第14話
○ユキたちの女子寮内。
≪page1≫
ユキ「……」
モエ「ぐすっ、ぐすっ…!」
リンとの会話後。ベッドで泣き続けるモエ。ユキは悲痛な表情を浮かべて、自分のベッドの上でモエの泣き声を聞き続けていた。
ユキ(モエちゃん…!)
モエのことを想い、胸が締め付けられる感覚に襲われたユキは、思わず胸元を握り締めるように押さえていた。
≪page2≫
○1人、職員室に向かうユキ。
ローク「リンさんの様子がおかしい…?」
ユキ「はい…。あんなの、リンちゃんじゃない…。絶対、何かがあったんです…!」
ユキ「先生、お願いします…。リンちゃんの特別任務がなんなのか、私に教えてください…」
ローク「……。申し訳ありませんが、それは教えることは出来ません…」
ユキ「なんでですか…?」
≪page3≫
ローク「Sランクの学生は、強大な力を持つ存在です…。それ故に、その存在は各地で必要とされています…。国の機密事項に関わる任務も数多く引き受けていて、口外することの出来ない事柄が多いんです…」
ユキ「…そんなこと、記憶喪失の私は、聞いたところで理解出来ません…。お願いします…!! 私が、リンちゃんを助けないといけないんです…!!」
ローク「……」
ローク「ユキさん…。分かりました…」
≪page4≫
ローク「私が、リンさんに話を聞きます。そして、彼女が何か悩みを抱えていないか、しっかりと精神状態の把握に努めます…!」
ユキ「…どうしても、私には話せないんですか?」
ローク「…すみません」
ユキ「…分かりました。リンちゃんのこと、よろしくお願いします…」
ユキはロークにリンのことを託し、職員室をあとにした。
ローク「…すみません。ユキさん。魔物化のことは、あなたに話す訳にはいかないんです…!」
ユキが去った後、ロークは悲痛な表情を浮かべていた。
≪page5≫
○廊下を歩くユキ。
ユキ「……」
回想の鈴子『先生に言っても、きっと仲良くなれるとか適当なこと言って放置されて…。大人の言うことなんて信じちゃ駄目だね…。あはは…』
ユキ「大人の言うことなんて、信じちゃ駄目だ…」
鈴子の言葉を思い出し、眉間にシワを寄せるユキ。
ミスティ「おや、ユキ君…?」
ユキと偶然すれ違うミスティ。ユキの様子がおかしいことに気付き、声を掛けた。
ミスティ「どうしたんだい? そんなに怖い顔をして…」
ユキ「……大人」
ミスティ「え?」
≪page6≫
ユキ「…いえ、なんでもありません」
ユキは、ミスティを怪訝な顔で見つめ、その場から立ち去った。
ミスティ「ユキ君…」
ミスティ「…まさか、気付いているのか?」
1人、意味深な言葉をつぶやくミスティ。
○ユキが女子寮内に戻る。
モエ「すん…すん…」
モエの鼻をすする音が、いつまでも止まない。
≪page7≫
ユキ(モエちゃん…。あれから、ずっと泣いてる…)
ユキ(なんで…)
ユキ(なんで、あの子が、こんな思いをしなければいけないんだ…!!)
目を瞑りながら、ユキは、不可解な現状に怒りを募らせていた。
ユキ(約束したんだ…! モエちゃんと…!)
≪page8≫
ユキ(私が必ず、リンちゃんを助けるって…!!)
ユキ「モエちゃん…。少し、出かけて来るから…」
そう言い残し、ユキは寮をあとにした。
○Sランク専用宿舎。
ユキ(この建物、普段は魔法の鍵が掛かってて、入ることが出来ない…)
ユキ(…だったら、ひたすら、リンちゃんが出て来るのを待つしかない!)
宿舎の入り口が見える茂みに隠れ、リンが出て来るのを待ち続けるユキ。
○数時間後、夕暮れの宿舎。
ユキ「……」
≪page9≫
ユキ(出て来ない…。リンちゃんは、私が張り込む前から寮内にいないのか…? 分からない…)
ユキ(分からないけど、私に出来ることは、これしかない…)
諦めることなく、張り込みを続けるユキ。
ユキ(…!)
リンが宿舎から姿を現した。
ユキ(出て来た…!)
リンの姿を確認し、飛び出しそうになるユキ。
≪page10≫
ユキ(いや、駄目だ…!)
回想のリン『Sランクの特別任務で忙しいから』
ユキ(きっと、今のリンちゃんとは、会話をしても意味がない…。だったら…!)
気付かれぬように、リンの尾行を始めるユキ。
○リンは学校の外へ出て、森の中へ入っていく。
ユキ(こんな時間にどこへ…?)
暗い中、リンは明かりも持たずに、迷いなく進んでいく。
≪page11≫
リンの尾行を続けるユキ。暗い森の中で、ユキはリンを見失わないようにするので精一杯になっている。
ユキ(うっ…! なんでリンちゃんは、こんな暗い中を進めるんだ…?)
リンの手には、薄っすらと光る石が握られていた。
ユキ(なんだ、あの石…?)
リンが進むほどに、石の光は強くなっていく。
ユキ(あの石の光を頼りにしているんだ…!)
ユキ「痛…!」
≪page12≫
木の枝が、ユキの頬に切り傷を作る。
ユキ(見失う訳にはいかない…! 私が、リンちゃんを助けるんだ…!!)
ユキは、リンに気付かれない距離を保ちながら、懸命に尾行を続けた。
○森の中を抜けるリン。
ユキ(や、やっと、森を抜けた…)
息を切らし、傷だらけになりながら、林の中からリンの様子を窺うユキ。
≪page13≫
ユキ(洞窟…?)
森を抜け、さらにしばらく歩いたリンは、なんの変哲もない小さな洞窟の岩壁の前で立ち止まった。
ユキ「……!!」
リンがしばらく立ち続けていると、岩肌に鉄の扉が現れた。
ユキ(…魔法で隠されていたのか? あんな所で、リンちゃんは一体何を…?)
リンが扉を開け中に入った。その後にユキも続こうとしていた。
SE『ヒュオッ!!』
ユキ「…!?」
辺りが赤く照らされ、何かが飛んで来る音が聞こえた。
≪page14≫
ユキは咄嗟に前へ飛んだ。
SE『ボッコオオオオン!!』
ユキが立っていた地面に、マグマの塊が着弾していた。
≪page15≫
ローブの男「……はぁ」
渓谷で戦った男が、暗がりの中、マグマに照らされながら、ユキの前に姿を現した。
ユキ「……。お前は…」
○ユキの回想。
寮内でリンと話すユキ。
リン『マグマを使う魔法学生と戦った…? それ…ウチの学校じゃ超有名人よ…』
≪page16≫
リン『最強の魔法学生…。マントル・デイサイト…』
リン『長い間、学校から姿を消していて、Sランクの魔物の討伐で、各地を飛び回ってるなんて噂されていたけど…。まさかエレナと一緒にいたなんて…』
○回想終了。
ユキは警戒心を高める。
ユキ「マントル・デイサイト…」
マントル「ふっ…。俺の正体はバレていたか…。まぁ、当然だな…。マグマを使う学生など、俺の他にまずいない…」
≪page17≫
フードも意味はないと言わんばかりに顔を晒すマントル。険しい顔付きの青年。最強の名に相応しい風格を漂わせていた。
ユキ「私はリンちゃんに会いに来たんだ…。邪魔しないで…」
マントル「はぁ…。そうはいかん」
マントル「何故なら俺の仕事は、それを邪魔することなのだからな…」
マントルは体から蒸気を発生させる。
≪page18≫
マントル「マグディバイド!!」
マントルは呪文を唱え、マグマで作られた真紅のグローブを装着する。
ユキ「はぁッ!!」
ユキも負けじと、魔法の武器を作り出す。
ユキ(最強の魔法学生が相手なら、私も、強い武器を作る…!)
ユキの身体からも、マントルの蒸気のように冷気が噴き出していた。
≪page19≫
ユキは氷のバズーカ砲を生成し、それを肩に担いだ。
回想の鈴子『雪ちゃん、これ見て! バズーカ砲! めっちゃ強いの!』
鈴子にゲームで見せてもらったバズーカ砲。それをユキは生み出していた。
マントル「……? なんだその武器は…?」
ユキ「バズーカ砲」
マントル「ばずーかほう?」
この世界にバズーカ砲は存在しない。マントルは、謎の物体を不思議そうに見つめた。
マントル「なんだか分からんが…行くぞッ!!」
≪page20≫
マグマの拳が高速で突っ込んでくる。それに狙いを定め、ユキはバズーカから雪の砲弾を撃ち出した。
真紅のグローブとぶつかった雪の砲弾が爆発し、辺り一面に雪と氷の結晶が散らばる。
SE『ボゴオオオオンッ!!』
マントル「ぬおっ…!?」
≪page21≫
凄まじい破壊力にマントルは吹っ飛んでいた。
マントルが体勢を崩している隙を狙い、ユキは次々と雪の砲弾を撃ち出していく。
マントル「くぅっ…!!」
砲弾が着弾するたびに、雪と氷の爆風がマントルを襲う。マントルはグローブをクロスさせ、爆風の衝撃を減らすので精一杯になっている。
マントル「ふっ…! この俺が押されるとは…!!」
ユキの実力に、マントルは思わず笑みを浮かべていた。
≪page22≫
マントルは接近戦は分が悪いと、真紅のグローブを一旦解除する。そして、手のひらをユキに向ける。
マントル「マグナム!!」
ユキ(さっきの魔法か…!)
マグマの砲弾がユキに向かって放たれる。ユキはバズーカの砲弾で迎え撃つ。
≪page23≫
SE『ボオオオオオンッ!!』
マグマと雪の砲弾が空中でぶつかり、大爆発を起こした。お互い砲弾を撃ち合う。辺りには無数のマグマと雪が飛び散っている。
ユキ「はぁっ…はぁっ…!」
マントル「はぁ…ふぅ…」
重いバズーカ砲を担いでいるユキは、疲労の色を見せていた。マントルも魔力を多く消耗し、息を切らしている。
≪page24≫
マントル「キリがないな…。ならば、これはどうだッ!!」
地面に手をつけるマントル。
ユキ「…!!」
マントル「マグナオンッ!!」
地面が裂け、亀裂からマグマが吹き出した。これはユキが以前防ぎきれなかった魔法だ。
ユキは氷のバズーカ砲でマグマを狙う。
≪page25≫
ボンッ!と砲弾を撃ち出すが、雪の砲弾はマグマの波に飲み込まれ、爆発を起こさずに蒸発してしまった。
ユキ「くっ…! やっぱり、氷が効かない…!」
マグマの波にはユキの能力が通じなかった。ユキはバズーカ砲を投げ捨てると、無数の氷の壁を自分の前に並べる。しかし。
SE『ジュオオオオオッ!!』
次々に溶かされ蒸発していく壁。辺りに遮蔽物はない。万事休すだった。
ユキ「だ、駄目だ…。私の氷は…マグマには、勝てない…!」
≪page26≫
追い詰められ、諦めかけるユキ。その時、鈴子の顔が浮かんでいた。
ユキ「…!」
○ユキの回想。ハンバーガーショップで会話をするユキと鈴子。
マグマに落ちたゲームのキャラクターの動画を観て、鈴子からマグマの説明を受けた直後のユキ。
ユキ「マグマって怖いんだね…。落ちたらもう、どうしようもないのかな…」
鈴子「ふっふっふ…。実は、ひとつだけ助かる方法があるんだよ…!」
ユキ「えっ?」
≪page27≫
鈴子「お水だよ」
ユキ「水!?」
鈴子「そう! もしマグマに落っこちても、バケツの水があれば、マグマを冷やして固めることが出来るの!」
ユキ「へぇ〜! 凄い! さすが鈴子ちゃん! なんでも知ってるんだね!」
≪page28≫
鈴子「いやいや、こんなの全然凄くないから…! それに、これはゲームの話だし! 現実のマグマとは、違うかもだから!」
○回想終了。
ユキ(マグマは、冷えると固まる…?)
ユキ(何度も氷を使っても、マグマに全部溶かされた…。本当に、そんなことが可能なの…?)
ユキ「……」
ユキ「私は、鈴子ちゃんを信じる!!」
大きく息を吸うユキ。
≪page29≫
そして一気に吐き出した。
SE『ビュオオオオオオッ!!』
ユキはマグマに凄まじい範囲と風圧の氷の息を吹き掛ける。だが、マグマはグツグツという音を立てながらユキに迫り続けた。そして、つま先に触れそうなほどに追い詰められる。
ユキ(わ、私は絶対に諦めない…!!)
ユキ(大切な、友達のために…!!)
ユキは全神経を息を吐き出すことへ集中させる。氷の息は勢いを増した。そして、次第にマグマの波の動き鈍り、黒く変色していく。その光景を見て、マントルは驚愕する。
マントル「な…なんだと…!?」
≪page30≫
マントル「俺の魔法を、超える力…」
マグマが全て固まり、放心状態のマントル。それを尻目に、ユキは靴の裏にスケートシューズの刃のような物を形成すると、凍らせたマグマの上を颯爽と滑っていく。
マントル「は…速…ッ!!」
≪page31≫
速いと言い終える前に、ユキはもうマントルの目の前にいた。ユキの両腕には氷のグローブがはめられている。マントルも慌ててマグマのグローブで応戦する。
ユキ「うおりゃあっ!!」
マントル「ぬああああッ!!」
青と赤、それぞれのパンチを繰り出す両者。そして、2人の動きが止まる。
≪page32≫
真紅の拳を躱しながら、ユキの右ストレートがマントルの顔面に突き刺さっていた。クロスカウンターが決まった。
マントル「ふっ…。み、見事だ…。………はぁ」
マントルは最後に溜め息をつき終えると、白目を剥いて地面に倒れた。ユキは拳を掲げてガッツポーズをしていた。
○ユキたちの女子寮内。
≪page1≫
ユキ「……」
モエ「ぐすっ、ぐすっ…!」
リンとの会話後。ベッドで泣き続けるモエ。ユキは悲痛な表情を浮かべて、自分のベッドの上でモエの泣き声を聞き続けていた。
ユキ(モエちゃん…!)
モエのことを想い、胸が締め付けられる感覚に襲われたユキは、思わず胸元を握り締めるように押さえていた。
≪page2≫
○1人、職員室に向かうユキ。
ローク「リンさんの様子がおかしい…?」
ユキ「はい…。あんなの、リンちゃんじゃない…。絶対、何かがあったんです…!」
ユキ「先生、お願いします…。リンちゃんの特別任務がなんなのか、私に教えてください…」
ローク「……。申し訳ありませんが、それは教えることは出来ません…」
ユキ「なんでですか…?」
≪page3≫
ローク「Sランクの学生は、強大な力を持つ存在です…。それ故に、その存在は各地で必要とされています…。国の機密事項に関わる任務も数多く引き受けていて、口外することの出来ない事柄が多いんです…」
ユキ「…そんなこと、記憶喪失の私は、聞いたところで理解出来ません…。お願いします…!! 私が、リンちゃんを助けないといけないんです…!!」
ローク「……」
ローク「ユキさん…。分かりました…」
≪page4≫
ローク「私が、リンさんに話を聞きます。そして、彼女が何か悩みを抱えていないか、しっかりと精神状態の把握に努めます…!」
ユキ「…どうしても、私には話せないんですか?」
ローク「…すみません」
ユキ「…分かりました。リンちゃんのこと、よろしくお願いします…」
ユキはロークにリンのことを託し、職員室をあとにした。
ローク「…すみません。ユキさん。魔物化のことは、あなたに話す訳にはいかないんです…!」
ユキが去った後、ロークは悲痛な表情を浮かべていた。
≪page5≫
○廊下を歩くユキ。
ユキ「……」
回想の鈴子『先生に言っても、きっと仲良くなれるとか適当なこと言って放置されて…。大人の言うことなんて信じちゃ駄目だね…。あはは…』
ユキ「大人の言うことなんて、信じちゃ駄目だ…」
鈴子の言葉を思い出し、眉間にシワを寄せるユキ。
ミスティ「おや、ユキ君…?」
ユキと偶然すれ違うミスティ。ユキの様子がおかしいことに気付き、声を掛けた。
ミスティ「どうしたんだい? そんなに怖い顔をして…」
ユキ「……大人」
ミスティ「え?」
≪page6≫
ユキ「…いえ、なんでもありません」
ユキは、ミスティを怪訝な顔で見つめ、その場から立ち去った。
ミスティ「ユキ君…」
ミスティ「…まさか、気付いているのか?」
1人、意味深な言葉をつぶやくミスティ。
○ユキが女子寮内に戻る。
モエ「すん…すん…」
モエの鼻をすする音が、いつまでも止まない。
≪page7≫
ユキ(モエちゃん…。あれから、ずっと泣いてる…)
ユキ(なんで…)
ユキ(なんで、あの子が、こんな思いをしなければいけないんだ…!!)
目を瞑りながら、ユキは、不可解な現状に怒りを募らせていた。
ユキ(約束したんだ…! モエちゃんと…!)
≪page8≫
ユキ(私が必ず、リンちゃんを助けるって…!!)
ユキ「モエちゃん…。少し、出かけて来るから…」
そう言い残し、ユキは寮をあとにした。
○Sランク専用宿舎。
ユキ(この建物、普段は魔法の鍵が掛かってて、入ることが出来ない…)
ユキ(…だったら、ひたすら、リンちゃんが出て来るのを待つしかない!)
宿舎の入り口が見える茂みに隠れ、リンが出て来るのを待ち続けるユキ。
○数時間後、夕暮れの宿舎。
ユキ「……」
≪page9≫
ユキ(出て来ない…。リンちゃんは、私が張り込む前から寮内にいないのか…? 分からない…)
ユキ(分からないけど、私に出来ることは、これしかない…)
諦めることなく、張り込みを続けるユキ。
ユキ(…!)
リンが宿舎から姿を現した。
ユキ(出て来た…!)
リンの姿を確認し、飛び出しそうになるユキ。
≪page10≫
ユキ(いや、駄目だ…!)
回想のリン『Sランクの特別任務で忙しいから』
ユキ(きっと、今のリンちゃんとは、会話をしても意味がない…。だったら…!)
気付かれぬように、リンの尾行を始めるユキ。
○リンは学校の外へ出て、森の中へ入っていく。
ユキ(こんな時間にどこへ…?)
暗い中、リンは明かりも持たずに、迷いなく進んでいく。
≪page11≫
リンの尾行を続けるユキ。暗い森の中で、ユキはリンを見失わないようにするので精一杯になっている。
ユキ(うっ…! なんでリンちゃんは、こんな暗い中を進めるんだ…?)
リンの手には、薄っすらと光る石が握られていた。
ユキ(なんだ、あの石…?)
リンが進むほどに、石の光は強くなっていく。
ユキ(あの石の光を頼りにしているんだ…!)
ユキ「痛…!」
≪page12≫
木の枝が、ユキの頬に切り傷を作る。
ユキ(見失う訳にはいかない…! 私が、リンちゃんを助けるんだ…!!)
ユキは、リンに気付かれない距離を保ちながら、懸命に尾行を続けた。
○森の中を抜けるリン。
ユキ(や、やっと、森を抜けた…)
息を切らし、傷だらけになりながら、林の中からリンの様子を窺うユキ。
≪page13≫
ユキ(洞窟…?)
森を抜け、さらにしばらく歩いたリンは、なんの変哲もない小さな洞窟の岩壁の前で立ち止まった。
ユキ「……!!」
リンがしばらく立ち続けていると、岩肌に鉄の扉が現れた。
ユキ(…魔法で隠されていたのか? あんな所で、リンちゃんは一体何を…?)
リンが扉を開け中に入った。その後にユキも続こうとしていた。
SE『ヒュオッ!!』
ユキ「…!?」
辺りが赤く照らされ、何かが飛んで来る音が聞こえた。
≪page14≫
ユキは咄嗟に前へ飛んだ。
SE『ボッコオオオオン!!』
ユキが立っていた地面に、マグマの塊が着弾していた。
≪page15≫
ローブの男「……はぁ」
渓谷で戦った男が、暗がりの中、マグマに照らされながら、ユキの前に姿を現した。
ユキ「……。お前は…」
○ユキの回想。
寮内でリンと話すユキ。
リン『マグマを使う魔法学生と戦った…? それ…ウチの学校じゃ超有名人よ…』
≪page16≫
リン『最強の魔法学生…。マントル・デイサイト…』
リン『長い間、学校から姿を消していて、Sランクの魔物の討伐で、各地を飛び回ってるなんて噂されていたけど…。まさかエレナと一緒にいたなんて…』
○回想終了。
ユキは警戒心を高める。
ユキ「マントル・デイサイト…」
マントル「ふっ…。俺の正体はバレていたか…。まぁ、当然だな…。マグマを使う学生など、俺の他にまずいない…」
≪page17≫
フードも意味はないと言わんばかりに顔を晒すマントル。険しい顔付きの青年。最強の名に相応しい風格を漂わせていた。
ユキ「私はリンちゃんに会いに来たんだ…。邪魔しないで…」
マントル「はぁ…。そうはいかん」
マントル「何故なら俺の仕事は、それを邪魔することなのだからな…」
マントルは体から蒸気を発生させる。
≪page18≫
マントル「マグディバイド!!」
マントルは呪文を唱え、マグマで作られた真紅のグローブを装着する。
ユキ「はぁッ!!」
ユキも負けじと、魔法の武器を作り出す。
ユキ(最強の魔法学生が相手なら、私も、強い武器を作る…!)
ユキの身体からも、マントルの蒸気のように冷気が噴き出していた。
≪page19≫
ユキは氷のバズーカ砲を生成し、それを肩に担いだ。
回想の鈴子『雪ちゃん、これ見て! バズーカ砲! めっちゃ強いの!』
鈴子にゲームで見せてもらったバズーカ砲。それをユキは生み出していた。
マントル「……? なんだその武器は…?」
ユキ「バズーカ砲」
マントル「ばずーかほう?」
この世界にバズーカ砲は存在しない。マントルは、謎の物体を不思議そうに見つめた。
マントル「なんだか分からんが…行くぞッ!!」
≪page20≫
マグマの拳が高速で突っ込んでくる。それに狙いを定め、ユキはバズーカから雪の砲弾を撃ち出した。
真紅のグローブとぶつかった雪の砲弾が爆発し、辺り一面に雪と氷の結晶が散らばる。
SE『ボゴオオオオンッ!!』
マントル「ぬおっ…!?」
≪page21≫
凄まじい破壊力にマントルは吹っ飛んでいた。
マントルが体勢を崩している隙を狙い、ユキは次々と雪の砲弾を撃ち出していく。
マントル「くぅっ…!!」
砲弾が着弾するたびに、雪と氷の爆風がマントルを襲う。マントルはグローブをクロスさせ、爆風の衝撃を減らすので精一杯になっている。
マントル「ふっ…! この俺が押されるとは…!!」
ユキの実力に、マントルは思わず笑みを浮かべていた。
≪page22≫
マントルは接近戦は分が悪いと、真紅のグローブを一旦解除する。そして、手のひらをユキに向ける。
マントル「マグナム!!」
ユキ(さっきの魔法か…!)
マグマの砲弾がユキに向かって放たれる。ユキはバズーカの砲弾で迎え撃つ。
≪page23≫
SE『ボオオオオオンッ!!』
マグマと雪の砲弾が空中でぶつかり、大爆発を起こした。お互い砲弾を撃ち合う。辺りには無数のマグマと雪が飛び散っている。
ユキ「はぁっ…はぁっ…!」
マントル「はぁ…ふぅ…」
重いバズーカ砲を担いでいるユキは、疲労の色を見せていた。マントルも魔力を多く消耗し、息を切らしている。
≪page24≫
マントル「キリがないな…。ならば、これはどうだッ!!」
地面に手をつけるマントル。
ユキ「…!!」
マントル「マグナオンッ!!」
地面が裂け、亀裂からマグマが吹き出した。これはユキが以前防ぎきれなかった魔法だ。
ユキは氷のバズーカ砲でマグマを狙う。
≪page25≫
ボンッ!と砲弾を撃ち出すが、雪の砲弾はマグマの波に飲み込まれ、爆発を起こさずに蒸発してしまった。
ユキ「くっ…! やっぱり、氷が効かない…!」
マグマの波にはユキの能力が通じなかった。ユキはバズーカ砲を投げ捨てると、無数の氷の壁を自分の前に並べる。しかし。
SE『ジュオオオオオッ!!』
次々に溶かされ蒸発していく壁。辺りに遮蔽物はない。万事休すだった。
ユキ「だ、駄目だ…。私の氷は…マグマには、勝てない…!」
≪page26≫
追い詰められ、諦めかけるユキ。その時、鈴子の顔が浮かんでいた。
ユキ「…!」
○ユキの回想。ハンバーガーショップで会話をするユキと鈴子。
マグマに落ちたゲームのキャラクターの動画を観て、鈴子からマグマの説明を受けた直後のユキ。
ユキ「マグマって怖いんだね…。落ちたらもう、どうしようもないのかな…」
鈴子「ふっふっふ…。実は、ひとつだけ助かる方法があるんだよ…!」
ユキ「えっ?」
≪page27≫
鈴子「お水だよ」
ユキ「水!?」
鈴子「そう! もしマグマに落っこちても、バケツの水があれば、マグマを冷やして固めることが出来るの!」
ユキ「へぇ〜! 凄い! さすが鈴子ちゃん! なんでも知ってるんだね!」
≪page28≫
鈴子「いやいや、こんなの全然凄くないから…! それに、これはゲームの話だし! 現実のマグマとは、違うかもだから!」
○回想終了。
ユキ(マグマは、冷えると固まる…?)
ユキ(何度も氷を使っても、マグマに全部溶かされた…。本当に、そんなことが可能なの…?)
ユキ「……」
ユキ「私は、鈴子ちゃんを信じる!!」
大きく息を吸うユキ。
≪page29≫
そして一気に吐き出した。
SE『ビュオオオオオオッ!!』
ユキはマグマに凄まじい範囲と風圧の氷の息を吹き掛ける。だが、マグマはグツグツという音を立てながらユキに迫り続けた。そして、つま先に触れそうなほどに追い詰められる。
ユキ(わ、私は絶対に諦めない…!!)
ユキ(大切な、友達のために…!!)
ユキは全神経を息を吐き出すことへ集中させる。氷の息は勢いを増した。そして、次第にマグマの波の動き鈍り、黒く変色していく。その光景を見て、マントルは驚愕する。
マントル「な…なんだと…!?」
≪page30≫
マントル「俺の魔法を、超える力…」
マグマが全て固まり、放心状態のマントル。それを尻目に、ユキは靴の裏にスケートシューズの刃のような物を形成すると、凍らせたマグマの上を颯爽と滑っていく。
マントル「は…速…ッ!!」
≪page31≫
速いと言い終える前に、ユキはもうマントルの目の前にいた。ユキの両腕には氷のグローブがはめられている。マントルも慌ててマグマのグローブで応戦する。
ユキ「うおりゃあっ!!」
マントル「ぬああああッ!!」
青と赤、それぞれのパンチを繰り出す両者。そして、2人の動きが止まる。
≪page32≫
真紅の拳を躱しながら、ユキの右ストレートがマントルの顔面に突き刺さっていた。クロスカウンターが決まった。
マントル「ふっ…。み、見事だ…。………はぁ」
マントルは最後に溜め息をつき終えると、白目を剥いて地面に倒れた。ユキは拳を掲げてガッツポーズをしていた。