第14話

○ユキたちの女子寮内。

≪page1≫

ユキ「……」

モエ「ぐすっ、ぐすっ…!」

リンとの会話後。ベッドで泣き続けるモエ。ユキは悲痛な表情を浮かべて、自分のベッドの上でモエの泣き声を聞き続けていた。

ユキ(モエちゃん…!)

モエのことを想い、胸が締め付けられる感覚に襲われたユキは、思わず胸元を握り締めるように押さえていた。

≪page2≫

○1人、職員室に向かうユキ。

ローク「リンさんの様子がおかしい…?」

ユキ「はい…。あんなの、リンちゃんじゃない…。絶対、何かがあったんです…!」

ユキ「先生、お願いします…。リンちゃんの特別任務がなんなのか、私に教えてください…」

ローク「……。申し訳ありませんが、それは教えることは出来ません…」

ユキ「なんでですか…?」

≪page3≫

ローク「Sランクの学生は、強大な力を持つ存在です…。それ故に、その存在は各地で必要とされています…。国の機密事項に関わる任務も数多く引き受けていて、口外することの出来ない事柄が多いんです…」

ユキ「…そんなこと、記憶喪失の私は、聞いたところで理解出来ません…。お願いします…!! 私が、リンちゃんを助けないといけないんです…!!」

ローク「……」

ローク「ユキさん…。分かりました…」

≪page4≫

ローク「私が、リンさんに話を聞きます。そして、彼女が何か悩みを抱えていないか、しっかりと精神状態の把握に努めます…!」

ユキ「…どうしても、私には話せないんですか?」

ローク「…すみません」

ユキ「…分かりました。リンちゃんのこと、よろしくお願いします…」

ユキはロークにリンのことを託し、職員室をあとにした。

ローク「…すみません。ユキさん。魔物化のことは、あなたに話す訳にはいかないんです…!」

ユキが去った後、ロークは悲痛な表情を浮かべていた。

≪page5≫

○廊下を歩くユキ。

ユキ「……」

回想の鈴子『先生に言っても、きっと仲良くなれるとか適当なこと言って放置されて…。大人の言うことなんて信じちゃ駄目だね…。あはは…』

ユキ「大人の言うことなんて、信じちゃ駄目だ…」

鈴子の言葉を思い出し、眉間にシワを寄せるユキ。

ミスティ「おや、ユキ君…?」

ユキと偶然すれ違うミスティ。ユキの様子がおかしいことに気付き、声を掛けた。

ミスティ「どうしたんだい? そんなに怖い顔をして…」

ユキ「……大人」

ミスティ「え?」

≪page6≫

ユキ「…いえ、なんでもありません」

ユキは、ミスティを怪訝な顔で見つめ、その場から立ち去った。

ミスティ「ユキ君…」

ミスティ「…まさか、気付いているのか?」

1人、意味深な言葉をつぶやくミスティ。

○ユキが女子寮内に戻る。

モエ「すん…すん…」

モエの鼻をすする音が、いつまでも止まない。

≪page7≫

ユキ(モエちゃん…。あれから、ずっと泣いてる…)

ユキ(なんで…)

ユキ(なんで、あの子が、こんな思いをしなければいけないんだ…!!)

目を瞑りながら、ユキは、不可解な現状に怒りを募らせていた。

ユキ(約束したんだ…! モエちゃんと…!)

≪page8≫

ユキ(私が必ず、リンちゃんを助けるって…!!)

ユキ「モエちゃん…。少し、出かけて来るから…」

そう言い残し、ユキは寮をあとにした。

○Sランク専用宿舎。

ユキ(この建物、普段は魔法の鍵が掛かってて、入ることが出来ない…)

ユキ(…だったら、ひたすら、リンちゃんが出て来るのを待つしかない!)

宿舎の入り口が見える茂みに隠れ、リンが出て来るのを待ち続けるユキ。

○数時間後、夕暮れの宿舎。

ユキ「……」

≪page9≫

ユキ(出て来ない…。リンちゃんは、私が張り込む前から寮内にいないのか…? 分からない…)

ユキ(分からないけど、私に出来ることは、これしかない…)

諦めることなく、張り込みを続けるユキ。

ユキ(…!)

リンが宿舎から姿を現した。

ユキ(出て来た…!)

リンの姿を確認し、飛び出しそうになるユキ。

≪page10≫

ユキ(いや、駄目だ…!)

回想のリン『Sランクの特別任務で忙しいから』

ユキ(きっと、今のリンちゃんとは、会話をしても意味がない…。だったら…!)

気付かれぬように、リンの尾行を始めるユキ。

○リンは学校の外へ出て、森の中へ入っていく。

ユキ(こんな時間にどこへ…?)

暗い中、リンは明かりも持たずに、迷いなく進んでいく。

≪page11≫

リンの尾行を続けるユキ。暗い森の中で、ユキはリンを見失わないようにするので精一杯になっている。

ユキ(うっ…! なんでリンちゃんは、こんな暗い中を進めるんだ…?)

リンの手には、薄っすらと光る石が握られていた。

ユキ(なんだ、あの石…?)

リンが進むほどに、石の光は強くなっていく。

ユキ(あの石の光を頼りにしているんだ…!)

ユキ「痛…!」

≪page12≫

木の枝が、ユキの頬に切り傷を作る。

ユキ(見失う訳にはいかない…! 私が、リンちゃんを助けるんだ…!!)

ユキは、リンに気付かれない距離を保ちながら、懸命に尾行を続けた。

○森の中を抜けるリン。

ユキ(や、やっと、森を抜けた…)

息を切らし、傷だらけになりながら、林の中からリンの様子を窺うユキ。

≪page13≫

ユキ(洞窟…?)

森を抜け、さらにしばらく歩いたリンは、なんの変哲もない小さな洞窟の岩壁の前で立ち止まった。

ユキ「……!!」

リンがしばらく立ち続けていると、岩肌に鉄の扉が現れた。

ユキ(…魔法で隠されていたのか? あんな所で、リンちゃんは一体何を…?)

リンが扉を開け中に入った。その後にユキも続こうとしていた。

SE『ヒュオッ!!』

ユキ「…!?」

辺りが赤く照らされ、何かが飛んで来る音が聞こえた。

≪page14≫

ユキは咄嗟に前へ飛んだ。

SE『ボッコオオオオン!!』

ユキが立っていた地面に、マグマの塊が着弾していた。

≪page15≫

ローブの男「……はぁ」

渓谷で戦った男が、暗がりの中、マグマに照らされながら、ユキの前に姿を現した。

ユキ「……。お前は…」

○ユキの回想。

寮内でリンと話すユキ。

リン『マグマを使う魔法学生と戦った…? それ…ウチの学校じゃ超有名人よ…』

≪page16≫

リン『最強の魔法学生…。マントル・デイサイト…』

リン『長い間、学校から姿を消していて、Sランクの魔物の討伐で、各地を飛び回ってるなんて噂されていたけど…。まさかエレナと一緒にいたなんて…』

○回想終了。

ユキは警戒心を高める。

ユキ「マントル・デイサイト…」

マントル「ふっ…。俺の正体はバレていたか…。まぁ、当然だな…。マグマを使う学生など、俺の他にまずいない…」

≪page17≫

フードも意味はないと言わんばかりに顔を晒すマントル。険しい顔付きの青年。最強の名に相応しい風格を漂わせていた。

ユキ「私はリンちゃんに会いに来たんだ…。邪魔しないで…」

マントル「はぁ…。そうはいかん」

マントル「何故なら俺の仕事は、それを邪魔することなのだからな…」

マントルは体から蒸気を発生させる。

≪page18≫

マントル「マグディバイド!!」

マントルは呪文を唱え、マグマで作られた真紅のグローブを装着する。

ユキ「はぁッ!!」

ユキも負けじと、魔法の武器を作り出す。

ユキ(最強の魔法学生が相手なら、私も、強い武器を作る…!)

ユキの身体からも、マントルの蒸気のように冷気が噴き出していた。

≪page19≫

ユキは氷のバズーカ砲を生成し、それを肩に担いだ。

回想の鈴子『雪ちゃん、これ見て! バズーカ砲! めっちゃ強いの!』

鈴子にゲームで見せてもらったバズーカ砲。それをユキは生み出していた。

マントル「……? なんだその武器は…?」

ユキ「バズーカ砲」

マントル「ばずーかほう?」

この世界にバズーカ砲は存在しない。マントルは、謎の物体を不思議そうに見つめた。

マントル「なんだか分からんが…行くぞッ!!」

≪page20≫

マグマの拳が高速で突っ込んでくる。それに狙いを定め、ユキはバズーカから雪の砲弾を撃ち出した。

真紅のグローブとぶつかった雪の砲弾が爆発し、辺り一面に雪と氷の結晶が散らばる。

SE『ボゴオオオオンッ!!』

マントル「ぬおっ…!?」

≪page21≫

凄まじい破壊力にマントルは吹っ飛んでいた。

マントルが体勢を崩している隙を狙い、ユキは次々と雪の砲弾を撃ち出していく。

マントル「くぅっ…!!」

砲弾が着弾するたびに、雪と氷の爆風がマントルを襲う。マントルはグローブをクロスさせ、爆風の衝撃を減らすので精一杯になっている。

マントル「ふっ…! この俺が押されるとは…!!」

ユキの実力に、マントルは思わず笑みを浮かべていた。

≪page22≫

マントルは接近戦は分が悪いと、真紅のグローブを一旦解除する。そして、手のひらをユキに向ける。

マントル「マグナム!!」

ユキ(さっきの魔法か…!)

マグマの砲弾がユキに向かって放たれる。ユキはバズーカの砲弾で迎え撃つ。

≪page23≫

SE『ボオオオオオンッ!!』

マグマと雪の砲弾が空中でぶつかり、大爆発を起こした。お互い砲弾を撃ち合う。辺りには無数のマグマと雪が飛び散っている。

ユキ「はぁっ…はぁっ…!」

マントル「はぁ…ふぅ…」

重いバズーカ砲を担いでいるユキは、疲労の色を見せていた。マントルも魔力を多く消耗し、息を切らしている。

≪page24≫

マントル「キリがないな…。ならば、これはどうだッ!!」

地面に手をつけるマントル。

ユキ「…!!」

マントル「マグナオンッ!!」

地面が裂け、亀裂からマグマが吹き出した。これはユキが以前防ぎきれなかった魔法だ。

ユキは氷のバズーカ砲でマグマを狙う。

≪page25≫

ボンッ!と砲弾を撃ち出すが、雪の砲弾はマグマの波に飲み込まれ、爆発を起こさずに蒸発してしまった。

ユキ「くっ…! やっぱり、氷が効かない…!」

マグマの波にはユキの能力が通じなかった。ユキはバズーカ砲を投げ捨てると、無数の氷の壁を自分の前に並べる。しかし。

SE『ジュオオオオオッ!!』

次々に溶かされ蒸発していく壁。辺りに遮蔽物はない。万事休すだった。

ユキ「だ、駄目だ…。私の氷は…マグマには、勝てない…!」

≪page26≫

追い詰められ、諦めかけるユキ。その時、鈴子の顔が浮かんでいた。

ユキ「…!」

○ユキの回想。ハンバーガーショップで会話をするユキと鈴子。

マグマに落ちたゲームのキャラクターの動画を観て、鈴子からマグマの説明を受けた直後のユキ。

ユキ「マグマって怖いんだね…。落ちたらもう、どうしようもないのかな…」

鈴子「ふっふっふ…。実は、ひとつだけ助かる方法があるんだよ…!」

ユキ「えっ?」

≪page27≫

鈴子「お水だよ」

ユキ「水!?」

鈴子「そう! もしマグマに落っこちても、バケツの水があれば、マグマを冷やして固めることが出来るの!」

ユキ「へぇ〜! 凄い! さすが鈴子ちゃん! なんでも知ってるんだね!」

≪page28≫

鈴子「いやいや、こんなの全然凄くないから…! それに、これはゲームの話だし! 現実のマグマとは、違うかもだから!」

○回想終了。

ユキ(マグマは、冷えると固まる…?)

ユキ(何度も氷を使っても、マグマに全部溶かされた…。本当に、そんなことが可能なの…?)

ユキ「……」

ユキ「私は、鈴子ちゃんを信じる!!」

大きく息を吸うユキ。

≪page29≫

そして一気に吐き出した。

SE『ビュオオオオオオッ!!』

ユキはマグマに凄まじい範囲と風圧の氷の息を吹き掛ける。だが、マグマはグツグツという音を立てながらユキに迫り続けた。そして、つま先に触れそうなほどに追い詰められる。

ユキ(わ、私は絶対に諦めない…!!)

ユキ(大切な、友達のために…!!)

ユキは全神経を息を吐き出すことへ集中させる。氷の息は勢いを増した。そして、次第にマグマの波の動き鈍り、黒く変色していく。その光景を見て、マントルは驚愕する。

マントル「な…なんだと…!?」

≪page30≫

マントル「俺の魔法を、超える力…」

マグマが全て固まり、放心状態のマントル。それを尻目に、ユキは靴の裏にスケートシューズの刃のような物を形成すると、凍らせたマグマの上を颯爽と滑っていく。

マントル「は…速…ッ!!」

≪page31≫

速いと言い終える前に、ユキはもうマントルの目の前にいた。ユキの両腕には氷のグローブがはめられている。マントルも慌ててマグマのグローブで応戦する。

ユキ「うおりゃあっ!!」

マントル「ぬああああッ!!」

青と赤、それぞれのパンチを繰り出す両者。そして、2人の動きが止まる。

≪page32≫

真紅の拳を躱しながら、ユキの右ストレートがマントルの顔面に突き刺さっていた。クロスカウンターが決まった。

マントル「ふっ…。み、見事だ…。………はぁ」

マントルは最後に溜め息をつき終えると、白目を剥いて地面に倒れた。ユキは拳を掲げてガッツポーズをしていた。