第17話
≪page1≫
○謎の施設内、ロークと対峙するユキ。
ユキ(…こいつが、リンちゃんのことを苦しめている元凶…。本当にそうなら、今すぐここでぶん殴ってやりたい…!)
ユキ(…でも、私はまだ、リンちゃんがどこにいるのかすら知らない…。もし、ロークしか知らない場所にいるとしたら…?)
ユキは、リンを救うために、平静を装った。
ユキ「…リンちゃんは、どこにいるんですか?」
≪page2≫
ローク「ユキさんは、リンさんを追ってきたんですよね?」
ローク「なら、ここのどこかにいますよ…」
ユキ(こいつ…!)
一番知りたいことをはぐらかされ、怒りを滲ませるユキ。
ローク「私も、あなたには聞きたいことが山程あるんです。なので、あなたのことを教えていただけるのなら、交換条件として話してあげても良いですよ? …まぁ、信じるか信じないかは、あなたの自由ですが」
≪page3≫
ユキ「……」
ローク「フゥ…。警戒心が強いですねぇ…。仕方ありません…。こちらから話をするとしますか…」
ローク「私はとある目的で、Sランクの学生を集めていました」
ローク「各地にSランクの生徒を派遣する…。私はその役目を任されていましたから、非常に都合が良かったのです」
ローク「はぁ…。しかし、Sランクの魔法学生は、思うように集まりませんでした…。なかなか優秀な生徒がいなくて、困ってしまいましたねぇ…。日頃から、真面目にお勉強して欲しいものです…」
教師の口調を崩さず、話を続けるローク。警戒心を抱きつつ、黙ってロークの話を聞くユキ。
≪page4≫
ローク「だから少し、刺激の強い体験をしてもらい、多くを学んでもらおうと思いました」
怪しい薄ら笑いを浮かべるローク。
ローク「Aランクの生徒を、Sランクの生徒に少し指導してもらい、ランクを上げてもらおうと思ったのです」
ユキ「……!!」
ユキ(エレナが、リンちゃんを襲ったのは…そういうことだったのか…!!)
ユキ「なんでエレナは、あなたの言うことを聞いたんですか…?」
≪page5≫
ローク「親切に教えてあげただけですよ。Sランクの人間は魔物化しやすいと」
ユキ「……えっ!?」
ユキは思わず声を上げてしまう。
ローク「あ…。すみません…」
ローク「それは私が作った嘘の設定でした…。うっかりしていましたね」
ユキ「は…?」
ロークの話に、怪訝な顔を浮かべるユキ。そんなユキに構わず、ロークは話を続ける。
≪page6≫
ローク「人間は、魔力をコントロールする術を生まれ持っています。魔物になんかなる訳ないんですよ」
ローク「しかしですね。その嘘の話をしたら、皆さん信じてしまいまして。…エレナさんも。リンさんも」
※ロークは、手中に収めた生徒を下の名前で呼んでいる。
ユキ「……!!」
リンの名前を聞き、ユキは目を見開く。
ローク「ほんと、純粋な生徒ばかりで可愛らしいですねぇ…。少しは疑われると思ったのですが…」
≪page7≫
ローク「でも念の為、薬を用意したんですよ」
ユキ「薬…?」
ローク「幻覚を見せる薬を。それを毎晩飲んでもらいました…。怖かったでしょうねぇ…。自分の身体が魔物化する幻覚を見せられたんですから…」
ユキ(こ……)
≪page8≫
ローク「それで、私の言うことを聞いてくだされば、薬を定期的に提供しましょう! そう約束してあげたのです」
ローク「リンさんなんかもう、大変でしたね…。私の前で泣き出してしまって…」
ローク「お願いします…っ! なんでも言うこと聞きますから…! だから薬をください!って、幻覚薬を必死に欲しがって、本当に可哀想でした…」
ユキ(こいつは……)
≪page9≫
ローク「私はSランクの力の研究がしたかったので、あらゆるデータが欲しかったんですよ」
ローク「だからSランクの皆さんの身体を、いろいろと調べさせてもらいたかったのです」
ローク「特にリンさんは、なんでも言うことを聞いてくれるとおっしゃってくれたので、それならばと、服を脱いでもらって、隅々まで調べさせてもらいました」
≪page10≫
ユキ(こいつは、何を言ってるんだ…!?)
気が遠くなるほど、頭に血が上っていくユキ。淡々とリンへの非道を語り続けるローク。
ローク「私にいろいろ調べられて、リンさんは恥ずかしがって泣いてしまいました…。なので、少し申し訳なかったと思…」
≪page11≫
SE『ドカァァァァァンッ!!』
ロークが話し終わる前に、ユキの身体よりも巨大な氷の大剣が、地面を抉っていた。ロークはそれをひらりと躱していた。
≪page12≫
ユキ「ロォークッ!!」
ユキの髪は逆立ち、口からは冷気が漏れていた。その姿は、妖怪そのものだった。
ローク「おお~怖い怖い…。ユキさん? 人の話は最後まで聞かないと駄目だって学校で習わなかったんですか?」
ローク「あっ…。私はそんなことは教えていませんでしたね…。これは、失礼しました…」
ロークは、激昂するユキを、ヘラヘラしながら眺めていた。
≪page13≫
ユキ「お前は、絶対に許さないッ!!」
ユキは空中に、無数のクナイを生成する。それをロークに向けて一斉に飛ばした。
≪page14≫
ローク「……ボソッ」
ユキ「…!?」
ロークが小声で呪文を唱える。次の瞬間、ロークの前で、クナイが見えない壁に飲み込まれるように消えてしまった。
ユキ(なんだ今の…!? 私の攻撃は、一体どこへ…!?)
動揺するユキ。ロークは、淡々と話し続ける。
≪page15≫
ローク「いやぁ…。凄いですね。詠唱もなしに、生成した武器の一斉攻撃…。Sランクの学生でも出来る芸当ではありません…」
ローク「ユキさん…」
ローク「あなた“妖怪”なんじゃないですか?」
ユキ「……ッ!!」
ユキは、この世界に転生してから初めて“妖怪”というワードを聞き、思わず身体が反応してしまう。
≪page16≫
ローク「おとぎ話のような話なんですが、この世界とは別の世界には、“妖怪”と呼ばれる魔物のような存在がいるとかいないとか」
ローク「だって、鑑定石でも測れないユキさんの力は、“魔力”ではないじゃないですか?」
ローク「妖怪の“妖力”なんじゃないでしょうかねぇ…?」
ユキ(妖力…? それが、私の力の正体…?)
≪page17≫
ユキ(…いや、私の力が妖力だろうと、魔力だろうと…そんなの、どうだっていい…)
ユキ(こいつを、ぶちのめせる力なら、なんだって…!!)
ユキは、地面から尖った巨大な柱を生成。ロークの足元から攻撃する。
≪page18≫
ローク「おっと…」
ユキ「……!?」
ロークは、その場で軽く跳び、トンッと、尖った氷の柱の上に着地した。
ユキ(私の攻撃が、躱された…!? …なんなんだこいつは…!?)
≪page19≫
ローク「足元からの攻撃なんて、お行儀が悪いですよ? ユキさん」
ロークは一気にユキに接近。手のひらをユキの腹部に当てた。
ユキ「うぐっ!?」
ユキの腹部で衝撃波が発生。そのまま後方へ吹き飛ばされた。
≪page20≫
ユキ「ゲホッ…! ゴホッ…!!」
ユキ(な、なんだ今のは…!?)
腹部を押さえ呻くユキ。
ローク「ユキさん。あなたは、Sランクを超える力を持つ素晴らしい逸材です」
ローク「…せっかくリンさんに協力してもらったんです。この子の相手をしてもらいましょうか…」
≪page21≫
ロークは、懐から魔物を引き寄せる紫の魔石を取り出すと、魔力を込め輝かせた。その光は、今までにない強烈な光を放っていた。
ユキ(あの石が…あんなに光るなんて…!?)
魔物『ウオオオオオンッ!!』
どこからか、魔物と人間の少女の声が混ざったような声が響いてくる。
ユキ「こ…この気配は…!!」
ユキ(ずっと感じていた…空洞を包み込む異様な気配…!!)
≪page22≫
SE『バグァァァンッ!!』
空洞の中の鉄の扉のひとつが粉々に破壊され、砂埃を撒き散らしている。煙幕が徐々に晴れていく。
魔物『シュウウウアアア…』
ユキは、身体の震えが止まらなかった。
ユキの前には、“裸のリンの姿を持つ魔物”が浮遊していた。全身ライトグリーンの人間離れした見た目をしているが、その体型はスラッとしたスタイルの良いリンの身体そのものだった。
≪page23≫
ユキ(こんな…。こんなものを作るために、リンちゃんは…)
ユキは、怒りと憎悪を通り越したような表情で固まっていた。
ローク「美しいでしょう…? リンさんの魔力を元に作った私の自信作…。人工魔物“RIN”です」
ロークは、左手で持つ魔石にRINが気を取られているのを良いことに、右手でRINの身体を撫で回した。
ユキ「……ッ!!」
≪page24≫
激昂するユキは、ロークとRINをまとめて叩き潰すつもりで氷のハンマーを瞬時に作り、そのまま振りかぶった。
SE『パシッ』
ユキ「…うっ!?」
RINはそれを片手で受け止める。
≪page25≫
そのままハンマーごとユキをぶん投げ、岩肌に叩き付けた。
ユキ「がはっ…!!」
RIN『……』
RIN『エアルフェイト』
ユキ「リンちゃんの声…!?」
人工魔物からリンの声が発せられる。
≪page26≫
右手に風の刀を生成していた。
ユキ「くっ…!!」
ユキも急いで氷の剣を生成する。
≪page27≫
SE『バキィン…ッ!!』
ユキ「……うぅっ!!」
風の刀と氷の剣がぶつかり合い火花を散らす。ユキはリンと戦っているような気持ちになり、心が折れそうになる。
ユキ(う…!! こいつはリンちゃんじゃない…ッ!! しっかりしろ私ッ…!!)
刀と剣のぶつかり合いが続く。ロークはそれを観察するかのような目で、岩肌に寄り掛かりながら眺めている。
≪page28≫
RINは風の刀を構えたまま空中で回転を始める。凄まじい速さの回転でRINの姿は竜巻に変化する。
RIN『トルネオン』
ユキ「……っ!!」
SE『ビュオオオオオッ!!』
暴風の音を轟かせながら、RINはそのままユキに突撃する。ユキは咄嗟に回避しようと身を捻る。
≪page29≫
ユキ「うああああッ!!」
ユキの肩に少し竜巻が触れてしまい、斬り裂かれていた。血がポタポタと滴り落ちる。ユキが戦闘で傷を負ったのはこれが初めてだった。
ユキ「い…痛いッ…うぅッ…!」
慣れていない痛みの感覚に、ユキの心は一気に弱る。そんなことはお構いなしに、RINは刀を振り、ユキに襲い掛かる。
≪page30≫
負傷しながらも、ユキはなんとか剣で応戦する。
ユキ(約束したじゃないかッ!!)
ユキ(私が必ず助けるってッ!!)
ユキ(約束を破るのか…!? ふざけるな…ッ!!)
ユキは自分にキレる。リンとモエに誓った約束を破りそうになっている自分にブチギレた。
ユキはRINを睨み付ける。そして威嚇する。
ユキ「殺すぞ…」
≪page31≫
ユキは手のひらから冷気を大量に放出する。それを鋭く尖らせ大きな槍を作った。
SE『ズドンッ!!』
RIN『ギャアアアアアアッ!!』
≪page32≫
リンと魔物が混ざった声で絶叫するRIN。大きな槍は彼女の体を貫いていた。そのままRINは消滅してしまった。
ユキ「ハァッ…ハァッ…」
心身共にボロボロになるユキ。
SE『ぱちぱちぱちぱち』
穏やかな表情を浮かべながら、ロークが拍手する。
ローク「やれやれ…。やられてしまいましたね…」
ローク「どうやら、失敗作だったようです」
ユキ「……」
怒る気力も失せたような表情で、ロークを見つめるユキ。
≪page1≫
○謎の施設内、ロークと対峙するユキ。
ユキ(…こいつが、リンちゃんのことを苦しめている元凶…。本当にそうなら、今すぐここでぶん殴ってやりたい…!)
ユキ(…でも、私はまだ、リンちゃんがどこにいるのかすら知らない…。もし、ロークしか知らない場所にいるとしたら…?)
ユキは、リンを救うために、平静を装った。
ユキ「…リンちゃんは、どこにいるんですか?」
≪page2≫
ローク「ユキさんは、リンさんを追ってきたんですよね?」
ローク「なら、ここのどこかにいますよ…」
ユキ(こいつ…!)
一番知りたいことをはぐらかされ、怒りを滲ませるユキ。
ローク「私も、あなたには聞きたいことが山程あるんです。なので、あなたのことを教えていただけるのなら、交換条件として話してあげても良いですよ? …まぁ、信じるか信じないかは、あなたの自由ですが」
≪page3≫
ユキ「……」
ローク「フゥ…。警戒心が強いですねぇ…。仕方ありません…。こちらから話をするとしますか…」
ローク「私はとある目的で、Sランクの学生を集めていました」
ローク「各地にSランクの生徒を派遣する…。私はその役目を任されていましたから、非常に都合が良かったのです」
ローク「はぁ…。しかし、Sランクの魔法学生は、思うように集まりませんでした…。なかなか優秀な生徒がいなくて、困ってしまいましたねぇ…。日頃から、真面目にお勉強して欲しいものです…」
教師の口調を崩さず、話を続けるローク。警戒心を抱きつつ、黙ってロークの話を聞くユキ。
≪page4≫
ローク「だから少し、刺激の強い体験をしてもらい、多くを学んでもらおうと思いました」
怪しい薄ら笑いを浮かべるローク。
ローク「Aランクの生徒を、Sランクの生徒に少し指導してもらい、ランクを上げてもらおうと思ったのです」
ユキ「……!!」
ユキ(エレナが、リンちゃんを襲ったのは…そういうことだったのか…!!)
ユキ「なんでエレナは、あなたの言うことを聞いたんですか…?」
≪page5≫
ローク「親切に教えてあげただけですよ。Sランクの人間は魔物化しやすいと」
ユキ「……えっ!?」
ユキは思わず声を上げてしまう。
ローク「あ…。すみません…」
ローク「それは私が作った嘘の設定でした…。うっかりしていましたね」
ユキ「は…?」
ロークの話に、怪訝な顔を浮かべるユキ。そんなユキに構わず、ロークは話を続ける。
≪page6≫
ローク「人間は、魔力をコントロールする術を生まれ持っています。魔物になんかなる訳ないんですよ」
ローク「しかしですね。その嘘の話をしたら、皆さん信じてしまいまして。…エレナさんも。リンさんも」
※ロークは、手中に収めた生徒を下の名前で呼んでいる。
ユキ「……!!」
リンの名前を聞き、ユキは目を見開く。
ローク「ほんと、純粋な生徒ばかりで可愛らしいですねぇ…。少しは疑われると思ったのですが…」
≪page7≫
ローク「でも念の為、薬を用意したんですよ」
ユキ「薬…?」
ローク「幻覚を見せる薬を。それを毎晩飲んでもらいました…。怖かったでしょうねぇ…。自分の身体が魔物化する幻覚を見せられたんですから…」
ユキ(こ……)
≪page8≫
ローク「それで、私の言うことを聞いてくだされば、薬を定期的に提供しましょう! そう約束してあげたのです」
ローク「リンさんなんかもう、大変でしたね…。私の前で泣き出してしまって…」
ローク「お願いします…っ! なんでも言うこと聞きますから…! だから薬をください!って、幻覚薬を必死に欲しがって、本当に可哀想でした…」
ユキ(こいつは……)
≪page9≫
ローク「私はSランクの力の研究がしたかったので、あらゆるデータが欲しかったんですよ」
ローク「だからSランクの皆さんの身体を、いろいろと調べさせてもらいたかったのです」
ローク「特にリンさんは、なんでも言うことを聞いてくれるとおっしゃってくれたので、それならばと、服を脱いでもらって、隅々まで調べさせてもらいました」
≪page10≫
ユキ(こいつは、何を言ってるんだ…!?)
気が遠くなるほど、頭に血が上っていくユキ。淡々とリンへの非道を語り続けるローク。
ローク「私にいろいろ調べられて、リンさんは恥ずかしがって泣いてしまいました…。なので、少し申し訳なかったと思…」
≪page11≫
SE『ドカァァァァァンッ!!』
ロークが話し終わる前に、ユキの身体よりも巨大な氷の大剣が、地面を抉っていた。ロークはそれをひらりと躱していた。
≪page12≫
ユキ「ロォークッ!!」
ユキの髪は逆立ち、口からは冷気が漏れていた。その姿は、妖怪そのものだった。
ローク「おお~怖い怖い…。ユキさん? 人の話は最後まで聞かないと駄目だって学校で習わなかったんですか?」
ローク「あっ…。私はそんなことは教えていませんでしたね…。これは、失礼しました…」
ロークは、激昂するユキを、ヘラヘラしながら眺めていた。
≪page13≫
ユキ「お前は、絶対に許さないッ!!」
ユキは空中に、無数のクナイを生成する。それをロークに向けて一斉に飛ばした。
≪page14≫
ローク「……ボソッ」
ユキ「…!?」
ロークが小声で呪文を唱える。次の瞬間、ロークの前で、クナイが見えない壁に飲み込まれるように消えてしまった。
ユキ(なんだ今の…!? 私の攻撃は、一体どこへ…!?)
動揺するユキ。ロークは、淡々と話し続ける。
≪page15≫
ローク「いやぁ…。凄いですね。詠唱もなしに、生成した武器の一斉攻撃…。Sランクの学生でも出来る芸当ではありません…」
ローク「ユキさん…」
ローク「あなた“妖怪”なんじゃないですか?」
ユキ「……ッ!!」
ユキは、この世界に転生してから初めて“妖怪”というワードを聞き、思わず身体が反応してしまう。
≪page16≫
ローク「おとぎ話のような話なんですが、この世界とは別の世界には、“妖怪”と呼ばれる魔物のような存在がいるとかいないとか」
ローク「だって、鑑定石でも測れないユキさんの力は、“魔力”ではないじゃないですか?」
ローク「妖怪の“妖力”なんじゃないでしょうかねぇ…?」
ユキ(妖力…? それが、私の力の正体…?)
≪page17≫
ユキ(…いや、私の力が妖力だろうと、魔力だろうと…そんなの、どうだっていい…)
ユキ(こいつを、ぶちのめせる力なら、なんだって…!!)
ユキは、地面から尖った巨大な柱を生成。ロークの足元から攻撃する。
≪page18≫
ローク「おっと…」
ユキ「……!?」
ロークは、その場で軽く跳び、トンッと、尖った氷の柱の上に着地した。
ユキ(私の攻撃が、躱された…!? …なんなんだこいつは…!?)
≪page19≫
ローク「足元からの攻撃なんて、お行儀が悪いですよ? ユキさん」
ロークは一気にユキに接近。手のひらをユキの腹部に当てた。
ユキ「うぐっ!?」
ユキの腹部で衝撃波が発生。そのまま後方へ吹き飛ばされた。
≪page20≫
ユキ「ゲホッ…! ゴホッ…!!」
ユキ(な、なんだ今のは…!?)
腹部を押さえ呻くユキ。
ローク「ユキさん。あなたは、Sランクを超える力を持つ素晴らしい逸材です」
ローク「…せっかくリンさんに協力してもらったんです。この子の相手をしてもらいましょうか…」
≪page21≫
ロークは、懐から魔物を引き寄せる紫の魔石を取り出すと、魔力を込め輝かせた。その光は、今までにない強烈な光を放っていた。
ユキ(あの石が…あんなに光るなんて…!?)
魔物『ウオオオオオンッ!!』
どこからか、魔物と人間の少女の声が混ざったような声が響いてくる。
ユキ「こ…この気配は…!!」
ユキ(ずっと感じていた…空洞を包み込む異様な気配…!!)
≪page22≫
SE『バグァァァンッ!!』
空洞の中の鉄の扉のひとつが粉々に破壊され、砂埃を撒き散らしている。煙幕が徐々に晴れていく。
魔物『シュウウウアアア…』
ユキは、身体の震えが止まらなかった。
ユキの前には、“裸のリンの姿を持つ魔物”が浮遊していた。全身ライトグリーンの人間離れした見た目をしているが、その体型はスラッとしたスタイルの良いリンの身体そのものだった。
≪page23≫
ユキ(こんな…。こんなものを作るために、リンちゃんは…)
ユキは、怒りと憎悪を通り越したような表情で固まっていた。
ローク「美しいでしょう…? リンさんの魔力を元に作った私の自信作…。人工魔物“RIN”です」
ロークは、左手で持つ魔石にRINが気を取られているのを良いことに、右手でRINの身体を撫で回した。
ユキ「……ッ!!」
≪page24≫
激昂するユキは、ロークとRINをまとめて叩き潰すつもりで氷のハンマーを瞬時に作り、そのまま振りかぶった。
SE『パシッ』
ユキ「…うっ!?」
RINはそれを片手で受け止める。
≪page25≫
そのままハンマーごとユキをぶん投げ、岩肌に叩き付けた。
ユキ「がはっ…!!」
RIN『……』
RIN『エアルフェイト』
ユキ「リンちゃんの声…!?」
人工魔物からリンの声が発せられる。
≪page26≫
右手に風の刀を生成していた。
ユキ「くっ…!!」
ユキも急いで氷の剣を生成する。
≪page27≫
SE『バキィン…ッ!!』
ユキ「……うぅっ!!」
風の刀と氷の剣がぶつかり合い火花を散らす。ユキはリンと戦っているような気持ちになり、心が折れそうになる。
ユキ(う…!! こいつはリンちゃんじゃない…ッ!! しっかりしろ私ッ…!!)
刀と剣のぶつかり合いが続く。ロークはそれを観察するかのような目で、岩肌に寄り掛かりながら眺めている。
≪page28≫
RINは風の刀を構えたまま空中で回転を始める。凄まじい速さの回転でRINの姿は竜巻に変化する。
RIN『トルネオン』
ユキ「……っ!!」
SE『ビュオオオオオッ!!』
暴風の音を轟かせながら、RINはそのままユキに突撃する。ユキは咄嗟に回避しようと身を捻る。
≪page29≫
ユキ「うああああッ!!」
ユキの肩に少し竜巻が触れてしまい、斬り裂かれていた。血がポタポタと滴り落ちる。ユキが戦闘で傷を負ったのはこれが初めてだった。
ユキ「い…痛いッ…うぅッ…!」
慣れていない痛みの感覚に、ユキの心は一気に弱る。そんなことはお構いなしに、RINは刀を振り、ユキに襲い掛かる。
≪page30≫
負傷しながらも、ユキはなんとか剣で応戦する。
ユキ(約束したじゃないかッ!!)
ユキ(私が必ず助けるってッ!!)
ユキ(約束を破るのか…!? ふざけるな…ッ!!)
ユキは自分にキレる。リンとモエに誓った約束を破りそうになっている自分にブチギレた。
ユキはRINを睨み付ける。そして威嚇する。
ユキ「殺すぞ…」
≪page31≫
ユキは手のひらから冷気を大量に放出する。それを鋭く尖らせ大きな槍を作った。
SE『ズドンッ!!』
RIN『ギャアアアアアアッ!!』
≪page32≫
リンと魔物が混ざった声で絶叫するRIN。大きな槍は彼女の体を貫いていた。そのままRINは消滅してしまった。
ユキ「ハァッ…ハァッ…」
心身共にボロボロになるユキ。
SE『ぱちぱちぱちぱち』
穏やかな表情を浮かべながら、ロークが拍手する。
ローク「やれやれ…。やられてしまいましたね…」
ローク「どうやら、失敗作だったようです」
ユキ「……」
怒る気力も失せたような表情で、ロークを見つめるユキ。