第18話

≪page1≫

○ロークの研究施設内。

ユキ「はぁ…はぁ…」

RINとの戦闘での負傷と疲労で、息を切らすユキ。

ローク「魔法とは違う力、実に興味深いです。どうですか? 魔法学生はもう卒業して、私のお手伝いをしてくだされば、代わりにリンさんは解放してあげても良いですよ」

ユキ「……」

ローク「ユキさんはFランクですから、伸び代が期待出来ない魔法には見切りを付けて、妖力の研究に専念すべきだと思うんですよ。その方が、あなたのためです」

≪page2≫

ローク「大丈夫、あなたは貴重な存在です。悪いようにはしませんから」

ユキ「……」

息を整えながら、ロークを睨み付けるユキ。

ローク「フッ…。大人の言うことは信じないんでしたっけ…? 仕方ありませんね…」

ローク「怪我をしていてお辛いでしょうから、私が手厚く“保護”してあげますよ」

怪しい笑みを薄っすらと浮かべるローク。

≪page3≫

ユキ(…さっき、私の攻撃を飲み込んだ魔法。あれは一体なんなんだ…。それに、腹部に打ち込まれた衝撃波…。あの力の正体が分からないと、迂闊に攻撃出来ない…!)

じりじりと迫るローク。ダメージを色濃く残し、ロークを倒す術を見いだせないユキは、焦りを見せていた。

エレナ「サンディラ!」

SE『バチッ』

ローク「!」

≪page4≫

稲妻が走る音が聞こえた瞬間、ロークは身を捻って雷を回避した。

ユキ「エレナ…!?」

エレナ「……」

ローブを脱ぎ捨て、学生服姿となったエレナが現れた。真っ直ぐ、静かにロークを睨む。

≪page5≫

ローク「おや。エレナさん。どうしたんですか? そんなに怖い顔をして」

ローク「もうお薬はいらないんですか?」

エレナ「…馬鹿に付ける薬でも、作ったらどうですか?」

そう返すとエレナはロークを静かに睨む。ロークは相変わらずヘラヘラと薄気味悪い笑顔を浮かべている。

≪page6≫

エレナ「サンディラヴァー!」

雷をバチバチと弓に変化させる。さらに。

エレナ「エレクション!」

雷で分身を2体作る。本体のエレナを含めた3人は、ロークに向け弓を構える。

≪page7≫

3人のエレナの弓矢の一斉掃射。

凄まじい数の雷の矢がロークに向かって飛んでいく。ロークは冷静に魔法を唱えた。

ローク「インヘルト」

≪page8≫

ロークが呪文を唱えると、無数の光の矢が、ロークの身体の表面に現れた、透明な膜に吸収されていく。

ユキ「あれは…!」

ユキは、二度目のロークの魔法をしっかり観察する。

攻撃を全て吸収し終えたロークは、人差し指に小さな白い球を発生させる。

≪page9≫

そして、それをエレナに向けて放つ。

エレナ「……ッ!!」

エレナは2体の分身を自分の前へと操り、ロークの白い球を受けさせた。

≪page10≫

SE『ドパアアアアンッ!!』

エレナ「うあッ…!!」

凄まじい爆発が起き、エレナは吹っ飛び岩肌に叩き付けられてしまった。

ユキ「エレナ…ッ!!」

≪page11≫

ユキはエレナに駆け寄る。意識が朦朧とするエレナは気を失う前にユキに告げる。

エレナ「あ…あれがロークの…魔法…。はぁ…。吸収した力を…はぁ…。自分の力に変えて…相手に…返す…」

ユキ「わ、分かった…! ありがとう…! エレナ…!」

エレナ「……」

それを伝えると、エレナは微かに微笑みながら意識を失った。

≪page12≫

ユキ(エレナは…私にロークの魔法を伝えるために…)

ローク「私の魔法が分かって、良かったですね、ユキさん」

ローク「あなたたちの友達を思いやる心は、本当に素晴らしいです。真っ直ぐな心を持って育つ生徒を見て、私はとても嬉しく思います」

本心かどうかも分からない言葉を淡々と述べながら、ロークは貼り付けたような笑顔を浮かべる。

ユキ(エレナ…。モエちゃん…。リンちゃん…)

≪page13≫

ユキ(みんながいてくれたから、今の私がある…。だから、私が…!!)

ユキ「私が…!!」

ユキ「リン班の私が…!! みんなを助ける…ッ!!」

≪page14≫

ローク「……」

瞳に強い光を宿すユキ。薄っすらと笑うローク。

ユキ「うおおおおおっ!!」

ユキは自身よりも大きな氷塊を生成。

≪page15≫

氷塊をロークに向かって放った。

ローク「インヘルト」

氷塊は、消滅しているかのように、ロークの膜に飲み込まれる。

ユキ(あの大きさの氷塊も飲み込まれるのか…!!)

≪page16≫

ユキ(さっき私が受けた衝撃波より、エレナの弓矢を吸収した力の方が威力が高かった…! たぶん、吸収した力によって、返す力も強くなるんだ…!)

ユキ(それなら、力を吸収させないように戦えれば…!!)

ローク「良いですね、その目。得られた判断材料を頭の中でしっかりと整理して、困難を乗り越えようとする姿勢、素晴らしいです」

ユキ(あいつの言うことは無視!)

≪page17≫

ユキは両足に、氷のブーツを生成した。

ユキ「はぁッ!!」

ブーツを履いたユキが、空中へ飛び上がる。

≪page18≫

ユキは、踵落としで思いっきり地面を砕く。周囲に岩の破片が飛び散った。

ユキ「これなら、どうだッ!!」

ユキの脳裏に、ヒエールの戦法が浮かぶ。以前、ユキを襲った地面を砕く攻撃、ユキはそれを応用する。

≪page19≫

ユキは飛び散った岩の破片を、次々とロークへ蹴り飛ばしていく。

ユキ(これは岩だ! 魔法でも妖力でもない! きっと吸収出来ないはず…!!)

≪page20≫

ローク「インヘルト」

SE『ズオオオオオオッ…』

ユキ「飲み込まれた…!!」

≪page21≫

ローク「そうですね。ひとつの考えに捕らわれず、様々な可能性を試す。その柔軟さは私も見習いたいくらいです」

ユキ(遠距離攻撃が駄目なら…!)

ユキは氷の剣を作る。そのままロークへ斬り掛かる。

≪page22≫

ローク「インヘルト」

ユキ「うっ…!?」

ロークの身体の膜に触れた剣は、ズブズブと飲み込まれていく。自分まで飲み込まれる感覚に襲われ、慌てて剣を離すユキ。

≪page23≫

ユキ「はぁっ…はぁっ…」

ローク「この短時間で、あれだけの攻撃を仕掛けるなんて…。ユキさん、あなたは本当に優秀な生徒ですね」

ユキ(あいつは…まだ、一度も攻撃を返してない…!)

ローク「優秀なユキさんには、ご褒美をあげないといけませんね」

穏やかな笑顔を浮かべ、ロークは、人差し指に小さな白い球を浮かべた。

≪page24≫

ユキ「マズい…!!」

ユキは急いで最高強度の壁を作り、その後ろに身を隠した。

ロークが、壁に向けて小さな球体を飛ばす。

≪page25≫

SE『ボグアアアアアアッ!!』

ユキ「うわあああああっ!!」

凄まじい爆発が壁を破壊する。

≪page26≫

氷の破片がユキの背中に突き刺さり、その激しい衝撃で地面に叩き付けられた。

ユキ「ガハッ…」

ユキは吐血し、全身も血塗れになっていた。ダメージは深く、もう立ち上がれる力が残っていない。

ローク「すみません…。少し、やり過ぎてしまいましたね…。すぐに、治療してあげますから」

ユキ(身体が…動かない…。目が、霞む…。耳も、よく聞こえない…)

≪page27≫

ユキのぼんやりとした視界の中には、口を三日月のように尖らせながら笑うロークの姿が映った。

ローク「ユキさん。安心してください。これからは、ずっとリンさんと一緒ですよ」

ローク「この、施設の中で」

ユキ「……」

ユキ(私にはもう、戦える力は残ってない…)

地面にうつ伏せで倒れる虚ろな目のユキ。

≪page28≫

ユキ(ロークは…そう思ってる…)
 
ユキは、震える右手の人差し指でロークを指す。

ローク「おや?」

ローク「駄目ですよ、ユキさん。人のことを指差すなんて…」

ユキ(さっき、ロークは、私の足元からの攻撃と、エレナの雷はインヘルトで防がなかった。…あれは、魔法が間に合わなかったんだ)

ユキ(あの魔法は、私より遅い)

≪page29≫

ローク「インヘルト」

ユキ「フロウ」

ユキが魔法を唱えた。ロークの魔法が発動する直前に、小さな風の弾丸はロークの眼鏡を砕いていた。

ローク「え?」

眼鏡の破片は、左目に突き刺っていた。

≪page30≫

ローク「ぎぃああああああッ!!」

ロークは絶叫する。両手で左目を押さえ、激痛でもがいている。その隙にユキは巨大な氷山をロークの上に作った。

ローク(魔法をここまで温存していたなんて…! ユキさん、あなたは本当に素晴ら…)

ローク「……あ」

≪page31≫

SE『ドゴオオオオッ!!』

大きな音を立て、氷山はロークを押し潰した。

ローク「……」

下敷きになったロークは気を失っていた。

≪page32≫

ユキ「……」

ユキ「ありがとう…リンちゃん…」

静かに微笑みながら、ユキも気を失った。