第11話
≪page1≫
○空を飛ぶ無数の怪鳥型の魔物。
魔物の群れ『ギャア! ギャア!』
リン「あれが、討伐対象…?」
地上から、怪訝な顔で魔物の群れを見上げるリン。
○高くそびえる崖と崖の間に挟まれた渓谷に、リン班一行は立っていた。
≪page2≫
魔物の群れは、リンの位置からは豆粒のような大きさに見えていた。
リン「高すぎるでしょうが…」
○時は遡り、職員室でロークから任務の説明を受けているリン班。
ローク「今回、リン班に担当してもらいたいのは、Bランクの魔物の討伐です」
リン「B? 結構強いですね…」
リンは後ろにいるモエに視線を送り、不安そうな表情を浮かべた。
≪page3≫
リン「何故、あたしたちにその依頼を…?」
ローク「討伐対象の魔物が、空にいるからです」
リン「空…?」
ローク「えぇ…。数日前、渓谷にて、積荷を運んでいた馬車が、怪鳥の集団に襲われる事件が発生しました。…魔物単体はFランク相当なのですが、魔物の習性、集団の能力として見た結果、Bランクという判定になりました」
ローク「フロウナさんは、有数の風魔法の使い手です。上空の魔物に対しては、フロウナさんが適任なのではないかと判断しました」
リン「なるほど…」
≪page4≫
リン(エアルを使えば、ある程度の飛行は可能だけど…。空を飛ぶ魔物との空中戦は初めてだしな…)
リン「うーん…。実際に現地を調査してみないことにはなんとも…」
ローク「そうですね…。無理のない範囲で検討していただいて構いません。生徒の安全が第一ですからね…」
リン「はい…!」
優しく微笑むローク。不安な気持ちを抱えていたリンは少し気が楽になり、表情が和らいだ。
≪page5≫
モエ「リン先輩! やりましょうっす!」
ユキ「リンちゃん! 私も頑張るからね!」
リン「2人して、何をそんなに張り切ってんのよ…?」
不安げなリンとは対照的に、ユキとモエはやる気満々だった。そんな2人を、リンは不思議そうに見つめている。
○時は進み、渓谷に到着したリン班。場面は冒頭に繋がる。
≪page6≫
遥か上空の怪鳥を、目を細めながら眺めるリン。
リン「数が多い上にあの高さ…。これじゃ、地上からの魔法は届かない…。ローク先生の言う通り、上空で戦うしかなさそうだけど…」
リン「あそこまでの高さは想定外ね…。確かに、あたしは飛行魔法を使えるけど、あれは飛べる時間も高度にも制限がある…。となると…」
リンは懐から、魔物を引き寄せる効果のある紫の魔石を取り出した。
リン「これに頼るか」
≪page7≫
リン「…いや、あれだけ遠い魔物を引き寄せるとなると、かなりの魔力が必要になる…。地上の強力な魔物まで呼び寄せかねないわ…」
リン「う〜ん…!」
名案が浮かばず、頭を抱えて唸るリン。
モエ「リン先輩…!」
その時、モエが手を上げながら、リンに呼び掛けた。
リン「どうしたの、モエちゃん?」
モエ「わ、私に策があります…。聞いてもらっても良いっすか…?」
リン「えっ…!? う、うん…! 聞かせてくれる…?」
リン(モエちゃんから提案…!? こんなこと初めてよ…!?)
≪page8≫
いつになく積極的なモエに、リンは目を丸くしている。
モエは小さな布袋から、数個の種を手のひらに乗せてリンに見せた。
モエ「ここに、私が魔法で生み出した植物の種があるっす…」
モエ「この種に数日かけて、さらに私の魔力を流し続けました…! 今までにない、かなり巨大な植物を生み出すことが出来るはずっす…!」
リン「……!」
リン(い、いつの間にそんな技術を…!?)
モエの成長に驚くリン。モエはさらに説明を続ける。
≪page9≫
モエ「植物が発芽を始めたらすぐに植物の上に乗ってもらって…そのまま成長を利用して、怪鳥に攻撃が届く距離まで運んでもらうっす…! …という作戦を思い付いたんすけど…。ど、どうっすかね…?」
作戦を説明し終え、急に自信がなさそうに言い淀むモエ。リンは顎をつまみながら想像を膨らませて、実行可能かどうか考えている。
リン「な、なかなか大胆な作戦を考えるわね…モエちゃん…。あたしにはない発想だわ…」
モエ「や、やっぱり、こんな作戦むちゃくちゃっすよね…!」
モエは作戦を却下されると思い、目をぎゅっと瞑った。
≪page10≫
リン「それで行きましょう!」
モエ「えぇ…!?」
モエの予想に反し、リンはやる気満々だった。思わず声を上げて驚いてしまうモエ。
モエ「そ、そんな…。あんな作戦で…大丈夫っすか…!?」
自分の提案ながら、不安になり、落ち着かない様子のモエ。リンは清々しい笑顔でモエを見つめながら、頭をそっと撫でた。
モエ「……!」
リン「モエちゃんが一生懸命考えたんでしょ? じゃあ、とりあえずやってみましょうよ! あたしは、モエちゃんを信じてるから!」
モエ「リ、リン先輩…!」
≪page11≫
リン「でも、そんな高所で戦うとなると、かなり危険を伴うはず…」
リンはユキとモエの方を見る。この2人を植物に乗せて戦わせるにはリスクが大きすぎると考えた。
リン「いざとなったら、あたしは風の魔法で落下を軽減出来るし、植物に乗る役はあたしがやるわ!」
リン「でも、魔物を倒し切れなかったら、きっとあたしを追って、怪鳥も地上まで降りて来ちゃうわね…。その時は、ユキの氷の力で迎撃をお願いしても良い?」
ユキ「あ、あの…! ちょっと良いかな…?」
≪page12≫
モエに続き、今度はユキが手を上げていた。いつもと違う様子のユキに、リンは困惑している。
リン「えっ…!? な、何よ…? あんたまで改まって…」
ユキ「私、風魔法で戦いたいんだ…!」
リンとモエ「…!!」
ユキ「任務中に、こんなワガママ言うのもどうなのかとは思ったんだけど…。私、Sランクになりたくて…! それには、本番で上手く出来ないと駄目なんじゃないかって、そう思ったんだ…!」
モエ「ユキさん…」
モエ(ユキさんが、Sランクになりたい理由…。それって、エレナ先輩と会うために…?)
≪page13≫
ユキの話を聞き、リンはニッと笑った。
リン「ふっ…。あんたが頑張ってたのは、あたしが一番よく知ってる…! 良いわよ! 遠慮なく魔法使いなさい!」
ユキ「ありがとう…! リンちゃん…!」
リン「でも、魔法じゃどうしようもなくなった時は、ちゃんと氷の力使うのよ?」
ユキ「うん…! 分かった…!」
ユキ(あんなに練習したんだ…! 必ず上手く出来る…!)
作戦が決まり、布袋から種をひと粒取り出すモエ。
≪page14≫
土を軽く掘り、穴の中に種を植え、土を被せた。
モエ「じゃあ、リン先輩…! 植物が成長したら、タイミングを合わせて乗ってくださいっす…!」
リン「う、うん…! 分かった…!」
リン(あんな上まで伸びるんでしょ…? そんなに大きな植物、想像出来ないんだけど…)
モエ「では、行きます…! プランナー!!」
SE『メリ…メリ…。ボゴオオオオッ!!』
リン「えぇっ!? ちょっ、待っ!」
モエの呪文で急速に成長する植物。
≪page15≫
茎は丸太よりも太く、葉はユキたちを余裕で包み込める程の大きさに育っていく。
モエ「リン先輩! 葉っぱに乗ってくださいっす!」
リン「は、葉っぱ…!」
リンはあまりの光景に驚愕しながらも、葉っぱの上に着地した。
リン「ひぃやあああああああッ!?」
植物はリンを乗せたまま、凄まじい速度で上へと伸びていく。
ユキ「リンちゃん! 大丈夫!?」
≪page16≫
リン「大丈夫じゃなあぁ〜い!!」
リンは葉にしがみつき、植物から落ちないように踏ん張る。怪鳥の群れにみるみる近付いていく。
リン「はぁ…はぁ…! と、止まった…!」
植物は、怪鳥に魔法が届く距離まで育つと、成長を止めていた。巨大な植物に乗って現れたリンに、怪鳥たちは警戒心を剥き出しにする。
≪page17≫
リン「モエちゃん、ほんとに凄いわ…! ここからなら、よく狙える!」
リン「ブリズオン!!」
リンが氷を纏った竜巻を起こし、怪鳥は次々と撃ち落とされていく。だが、一部の怪鳥が攻撃を掻い潜り、リンに迫る。
≪page18≫
リン「ブリズオン! よっ、と! ウィード!」
リンは軽快に葉から葉へと飛び移る。怪鳥の攻撃を躱しながら、風の刃で反撃し、確実に数を減らしていく。
魔物『ギャア! ギャア!』
魔物の集団は、リンのことを挟み撃ちにしようと2方向から迫っている。
リン「やっぱり数が多い…! 葉っぱの上で戦うのも、ここいらが限界か…!」
リンは葉から下を覗き込む。
≪page19≫
地上にいるユキに聞こえるように大声を出した。
リン「ユキーっ! これから地上に降りるから! あとはお願い!」
ユキ「うんっ! 分かった!!」
ユキの返事を聞き、リンは意を決して葉の上から飛び降りた。
≪page20≫
リン「ひっ…こ、怖っ…!」
高所からのダイブに恐怖するリン。落下しつつ魔法のタイミングを計る。
リン「エアル!!」
リンが呪文を唱えると、落下の速度は急速に落ち、フワフワと宙を漂うように降下し始めた。
ユキ「…!! 来た…!」
リンの背後から怪鳥の群れが迫る。ユキは怪鳥の一羽に向けて、人差し指で冷静に狙いを定めた。
≪page21≫
ユキ「フロウ!!」
魔物『ギギャアッ!!』
ユキが呪文を唱えた瞬間。風の弾丸が、目にも止まらぬ速さで怪鳥を撃ち抜いていた。
リン(は、速い…! 唱えた瞬間に、魔物に着弾するなんて…!)
≪page22≫
ユキは怪鳥の群れに向け、魔法を放ち続ける。元より備える妖怪の戦闘センスで、的確に魔物を撃ち抜いていく。
ユキ「フロウ!!」
リン「ユキ…やっぱ、あんた凄いわ…!」
目を閉じて、ユキの射撃に全幅の信頼を寄せるリン。リンの背後の魔物は、全て撃ち落とされていた。
≪page23≫
リン「よっと…!」
リンはエアルを解除し、地上へと降り立った。
ユキ「リンちゃん、大丈夫…!? 怪我はない…!?」
モエ「リン先輩、本当にすみませんでした…! あんな無茶をさせてしまって…!」
リン「……」
2人を見て、フッと笑うリン。
≪page24≫
リン「大丈夫! 何も問題なかった! 今回、あの魔物の群れを倒せたのは、あなたたちのお陰よ…! ありがとう…!」
モエ「あ…」
ユキ「えへへ…」
笑い合う3人。しかし、喜びを噛み締め合う間もなく、ユキたちは、ただならぬ気配を感じていた。
リン「…なんなの、あんたら? 少しは空気読みなさいよ」
≪page25≫
敵意を剝き出しにするリン。リンが睨む視線の先には、フードを目深に被ったローブの女と、同じくフードを被ったローブの大男が立っていた。
モエ「あ…あの時の…」
ユキ「……」
ユキは身体を盾にして、モエの身を隠した。ローブの女は以前現れた人物と同じ。大男の方は誰も見覚えがなかった。
≪page26≫
リン「ユキ…。せっかく魔法を覚えたところ悪いんだけど…。氷の力、全力でお願い出来る…?」
ユキ「もちろん…! …モエちゃんは、安全な場所に隠れてて…!」
モエ「は、はいっす…!」
モエは足手まといにならぬよう、急いで岩の陰へと身を隠す。
リン(あの女の戦い方は前に覚えた…。今回はこの前のようには行かない…!)
≪page27≫
リン「ユキは大男の方を…。あたしは、あの女をやる…!」
ユキ「分かった…! 気を付けて…!」
ローブの女の前へと歩み寄るリン。
ローブの女「ボソッ…」
ローブの女は、リンには聞こえない小さな声で呪文を唱えた。そして、前に見せた光の弓を構える。
≪page28≫
リン「エアル!!」
光の弓を構えた瞬間、リンは女の目の前まで接近していた。
ローブの女「…!!」
リン「同じ轍は踏まない…!」
ローブの女「ぐッ…!?」
女にボディーブローを打ち込むリン。女は咄嗟にガードする。
≪page29≫
リンは矢を打たせまいと、距離を取ろうとする女を追い続け、徹底的に接近戦を仕掛ける。
ローブの女「……」
女は空中に向け矢を放とうとするが、リンが先に上空から狙いを付ける。
リン「ブリズオン!!」
ローブの女「くっ…!」
空中からの氷の嵐を、女は身を捻って必死に回避する。
リン(こいつ、ここまで接近されて、なんで弓矢しか使わないのよ…!)
女の戦い方に疑問を抱きながらも、リンは戦闘に意識を集中させる。
≪page30≫
リンたちの戦闘を気にして、後ろを向く大男。
ローブの男「はぁ…。始まったか…」
ユキ「どこを見てるの…? あなたの相手は私だよ?」
リンの元へ加勢されることを恐れ、ユキは大男を挑発する。緊張感を高めるユキと対照的に、大男は気怠そうに溜め息をつく。
ローブの男「はぁ…。分かっている…。俺は今日、お前と戦うために来たのだからな…」
ユキ「えっ…!?」
大男の想定していなかった言葉に動揺するユキ。
≪page31≫
ローブの男「はぁ…」
大男は溜め息をつきながらゆっくりとしゃがむと、地面に立て膝をつく。そして、手のひらを地面につけた。
ローブの男「…マグナオン!!」
ユキ「…!!」
大男が呪文を唱えた瞬間、大地が揺れる。今まで感じたことのない予兆に、ユキはさらに警戒心を高めた。
モエ「あわわわ…!」
激しい揺れに、身を潜めるモエが青ざめる。
≪page32≫
大地が裂け、中からマグマが噴き出す。
SE『ボゴオオオオオッ!!』
ユキ「!?」
噴き出したマグマが津波のようにユキに襲い掛かる。
≪page1≫
○空を飛ぶ無数の怪鳥型の魔物。
魔物の群れ『ギャア! ギャア!』
リン「あれが、討伐対象…?」
地上から、怪訝な顔で魔物の群れを見上げるリン。
○高くそびえる崖と崖の間に挟まれた渓谷に、リン班一行は立っていた。
≪page2≫
魔物の群れは、リンの位置からは豆粒のような大きさに見えていた。
リン「高すぎるでしょうが…」
○時は遡り、職員室でロークから任務の説明を受けているリン班。
ローク「今回、リン班に担当してもらいたいのは、Bランクの魔物の討伐です」
リン「B? 結構強いですね…」
リンは後ろにいるモエに視線を送り、不安そうな表情を浮かべた。
≪page3≫
リン「何故、あたしたちにその依頼を…?」
ローク「討伐対象の魔物が、空にいるからです」
リン「空…?」
ローク「えぇ…。数日前、渓谷にて、積荷を運んでいた馬車が、怪鳥の集団に襲われる事件が発生しました。…魔物単体はFランク相当なのですが、魔物の習性、集団の能力として見た結果、Bランクという判定になりました」
ローク「フロウナさんは、有数の風魔法の使い手です。上空の魔物に対しては、フロウナさんが適任なのではないかと判断しました」
リン「なるほど…」
≪page4≫
リン(エアルを使えば、ある程度の飛行は可能だけど…。空を飛ぶ魔物との空中戦は初めてだしな…)
リン「うーん…。実際に現地を調査してみないことにはなんとも…」
ローク「そうですね…。無理のない範囲で検討していただいて構いません。生徒の安全が第一ですからね…」
リン「はい…!」
優しく微笑むローク。不安な気持ちを抱えていたリンは少し気が楽になり、表情が和らいだ。
≪page5≫
モエ「リン先輩! やりましょうっす!」
ユキ「リンちゃん! 私も頑張るからね!」
リン「2人して、何をそんなに張り切ってんのよ…?」
不安げなリンとは対照的に、ユキとモエはやる気満々だった。そんな2人を、リンは不思議そうに見つめている。
○時は進み、渓谷に到着したリン班。場面は冒頭に繋がる。
≪page6≫
遥か上空の怪鳥を、目を細めながら眺めるリン。
リン「数が多い上にあの高さ…。これじゃ、地上からの魔法は届かない…。ローク先生の言う通り、上空で戦うしかなさそうだけど…」
リン「あそこまでの高さは想定外ね…。確かに、あたしは飛行魔法を使えるけど、あれは飛べる時間も高度にも制限がある…。となると…」
リンは懐から、魔物を引き寄せる効果のある紫の魔石を取り出した。
リン「これに頼るか」
≪page7≫
リン「…いや、あれだけ遠い魔物を引き寄せるとなると、かなりの魔力が必要になる…。地上の強力な魔物まで呼び寄せかねないわ…」
リン「う〜ん…!」
名案が浮かばず、頭を抱えて唸るリン。
モエ「リン先輩…!」
その時、モエが手を上げながら、リンに呼び掛けた。
リン「どうしたの、モエちゃん?」
モエ「わ、私に策があります…。聞いてもらっても良いっすか…?」
リン「えっ…!? う、うん…! 聞かせてくれる…?」
リン(モエちゃんから提案…!? こんなこと初めてよ…!?)
≪page8≫
いつになく積極的なモエに、リンは目を丸くしている。
モエは小さな布袋から、数個の種を手のひらに乗せてリンに見せた。
モエ「ここに、私が魔法で生み出した植物の種があるっす…」
モエ「この種に数日かけて、さらに私の魔力を流し続けました…! 今までにない、かなり巨大な植物を生み出すことが出来るはずっす…!」
リン「……!」
リン(い、いつの間にそんな技術を…!?)
モエの成長に驚くリン。モエはさらに説明を続ける。
≪page9≫
モエ「植物が発芽を始めたらすぐに植物の上に乗ってもらって…そのまま成長を利用して、怪鳥に攻撃が届く距離まで運んでもらうっす…! …という作戦を思い付いたんすけど…。ど、どうっすかね…?」
作戦を説明し終え、急に自信がなさそうに言い淀むモエ。リンは顎をつまみながら想像を膨らませて、実行可能かどうか考えている。
リン「な、なかなか大胆な作戦を考えるわね…モエちゃん…。あたしにはない発想だわ…」
モエ「や、やっぱり、こんな作戦むちゃくちゃっすよね…!」
モエは作戦を却下されると思い、目をぎゅっと瞑った。
≪page10≫
リン「それで行きましょう!」
モエ「えぇ…!?」
モエの予想に反し、リンはやる気満々だった。思わず声を上げて驚いてしまうモエ。
モエ「そ、そんな…。あんな作戦で…大丈夫っすか…!?」
自分の提案ながら、不安になり、落ち着かない様子のモエ。リンは清々しい笑顔でモエを見つめながら、頭をそっと撫でた。
モエ「……!」
リン「モエちゃんが一生懸命考えたんでしょ? じゃあ、とりあえずやってみましょうよ! あたしは、モエちゃんを信じてるから!」
モエ「リ、リン先輩…!」
≪page11≫
リン「でも、そんな高所で戦うとなると、かなり危険を伴うはず…」
リンはユキとモエの方を見る。この2人を植物に乗せて戦わせるにはリスクが大きすぎると考えた。
リン「いざとなったら、あたしは風の魔法で落下を軽減出来るし、植物に乗る役はあたしがやるわ!」
リン「でも、魔物を倒し切れなかったら、きっとあたしを追って、怪鳥も地上まで降りて来ちゃうわね…。その時は、ユキの氷の力で迎撃をお願いしても良い?」
ユキ「あ、あの…! ちょっと良いかな…?」
≪page12≫
モエに続き、今度はユキが手を上げていた。いつもと違う様子のユキに、リンは困惑している。
リン「えっ…!? な、何よ…? あんたまで改まって…」
ユキ「私、風魔法で戦いたいんだ…!」
リンとモエ「…!!」
ユキ「任務中に、こんなワガママ言うのもどうなのかとは思ったんだけど…。私、Sランクになりたくて…! それには、本番で上手く出来ないと駄目なんじゃないかって、そう思ったんだ…!」
モエ「ユキさん…」
モエ(ユキさんが、Sランクになりたい理由…。それって、エレナ先輩と会うために…?)
≪page13≫
ユキの話を聞き、リンはニッと笑った。
リン「ふっ…。あんたが頑張ってたのは、あたしが一番よく知ってる…! 良いわよ! 遠慮なく魔法使いなさい!」
ユキ「ありがとう…! リンちゃん…!」
リン「でも、魔法じゃどうしようもなくなった時は、ちゃんと氷の力使うのよ?」
ユキ「うん…! 分かった…!」
ユキ(あんなに練習したんだ…! 必ず上手く出来る…!)
作戦が決まり、布袋から種をひと粒取り出すモエ。
≪page14≫
土を軽く掘り、穴の中に種を植え、土を被せた。
モエ「じゃあ、リン先輩…! 植物が成長したら、タイミングを合わせて乗ってくださいっす…!」
リン「う、うん…! 分かった…!」
リン(あんな上まで伸びるんでしょ…? そんなに大きな植物、想像出来ないんだけど…)
モエ「では、行きます…! プランナー!!」
SE『メリ…メリ…。ボゴオオオオッ!!』
リン「えぇっ!? ちょっ、待っ!」
モエの呪文で急速に成長する植物。
≪page15≫
茎は丸太よりも太く、葉はユキたちを余裕で包み込める程の大きさに育っていく。
モエ「リン先輩! 葉っぱに乗ってくださいっす!」
リン「は、葉っぱ…!」
リンはあまりの光景に驚愕しながらも、葉っぱの上に着地した。
リン「ひぃやあああああああッ!?」
植物はリンを乗せたまま、凄まじい速度で上へと伸びていく。
ユキ「リンちゃん! 大丈夫!?」
≪page16≫
リン「大丈夫じゃなあぁ〜い!!」
リンは葉にしがみつき、植物から落ちないように踏ん張る。怪鳥の群れにみるみる近付いていく。
リン「はぁ…はぁ…! と、止まった…!」
植物は、怪鳥に魔法が届く距離まで育つと、成長を止めていた。巨大な植物に乗って現れたリンに、怪鳥たちは警戒心を剥き出しにする。
≪page17≫
リン「モエちゃん、ほんとに凄いわ…! ここからなら、よく狙える!」
リン「ブリズオン!!」
リンが氷を纏った竜巻を起こし、怪鳥は次々と撃ち落とされていく。だが、一部の怪鳥が攻撃を掻い潜り、リンに迫る。
≪page18≫
リン「ブリズオン! よっ、と! ウィード!」
リンは軽快に葉から葉へと飛び移る。怪鳥の攻撃を躱しながら、風の刃で反撃し、確実に数を減らしていく。
魔物『ギャア! ギャア!』
魔物の集団は、リンのことを挟み撃ちにしようと2方向から迫っている。
リン「やっぱり数が多い…! 葉っぱの上で戦うのも、ここいらが限界か…!」
リンは葉から下を覗き込む。
≪page19≫
地上にいるユキに聞こえるように大声を出した。
リン「ユキーっ! これから地上に降りるから! あとはお願い!」
ユキ「うんっ! 分かった!!」
ユキの返事を聞き、リンは意を決して葉の上から飛び降りた。
≪page20≫
リン「ひっ…こ、怖っ…!」
高所からのダイブに恐怖するリン。落下しつつ魔法のタイミングを計る。
リン「エアル!!」
リンが呪文を唱えると、落下の速度は急速に落ち、フワフワと宙を漂うように降下し始めた。
ユキ「…!! 来た…!」
リンの背後から怪鳥の群れが迫る。ユキは怪鳥の一羽に向けて、人差し指で冷静に狙いを定めた。
≪page21≫
ユキ「フロウ!!」
魔物『ギギャアッ!!』
ユキが呪文を唱えた瞬間。風の弾丸が、目にも止まらぬ速さで怪鳥を撃ち抜いていた。
リン(は、速い…! 唱えた瞬間に、魔物に着弾するなんて…!)
≪page22≫
ユキは怪鳥の群れに向け、魔法を放ち続ける。元より備える妖怪の戦闘センスで、的確に魔物を撃ち抜いていく。
ユキ「フロウ!!」
リン「ユキ…やっぱ、あんた凄いわ…!」
目を閉じて、ユキの射撃に全幅の信頼を寄せるリン。リンの背後の魔物は、全て撃ち落とされていた。
≪page23≫
リン「よっと…!」
リンはエアルを解除し、地上へと降り立った。
ユキ「リンちゃん、大丈夫…!? 怪我はない…!?」
モエ「リン先輩、本当にすみませんでした…! あんな無茶をさせてしまって…!」
リン「……」
2人を見て、フッと笑うリン。
≪page24≫
リン「大丈夫! 何も問題なかった! 今回、あの魔物の群れを倒せたのは、あなたたちのお陰よ…! ありがとう…!」
モエ「あ…」
ユキ「えへへ…」
笑い合う3人。しかし、喜びを噛み締め合う間もなく、ユキたちは、ただならぬ気配を感じていた。
リン「…なんなの、あんたら? 少しは空気読みなさいよ」
≪page25≫
敵意を剝き出しにするリン。リンが睨む視線の先には、フードを目深に被ったローブの女と、同じくフードを被ったローブの大男が立っていた。
モエ「あ…あの時の…」
ユキ「……」
ユキは身体を盾にして、モエの身を隠した。ローブの女は以前現れた人物と同じ。大男の方は誰も見覚えがなかった。
≪page26≫
リン「ユキ…。せっかく魔法を覚えたところ悪いんだけど…。氷の力、全力でお願い出来る…?」
ユキ「もちろん…! …モエちゃんは、安全な場所に隠れてて…!」
モエ「は、はいっす…!」
モエは足手まといにならぬよう、急いで岩の陰へと身を隠す。
リン(あの女の戦い方は前に覚えた…。今回はこの前のようには行かない…!)
≪page27≫
リン「ユキは大男の方を…。あたしは、あの女をやる…!」
ユキ「分かった…! 気を付けて…!」
ローブの女の前へと歩み寄るリン。
ローブの女「ボソッ…」
ローブの女は、リンには聞こえない小さな声で呪文を唱えた。そして、前に見せた光の弓を構える。
≪page28≫
リン「エアル!!」
光の弓を構えた瞬間、リンは女の目の前まで接近していた。
ローブの女「…!!」
リン「同じ轍は踏まない…!」
ローブの女「ぐッ…!?」
女にボディーブローを打ち込むリン。女は咄嗟にガードする。
≪page29≫
リンは矢を打たせまいと、距離を取ろうとする女を追い続け、徹底的に接近戦を仕掛ける。
ローブの女「……」
女は空中に向け矢を放とうとするが、リンが先に上空から狙いを付ける。
リン「ブリズオン!!」
ローブの女「くっ…!」
空中からの氷の嵐を、女は身を捻って必死に回避する。
リン(こいつ、ここまで接近されて、なんで弓矢しか使わないのよ…!)
女の戦い方に疑問を抱きながらも、リンは戦闘に意識を集中させる。
≪page30≫
リンたちの戦闘を気にして、後ろを向く大男。
ローブの男「はぁ…。始まったか…」
ユキ「どこを見てるの…? あなたの相手は私だよ?」
リンの元へ加勢されることを恐れ、ユキは大男を挑発する。緊張感を高めるユキと対照的に、大男は気怠そうに溜め息をつく。
ローブの男「はぁ…。分かっている…。俺は今日、お前と戦うために来たのだからな…」
ユキ「えっ…!?」
大男の想定していなかった言葉に動揺するユキ。
≪page31≫
ローブの男「はぁ…」
大男は溜め息をつきながらゆっくりとしゃがむと、地面に立て膝をつく。そして、手のひらを地面につけた。
ローブの男「…マグナオン!!」
ユキ「…!!」
大男が呪文を唱えた瞬間、大地が揺れる。今まで感じたことのない予兆に、ユキはさらに警戒心を高めた。
モエ「あわわわ…!」
激しい揺れに、身を潜めるモエが青ざめる。
≪page32≫
大地が裂け、中からマグマが噴き出す。
SE『ボゴオオオオオッ!!』
ユキ「!?」
噴き出したマグマが津波のようにユキに襲い掛かる。