第16話

≪page1≫

○岩肌の中の施設内で、モエを雷で射抜いたエレナ。モエの死体を見つめる。

エレナ「……」

≪page2≫

エレナ(…あなたなら、私のことを助けてくれると思ってたのに)

悲しそうな表情で、モエを見つめ続けるエレナ。

エレナ「…ふっ。…なんてね」

エレナ「あは…」

≪page3≫

エレナ「あははははは…」

乾いた笑いを発するエレナ。そんなエレナの姿を、バラとサボテンの魔物はじっと見つめていた。モエが魔法で生み出した魔物だった。主人が死んだのに、まだこの場に立ち尽くしているままだった。

エレナ「……」

エレナ「…何見てんだよクソが」

エレナが睨みながら、植物の魔物に毒を吐く。

≪page4≫

エレナ「あはは…。言葉なんて通じないか…。ほんと、馬鹿みたい…」

エレナ「……え?」

回想のモエ『ガーディン!!』

エレナ(モエは確かに、呪文を唱えていた…。こいつらは間違いなく、モエの魔法で動いている…。なのに…)

エレナ「なんで、こいつらまだ…」

頭が混乱して狼狽えるエレナ。次の瞬間。

≪page5≫

魔物『ギギッ!』

エレナ「…ッ!!」

エレナ「いぎっ!? あがぁッ…!!」

突然、バラとサボテンの魔物がエレナに抱きつく。エレナの体に複数のトゲが突き刺さり、エレナは痛みで悲鳴を上げた。

≪page6≫

エレナ「痛っ…痛いッ…!! クソッ…!!」

エレナは振り解こうとするが、体を動かせば動かすほどトゲが体に突き刺さる。両腕も魔物にガッチリホールドされている。反撃も逃走も出来ず、エレナは完全に拘束されていた。

エレナ「……あ」

エレナは、青ざめながら前方を見つめる。

≪page7≫

モエ「……」

モエがゆっくりと立ち上がる。

エレナ「あ…あなた…。なんで…」

震える声でモエに尋ねる。

≪page8≫

エレナ(雷が胸に直撃して、死なない訳がない…。ましてや、Eランクなんかに…。私の魔法が、受け止められる訳がない…)

エレナを睨むモエ。

エレナ(や、やめてよ…。そんな目で、私を見ないで…!)

怯えながら、モエの視線から逃れようとするエレナ。

≪page9≫

そんなエレナに、モエは怒鳴った。

モエ「私を、なめるなッ!!」

エレナ「……!!」

エレナ(今のは…誰の声…?)

エレナ(モエは…あんな喋り方じゃない…。あんなに、怖くない…)

モエ「……」

モエは突然、制服の上着を脱ぎ捨てた。

≪page11≫

エレナ「き…木の防具…!?」

モエは、木で作られた防具を、身体に巻き付かせるように身に付けていた。

モエ「木は絶縁体っす…。雷を通さないんすよ…」

エレナ(最初から、私と戦うことを想定していたっていうの…!?)

≪page12≫

モエ「私はSランクのあなたに勝った」

モエ「私は、あなたより強い…ッ!!」

エレナ「……ッ!?」

モエ「だから…私もSランクになるっすよ」

エレナ「……え?」

≪page13≫

モエ「Sランクにもなるし、魔物にだって、一緒になってやるっす…!」

モエ「地獄にだって、一緒に落ちてやる…!!」

モエ「私はそんなの、全然怖くない…ッ!!」

モエは涙が止まらなくなる。涙を流しながら、エレナに想いを伝える。

モエ「…私は……ッ!!」

≪page14≫

モエ「私は、一人になるのが、一番怖い…っ!!」

エレナ「……!!」

エレナ(モエは、私のために…ここまで…)

エレナ(それなのに、私は…。魔物化なんかを怖がって…。友達のことを、全く…信じてなかった…)

モエ「大丈夫っす…。何も心配いらないっすよ…」

≪page15≫

モエは優しい笑顔を浮かべた。

モエ「エレナ先輩は…友達っすから…!」

エレナ「……!!」

エレナの目からも涙が溢れる。

≪page16≫

エレナ「モ…、モエ…!!」

エレナ「で…でも私…! あぁ…あなたに! ひど…ひぐッ…! 酷いことを…うぅッ!!」

泣きじゃくるエレナ。そんなエレナを、モエは優しい眼差しで見つめ続ける。

≪page17≫

モエ「エレナ先輩…。お願いします…」

モエ「私たちの元に…帰ってきてください…」

そう言い終えるとモエはその場に倒れた。バラとサボテンの魔物は一気に枯れてしまった。

エレナ「モエっ…!!」

≪page18≫

エレナはモエに駆け寄る。急いでモエの脈を測る。

モエは気絶しただけだった。

エレナ「モエ…ごめんっ…!! 本当に…ごめんね…!!」

エレナ「ううううううッ…!!」

≪page19≫

エレナ「うわああああああッ!!」

エレナはモエを抱き締めながら号泣していた。人間の感情を取り戻したかのようであった。

≪page20≫

○モエたちがいる空洞のさらに奥。

その頃、ユキは怪しい通路の奥の奥へと突き進んでいた。

ユキ「…ドアがある」

大きく彫り抜かれた広い空間が見えた。岩肌にドアがいくつか設置されている。部屋の入口のようであった。

≪page21≫

ユキはドアを見回し、気配を探る。

ユキ「大きな気配は強くなってる…。でも、どの扉の先に、気配の主がいるのかまでは分からない…」

ユキ(こんな気配に覆われている場所で…。リンちゃんは、何を…?)

ユキ「…早くリンちゃんを見つけないと」

ユキは背後を振り返った。

ユキ「…え?」

ユキは目の前を見つめ、固まっている。

≪page22≫

ローク「……」

ユキ目線の先には、ロークがキョトンとしながら立っていた。

ユキ「ロ、ローク先生…!?」

ローク「…ユキさん!? 何故ここに…!?」

ユキ「いや、それはこっちの台詞ですよ!?」

≪page23≫

ユキは、ロークにここに来た経緯を説明した。

ローク「なるほど…。リンさんの様子がおかしいことを心配して、ここまで…」

ユキ「先生こそ、こんなところで何をしてるんですか…!?」

ローク「当然の質問ですね…!」

ロークは笑みを浮かべつつ、ユキの問いに答え始める。

ローク「私は、学校で不穏な動きがあることに気付いていました…」

ユキ「不穏な動き…?」

≪page24≫

ローク「ユキさんも、なんとなく勘付いていたんですよね…? だからこそ、こんな場所まで来たんじゃないですか?」

ユキ「あ…。えっと…。す、すみません…」

ユキ(確かに…。エレナの件も、リンちゃんのことも、普通じゃない何かを感じていた…)

ユキは、今まで感じていた違和感を思い浮かべる。

ローク「謝る必要なんてありません…!」

≪page25≫

ローク「今回のことは、我々教師の不手際です…。生徒に余計な混乱を与えぬように秘密裏に動いていたのが、完全に裏目に出てしまいました…」

ローク「…そのせいで、リンさんを、ミスティ先生の陰謀に巻き込んでしまった…」

ユキ「えっ…!?」

≪page26≫

神妙な面持ちで、俯くローク。

ローク「……」

ローク「ここまで辿り着いたユキさんには、話しておきますが…」

ローク「私は、独自にミスティ先生の調査をしていました。ミスティ先生は、学校から頻繁に出入りをしていました…。彼女は裏ルートを使い、魔道具を仕入れていたんです…」

ユキ「ミスティ先生が…そんなことを…?」

ローク「不審に思った私は、ミスティ先生の追跡を開始しました。そして、今日、この謎の施設に辿り着いたのです…!」

≪page27≫

ローク「生徒にも、よく不審な道具を手渡していたようです…」

○リン、ヒエール、モエに道具を手渡すミスティの回想。

○回想終了

ローク「…彼女がここで、一体何を企んでいるのか…。一刻も早く突き止めなくては…!」

ユキ「ミスティ先生が、リンちゃんを…。そんなの、絶対に許せない…!」

≪page28≫

ユキ「……」

ユキは改めて辺りを見回す。

ユキ「いくつか扉がありますよね…? 手分けして探しましょうか?」

ローク「そうですね…。では私は向こうを…。ユキさんはあちらをお願いします…!」

ユキ「はい! 分かりました…!」

ユキは力強くドアノブに手を掛けた。

≪page29≫

SE『ガキィンッ!!』

ユキは氷の壁を背後に作り、ロークのナイフを受け止めていた。

≪page30≫

眼鏡を怪しく光らせるローク。

ローク「困りましたね…」

ローク「今ので、信じてもらえると思っていたのですが…」

ナイフを構えながら、ロークは肩を落とす。ユキは背を向けたままロークに言い放つ。

ユキ「…昔、ある親友が教えてくれたんです」

≪page31≫

ユキ「大人の言うことは、信じちゃ駄目だって…」

ユキの背後に浮かぶ鈴子の幻影。

ローク「フゥ…」

溜め息をつくローク。

ローク「いけませんね、それは…」

≪page32≫

ローク「…悪いお友達です」

ロークは醜悪な笑顔で、ユキの親友を侮辱していた。怪しく笑うロークを、ユキは睨む。