最終話

≪page1≫

○その時の状況の一枚絵をバックに、ナレーションが続く。

ナレーション『その後、ミスティから協力の要請を受けていた他の教員たちが、ロークの身柄確保及び研究施設の制圧を行なった』

ナレーション『ロークは、罪のないSランクの学生たちを非道な研究に付き合わせ、その過程で次々と人工的に魔物を生み出していた。不要になった魔物は、時に周囲へ解き放ち、研究資金調達の際には、裏組織に売り捌いていた。リンが平原で遭遇したAランクの魔物も、ロークが制作した魔物だった』

ナレーション『ユキたちの通うノルシュ魔法学校は、ノルシュ王国が管理していた。ノルシュ王国は、自国の代表する魔法学校で数々の悪行を働き、学校の品位を著しく下げたロークに憤っていた。身柄を預かり、然るべき裁きを与えると宣告した』

左目に眼帯をし、牢の中で薄ら笑いを浮かべるローク。

≪page2≫

ナレーション『…それから、幾日が経ち』

○とある海岸。

ユキは巨大なカニの魔物を追い掛けている。巨大なカニは凄まじい速さの横歩きで移動している。

ユキ「はぁ…はぁ…! モエちゃん!! そっち行ったよ!?」

≪page3≫

モエ「…今っす!!」

砂浜に置かれていたスイカのトラップが爆発を巻き起こす。カニはたまらず向きを変えて逃げ出した。

モエ「リン先輩っ! 次そっち頼むっす!!」

≪page4≫

リン「オーケー! まかせなさいって!!」

リン「エアルフェイトッ!!」

リンが風の刀を構え、足元で風を爆発させ、上空まで飛び上がる。

≪page5≫

リン「喰らいなさいっ!!」

空中で風を纏いながら、勢いよくカニのハサミを斬り落とした。

魔物『ブクブクブクブクッ!!』

カニは泡を吹きながら慌てている。

リン「そっち行ったわよっ!!」

≪page6≫

リン「エレナッ!!」

リンがエレナに向かって声を掛ける。

エレナ「上出来。それにしても…」

エレナ「…カニって本当に横にしか歩けないのね」

エレナ「可哀想に」

エレナはカニを哀れむような目で見つめている。

≪page7≫

エレナ「サンディラヴァー」

エレナは光の弓を作ってカニの両目に狙いを付けている。

エレナ「そこ…っ!!」

魔物『ブオオオオオオッ!!』

両目を射抜かれ、カニの魔物はカニとは思えない悲鳴を上げている。

≪page8≫

エレナ「後は任せたわ。ユキ!」

ユキ「うんっ!! みんな、ありがとう!!」

ユキは巨大な氷のボールを作り出した。さらに。

≪page9≫

ユキ「フロウナッ!!」

フロウよりも大きな風魔法で、氷の塊をカニの元へと吹き飛ばす。

ユキ「いっけええええっ!!」

≪page10≫

SE『ドゴオオオオオンッ!!』

ボールに押し潰されたカニは身動き出来なくなった。

リン「ふぅ…。ようやくやっつけたわね…」

≪page11≫

リン「それにしてもあんた…。その“フロウナ”って魔法、恥ずかしいからほんとにやめて欲しいんだけど…!」

ユキ「そんなこと言われても…新しく思い浮かんだのがこの呪文なんだからしょうがないじゃん…!」

リン「あんた、どんだけあたしのこと好きなのよ…!?」

ユキ「え、えぇ~っ?」

≪page12≫

ユキ(あれから、私たちリン班は、“エレナ・シャイニス”を含めた4人組になっていた。元々4人部屋だった寮は、ついに満室になったのだった)

ユキ(任務はやっぱり大変なこともあるけど、楽しい。友達と協力して、毎日充実してる…!)

ユキ(いろんなことがあったけど、私は、幸せ者だ)

≪page13≫

ユキ「……」

ユキ(だからこそ、私は…あなたのことが心配なんだ…)

ユキ「鈴子ちゃん…」

○1人、魔法学校の廊下を歩くユキ。

≪page14≫

ユキ(鈴子ちゃんは、元気にしてるかな…? もし、今もまだ、いじめられていたら…?)

ユキ(私がいなくなって、深く傷付いていたら…?)

ユキ(私は、ここに来てから、鈴子ちゃんのことを忘れたことはない…)

ユキ「会いたいよ…。鈴子ちゃん…」

≪page15≫

ミスティ「ユキ君」

ユキ「うわあっ!?」

突然、ユキの背後に現れるミスティ。飛び上がって驚くユキ。

ミスティ「あっ…。すまない。また生徒を驚かせてしまった…」

ユキ「い、いえ…! 考え事をしていたからですよ…! あははは…!」

≪page16≫

ミスティ「どうかな? 任務の方は?」

ユキ「…こんなこと言って良いのか、分からないんですけど…。楽しいです…!」

ミスティ「ふふふ…。それは何よりだ」

ユキ「……」

ユキ「ミスティ先生のおかげ、なんですよね…? 私たちが4人一緒にいられるのは…」

ミスティ「!」

≪page17≫

ユキ「リンちゃんから聞きました…。本来、Sランクの魔法学生が2人もいる班はありえないと…。ロークの後を引き継いだミスティ先生が、私たちのために無理をしてくれたって…!」

ミスティ「……」

ミスティ「君たちは、ずっと離ればなれになり、辛く苦しい日々を送っていた…。一緒にいて当然なんだ…。リン班4人の編成、これ以外、私は認める気はない…」

ミスティ「私がそうしたかっただけさ…」

ユキ「……」

ミスティは笑みを浮かべ、ユキも申し訳なさそうにしつつ、ミスティに笑みを返した。

≪page18≫

ミスティ「そうだ。実は、君に見てもらいたい物があってね」

ミスティは、ローブのポケットから、薄く平たい物を取り出した。

ミスティ「これだよ」

それをユキに手渡す。ユキは驚愕の表情を浮かべる。

ユキ「こ、これは…!?」

≪page19≫

ユキ(スマホ…!?)

ユキの手には、ユキが現世で見た物とそっくりなスマホが握られていた。

ミスティ「やはり、君はこれが何か知っているようだね…。前に私に、他の世界から来たと教えてくれていたから…」

ユキ「これ、どうしたんですか…!?」

ミスティ「ロークだよ」

≪page20≫

ミスティ「奴の研究施設から見つかった物だ…。ロークは、異世界の研究を始めていたらしくてね。その過程で、その平たい魔道具を作り出したらしい…」

ユキ(ロークが、私の世界のことを知っていたのは、異世界を研究していたからなのか…!)

ミスティ「あらゆる力を吸収するロークの魔法、インヘルトの術式を応用したものが使用されているようだ…。技術を吸収して、自分の物にする魔道具なんだと…。まぁ、私も詳しいことは分からないが…」

ミスティ「もし、君にとって必要な物ならと思ったんだが…。ロークの私物なんて、手に取りたくないか…。すまないね…」

申し訳なさそうな表情を浮かべるミスティ。

≪page21≫

ユキ「いえ…! ミスティ先生! ありがとうございます…!」

ユキ「これで、友達に会えるかもしれない…!」

明るい笑みを浮かべるユキ。

ミスティ「そうか…。なら、良かったよ」

ミスティは、安堵の笑みを浮かべ、ユキに手を振り立ち去っていく。

○ユキたちの女子寮。

寮でスマホをいじるユキ。

リン「ユキ…。何その妙な平べったい物は…?」

≪page22≫

ユキ「スマホ…! なんかいろいろ出来んの!」

リン「はぁ…。スマホ…」

一心不乱にスマホをいじるユキ。

ユキ(あ、あった…! WINE!!)

回想の鈴子『WINEやってる?』

ユキ(このスマホは、私の世界と繋がってる…!)

≪page23≫

胸の鼓動が高鳴るユキ。WINEのアイコンをタップする。

ユキ(これで、鈴子ちゃんにメッセージが送れる…!)

しばらくスマホをいじり続けるユキ。そんなユキを、心配そうに見つめるリン、モエ、エレナ。

ユキは徹夜でスマホをいじっていた。

○翌朝、魔法学校の廊下。

教室に向かって歩くリン班。

≪page24≫

エレナ「ユキ、大丈夫…? 目にクマが出来ているけど…」

ユキ「う、うん…。大丈夫…」

ユキ(あれから、WINEをずっといじってたけど…。駄目だ…。使い方が分からない…。誰かにメッセージは送れるみたいだけど、鈴子ちゃんに繋がる手掛かりは見つけられなかった…)

モエ「ユキさんにとって、大切な方なんですね…。その、鈴子さんという方は…」

ユキ「うん…。鈴子ちゃんは、リンちゃんに似てるんだ…。優しくて、明るくて、いつも私に笑顔をくれた…」

リン「へぇ…あたしに…。ちょっと想像出来ないわね…」

≪page25≫

ユキ「馬鹿ユキ、とは一度も呼ばれなかったけどね…!」

リン「わ、悪かったわね…。口が悪くて…!」

ユキ「ふふっ…」

ユキ「嬉しいな…。みんなに、鈴子ちゃんの話が出来て…」

嬉しそうなユキを見て、微笑むリンたち。

≪page26≫

リン「また、会えると良いわね…。鈴子ちゃんと…!」

ユキ「うん…! ありがとう、リンちゃん…!」

○それから数日後、女子寮内。

ユキ「うぅ〜…」

エレナ「ユキ、あんなにやつれて…。可哀想に…」

ヘロヘロになりながら、スマホをいじり続けるユキ。

≪page27≫

ユキ「うぅ〜…会いたいよ〜…。鈴子ちゃん〜…」

モエ「ユキさん…」

リン「そのスマホ?って奴、そんなに扱いが難しいものなのね…。具体的には、何が出来る物なの…?」

ユキ「うぅ…。いろいろ出来るらしいけど…。今やろうとしてるのは、遠くの人と手紙のような物でやり取り出来る機能だけど…。それが上手く行かなくて…」

ユキ「他に、私でも使えそうなのは、写真を撮る機能くらいしか…」

リン「写真…?」

≪page28≫

ユキ「この道具に景色を映して、それをそのまま絵のように残すことが出来るんだ…。鈴子ちゃんはよく、私と写真を撮ってくれた…」

リン「へぇ…そんなことまで出来るなんて…」

ユキ「ん…? 待てよ…」

ユキ(初めて会ったあの日、鈴子ちゃんは、写真について何か言っていたような…)

ユキ(思い出せ…! 絶対言ってた…! えっと…確か…何かに上げるって…!)

鈴子『自撮りしても良い? ミンスタに上げる…のは駄目か!』

ユキ「…!!」

≪page29≫

○現世。

ユキとの待ち合わせ場所で、スマホをいじる鈴子。

鈴子(雪ちゃん…。お元気ですか…? あたしはマジ元気!)

鈴子(あれから、いじめられそうになった時、雪ちゃんの名前を呼ぶと、雪ちゃんを怖がってあの子たちは逃げるようになったんだよ…! マジウケるよね…!)

鈴子(元々あたしと友達だったオタクの子も、不良から解放されたあたしとまた仲良くしてくれるようになったんだ…!)

鈴子(全部、雪ちゃんのおかげだよ…! いろんなことがあったけど、あたしは、幸せ者だよ…)

鈴子「……」

≪page30≫

鈴子(だからこそ、あたしは…あなたのことが心配なんだ…)

鈴子「雪ちゃん…」

スマホをいじり続ける鈴子。

鈴子「ミンスタかー…。ギャルのフリをするために、一応入れといたけど…。あはは…。結局あんま使わなかったな…! もう消しとくか…!」

ミンスタをアンインストールしようとする鈴子。

鈴子「うーん…。でも、念の為、最後にちょっと確認を…」

鈴子「あれ…? ミンスタに、通知が来てる…?」

スマホを見て、涙を流す鈴子。

≪page31≫

鈴子のスマホに、ユキとリン班4人の笑顔の写真が映っていた。

鈴子「う…うぅ…ッ! 良かった…っ!」

鈴子「ユキちゃんも、幸せなんだね…!」

≪page32≫

ユキの元に、鈴子のフォローが返ってきた。ミンスタの画面に映る鈴子のアカウント名は、リンと表示されていた。

鈴子と友達のツーショット写真が表示される。

涙を流しながら微笑むユキ。

ユキ「鈴子ちゃん」

ユキ「また、会えたね…!」