ユキとリンが打ち解け、すっかり気が抜けた3人は、しばらく座り込んで動けなくなっていた。
リン「…朝までこの村で休ませてもらいましょう。どこか泊めてくれる家を探さないと!」
リンがまだ起きている村人がいないか様子を見ようと立ち上がる。
その時、モエの肩に光の矢が突き刺さる。
モエ「…うっ」
モエはその場に倒れた。突然のことに、ユキとリンは呆然と倒れたモエを見つめている。
リン「……え?」
動揺して青ざめ、汗が噴き出すリン。
≪page2≫
モエ「い、痛いっ…!うぅっ…!」
リン「モ、モエちゃん!? 大丈夫!? 一体、何が…!?」
モエ「わ、分からない…っす…。い…いきなり、肩が…。ううぅッ…!!」
激痛で泣き出すモエ。モエの肩からは血が溢れている。どんどん血の気が引いていくリン。
リン(矢を引き抜けば出血は酷くなるはず…! どうする…!? どうすればいいの…!?)
ユキは光の矢が飛んできたのを目撃していた。矢が放たれたと思われる方向を睨んだ。
ユキ「あそこに誰かいる…!」
≪page3≫
魔法で作ったと思われる光の弓を持つ、フードを目深に被ったローブ姿の謎の人物が立っていた。
リン「誰なのあいつ…ッ!?」
モエを傷付けられ頭に血が上るリン。相手の目的は全く分からないが、敵であることは間違いなかった。
敵「……」
弓がリンたちに向けて構えられた。
リン「……!」
まだ攻撃するつもりの敵を見て、リンは歯を食いしばる。
≪page4≫
リン「…ユキはモエちゃんを連れてここから離れて! それから…村の医者を探して怪我を診てもらって…! お願い…!」
静かに怒りを燃やすリン。
リン「こいつはあたしが引き受けるから…!!」
ユキ「わ、分かった…!」
リンの気迫に押され、ユキはすぐこの場から離れることを決めた。
モエ「リ…リン…先輩…」
負傷したモエに肩を貸し、なんとか立たせると必死で村へと運ぶユキ。
≪page5≫
2人が立ち去るのを見届けると、リンはローブの人物に怒りをぶつける。
リン「ナメた真似してくれたわね…。私の大事なモエちゃんを傷付けるなんて…。肩から血が溢れて…! あんなに…痛そうに…!!」
リンの周囲に風が舞う。表情が怒りの感情で塗り潰される。謎の人物のローブも風で揺れる。
リン「百倍返しじゃ気が収まらないわよッ!!」
激昂するリン。突風が吹き荒ぶ。両手に風の魔力を込める。
≪page6≫
リン「トルネオンッ!!」
リンが使える最強の風の魔法を放った。両手から風を発生させ、それを地面に向けると、巨大な2つの竜巻が生まれた。その竜巻は、敵の元へと突き進む。敵は竜巻に巻き込まれまいと距離を取るが、凄まじい風圧に弓を構える腕が震えている。
敵「……チッ」
≪page7≫
リンに狙いを付けられず、舌打ちをするローブ姿の人物。その隙をつき、接近戦を仕掛けるリン。
リン「エアル!」
リンは足に風の魔力を纏っていた。足元で追い風を受け、リンは加速する。
リン「おらっ!!」
勢いに身を任せ飛び上がるリン。そして、敵の頭上から飛び蹴りを放った。敵は咄嗟に腕で蹴りをガードする。
≪page8≫
敵「うっ…!」
リン(この声、女か…!)
敵の声の高さで、性別を判断するリン。リンに蹴られよろめく敵。接近戦は分が悪いと執拗に距離を取ろうとする。
リン「誰なのよあんたは…ッ!? 魔法使ってるってことは魔法学生なのよねッ!? こんなことして、許されると思ってるの…!?」
敵「……」
謎の敵は何も答えない。そのまま光の矢がリンに向けて放たれた。リンは足元で風を爆発させ、上空へ飛び上がった。
上空へ逃げたリンに、敵は弓矢を放ち続ける。
≪page9≫
リン「ブリズ!」
リンは負けじと、氷の刃で矢を撃ち落とそうとする。だが、矢はあっさりと氷の刃を砕いた。
リン「なっ…!?」
矢はリンに向かって突き進む。リンは上空で身体を捻って矢を躱した。
≪page10≫
リン「私の魔法が打ち負けた…!? そ、そんな…」
動揺するリン。尚も弓で狙いを付ける敵。リンは空中で狙われることを恐れ、足元で風を起こし、すぐに地面に着地した。
リン(落ち着け…! あいつは弓しか使って来ない…! 攻撃自体は直線的で読みやすい! 隙をついて、また接近すれば…!)
≪page11≫
その時、リンの左肩に光の矢が突き刺さった。
リン「え…!?」
上空に放たれた光の矢のうちの1本が、リンの肩を貫いていた。
リン「う…くぅッ…!」
痛みに顔を歪めるリン。
≪page12≫
リン(さっき撃った矢がまだ生きてた…!? そんなことも出来るなんて…!!)
敵はわざと上空へ向かって無数の矢を放った。リンは思わず空を見上げた。
空からは、光の矢が雨のように降ってきていた。
≪page13≫
リン「くっ…! ブリズオン!!」
リンは、氷と風を組み合わせた魔法を放つ。氷だけでは防げなかった矢を、今度はかろうじて弾くことが出来た。
リン「……ッ! しまっ…」
上空に気を取られているリンに、敵は冷静に狙いを定めていた。
≪page14≫
リン「うあぁッ!!」
リンの右足は射抜かれた。ふとももに矢は突き刺さっている。リンは左足に体重をかけ、なんとか倒れず踏ん張った。
リン(攻撃を防ぐので精一杯で、まともにやり合えば打ち負ける…! どうすればいいの…!?)
リンは風を使って片足分の機動力をカバーする。前方から放たれる矢を、ブリズオンでなんとか防ぎ続ける。
リン(あいつは上からも攻撃出来る…! 前ばかりに気を取られるな…! 上にも注意を払え…!)
≪page15≫
そんなリンを嘲笑うように、敵は地面に向かって3本の矢を放った。矢は地中へと潜る。
リン(えっ…!? 下…!?)
予想していなかった下への射撃に、リンの思考は一瞬止まってしまう。次の瞬間、地面から矢が飛び出した。
リン「うわぁっ!?」
リンはなんとか2本の矢を躱す。
≪page16≫
リン「うぐっ…!」
躱せなかった最後の矢が、リンの左ふくらはぎに突き刺さった。
両足を射抜かれ、立っていることが出来なくなったリンはその場に倒れた。
静かにリンを見下ろす敵。リンは唇を噛み締めた。
敵「……」
リン(こ、こいつ…! 強い…!! 私よりも…! !)
≪page17≫
リン「あんた…私より強いってことは、Sランクの魔法学生なんでしょ…? どうして、こんなことを…!?」
敵「……」
敵は何も答えない。地面に倒れているリンに向けて光の弓を構える敵。両足を撃ち抜かれ立ち上がれない。魔法で攻撃しても避けられる。為す術がなかった。
リン「うっ…!」
死を覚悟して目を瞑るリン。
ユキ「やめろッ!!」
≪page18≫
ユキの声が響いた。モエを村人に託し、リンの元へ戻ってきていた。リンはユキに向かって叫ぶ。
リン「ユキ…!」
ユキが来て一瞬安堵してしまうリン。すぐに我に返り、ユキに向かって叫んだ。
リン「な、何してるのよ!! 早く逃げなさい!! あんたが敵う相手じゃない!!」
ユキ「嫌だ…!」
敵(…こいつは確か、新しく入った新入生だったな。魔力はほとんどない。Fランクの雑魚。話にならない)
リン「ブリズッ!!」
リンは魔法で敵を狙い続けるが当たらない。身動きが取れず右腕しか使えない。そのせいで攻撃が単調になり、相手に全部読まれてしまう。
≪page19≫
ユキを狙おうと弓を構える敵。それを見て、リンは焦る。
リン「ユキ…っ!! お願いだから早く逃げて…!!」
だが、ユキは逃げる素振りを見せない。
リン「なんでよ…!! 逃げなさいよ…!!」
首を振り拒否するユキ。
リン「なんでよ…! なんでなのよ…!」
言うことを聞いてくれないユキに、リンは項垂れる。
≪page20≫
ユキ「リンちゃんは、私の友達だから…!」
リン「ユ、ユキ…」
ユキの言葉に、リンは涙を零した。
敵(友達…。くだらない…! あいつはここで殺す)
ユキに向け、弓を構える敵。リンは拳を握り締め、涙を流しながら目を瞑った。
ユキ「…リンちゃん」
≪page21≫
ユキは敵の方を向きながら、優しい声色でリンに語り掛けた。
ユキ「私の“魔法”使うけど、良いよね…?」
リン「……え?」
敵(…死ね。Fランク…!)
敵がユキに向け5本の矢を同時に放った。
リン「ユキ…ッ!!」
≪page22≫
リンが矢を撃ち落とそうと手をかざす。
リンが魔法を撃つ前に、矢は空中で凍り付き、そのまま地面に落下した。
敵「……!?」
驚愕するリンと敵。ユキの身体からは冷気が立ち込めていた。リンも敵も、まだ何が起こったのか把握出来ていない。
敵(なんだ今のは…? 何が起こった…?)
動揺しながらも、弓を構える敵。次は上空に向けて矢を放った。矢の雨がユキに降り注ぐ。
リン「あんな数…! ここからじゃ防げない…!」
ユキに迫る矢の雨に、リンは絶望感を漂わせる。
≪page23≫
ユキの背後から、巨大な氷の柱が出現した。氷の柱は、ユキの頭上を覆うように、津波が凍ったような形状へと変化した。
光の矢は全て、氷の壁に阻まれた。
リン「……これは!」
リンは記憶を辿る。以前、平原で氷漬けになった魔物を思い出していた。
リン(やっぱりあれは、ユキの魔法…!?)
敵「……くッ!!」
≪page24≫
敵は上空、さらに前方に向かって矢を撃ち、続けざまに地面に向かって矢を放った。矢は全方位からユキを襲う。
ユキ「はぁッ!!」
ユキはさらに冷気を強めた。地面は完全に凍り、地面から突き出た矢は凍り付いた。空中の矢も全て凍り付き、力なく地面に落下した。
敵(さっきから訳が分からない…! 勝手に矢が凍るなんて…! あいつはFランクのゴミのはず…)
≪page25≫
敵は改めてユキのことを見た。ユキは、微かに髪を逆立てながら、静かに氷の弓を構えていた。
敵「そ…そんな…馬鹿な…」
敵(あれは…私と同じ力…!?)
動揺する敵に構わず、ユキは敵に狙いを定める。
≪page26≫
ユキ「…ふっ!!」
ユキが氷の矢を放つ。敵の右足に氷の矢が突き刺さった。
敵「……うあッ!?」
足を射抜かれた激痛でよろめく敵。
リンは、ユキの実力を目の辺りにして呆気にとられている。
≪page27≫
敵(クソッ…! 私の足が…!)
ユキ「……」
ユキは氷の弓を構えながらも、追撃しなかった。
敵「……ッ!!」
敵(こいつ…!! 私を見逃そうとしてるの…!?)
ローブの隙間から、怒りに満ちた口元が見える。
≪page28≫
敵(許さない…!! 殺す…!! 次は絶対、殺してやるッ!!)
ユキの慈悲に苛立ちながら、足を引きずりながら敵は暗闇に姿を消した。
リンはゆっくりと満身創痍の身体を起こした。
リン「ユキ、あんた…。そんな力が使えるのに、なんで今まで使わなかったのよ…!?」
リンは恐る恐るユキに尋ねた。ユキは笑いながらケロッと答える。
≪page29≫
ユキ「約束したから。リンちゃんと」
リン「……あっ」
○回想のリン
リン『さっきのあなたの力。あれは危険な力なの。しかも、あなたは記憶を失っている。そんな状態で力を使えば何が起こるか分からない…。思わぬ被害を出さないためにも、あの力の使用は控えて』
○回想終了
リン「あんた…。あれを今まで守ってたの…!?」
ユキ「う、うん…」
≪page30≫
リン「あははははっ…!」
思わず吹き出すリン。涙を拭い、ユキに向き直る。
リン「やっぱりあんた…。馬鹿ユキね…!」
ユキ「えぇ〜っ!? なんで!?」
約束を守っていたのに馬鹿ユキと呼ばれ、ユキはオーバーリアクションでショックを受けていた。
≪page31≫
○夜が明け、日が昇るイムテ村
○イムテ村の診療所内
リンのバストアップ。胸から下は映っていない。
リン「モエちゃん、大丈夫…?」
肩に包帯を巻いているモエに、リンは心配そうに声を掛けた。モエは元気なことを精一杯アピールした。
モエ「大丈夫っす…! 私は全然元気っすから…! 痛っ…!」
リン「もう! 無理しちゃ駄目よ。痛くて当然! しっかり休みなさい!」
≪page32≫
リンの全身が映る。肩と両足に包帯を巻いた満身創痍状態。自分を差し置いて、モエの心配をするリンに呆れるユキ。
ユキ「それはリンちゃんもね」
リン「はい…」
申し訳なさそうに項垂れるリン。
リン「ごめんね…。あたしがしっかりしなきゃいけないのに、こんな有り様で…」
ユキ「何言ってるの! リンちゃんがいたから、私はモエちゃんをお医者さんに連れて行けたんだから!」
モエ「そ、そうっすよ! 悪いのは全部、あのローブの人っす! リン先輩には胸を張って欲しいっす!」
リン「あ、ありがとう…。2人とも…」
2人の優しさに感謝し、穏やかな笑みを浮かべるリン。
リン「それにしても、どうやって帰ろうかしら…。これ…」
ユキとモエ「う…」
まともに歩けそうにないリンを見て、困り果てるユキとモエ。
≪page33≫
○昼間の街道
リンを背負って進む汗だくのユキ。
ユキ「はぁ…はぁ…」
リン「ユキ…無理しなくて良いわよ…? 重かったら降ろして良いから…」
心配そうに見つめるモエ。疲れを見せながらも笑顔を作るユキ。
ユキ「大丈夫…! 友達だから…!」
リン「気持ちが重い…!」
ボロボロで帰路につく3人。リンは満更でもない笑みを浮かべていた。
≪page1≫
魔物を討伐し、ユキとリンが打ち解け、すっかり気が抜けた3人は、しばらく座り込んで動けなくなっていた。
リン「…朝までこの村で休ませてもらいましょう。どこか泊めてくれる家を探さないと!」
リンがまだ起きている村人がいないか様子を見ようと立ち上がる。
その時、モエの肩に光の矢が突き刺さる。
モエ「…うっ」
モエはその場に倒れた。突然のことに、ユキとリンは呆然と倒れたモエを見つめている。
リン「……え?」
動揺して青ざめ、汗が噴き出すリン。
≪page2≫
モエ「い、痛いっ…!うぅっ…!」
リン「モ、モエちゃん!? 大丈夫!? 一体、何が…!?」
モエ「わ、分からない…っす…。い…いきなり、肩が…。ううぅッ…!!」
激痛で泣き出すモエ。モエの肩からは血が溢れている。どんどん血の気が引いていくリン。
リン(矢を引き抜けば出血は酷くなるはず…! どうする…!? どうすればいいの…!?)
ユキは光の矢が飛んできたのを目撃していた。矢が放たれたと思われる方向を睨んだ。
ユキ「あそこに誰かいる…!」
≪page3≫
魔法で作ったと思われる光の弓を持つ、フードを目深に被ったローブ姿の謎の人物が立っていた。
リン「誰なのあいつ…ッ!?」
モエを傷付けられ頭に血が上るリン。相手の目的は全く分からないが、敵であることは間違いなかった。
敵「……」
弓がリンたちに向けて構えられた。
リン「……!」
まだ攻撃するつもりの敵を見て、リンは歯を食いしばる。
≪page4≫
リン「…ユキはモエちゃんを連れてここから離れて! それから…村の医者を探して怪我を診てもらって…! お願い…!」
静かに怒りを燃やすリン。
リン「こいつはあたしが引き受けるから…!!」
ユキ「わ、分かった…!」
リンの気迫に押され、ユキはすぐこの場から離れることを決めた。
モエ「リ…リン…先輩…」
負傷したモエに肩を貸し、なんとか立たせると必死で村へと運ぶユキ。
≪page5≫
2人が立ち去るのを見届けると、リンはローブの人物に怒りをぶつける。
リン「ナメた真似してくれたわね…。私の大事なモエちゃんを傷付けるなんて…。肩から血が溢れて…! あんなに…痛そうに…!!」
リンの周囲に風が舞う。表情が怒りの感情で塗り潰される。謎の人物のローブも風で揺れる。
リン「百倍返しじゃ気が収まらないわよッ!!」
激昂するリン。突風が吹き荒ぶ。両手に風の魔力を込める。
≪page6≫
リン「トルネオンッ!!」
リンが使える最強の風の魔法を放った。両手から風を発生させ、それを地面に向けると、巨大な2つの竜巻が生まれた。その竜巻は、敵の元へと突き進む。敵は竜巻に巻き込まれまいと距離を取るが、凄まじい風圧に弓を構える腕が震えている。
敵「……チッ」
≪page7≫
リンに狙いを付けられず、舌打ちをするローブ姿の人物。その隙をつき、接近戦を仕掛けるリン。
リン「エアル!」
リンは足に風の魔力を纏っていた。足元で追い風を受け、リンは加速する。
リン「おらっ!!」
勢いに身を任せ飛び上がるリン。そして、敵の頭上から飛び蹴りを放った。敵は咄嗟に腕で蹴りをガードする。
≪page8≫
敵「うっ…!」
リン(この声、女か…!)
敵の声の高さで、性別を判断するリン。リンに蹴られよろめく敵。接近戦は分が悪いと執拗に距離を取ろうとする。
リン「誰なのよあんたは…ッ!? 魔法使ってるってことは魔法学生なのよねッ!? こんなことして、許されると思ってるの…!?」
敵「……」
謎の敵は何も答えない。そのまま光の矢がリンに向けて放たれた。リンは足元で風を爆発させ、上空へ飛び上がった。
上空へ逃げたリンに、敵は弓矢を放ち続ける。
≪page9≫
リン「ブリズ!」
リンは負けじと、氷の刃で矢を撃ち落とそうとする。だが、矢はあっさりと氷の刃を砕いた。
リン「なっ…!?」
矢はリンに向かって突き進む。リンは上空で身体を捻って矢を躱した。
≪page10≫
リン「私の魔法が打ち負けた…!? そ、そんな…」
動揺するリン。尚も弓で狙いを付ける敵。リンは空中で狙われることを恐れ、足元で風を起こし、すぐに地面に着地した。
リン(落ち着け…! あいつは弓しか使って来ない…! 攻撃自体は直線的で読みやすい! 隙をついて、また接近すれば…!)
≪page11≫
その時、リンの左肩に光の矢が突き刺さった。
リン「え…!?」
上空に放たれた光の矢のうちの1本が、リンの肩を貫いていた。
リン「う…くぅッ…!」
痛みに顔を歪めるリン。
≪page12≫
リン(さっき撃った矢がまだ生きてた…!? そんなことも出来るなんて…!!)
敵はわざと上空へ向かって無数の矢を放った。リンは思わず空を見上げた。
空からは、光の矢が雨のように降ってきていた。
≪page13≫
リン「くっ…! ブリズオン!!」
リンは、氷と風を組み合わせた魔法を放つ。氷だけでは防げなかった矢を、今度はかろうじて弾くことが出来た。
リン「……ッ! しまっ…」
上空に気を取られているリンに、敵は冷静に狙いを定めていた。
≪page14≫
リン「うあぁッ!!」
リンの右足は射抜かれた。ふとももに矢は突き刺さっている。リンは左足に体重をかけ、なんとか倒れず踏ん張った。
リン(攻撃を防ぐので精一杯で、まともにやり合えば打ち負ける…! どうすればいいの…!?)
リンは風を使って片足分の機動力をカバーする。前方から放たれる矢を、ブリズオンでなんとか防ぎ続ける。
リン(あいつは上からも攻撃出来る…! 前ばかりに気を取られるな…! 上にも注意を払え…!)
≪page15≫
そんなリンを嘲笑うように、敵は地面に向かって3本の矢を放った。矢は地中へと潜る。
リン(えっ…!? 下…!?)
予想していなかった下への射撃に、リンの思考は一瞬止まってしまう。次の瞬間、地面から矢が飛び出した。
リン「うわぁっ!?」
リンはなんとか2本の矢を躱す。
≪page16≫
リン「うぐっ…!」
躱せなかった最後の矢が、リンの左ふくらはぎに突き刺さった。
両足を射抜かれ、立っていることが出来なくなったリンはその場に倒れた。
静かにリンを見下ろす敵。リンは唇を噛み締めた。
敵「……」
リン(こ、こいつ…! 強い…!! 私よりも…! !)
≪page17≫
リン「あんた…私より強いってことは、Sランクの魔法学生なんでしょ…? どうして、こんなことを…!?」
敵「……」
敵は何も答えない。地面に倒れているリンに向けて光の弓を構える敵。両足を撃ち抜かれ立ち上がれない。魔法で攻撃しても避けられる。為す術がなかった。
リン「うっ…!」
死を覚悟して目を瞑るリン。
ユキ「やめろッ!!」
≪page18≫
ユキの声が響いた。モエを村人に託し、リンの元へ戻ってきていた。リンはユキに向かって叫ぶ。
リン「ユキ…!」
ユキが来て一瞬安堵してしまうリン。すぐに我に返り、ユキに向かって叫んだ。
リン「な、何してるのよ!! 早く逃げなさい!! あんたが敵う相手じゃない!!」
ユキ「嫌だ…!」
敵(…こいつは確か、新しく入った新入生だったな。魔力はほとんどない。Fランクの雑魚。話にならない)
リン「ブリズッ!!」
リンは魔法で敵を狙い続けるが当たらない。身動きが取れず右腕しか使えない。そのせいで攻撃が単調になり、相手に全部読まれてしまう。
≪page19≫
ユキを狙おうと弓を構える敵。それを見て、リンは焦る。
リン「ユキ…っ!! お願いだから早く逃げて…!!」
だが、ユキは逃げる素振りを見せない。
リン「なんでよ…!! 逃げなさいよ…!!」
首を振り拒否するユキ。
リン「なんでよ…! なんでなのよ…!」
言うことを聞いてくれないユキに、リンは項垂れる。
≪page20≫
ユキ「リンちゃんは、私の友達だから…!」
リン「ユ、ユキ…」
ユキの言葉に、リンは涙を零した。
敵(友達…。くだらない…! あいつはここで殺す)
ユキに向け、弓を構える敵。リンは拳を握り締め、涙を流しながら目を瞑った。
ユキ「…リンちゃん」
≪page21≫
ユキは敵の方を向きながら、優しい声色でリンに語り掛けた。
ユキ「私の“魔法”使うけど、良いよね…?」
リン「……え?」
敵(…死ね。Fランク…!)
敵がユキに向け5本の矢を同時に放った。
リン「ユキ…ッ!!」
≪page22≫
リンが矢を撃ち落とそうと手をかざす。
リンが魔法を撃つ前に、矢は空中で凍り付き、そのまま地面に落下した。
敵「……!?」
驚愕するリンと敵。ユキの身体からは冷気が立ち込めていた。リンも敵も、まだ何が起こったのか把握出来ていない。
敵(なんだ今のは…? 何が起こった…?)
動揺しながらも、弓を構える敵。次は上空に向けて矢を放った。矢の雨がユキに降り注ぐ。
リン「あんな数…! ここからじゃ防げない…!」
ユキに迫る矢の雨に、リンは絶望感を漂わせる。
≪page23≫
ユキの背後から、巨大な氷の柱が出現した。氷の柱は、ユキの頭上を覆うように、津波が凍ったような形状へと変化した。
光の矢は全て、氷の壁に阻まれた。
リン「……これは!」
リンは記憶を辿る。以前、平原で氷漬けになった魔物を思い出していた。
リン(やっぱりあれは、ユキの魔法…!?)
敵「……くッ!!」
≪page24≫
敵は上空、さらに前方に向かって矢を撃ち、続けざまに地面に向かって矢を放った。矢は全方位からユキを襲う。
ユキ「はぁッ!!」
ユキはさらに冷気を強めた。地面は完全に凍り、地面から突き出た矢は凍り付いた。空中の矢も全て凍り付き、力なく地面に落下した。
敵(さっきから訳が分からない…! 勝手に矢が凍るなんて…! あいつはFランクのゴミのはず…)
≪page25≫
敵は改めてユキのことを見た。ユキは、微かに髪を逆立てながら、静かに氷の弓を構えていた。
敵「そ…そんな…馬鹿な…」
敵(あれは…私と同じ力…!?)
動揺する敵に構わず、ユキは敵に狙いを定める。
≪page26≫
ユキ「…ふっ!!」
ユキが氷の矢を放つ。敵の右足に氷の矢が突き刺さった。
敵「……うあッ!?」
足を射抜かれた激痛でよろめく敵。
リンは、ユキの実力を目の辺りにして呆気にとられている。
≪page27≫
敵(クソッ…! 私の足が…!)
ユキ「……」
ユキは氷の弓を構えながらも、追撃しなかった。
敵「……ッ!!」
敵(こいつ…!! 私を見逃そうとしてるの…!?)
ローブの隙間から、怒りに満ちた口元が見える。
≪page28≫
敵(許さない…!! 殺す…!! 次は絶対、殺してやるッ!!)
ユキの慈悲に苛立ちながら、足を引きずりながら敵は暗闇に姿を消した。
リンはゆっくりと満身創痍の身体を起こした。
リン「ユキ、あんた…。そんな力が使えるのに、なんで今まで使わなかったのよ…!?」
リンは恐る恐るユキに尋ねた。ユキは笑いながらケロッと答える。
≪page29≫
ユキ「約束したから。リンちゃんと」
リン「……あっ」
○回想のリン
リン『さっきのあなたの力。あれは危険な力なの。しかも、あなたは記憶を失っている。そんな状態で力を使えば何が起こるか分からない…。思わぬ被害を出さないためにも、あの力の使用は控えて』
○回想終了
リン「あんた…。あれを今まで守ってたの…!?」
ユキ「う、うん…」
≪page30≫
リン「あははははっ…!」
思わず吹き出すリン。涙を拭い、ユキに向き直る。
リン「やっぱりあんた…。馬鹿ユキね…!」
ユキ「えぇ〜っ!? なんで!?」
約束を守っていたのに馬鹿ユキと呼ばれ、ユキはオーバーリアクションでショックを受けていた。
≪page31≫
○夜が明け、日が昇るイムテ村
○イムテ村の診療所内
リンのバストアップ。胸から下は映っていない。
リン「モエちゃん、大丈夫…?」
肩に包帯を巻いているモエに、リンは心配そうに声を掛けた。モエは元気なことを精一杯アピールした。
モエ「大丈夫っす…! 私は全然元気っすから…! 痛っ…!」
リン「もう! 無理しちゃ駄目よ。痛くて当然! しっかり休みなさい!」
≪page32≫
リンの全身が映る。肩と両足に包帯を巻いた満身創痍状態。自分を差し置いて、モエの心配をするリンに呆れるユキ。
ユキ「それはリンちゃんもね」
リン「はい…」
申し訳なさそうに項垂れるリン。
リン「ごめんね…。あたしがしっかりしなきゃいけないのに、こんな有り様で…」
ユキ「何言ってるの! リンちゃんがいたから、私はモエちゃんをお医者さんに連れて行けたんだから!」
モエ「そ、そうっすよ! 悪いのは全部、あのローブの人っす! リン先輩には胸を張って欲しいっす!」
リン「あ、ありがとう…。2人とも…」
2人の優しさに感謝し、穏やかな笑みを浮かべるリン。
リン「それにしても、どうやって帰ろうかしら…。これ…」
ユキとモエ「う…」
まともに歩けそうにないリンを見て、困り果てるユキとモエ。
≪page33≫
○昼間の街道
リンを背負って進む汗だくのユキ。
ユキ「はぁ…はぁ…」
リン「ユキ…無理しなくて良いわよ…? 重かったら降ろして良いから…」
心配そうに見つめるモエ。疲れを見せながらも笑顔を作るユキ。
ユキ「大丈夫…! 友達だから…!」
リン「気持ちが重い…!」
ボロボロで帰路につく3人。リンは満更でもない笑みを浮かべていた。