第12話

≪page1≫

○渓谷でマグマの魔法使いと対峙するユキ。

マグマが津波のようにユキに襲い掛かる。マグマは、モエが魔法で成長させた巨大な植物の根元を一気に溶かし、飲み込んでしまった。

ユキ「…!!」

その圧倒的な熱と破壊力を目の当たりにして、さすがのユキも驚愕の表情を浮かべる。

≪page2≫

ユキ(あの赤い津波…。確か、鈴子ちゃんが見せてくれた…!)

○ユキの回想。ハンバーガーショップで座るユキと鈴子。

鈴子「雪ちゃん! 見てこれ! あたしのお気にの動画!」

ユキ「どうが…?」

鈴子に渡されたワイヤレスイヤホンを片耳に付け、不思議そうにスマホを覗き込むユキ。鈴子のスマホには、洞窟内を冒険するゲームのキャラクターと、画面の端には、実写の眼鏡の男性が映し出されていた。

男性「いやー、余裕でしたね今日は。こんなマグマにも、絶対落ちないですから。 ぎゃああああああっ!!」

洞窟内の細い道を進んでいたキャラクターは、足を滑らせ、マグマの海に落下してしまった。笑いを堪らえる鈴子。

≪page2≫

鈴子「くくっ…! このマグマダイブが芸術的なのよ…! これを超えるダイブはなかなかないんだから…!」

ユキは壮絶な光景を見て、絶句している。

ユキ「この赤いの何…!? この人、死んじゃったの!?」

鈴子「あ…。そっか、雪ちゃんそっからか…」

鈴子はユキの反応に少し困惑しながらも、すぐに優しい表情を浮かべ、丁寧に動画の状況を説明し始めた。

鈴子「これはマグマ! なんかめっちゃ熱いの! これに落ちたら、もう助からないんだから!」

≪page3≫

鈴子「マジ超ヤバイよ! 雪ちゃんも気を付けて! 雪山には、こんなの無いかもしんないけどね! あははっ!」

ユキ「はぁ…。マグマ…」

楽しそうにユキに説明する鈴子。ユキは一生懸命頷きながら、真剣に鈴子の言葉に耳を傾けていた。

○回想終了。

そんなマグマの魔法が、凄まじい熱気を発しながらユキに襲い掛かろうとしていた。

ユキ(凄い熱気だ…! こんなに熱い物、見たことがない…!)

≪page4≫

SE『ボゴオオオオオオッ!!』

ユキ「……くっ!!」

ユキは、即座に氷の壁を作り出し溶岩を受け止める。だが、氷の壁は一瞬で溶け、蒸発してしまった。

ユキ「う、受け止められない…!?」

≪page5≫

ユキは続け様に氷の壁を作り続ける。壁の効果で僅かに流れが変わり、マグマを回避することは出来た。

ユキ(私の氷が通用しないなんて…。相性が悪すぎる…!)

マグマの威力を目の当たりにして、冷や汗を流すユキ。ユキは大男に視線を戻し、追撃に備える。

≪page6≫

ローブの男「…ふぅ。…はぁ…はぁ」

ユキ(息切れしてる…!?)

戦闘が始まったばかりだというのに、男はすでに息を切らしていた。ユキは急いで状況を整理する。

ユキ(1回魔法を使っただけで、あんなに疲れているなんて…。消耗が激しい魔法なのか…!)

ユキは大男の様子を見て、マグマの魔法は、絶大な威力の代償で消耗が激しいことを知る。

≪page7≫

ユキ「だったら!」

ユキは、男が疲れを見せているうちに勝負を決めようと、一気に接近する。

男は大きく息を吸うと、腕まくりをしていた。そして、先程とは別の呪文を唱えた。

ローブの男「マグディバイドッ!!」 

SE『ジュワアアアッ!!』

男の体から蒸気が立ち込める。両腕には真紅のグローブが装着されていた。

≪page8≫

男が力強く地面を蹴ると、ユキの方へ一気に間合いを詰める。ユキ目掛けて真っ赤な拳を振りかぶっていた。

ユキ(さっきとは違う魔法!?)

ユキは氷の壁を駆使して男の攻撃を受け止めようとする。

≪page9≫

SE『ジュボォッ!!』

ユキ「うわっ!?」

氷の壁を真紅のグローブが貫通する。1枚、2枚と氷の壁を作るたびにいとも簡単に破壊されていく。

ユキ(私の氷が、こんなに簡単に…!!)

≪page10≫

ユキ「…それなら、これはどうっ!?」

ユキは拳が貫通出来ないような分厚い氷の壁を作る。男は勢い余って分厚い壁に腕を突っ込んでしまった。

ローブの男「うおっ…!?」

身動きが取れず焦る男。

≪page11≫

その隙に、ユキは氷で巨大なハンマーを作った。

ユキ「これでも、喰らえっ!!」 

男は慌てて、壁に突っ込んでいない方の腕でガードの態勢を取る。

≪page12≫

ローブの男「くっ…!!」

SE『バゴォーンッ!!』

激しい衝撃が男を襲う。その反動で壁にはまった腕は抜けていた。男はガードに使った左腕を負傷していた。

ローブの男「……はぁ」

再び溜め息をつく男。ユキは男の態度に苛立ちを見せる。

≪page13≫

ローブの男「…魔法の武器を作り出せるのは、Sランクに到達した者の特徴だ…。聞いていた通り、本当にSランクでもない魔法学生が、氷魔法を使いこなしているようだな…」

ユキ「魔法の武器…?」

ローブの男「なんだその、氷の力は…?」

ユキ「……」

ユキ「私にも分からない…」

ローブの男「……そうか」

意図が読めない不気味な相手に、ユキはたじろいでいた。

≪page14≫

ローブの男「お前は、別の世界から来たのか…?」

ユキ「えっ…!?」

大男の言葉を聞き、目を見開き驚愕するユキ。

ローブの男「異世界転生というらしいが、俺も詳しいことは知らない…。ただ、そう聞かされている…」

ユキ「だ、誰に…!?」

ローブの男「……」

ユキの質問には答えず、沈黙する大男。

≪page15≫

男はユキと話をしながら、リンたちの戦いを気に掛けている。

ユキ「また、よそ見を…!!」

加勢に行かせる訳にはいかないと、ユキはハンマーを構え、大男に飛び掛かった。

○ユキと大男から離れた場所で戦いを続けるリンと女。

≪page16≫

近距離戦を続けようとしていたリンだが、女は弓で牽制し、リンとの距離を引き離していた。

リン「ちょこまかと動くなっての…!」

女の立ち回りに苛立つリン。女は常にリンの魔法の射程範囲よりギリギリ外をキープし続けようと立ち回っている。

≪page17≫

リン(あの距離は、風魔法が届かない…!)

リン「なんであたしの魔法の範囲知ってんのよ…!」

思うように戦えず、調子を狂わされそうになりながら、なんとか食らいつこうとする。

リンの様子を伺いながら、女は光の矢を放つ。

リンに迫る光の矢。

≪page18≫

リン「エアルッ!!」

リンは風を腕に纏い、光の矢を受け流す。

ローブの女「…!!」

リン(矢を受け流すのに、威力はいらない…! 何度も頭の中でシミュレーションをした通り、光の矢は、エアルで軌道を逸らせる…!)

リンの成長に驚くローブの女。

≪page19≫

リンは女の隙を突こうと攻撃を仕掛ける。

リン「エアル!!」

足に風を纏い接近を試みるが、女は矢を放ちながら遠ざかろうとする。

リン(くっ…! 攻撃を防げても、反撃が間に合わない…! 詠唱なしで魔法を使えるなんて、反則だわ…!)

≪page20≫

リン(あたしにも、魔法の武器が使えたら…!)

リンは、以前のカメレオンの魔物との戦いを思い出していた。あの時、リンは未完成の風の刃を使っていた。

リン(何度も魔法の武器を作ろうとしたけど、結局上手く行かなかった…! 何が足りないのか分からない…!)

≪page21≫

ローブの女「……」

女は不意に立ち止まると、光の弓を解除していた。

リン「えっ!?」

リン(光の弓が消えた…!? なんで…!?)

ローブの女は、手のひらをリンに向けた。

ローブの女「……」

≪page22≫

ローブの女「…サンディラ」

リン「…ッ!!」

SE『バチッ!!』

不意に放たれた雷魔法。リンは反射神経で躱していた。だが、リンは目を見開き、身体を震わせていた。

リン「……」

≪page23≫

リン「そ……」

リン「その…魔法は…」

リンは震えながら、ゆっくりと女に歩み寄ろうとする。

リン「な…なんで…? ねぇ…? なんでなのよ…?」

ローブの女「…サンディラヴァー」

ローブの女は、リンに見せ付けるかのように魔法を唱えた。雷がゆっくりと形を変え、弓へと変化していく。

リン(……なんなのよッ! なんなのよあいつッ!!)

悔しさを滲ませたような表情で、涙を流すリン。

≪page24≫

リンは涙を流しながら、女の魔法を参考に魔力を制御する。

リン「…エアル」

リンの右手に風の魔力が集中する。

リン「……」

リン「…エアルフェイトッ!!」

≪page25≫

リンの右手には、風の刀が生成されていた。怒りとも悲しみとも取れない表情で、刀を構える。

リン「うああああああッ!!」

絶叫しながら女に斬り掛かるリン。

≪page26≫

ローブの女は光の弓で応戦する。一本の矢を放った。

SE『パアァァァンッ!!』

リン「!!」

矢が弾け、雷に変化する。初めて見る技にもお構いなしに、リンは突っ込んでいく。

ローブの女「……!」

≪page27≫

リンは、雷を風の刀で斬り裂いていく。攻撃と同時に、リンは足に風を纏っていた。加速しながら雷を斬り裂き、ついに女に迫る。

ローブの女「……ッ!!」

一気に間合いを詰められ、女は歯を食いしばった。

≪page28≫

SE『バチィンッ!!』

リンは、光の弓を風の刀で弾き飛ばした。弓は空中で雷に戻りながら弾けて消え、女が目深に被っていたフードも切り裂かれていた。

リン「…なんでなのよ…」

ボロボロとダムが決壊したかのように涙を流すリン。

リン(悲しい…。分からない…。なんでこんなことになったのか…)

リン「なんでなのよッ!?」

≪page29≫

リン「…エレナッ!!」

かつてリンと一緒の班でライバル関係でもあった、かけがえのない親友。エレナだった。

リン「モエちゃんの肩を矢で射抜いたのも、あたしと戦ったのも、全部エレナなの…!? なんでよッ!? なんで、そんなことを!?」

エレナ「……」

エレナは何も言葉を発することもなく、泣きじゃくるリンを冷たい目で見つめる。

≪page30≫

リン「答えなさいよッ!!」

激昂しながら刀を構えるリン。エレナは、冷静に呪文を唱えた。

エレナ「…エレクション」

雷魔法の分身で2人に増えるエレナ。リンの攻撃を、分身に受け止めさせた。分身は消える際に激しく発光し、周囲は光に包まれる。

リン「待て!! 逃げるなァ!!」

エレナはリンの言葉を無視し、姿を消していた。

リン「エレナーッ!!!!」

≪page31≫

○戦闘を続けていたユキと大男は、エレナの名を聞き動きを止め、リンたちの戦いを見ていた。

ローブの男「…終わったようだな。…はぁ」

ユキ「そ、そんな…。エレナが…?」

ローブの女の正体を知り、ショックを受けるユキ。

リンとエレナの戦いが終わったことを確認したマグマの男は、固まるユキを放置し、エレナと同じようにこの場から立ち去った。

≪page32≫

リンの元へ駆け寄るユキ。

ユキ「リ、リンちゃ…」

リン「ああああッ!!」

リン「ああああああああッ!!!!」

大声で絶叫しながら号泣するリン。ユキは声を掛けられず固まっていた。ユキの後方では、モエが岩の陰で身体を震わせていた。

モエ「うっ…! ぐすっ…! エレナ、先輩…!!」

ユキ「モエちゃん…」

泣き続けるリンとモエを見つめながら、ユキは呆然と立ち尽くしていた。