第15話
≪page1≫
ユキは最強の魔法学生、マントル・デイサイトを倒すことが出来た。倒れて気絶しているマントルを残し、謎の鉄の扉の前に立つ。そして、ドアノブに手を掛ける。
ユキ「……」
ユキの手は震えていた。
≪page2≫
ズッシリと重い、鉄の扉を押し開ける。
扉の先には人工的に掘られたとしか思えない、綺麗で真っ直ぐな通路があった。人が4人横に並んで通れるくらいには、余裕のある広さに作られている。岩壁のいくつかは彫り抜かれ、照明にランプが吊るされている。
ユキ「何、ここ…?」
辺りを見回すユキ。
≪page3≫
ユキの頬を一筋、汗が伝う。
ユキ(怖い…。何がこんなに怖いのか分からないけど…。何か異様な、気配のようなものを感じる…)
ユキは足取り重く通路を進んでいく。
エレナ「……」
その背後に、フードを被ったエレナが立っていた。
≪page4≫
エレナは被っていたフードを下ろした。
エレナ「…サンディラヴァー」
エレナは光の弓を生成し、ユキに狙いを定める。
ユキ(この空洞を覆い尽くすような…殺気のような強い気配…。この奥から感じる…! 早く、リンちゃんを見つけないと…!)
施設の奥から漂う謎の殺気。その巨大な気配に掻き消され、ユキはエレナの殺気に全く気付いていない。エレナはユキの背中を、心臓を射抜ける位置を狙う。
≪page5≫
エレナ(Fランク…)
エレナはギリッと歯を食いしばる。
エレナ(Fランク…。Fランク…ッ!)
○エレナの脳裏に、氷の弓を構えるユキが浮かぶ。
エレナ(許せない…)
怒りの感情で端正な顔立ちは歪み始める。
≪page6≫
エレナ(殺してやる…ッ!!)
鬼のような形相へと変わるエレナ。
パッと、構えていた矢から指を離す。矢はユキ目掛けて飛んでいく。
かと思われた。
モエ「プランナー!!」
エレナ「……ッ!?」
≪page7≫
植物のツルが矢を受け止めていた。見覚えのある魔法に、エレナは勢いよく後ろを振り返る。
モエ「…エレナ先輩」
エレナ「モエ…!」
モエを見て驚くエレナ。モエは真っ直ぐエレナを見つめていた。
エレナ「 なんで、こんな所に…!」
≪page8≫
モエ「ユキさんの制服に、特殊な植物の種を飛ばしておきました…。この植物の花は、必ず種のある方向を向きます…。それを頼りに、ここまで辿り着きました…」
エレナ「さすが、モエね…」
モエ「エレナ先輩…。一体、何があったんすか…? いい加減、話してくださいっす…!」
エレナ「モエ…。あなたは、いつも優しくて…。ちょっぴり泣き虫で…。でも、本当はとても強い子よね…」
エレナは、モエの思い出を振り返り、穏やかな表情を見せていた。
≪page9≫
だが、その顔は徐々に醜く歪んでいく。
エレナ「でも、あなた…。Eランクでしょ…?」
エレナ「……死んでよ?」
モエ「……!?」
突然、別人のように顔が歪むエレナ。そんなエレナを見て、涙が溢れ出しそうになるモエ。
≪page10≫
モエ(だ…)
モエ(駄目だ…! 泣くな…! 泣くな…!!)
モエは涙を零さぬように、必死で耐える。
モエ(泣いてる、場合じゃない…!!)
エレナ「……」
涙を零さず耐えるモエ。そんなモエを、冷たく見下ろしているエレナ。
≪page11≫
モエ「私が…助けるっす…!」
モエ「リン先輩も…。エレナ先輩も…!!」
力強くエレナに立ち向かうモエ。
モエ(分かってるっす…! エレナ先輩は、こんな人じゃない…! 今のエレナ先輩は、本当の姿じゃない…!!)
≪page12≫
エレナ「…ふぅん。本当に優しいわね」
エレナ「…馬鹿みたいに」
エレナはモエと通路を見回している。そして、光の弓を解除した。
エレナ「こんな狭いところで、弓なんて使ってもね。それに…」
≪page13≫
エレナ「あなたなんて…これで死んじゃうんだから」
エレナ「サンディラ」
モエ「…!!」
雷の一閃がモエを襲う。
≪page14≫
モエは横に飛び退け回避する。
モエ(雷の魔法は直線的だ…! 私でも、回避するのは難しくない…!)
モエが手のひらから種を1粒撒いた。
≪page15≫
モエ「ガーディン!!」
モエが呪文を唱えると、地中からずんぐりとした体型の、子供の身長ほどの蓮の魔物が現れた。頭に大きな葉っぱが付いている。
○モエの回想。学校の花壇。
≪page16≫
地面から、小型の植物の魔物が数体出現した。
魔物に怯え、飛び上がるモエ。
モエ「うわっ!?」
モエ(ずっと魔力を流し続けた種が… 魔力の影響で、魔物化した…!?)
魔物『ギィッ! ギィッ!』
モエ「ひっ…!!」
魔物たちに、怯えるモエ。
≪page17≫
だが、魔物たちは、モエに懐いて寄り添っていた。
モエ「君たちは、私の味方っすか…?」
○回想終了。
モエ(あの時の魔物は、すぐに枯れちゃったっすけど、今回はさらに魔力を注いだ…!)
モエ(この魔物は、私よりも強い…!!)
エレナ「魔物を使うなんて…あなたも随分、悪趣味になったのね」
モエ「……」
≪page18≫
エレナ「無視しないでよ。モエ“ちゃん”?」
エレナ「サンディラ」
魔物に構わず、エレナはモエをロックオンして再び雷の魔法を唱える。蓮の魔物はモエの前に飛び出すと、葉の部分を前に向け、雷を防いだ。
エレナ「ふーん…。やるじゃない…。Eランクのクセに」
≪page19≫
エレナはモエを見下しているかのような視線を送る。
エレナ「サンディバン」
突如、手のひらをかざしていたエレナが、モエに人差し指を向け、別の呪文を唱える。蓮の魔物が再びモエを守ろうとする。
モエ「……!!」
小さな雷が、蓮の魔物の体内に侵入した。
≪page20≫
SE『パァァァァンッ!!』
魔物の内側で雷が弾け、蓮の魔物の体は稲妻を撒き散らしながら破裂してしまった。それを見ていたモエの表情がこわばる。
エレナ「モエ“ちゃん”にも、この魔法当ててあげようか…?」
エレナ「くひ、くひひひ…」
≪page21≫
エレナ「あはははははははっ!!」
モエ「……!」
あまりにも不気味なエレナの姿に、強い意志で立ち向かっていたはずのモエの心が少しずつ弱り始めていく。
モエは、今度は種を2粒地面へ投げる。
モエ「ガーディン!!」
≪page22≫
それぞれ、モエの身長よりスラリと高いバラの魔物とサボテンの魔物に成長する。どちらの魔物にも普通のバラとサボテンより大きなトゲが生えていた。
エレナ「なにそれ? そんなにお友達を増やして、お遊戯でも始めるの?」
エレナは魔物を無視。モエに向け手をかざす。
≪page23≫
エレナ「ほら、魔物のお友達。また守ってあげないと、モエ“ちゃん”が死んじゃうよ?」
モエ「…お願いっ!」
モエの声に合わせて、バラとサボテンの魔物は、体に生えていた大きなトゲを数本エレナに向かって飛ばす。
エレナ「えっ…!?」
≪page24≫
エレナのローブの袖や裾にトゲが突き刺さり、エレナはそのまま岩壁に拘束された。
エレナ「……うっ!」
エレナは体を大きく動かしもがくが、岩肌に深く刺さったトゲは抜ける気配はなかった。両腕を動かすことが出来ず、モエに狙いを付けられなくなった。
エレナ「トゲを飛ばすなんて…」
≪page25≫
モエ「エレナ先輩…」
モエ「私…。先輩の全てを受け入れるっす…!」
モエ「矢で射貫かれようが、雷を浴びせられようが…!」
モエ「…私は、エレナ先輩の味方っす…!!」
モエが魂を込めた言葉を送ると、エレナはもがくのをやめ、その言葉を静かに聞いていた。
エレナ「モエ…」
≪page26≫
エレナ「私が魔物になるとしても…?」
モエ「え……?」
このまま説得出来るかと思われたエレナの顔が、再び醜く歪んでいく。
エレナ「私は一生懸命、真面目に授業を受けて、真面目に特訓して、真面目に任務を達成して…」
エレナ「そしてようやく、Sランクになった…」
≪page27≫
エレナ「それなのに、ある日突然、お前はSランクになったせいで魔物になると言われた…!!」
モエ「ま、魔物…!?」
魔物化の話を初めて聞いたモエは、ショックのあまり後ずさってしまう。
エレナ「そう、魔物! 私は、Sランクになったあの日から、何度も魔物になりかけてる!! 」
≪page28≫
エレナ「腕や足が毛むくじゃらになって…。醜く変わって…!そのたびに、何度も何度も、私は床に胃液を吐き散らした…!!」
モエ「……!!」
エレナ「汚くて、臭くて…。本当に惨めで…」
エレナ「なんで私がこんな目に…? 私が何か悪いことした…?」
≪page29≫
感情を剥き出しにして怒り狂うエレナ。
エレナ「馬鹿馬鹿しいよね!? だったら私は、努力なんてしなかったッ!!」
エレナ「あなたみたいに、一生Eランクでのうのうと暮らしていたわッ!!」
エレナがモエに殺意を送る。真実を知らず、平和に毎日を過ごしている低ランクの魔法学生が、エレナには憎くて憎くてたまらなかった。
エレナの剥き出しの感情を浴びて、モエは青ざめる。
≪page30≫
エレナ「モエ…? あなたは、魔物になった私とも、お友達になってくれるの…?」
モエ「…エ、エレナ…先輩…」
エレナ「魔物になった私を受け入れて、そのままバリバリと喰い殺されてくれるの?」
モエ「あ…あの…」
SE『ビリッ』
エレナがトゲが刺さっていた袖を強引に引っ張り、服が千切れていた。エレナの右腕は自由になった。
≪page31≫
手のひらをモエに向ける。
モエ「…ッ!!」
エレナ「サンディラ」
バチィッ。と雷が弾ける音が響く。モエの小さな身体は雷の魔法に貫かれていた。
モエ「あっ……」
モエの全身は稲妻を纏う。そのまま体を痙攣させるとドサッと地面に倒れ伏した。
≪page32≫
モエはピクリとも動かない。エレナはモエの死体を足でつついていた。
エレナ「…さようなら。可哀想なモエ」
エレナはゴミを見るような目で、モエのことを見下ろしていた。
○施設の先へ進むユキ。
ユキ「待っててね…。リンちゃん…。モエちゃん…」
ユキ「きっとまた、一緒にいられるようにしてみせるから…!!」
≪page1≫
ユキは最強の魔法学生、マントル・デイサイトを倒すことが出来た。倒れて気絶しているマントルを残し、謎の鉄の扉の前に立つ。そして、ドアノブに手を掛ける。
ユキ「……」
ユキの手は震えていた。
≪page2≫
ズッシリと重い、鉄の扉を押し開ける。
扉の先には人工的に掘られたとしか思えない、綺麗で真っ直ぐな通路があった。人が4人横に並んで通れるくらいには、余裕のある広さに作られている。岩壁のいくつかは彫り抜かれ、照明にランプが吊るされている。
ユキ「何、ここ…?」
辺りを見回すユキ。
≪page3≫
ユキの頬を一筋、汗が伝う。
ユキ(怖い…。何がこんなに怖いのか分からないけど…。何か異様な、気配のようなものを感じる…)
ユキは足取り重く通路を進んでいく。
エレナ「……」
その背後に、フードを被ったエレナが立っていた。
≪page4≫
エレナは被っていたフードを下ろした。
エレナ「…サンディラヴァー」
エレナは光の弓を生成し、ユキに狙いを定める。
ユキ(この空洞を覆い尽くすような…殺気のような強い気配…。この奥から感じる…! 早く、リンちゃんを見つけないと…!)
施設の奥から漂う謎の殺気。その巨大な気配に掻き消され、ユキはエレナの殺気に全く気付いていない。エレナはユキの背中を、心臓を射抜ける位置を狙う。
≪page5≫
エレナ(Fランク…)
エレナはギリッと歯を食いしばる。
エレナ(Fランク…。Fランク…ッ!)
○エレナの脳裏に、氷の弓を構えるユキが浮かぶ。
エレナ(許せない…)
怒りの感情で端正な顔立ちは歪み始める。
≪page6≫
エレナ(殺してやる…ッ!!)
鬼のような形相へと変わるエレナ。
パッと、構えていた矢から指を離す。矢はユキ目掛けて飛んでいく。
かと思われた。
モエ「プランナー!!」
エレナ「……ッ!?」
≪page7≫
植物のツルが矢を受け止めていた。見覚えのある魔法に、エレナは勢いよく後ろを振り返る。
モエ「…エレナ先輩」
エレナ「モエ…!」
モエを見て驚くエレナ。モエは真っ直ぐエレナを見つめていた。
エレナ「 なんで、こんな所に…!」
≪page8≫
モエ「ユキさんの制服に、特殊な植物の種を飛ばしておきました…。この植物の花は、必ず種のある方向を向きます…。それを頼りに、ここまで辿り着きました…」
エレナ「さすが、モエね…」
モエ「エレナ先輩…。一体、何があったんすか…? いい加減、話してくださいっす…!」
エレナ「モエ…。あなたは、いつも優しくて…。ちょっぴり泣き虫で…。でも、本当はとても強い子よね…」
エレナは、モエの思い出を振り返り、穏やかな表情を見せていた。
≪page9≫
だが、その顔は徐々に醜く歪んでいく。
エレナ「でも、あなた…。Eランクでしょ…?」
エレナ「……死んでよ?」
モエ「……!?」
突然、別人のように顔が歪むエレナ。そんなエレナを見て、涙が溢れ出しそうになるモエ。
≪page10≫
モエ(だ…)
モエ(駄目だ…! 泣くな…! 泣くな…!!)
モエは涙を零さぬように、必死で耐える。
モエ(泣いてる、場合じゃない…!!)
エレナ「……」
涙を零さず耐えるモエ。そんなモエを、冷たく見下ろしているエレナ。
≪page11≫
モエ「私が…助けるっす…!」
モエ「リン先輩も…。エレナ先輩も…!!」
力強くエレナに立ち向かうモエ。
モエ(分かってるっす…! エレナ先輩は、こんな人じゃない…! 今のエレナ先輩は、本当の姿じゃない…!!)
≪page12≫
エレナ「…ふぅん。本当に優しいわね」
エレナ「…馬鹿みたいに」
エレナはモエと通路を見回している。そして、光の弓を解除した。
エレナ「こんな狭いところで、弓なんて使ってもね。それに…」
≪page13≫
エレナ「あなたなんて…これで死んじゃうんだから」
エレナ「サンディラ」
モエ「…!!」
雷の一閃がモエを襲う。
≪page14≫
モエは横に飛び退け回避する。
モエ(雷の魔法は直線的だ…! 私でも、回避するのは難しくない…!)
モエが手のひらから種を1粒撒いた。
≪page15≫
モエ「ガーディン!!」
モエが呪文を唱えると、地中からずんぐりとした体型の、子供の身長ほどの蓮の魔物が現れた。頭に大きな葉っぱが付いている。
○モエの回想。学校の花壇。
≪page16≫
地面から、小型の植物の魔物が数体出現した。
魔物に怯え、飛び上がるモエ。
モエ「うわっ!?」
モエ(ずっと魔力を流し続けた種が… 魔力の影響で、魔物化した…!?)
魔物『ギィッ! ギィッ!』
モエ「ひっ…!!」
魔物たちに、怯えるモエ。
≪page17≫
だが、魔物たちは、モエに懐いて寄り添っていた。
モエ「君たちは、私の味方っすか…?」
○回想終了。
モエ(あの時の魔物は、すぐに枯れちゃったっすけど、今回はさらに魔力を注いだ…!)
モエ(この魔物は、私よりも強い…!!)
エレナ「魔物を使うなんて…あなたも随分、悪趣味になったのね」
モエ「……」
≪page18≫
エレナ「無視しないでよ。モエ“ちゃん”?」
エレナ「サンディラ」
魔物に構わず、エレナはモエをロックオンして再び雷の魔法を唱える。蓮の魔物はモエの前に飛び出すと、葉の部分を前に向け、雷を防いだ。
エレナ「ふーん…。やるじゃない…。Eランクのクセに」
≪page19≫
エレナはモエを見下しているかのような視線を送る。
エレナ「サンディバン」
突如、手のひらをかざしていたエレナが、モエに人差し指を向け、別の呪文を唱える。蓮の魔物が再びモエを守ろうとする。
モエ「……!!」
小さな雷が、蓮の魔物の体内に侵入した。
≪page20≫
SE『パァァァァンッ!!』
魔物の内側で雷が弾け、蓮の魔物の体は稲妻を撒き散らしながら破裂してしまった。それを見ていたモエの表情がこわばる。
エレナ「モエ“ちゃん”にも、この魔法当ててあげようか…?」
エレナ「くひ、くひひひ…」
≪page21≫
エレナ「あはははははははっ!!」
モエ「……!」
あまりにも不気味なエレナの姿に、強い意志で立ち向かっていたはずのモエの心が少しずつ弱り始めていく。
モエは、今度は種を2粒地面へ投げる。
モエ「ガーディン!!」
≪page22≫
それぞれ、モエの身長よりスラリと高いバラの魔物とサボテンの魔物に成長する。どちらの魔物にも普通のバラとサボテンより大きなトゲが生えていた。
エレナ「なにそれ? そんなにお友達を増やして、お遊戯でも始めるの?」
エレナは魔物を無視。モエに向け手をかざす。
≪page23≫
エレナ「ほら、魔物のお友達。また守ってあげないと、モエ“ちゃん”が死んじゃうよ?」
モエ「…お願いっ!」
モエの声に合わせて、バラとサボテンの魔物は、体に生えていた大きなトゲを数本エレナに向かって飛ばす。
エレナ「えっ…!?」
≪page24≫
エレナのローブの袖や裾にトゲが突き刺さり、エレナはそのまま岩壁に拘束された。
エレナ「……うっ!」
エレナは体を大きく動かしもがくが、岩肌に深く刺さったトゲは抜ける気配はなかった。両腕を動かすことが出来ず、モエに狙いを付けられなくなった。
エレナ「トゲを飛ばすなんて…」
≪page25≫
モエ「エレナ先輩…」
モエ「私…。先輩の全てを受け入れるっす…!」
モエ「矢で射貫かれようが、雷を浴びせられようが…!」
モエ「…私は、エレナ先輩の味方っす…!!」
モエが魂を込めた言葉を送ると、エレナはもがくのをやめ、その言葉を静かに聞いていた。
エレナ「モエ…」
≪page26≫
エレナ「私が魔物になるとしても…?」
モエ「え……?」
このまま説得出来るかと思われたエレナの顔が、再び醜く歪んでいく。
エレナ「私は一生懸命、真面目に授業を受けて、真面目に特訓して、真面目に任務を達成して…」
エレナ「そしてようやく、Sランクになった…」
≪page27≫
エレナ「それなのに、ある日突然、お前はSランクになったせいで魔物になると言われた…!!」
モエ「ま、魔物…!?」
魔物化の話を初めて聞いたモエは、ショックのあまり後ずさってしまう。
エレナ「そう、魔物! 私は、Sランクになったあの日から、何度も魔物になりかけてる!! 」
≪page28≫
エレナ「腕や足が毛むくじゃらになって…。醜く変わって…!そのたびに、何度も何度も、私は床に胃液を吐き散らした…!!」
モエ「……!!」
エレナ「汚くて、臭くて…。本当に惨めで…」
エレナ「なんで私がこんな目に…? 私が何か悪いことした…?」
≪page29≫
感情を剥き出しにして怒り狂うエレナ。
エレナ「馬鹿馬鹿しいよね!? だったら私は、努力なんてしなかったッ!!」
エレナ「あなたみたいに、一生Eランクでのうのうと暮らしていたわッ!!」
エレナがモエに殺意を送る。真実を知らず、平和に毎日を過ごしている低ランクの魔法学生が、エレナには憎くて憎くてたまらなかった。
エレナの剥き出しの感情を浴びて、モエは青ざめる。
≪page30≫
エレナ「モエ…? あなたは、魔物になった私とも、お友達になってくれるの…?」
モエ「…エ、エレナ…先輩…」
エレナ「魔物になった私を受け入れて、そのままバリバリと喰い殺されてくれるの?」
モエ「あ…あの…」
SE『ビリッ』
エレナがトゲが刺さっていた袖を強引に引っ張り、服が千切れていた。エレナの右腕は自由になった。
≪page31≫
手のひらをモエに向ける。
モエ「…ッ!!」
エレナ「サンディラ」
バチィッ。と雷が弾ける音が響く。モエの小さな身体は雷の魔法に貫かれていた。
モエ「あっ……」
モエの全身は稲妻を纏う。そのまま体を痙攣させるとドサッと地面に倒れ伏した。
≪page32≫
モエはピクリとも動かない。エレナはモエの死体を足でつついていた。
エレナ「…さようなら。可哀想なモエ」
エレナはゴミを見るような目で、モエのことを見下ろしていた。
○施設の先へ進むユキ。
ユキ「待っててね…。リンちゃん…。モエちゃん…」
ユキ「きっとまた、一緒にいられるようにしてみせるから…!!」