第11話

≪page1≫

○空を飛ぶ無数の怪鳥型の魔物。

魔物の群れ『ギャア! ギャア!』

リン「あれが、討伐対象…?」

地上から、怪訝な顔で魔物の群れを見上げるリン。

○高くそびえる崖と崖の間に挟まれた渓谷に、リン班一行は立っていた。

≪page2≫

魔物の群れは、リンの位置からは豆粒のような大きさに見えていた。

リン「高すぎるでしょうが…」

○時は遡り、職員室でロークから任務の説明を受けているリン班。

ローク「今回、リン班に担当してもらいたいのは、Bランクの魔物の討伐です」

リン「B? 結構強いですね…」

リンは後ろにいるモエに視線を送り、不安そうな表情を浮かべた。

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リン「何故、あたしたちにその依頼を…?」

ローク「討伐対象の魔物が、空にいるからです」

リン「空…?」

ローク「えぇ…。数日前、渓谷にて、積荷を運んでいた馬車が、怪鳥の集団に襲われる事件が発生しました。…魔物単体はFランク相当なのですが、魔物の習性、集団の能力として見た結果、Bランクという判定になりました」

ローク「フロウナさんは、有数の風魔法の使い手です。上空の魔物に対しては、フロウナさんが適任なのではないかと判断しました」

リン「なるほど…」

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リン(エアルを使えば、ある程度の飛行は可能だけど…。空を飛ぶ魔物との空中戦は初めてだしな…)

リン「うーん…。実際に現地を調査してみないことにはなんとも…」

ローク「そうですね…。無理のない範囲で検討していただいて構いません。生徒の安全が第一ですからね…」

リン「はい…!」

優しく微笑むローク。不安な気持ちを抱えていたリンは少し気が楽になり、表情が和らいだ。

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モエ「リン先輩! やりましょうっす!」

ユキ「リンちゃん! 私も頑張るからね!」

リン「2人して、何をそんなに張り切ってんのよ…?」

不安げなリンとは対照的に、ユキとモエはやる気満々だった。そんな2人を、リンは不思議そうに見つめている。

○時は進み、渓谷に到着したリン班。場面は冒頭に繋がる。

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遥か上空の怪鳥を、目を細めながら眺めるリン。
 
リン「数が多い上にあの高さ…。これじゃ、地上からの魔法は届かない…。ローク先生の言う通り、上空で戦うしかなさそうだけど…」

リン「あそこまでの高さは想定外ね…。確かに、あたしは飛行魔法を使えるけど、あれは飛べる時間も高度にも制限がある…。となると…」

リンは懐から、魔物を引き寄せる効果のある紫の魔石を取り出した。

リン「これに頼るか」

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リン「…いや、あれだけ遠い魔物を引き寄せるとなると、かなりの魔力が必要になる…。地上の強力な魔物まで呼び寄せかねないわ…」

リン「う〜ん…!」

名案が浮かばず、頭を抱えて唸るリン。

モエ「リン先輩…!」

その時、モエが手を上げながら、リンに呼び掛けた。

リン「どうしたの、モエちゃん?」

モエ「わ、私に策があります…。聞いてもらっても良いっすか…?」

リン「えっ…!? う、うん…! 聞かせてくれる…?」

リン(モエちゃんから提案…!? こんなこと初めてよ…!?)

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いつになく積極的なモエに、リンは目を丸くしている。

モエは小さな布袋から、数個の種を手のひらに乗せてリンに見せた。

モエ「ここに、私が魔法で生み出した植物の種があるっす…」

モエ「この種に数日かけて、さらに私の魔力を流し続けました…! 今までにない、かなり巨大な植物を生み出すことが出来るはずっす…!」

リン「……!」

リン(い、いつの間にそんな技術を…!?)

モエの成長に驚くリン。モエはさらに説明を続ける。

≪page9≫

モエ「植物が発芽を始めたらすぐに植物の上に乗ってもらって…そのまま成長を利用して、怪鳥に攻撃が届く距離まで運んでもらうっす…! …という作戦を思い付いたんすけど…。ど、どうっすかね…?」

作戦を説明し終え、急に自信がなさそうに言い淀むモエ。リンは顎をつまみながら想像を膨らませて、実行可能かどうか考えている。

リン「な、なかなか大胆な作戦を考えるわね…モエちゃん…。あたしにはない発想だわ…」

モエ「や、やっぱり、こんな作戦むちゃくちゃっすよね…!」

モエは作戦を却下されると思い、目をぎゅっと瞑った。

≪page10≫

リン「それで行きましょう!」

モエ「えぇ…!?」

モエの予想に反し、リンはやる気満々だった。思わず声を上げて驚いてしまうモエ。

モエ「そ、そんな…。あんな作戦で…大丈夫っすか…!?」

自分の提案ながら、不安になり、落ち着かない様子のモエ。リンは清々しい笑顔でモエを見つめながら、頭をそっと撫でた。

モエ「……!」

リン「モエちゃんが一生懸命考えたんでしょ? じゃあ、とりあえずやってみましょうよ! あたしは、モエちゃんを信じてるから!」

モエ「リ、リン先輩…!」

≪page11≫

リン「でも、そんな高所で戦うとなると、かなり危険を伴うはず…」

リンはユキとモエの方を見る。この2人を植物に乗せて戦わせるにはリスクが大きすぎると考えた。

リン「いざとなったら、あたしは風の魔法で落下を軽減出来るし、植物に乗る役はあたしがやるわ!」

リン「でも、魔物を倒し切れなかったら、きっとあたしを追って、怪鳥も地上まで降りて来ちゃうわね…。その時は、ユキの氷の力で迎撃をお願いしても良い?」

ユキ「あ、あの…! ちょっと良いかな…?」

≪page12≫

モエに続き、今度はユキが手を上げていた。いつもと違う様子のユキに、リンは困惑している。

リン「えっ…!? な、何よ…? あんたまで改まって…」

ユキ「私、風魔法で戦いたいんだ…!」

リンとモエ「…!!」

ユキ「任務中に、こんなワガママ言うのもどうなのかとは思ったんだけど…。私、Sランクになりたくて…! それには、本番で上手く出来ないと駄目なんじゃないかって、そう思ったんだ…!」

モエ「ユキさん…」

モエ(ユキさんが、Sランクになりたい理由…。それって、エレナ先輩と会うために…?)

≪page13≫

ユキの話を聞き、リンはニッと笑った。

リン「ふっ…。あんたが頑張ってたのは、あたしが一番よく知ってる…! 良いわよ! 遠慮なく魔法使いなさい!」

ユキ「ありがとう…! リンちゃん…!」

リン「でも、魔法じゃどうしようもなくなった時は、ちゃんと氷の力使うのよ?」

ユキ「うん…! 分かった…!」

ユキ(あんなに練習したんだ…! 必ず上手く出来る…!)

作戦が決まり、布袋から種をひと粒取り出すモエ。

≪page14≫

土を軽く掘り、穴の中に種を植え、土を被せた。

モエ「じゃあ、リン先輩…! 植物が成長したら、タイミングを合わせて乗ってくださいっす…!」

リン「う、うん…! 分かった…!」

リン(あんな上まで伸びるんでしょ…? そんなに大きな植物、想像出来ないんだけど…)

モエ「では、行きます…! プランナー!!」

SE『メリ…メリ…。ボゴオオオオッ!!』

リン「えぇっ!? ちょっ、待っ!」

モエの呪文で急速に成長する植物。

≪page15≫

茎は丸太よりも太く、葉はユキたちを余裕で包み込める程の大きさに育っていく。

モエ「リン先輩! 葉っぱに乗ってくださいっす!」

リン「は、葉っぱ…!」

リンはあまりの光景に驚愕しながらも、葉っぱの上に着地した。

リン「ひぃやあああああああッ!?」

植物はリンを乗せたまま、凄まじい速度で上へと伸びていく。

ユキ「リンちゃん! 大丈夫!?」

≪page16≫

リン「大丈夫じゃなあぁ〜い!!」

リンは葉にしがみつき、植物から落ちないように踏ん張る。怪鳥の群れにみるみる近付いていく。

リン「はぁ…はぁ…! と、止まった…!」

植物は、怪鳥に魔法が届く距離まで育つと、成長を止めていた。巨大な植物に乗って現れたリンに、怪鳥たちは警戒心を剥き出しにする。

≪page17≫

リン「モエちゃん、ほんとに凄いわ…! ここからなら、よく狙える!」

リン「ブリズオン!!」

リンが氷を纏った竜巻を起こし、怪鳥は次々と撃ち落とされていく。だが、一部の怪鳥が攻撃を掻い潜り、リンに迫る。

≪page18≫

リン「ブリズオン! よっ、と! ウィード!」

リンは軽快に葉から葉へと飛び移る。怪鳥の攻撃を躱しながら、風の刃で反撃し、確実に数を減らしていく。

魔物『ギャア! ギャア!』

魔物の集団は、リンのことを挟み撃ちにしようと2方向から迫っている。

リン「やっぱり数が多い…! 葉っぱの上で戦うのも、ここいらが限界か…!」

リンは葉から下を覗き込む。

≪page19≫

地上にいるユキに聞こえるように大声を出した。

リン「ユキーっ! これから地上に降りるから! あとはお願い!」

ユキ「うんっ! 分かった!!」

ユキの返事を聞き、リンは意を決して葉の上から飛び降りた。

≪page20≫

リン「ひっ…こ、怖っ…!」

高所からのダイブに恐怖するリン。落下しつつ魔法のタイミングを計る。

リン「エアル!!」

リンが呪文を唱えると、落下の速度は急速に落ち、フワフワと宙を漂うように降下し始めた。

ユキ「…!! 来た…!」

リンの背後から怪鳥の群れが迫る。ユキは怪鳥の一羽に向けて、人差し指で冷静に狙いを定めた。

≪page21≫

ユキ「フロウ!!」

魔物『ギギャアッ!!』

ユキが呪文を唱えた瞬間。風の弾丸が、目にも止まらぬ速さで怪鳥を撃ち抜いていた。

リン(は、速い…! 唱えた瞬間に、魔物に着弾するなんて…!)

≪page22≫

ユキは怪鳥の群れに向け、魔法を放ち続ける。元より備える妖怪の戦闘センスで、的確に魔物を撃ち抜いていく。

ユキ「フロウ!!」

リン「ユキ…やっぱ、あんた凄いわ…!」

目を閉じて、ユキの射撃に全幅の信頼を寄せるリン。リンの背後の魔物は、全て撃ち落とされていた。

≪page23≫

リン「よっと…!」

リンはエアルを解除し、地上へと降り立った。

ユキ「リンちゃん、大丈夫…!? 怪我はない…!?」

モエ「リン先輩、本当にすみませんでした…! あんな無茶をさせてしまって…!」

リン「……」

2人を見て、フッと笑うリン。

≪page24≫

リン「大丈夫! 何も問題なかった! 今回、あの魔物の群れを倒せたのは、あなたたちのお陰よ…! ありがとう…!」

モエ「あ…」

ユキ「えへへ…」

笑い合う3人。しかし、喜びを噛み締め合う間もなく、ユキたちは、ただならぬ気配を感じていた。

リン「…なんなの、あんたら? 少しは空気読みなさいよ」

≪page25≫

敵意を剝き出しにするリン。リンが睨む視線の先には、フードを目深に被ったローブの女と、同じくフードを被ったローブの大男が立っていた。

モエ「あ…あの時の…」

ユキ「……」

ユキは身体を盾にして、モエの身を隠した。ローブの女は以前現れた人物と同じ。大男の方は誰も見覚えがなかった。

≪page26≫

リン「ユキ…。せっかく魔法を覚えたところ悪いんだけど…。氷の力、全力でお願い出来る…?」

ユキ「もちろん…! …モエちゃんは、安全な場所に隠れてて…!」

モエ「は、はいっす…!」

モエは足手まといにならぬよう、急いで岩の陰へと身を隠す。

リン(あの女の戦い方は前に覚えた…。今回はこの前のようには行かない…!)

≪page27≫

リン「ユキは大男の方を…。あたしは、あの女をやる…!」

ユキ「分かった…! 気を付けて…!」

ローブの女の前へと歩み寄るリン。

ローブの女「ボソッ…」

ローブの女は、リンには聞こえない小さな声で呪文を唱えた。そして、前に見せた光の弓を構える。

≪page28≫

リン「エアル!!」

光の弓を構えた瞬間、リンは女の目の前まで接近していた。

ローブの女「…!!」

リン「同じ轍は踏まない…!」

ローブの女「ぐッ…!?」

女にボディーブローを打ち込むリン。女は咄嗟にガードする。

≪page29≫

リンは矢を打たせまいと、距離を取ろうとする女を追い続け、徹底的に接近戦を仕掛ける。

ローブの女「……」

女は空中に向け矢を放とうとするが、リンが先に上空から狙いを付ける。

リン「ブリズオン!!」

ローブの女「くっ…!」

空中からの氷の嵐を、女は身を捻って必死に回避する。

リン(こいつ、ここまで接近されて、なんで弓矢しか使わないのよ…!)

女の戦い方に疑問を抱きながらも、リンは戦闘に意識を集中させる。

≪page30≫

リンたちの戦闘を気にして、後ろを向く大男。

ローブの男「はぁ…。始まったか…」

ユキ「どこを見てるの…? あなたの相手は私だよ?」

リンの元へ加勢されることを恐れ、ユキは大男を挑発する。緊張感を高めるユキと対照的に、大男は気怠そうに溜め息をつく。

ローブの男「はぁ…。分かっている…。俺は今日、お前と戦うために来たのだからな…」

ユキ「えっ…!?」

大男の想定していなかった言葉に動揺するユキ。

≪page31≫

ローブの男「はぁ…」

大男は溜め息をつきながらゆっくりとしゃがむと、地面に立て膝をつく。そして、手のひらを地面につけた。

ローブの男「…マグナオン!!」

ユキ「…!!」

大男が呪文を唱えた瞬間、大地が揺れる。今まで感じたことのない予兆に、ユキはさらに警戒心を高めた。

モエ「あわわわ…!」

激しい揺れに、身を潜めるモエが青ざめる。

≪page32≫

大地が裂け、中からマグマが噴き出す。

SE『ボゴオオオオオッ!!』

ユキ「!?」

噴き出したマグマが津波のようにユキに襲い掛かる。