第10話
≪page1≫
○廃墟の地下空洞。
Sランクのカメレオンの魔物と戦闘中のユキ。
ユキ「…!!」
ユキの視界の外、背後からカメレオンが攻撃を仕掛ける。ユキは妖怪さながらの人間離れした第六感を働かせながら、姿の見えない魔物の攻撃を避け続けている。
≪page2≫
ユキ「早く上に戻らないと、マイちゃんたちが…リンちゃんが危ない…!」
ユキは自身の周りを氷の柱で囲った。柱の中で身を潜めるユキ。
魔物『シュウウウ…』
突如出現した氷の柱を、魔物は警戒しながら観察している。
≪page3≫
魔物『シュアアアアッ!!』
柱に隠れるユキに痺れを切らしたカメレオンは、柱を破壊しようと四方八方を動き回りながら攻撃を仕掛ける。
ユキ(あの魔物は、必ず私の元に突っ込んで来る…。だったら…)
ユキは目を瞑りながら耳を澄ませ、魔物の位置を確かめる。そして、攻撃のタイミングを見計らう。
SE『ガキンッ!!』
ユキ「…!!」
≪page4≫
ユキ「そこだッ!!」
ユキは音の方向に向けて、瞬時に尖った氷塊を地面から発生させた。カメレオンの腹部に、尖った氷が突き刺っていた。
魔物『ギィアアアアアッ!!』
ユキ「浅い…!」
攻撃を当てることに成功したユキだが、致命傷を与えるまでは至らなかった。
≪page5≫
攻撃を受けたカメレオンは、すぐに姿を消した。
先程とは打って変わり、空洞内は不気味に静まり返る。
ユキ(突っ込んで来ない…。学習したのか…)
カメレオンは静かに闇の中で身を潜める。しかし、ユキは魔物からの殺気を感じ取り、尚も警戒を続ける。
ユキ(微かだけど殺気を感じる…。あの魔物、大きくて強いけど…。やってることは熊と変わらない…。獲物を仕留めることしか考えてないんだ…)
≪page6≫
ユキは氷の柱を解除すると、全神経を集中させ、魔物を待ち構える。
ユキ(私は絶対、リンちゃんを守る…!!)
姿を消しているカメレオンが、ユキに向け舌を伸ばした。
○空洞の上、廃墟内。
Aランクのカメレオンと対峙するミナとリン。リンは未だに腰が抜けて動けないまま。魔物は舌をマイの右足に絡ませて捕食する隙を窺っている。
≪page7≫
ミナ「マイさんを離して! スプル!!」
ミナは、水の弾丸でカメレオンの舌を狙う。その瞬間、カメレオンは一気に舌を巻き取り始める。魔物はマイを捕食しようと大きく口を開けた。
ミナ「…ッ!! 駄目!!」
≪page8≫
リン「ウィード!!」
リンの風魔法が魔物に炸裂。風の刃を顔に受け、魔物は怯み、舌から解放されたマイは宙を舞っていた。
ミナ「バブリム…!! 」
咄嗟に魔法を唱えるミナ。弾力のある泡が発生し、魔物から放り出されたマイを受け止めていた。
ミナ「マイさん…!!」
≪page9≫
マイ「ミ…ミナ…。あ、ありがとう…」
意識を取り戻したマイ。朦朧とするマイを、ミナが庇いながら魔物から遠ざける。
リン「はぁ…はぁ…。ごめん、2人とも…。後は任せて…!」
マイ「リン…!」
足を震わせながら、魔物に立ち向かうリン。
ミナ(フロウナさん、あんな状態で戦えるの…!?)
≪page10≫
リンに狙いを変えた魔物は、景色に溶け込み姿を消した。
リン「消えた…!?」
初めて魔物の能力を見たリン。魔物を見失い焦りを見せる。その隙を突き、魔物はリンの足元から舌を伸ばした。
リン「うっ…!!」
魔物の舌に捕まるリン。
≪page11≫
リンは、先程のマイと同じように空中へと引っ張られる。
ミナ「フロウナさん…!!」
リン「くっ…ブリズ!!」
魔物『グギャアアアッ!!』
リンは自分の足に向けて氷の刃を放った。舌を傷付けられ、魔物はリンを放り出す。
≪page12≫
リン「エアル!」
リンは風で自分を浮かす。魔物は姿を消しながら、空中で制止しているリンに飛び掛かった。
リン「ぐあッ!!」
マイ「リン!!」
魔物がリンを殴り付けた。リンは地面に叩き付けられ、悶絶している。
リン「あ…うぅ…」
≪page13≫
魔物はリンを弱らせると、狙いをマイとミナに変えた。余裕を見せるかのように、ゆっくりとその姿を現す。
マイ「あ、あぁ…!」
廃墟の隅で、身を寄せ合いながら震えるマイとミナ。
リン(な…情けない…!! 何がエリートだ…!! 何が「必ずSランクになる」だ…!!)
≪page14≫
リンの脳裏に浮かぶ過去の光景。変わってしまったエレナ。涙を流すモエ。どうすることも出来なかったリン。過去の光景を、マイとミナを危険に晒している今の状況と重ね、リンは苛立つ。
リン(あたしは…あたしは…!!)
リンの右手に、風の魔力が集中し始めた。
○一方、地下の空洞。
≪page15≫
神経を集中させ、魔物の攻撃に備えるユキ。
ユキ(あの魔物は、私に反撃されて直接攻撃を躊躇ってる…。次はきっと、舌を伸ばして来る…!)
ユキの足に向けて、カメレオンの舌が迫る。
ユキ「…!!」
≪page16≫
舌に捕まるユキ。その瞬間、ユキは笑った。
ユキ「…掴んだね?」
魔物『…!!』
ユキ「はぁッ!!」
全身から冷気を吹き出すユキ。ユキの足に巻き付かせた舌は、一気に凍り付いていく。
魔物『ギィアアアアア…ッ!!』
≪page17≫
舌を伝わり、魔物は全身まで凍っていく。カメレオンは、あっという間に氷の彫刻のように固まっていた。
ユキ「リンちゃん! 今、行くから!」
ユキは氷の柱を足元に発生させ、地上まで伸ばしていく。
○氷の柱に乗り、屋敷へと戻るユキ。
ユキ「リンちゃん…!!」
≪page18≫
リン「うおああああ…ッ!!」
ユキが地上へと上がった瞬間、リンの手には、薄っすらと風の刃が浮かんでいた。
ユキ「…!!」
リン「あたしは、自分が許せないッ!!」
右手に微かに揺らめく不安定な風の刃を構え、リンは魔物に飛び掛かる。
≪page19≫
リン「はぁッ!!」
魔物『ギャアアアアアアッ!!』
魔物がリンに一刀両断された。その直後、強烈な風が吹き荒れる。
≪page20≫
魔物は無数の風の刃に切り刻まれ、木っ端微塵に吹き飛んでいた。
リン「はぁ…はぁ…」
マイ&ミナ「す…」
ユキ「凄い…」
○廃墟の外、近くの崖の上からリンの戦いを見ていたローブの女。
ローブの女「……」
ローブの女は、そのまま踵を返して去っていく。
≪page21≫
○魔物討伐後の廃墟の外。
マイ「ありがど〜!! リン〜!! 死ぬがど思っだ〜!!」
鼻水を垂らしながら、泣きながらリンにお礼を言うマイ。ミナはマイにハンカチを渡した。
リン「いやいや…。ごめんね…。あたしがしっかりしてれば、マイに痛い思いさせずに済んだのに…」
マイ「あんなの全然痛ぐながっだ〜! リンは命の恩人だよ〜!! うおおお〜ん!!」
ミナ「はいはい…。ちょっと落ち着いてください…」
ミナがマイをなだめる。泣き続けながらも大人しくなるマイ。
≪page22≫
ミナ「フロウナさん、本当にありがとうございました…! 私も…フロウナさんみたいに強くなりたい…!」
リン「ミナ…」
ユキ「……」
マイとミナにお礼を言われ、照れるリン。そんなリンをユキは笑顔で見つめていた。
○任務後、学校に帰還したユキたち。
ユキは、寮の近くの小川で魔法の特訓を続けていた。
≪page23≫
ユキ「うぅ〜! えいっ!」
魚を捕まえようと奮闘するユキ。だが、相変わらずユキの指先から魔法は出なかった。そんなユキの背後から、リンが声を掛けた。
リン「まだ駄目みたいね…」
ユキ「うん…。イメージはバッチリだと思うんだけどな…」
リン「決まったの? 魔法のイメージ?」
ユキ「あっ…! えっと、まぁ、うん…」
リン「…?」
ユキの歯切れの悪い回答に、リンは不思議そうな表情を浮かべた。
≪page24≫
リン「またあたしが手伝ってあげても良いけど…。でも結局、自分の魔力で魔法が使えないと意味ないのよね…。もし、ユキに魔法が使える時が来たら、頭の中に呪文が浮かぶはずよ」
ユキ「頭に呪文が…。もう少しだと思うんだ…。だから、自分の力で頑張ってみる…!」
リン「分かった…! 頑張って…!」
○一方、魔法学校の花壇。
植物が植えられていない花壇の前で、モエがしゃがんでいる。
モエ「ユキさんとリン先輩が頑張っているんすから、私も、もっと強くならないと…!」
≪page25≫
懐から種を取り出し、花壇に植えるモエ。
モエ「プランナー!」
種は一気に成長し、花壇からツル状の植物が伸びた。そして、花壇の側に生えていた木に絡みつく。ツルは木をへし折ろうと力を込めるが、木を折ることは出来ず、そのまま力尽き枯れてしまった。
モエ「植物に流す魔力が足りない…。でも、これ以上どうすれば良いんすか…?」
≪page26≫
ミスティ「モエ君」
モエ「うっひゃあああああ!?」
突然、モエの背後から現れたミスティ。モエは可愛い悲鳴を上げ、飛び上がって驚いていた。
ミスティ「おやおや…。大丈夫かい…? すまないね。驚かせるつもりはなかったんだ」
モエ「い、いえ…! 大丈夫っす…!」
モエ(ミスティ先生は普段から不気味っすから…!)
≪page27≫
ミスティ「自主訓練かい? 感心だね。私は研究は好きだけど、特訓は苦手だったからねぇ」
モエ「あはは…。でも、思ったように行かなくて、特訓になっているのかは怪しいっすけど…」
ミスティ「そうか…。じゃあ、驚かせてしまったお詫びに、良い物をあげよう」
ミスティはダボダボのローブから、手のひらサイズの布袋を取り出し、モエに手渡した。
モエ「? なんすか、これ…?」
ミスティ「これは魔力が込めてある植物の種だよ。そうすると、成長が早まったり品質が良くなったりすることが、最近の研究で分かったんだ。植物の魔法を使う君には、ピッタリの品だと思ってね」
モエ「あ、ありがとうございますっす…!」
ミスティ「ふふふ…。じゃあ、頑張って」
ミスティは手をヒラヒラ振りながら、その場から立ち去った。モエは、ミスティから貰った種をしげしげと見つめている。
モエ「種に魔力を込める…」
≪page28≫
モエは、ミスティから受け取った種を手のひらに乗せ、握り締め、さらに自分の魔力を注ぎ始めた。そして、花壇に種をひと粒植えた。
モエ「プランナー!」
先程のように、モエの呪文で種は急成長を始めた。
モエ「あ…あわわわ…」
植物の成長を見守るモエは、驚愕の表情を浮かべながら影で覆われていた。
○一方、ユキたちの女子寮前。
ユキ「ううううう…!」
リン「ユキ〜。そろそろ休憩しなさいよ〜。風邪引くわよ〜…?」
ユキ「もうちょっと〜!」
ユキ(呪文…呪文…。呪文が浮かばない〜!)
リン「はぁ…馬鹿ユキ…」
マイ「リン〜!」
なかなか特訓を切り上げないユキに呆れているリン。そこへ、マイとミナがやって来た。
≪page29≫
マイ「何やってんの〜?」
リン「馬鹿が風邪引かないか見守ってんのよ…」
ミナ「へ…?」
マイ「そんなことより! これ! 受け取ってくだされ〜!」
リン「これは…?」
マイ「任務に行く前、約束したじゃん! スイーツ奢るってさ!」
マイは紙袋に入った購買のスイーツを手渡した。リンは申し訳なさそうにしながら袋を受け取る。
リン「えぇっ!? 良いって言ったのに…」
ミナ「あの時、フロウナさんがいなかったらどうなっていたか…。これでも足りないくらいですよ…!」
ユキ(…!!)
リンたちの会話が聞こえていたユキ。ミナが発したフロウナという言葉が、ユキの脳裏にこびり付いていた。
≪page30≫
リン「ユキー! マイたちがスイーツ持って来てくれたわよー! これで休憩しましょうー!」
ユキ「フロウ!!」
リン「えっ!?」
急にユキにラストネームを呼ばれ、驚くリン。次の瞬間、小川を泳いでいた魚は空中に弾き飛ばされていた。
ユキ「で…出来た…」
リン「それ…あたしの名前…」
≪page31≫
ユキ「出来たよリンちゃん! 私の“風魔法”!」
リン「え…ええええええ〜!?」
リンは、ユキが風魔法を習得したこと。その呪文が自分の名前であること。2つのことに驚愕していた。
○女子寮内。ユキたちの部屋。
モエ「ただいまっす〜!」
満面の笑みで帰宅したモエ。ユキは上機嫌のモエを不思議そうに見つめている。
≪page32≫
ユキ「おかえり、モエちゃん! なんだか嬉しそうだけど、何か良いことあったの…?」
モエ「えへへ、ちょっと…。あれ? リン先輩、どうしたっすか? 膝を抱えて…」
リン「知らない…! 馬鹿ユキに聞いて…!」
ユキ「リンちゃん! ごめん! 何回も謝ってるでしょ! 風魔法を覚えたこと、まだ怒ってるの〜!?」
リン「なんでよりによってあたしの名前にするのよ! 恥ずかしいでしょうが!」
ユキ「だって、浮かんじゃったんだからしょうがないじゃん!」
顔を真っ赤にしてふてくされるリン。言い争う2人を、モエはキョトンとしながら見つめていた。
≪page1≫
○廃墟の地下空洞。
Sランクのカメレオンの魔物と戦闘中のユキ。
ユキ「…!!」
ユキの視界の外、背後からカメレオンが攻撃を仕掛ける。ユキは妖怪さながらの人間離れした第六感を働かせながら、姿の見えない魔物の攻撃を避け続けている。
≪page2≫
ユキ「早く上に戻らないと、マイちゃんたちが…リンちゃんが危ない…!」
ユキは自身の周りを氷の柱で囲った。柱の中で身を潜めるユキ。
魔物『シュウウウ…』
突如出現した氷の柱を、魔物は警戒しながら観察している。
≪page3≫
魔物『シュアアアアッ!!』
柱に隠れるユキに痺れを切らしたカメレオンは、柱を破壊しようと四方八方を動き回りながら攻撃を仕掛ける。
ユキ(あの魔物は、必ず私の元に突っ込んで来る…。だったら…)
ユキは目を瞑りながら耳を澄ませ、魔物の位置を確かめる。そして、攻撃のタイミングを見計らう。
SE『ガキンッ!!』
ユキ「…!!」
≪page4≫
ユキ「そこだッ!!」
ユキは音の方向に向けて、瞬時に尖った氷塊を地面から発生させた。カメレオンの腹部に、尖った氷が突き刺っていた。
魔物『ギィアアアアアッ!!』
ユキ「浅い…!」
攻撃を当てることに成功したユキだが、致命傷を与えるまでは至らなかった。
≪page5≫
攻撃を受けたカメレオンは、すぐに姿を消した。
先程とは打って変わり、空洞内は不気味に静まり返る。
ユキ(突っ込んで来ない…。学習したのか…)
カメレオンは静かに闇の中で身を潜める。しかし、ユキは魔物からの殺気を感じ取り、尚も警戒を続ける。
ユキ(微かだけど殺気を感じる…。あの魔物、大きくて強いけど…。やってることは熊と変わらない…。獲物を仕留めることしか考えてないんだ…)
≪page6≫
ユキは氷の柱を解除すると、全神経を集中させ、魔物を待ち構える。
ユキ(私は絶対、リンちゃんを守る…!!)
姿を消しているカメレオンが、ユキに向け舌を伸ばした。
○空洞の上、廃墟内。
Aランクのカメレオンと対峙するミナとリン。リンは未だに腰が抜けて動けないまま。魔物は舌をマイの右足に絡ませて捕食する隙を窺っている。
≪page7≫
ミナ「マイさんを離して! スプル!!」
ミナは、水の弾丸でカメレオンの舌を狙う。その瞬間、カメレオンは一気に舌を巻き取り始める。魔物はマイを捕食しようと大きく口を開けた。
ミナ「…ッ!! 駄目!!」
≪page8≫
リン「ウィード!!」
リンの風魔法が魔物に炸裂。風の刃を顔に受け、魔物は怯み、舌から解放されたマイは宙を舞っていた。
ミナ「バブリム…!! 」
咄嗟に魔法を唱えるミナ。弾力のある泡が発生し、魔物から放り出されたマイを受け止めていた。
ミナ「マイさん…!!」
≪page9≫
マイ「ミ…ミナ…。あ、ありがとう…」
意識を取り戻したマイ。朦朧とするマイを、ミナが庇いながら魔物から遠ざける。
リン「はぁ…はぁ…。ごめん、2人とも…。後は任せて…!」
マイ「リン…!」
足を震わせながら、魔物に立ち向かうリン。
ミナ(フロウナさん、あんな状態で戦えるの…!?)
≪page10≫
リンに狙いを変えた魔物は、景色に溶け込み姿を消した。
リン「消えた…!?」
初めて魔物の能力を見たリン。魔物を見失い焦りを見せる。その隙を突き、魔物はリンの足元から舌を伸ばした。
リン「うっ…!!」
魔物の舌に捕まるリン。
≪page11≫
リンは、先程のマイと同じように空中へと引っ張られる。
ミナ「フロウナさん…!!」
リン「くっ…ブリズ!!」
魔物『グギャアアアッ!!』
リンは自分の足に向けて氷の刃を放った。舌を傷付けられ、魔物はリンを放り出す。
≪page12≫
リン「エアル!」
リンは風で自分を浮かす。魔物は姿を消しながら、空中で制止しているリンに飛び掛かった。
リン「ぐあッ!!」
マイ「リン!!」
魔物がリンを殴り付けた。リンは地面に叩き付けられ、悶絶している。
リン「あ…うぅ…」
≪page13≫
魔物はリンを弱らせると、狙いをマイとミナに変えた。余裕を見せるかのように、ゆっくりとその姿を現す。
マイ「あ、あぁ…!」
廃墟の隅で、身を寄せ合いながら震えるマイとミナ。
リン(な…情けない…!! 何がエリートだ…!! 何が「必ずSランクになる」だ…!!)
≪page14≫
リンの脳裏に浮かぶ過去の光景。変わってしまったエレナ。涙を流すモエ。どうすることも出来なかったリン。過去の光景を、マイとミナを危険に晒している今の状況と重ね、リンは苛立つ。
リン(あたしは…あたしは…!!)
リンの右手に、風の魔力が集中し始めた。
○一方、地下の空洞。
≪page15≫
神経を集中させ、魔物の攻撃に備えるユキ。
ユキ(あの魔物は、私に反撃されて直接攻撃を躊躇ってる…。次はきっと、舌を伸ばして来る…!)
ユキの足に向けて、カメレオンの舌が迫る。
ユキ「…!!」
≪page16≫
舌に捕まるユキ。その瞬間、ユキは笑った。
ユキ「…掴んだね?」
魔物『…!!』
ユキ「はぁッ!!」
全身から冷気を吹き出すユキ。ユキの足に巻き付かせた舌は、一気に凍り付いていく。
魔物『ギィアアアアア…ッ!!』
≪page17≫
舌を伝わり、魔物は全身まで凍っていく。カメレオンは、あっという間に氷の彫刻のように固まっていた。
ユキ「リンちゃん! 今、行くから!」
ユキは氷の柱を足元に発生させ、地上まで伸ばしていく。
○氷の柱に乗り、屋敷へと戻るユキ。
ユキ「リンちゃん…!!」
≪page18≫
リン「うおああああ…ッ!!」
ユキが地上へと上がった瞬間、リンの手には、薄っすらと風の刃が浮かんでいた。
ユキ「…!!」
リン「あたしは、自分が許せないッ!!」
右手に微かに揺らめく不安定な風の刃を構え、リンは魔物に飛び掛かる。
≪page19≫
リン「はぁッ!!」
魔物『ギャアアアアアアッ!!』
魔物がリンに一刀両断された。その直後、強烈な風が吹き荒れる。
≪page20≫
魔物は無数の風の刃に切り刻まれ、木っ端微塵に吹き飛んでいた。
リン「はぁ…はぁ…」
マイ&ミナ「す…」
ユキ「凄い…」
○廃墟の外、近くの崖の上からリンの戦いを見ていたローブの女。
ローブの女「……」
ローブの女は、そのまま踵を返して去っていく。
≪page21≫
○魔物討伐後の廃墟の外。
マイ「ありがど〜!! リン〜!! 死ぬがど思っだ〜!!」
鼻水を垂らしながら、泣きながらリンにお礼を言うマイ。ミナはマイにハンカチを渡した。
リン「いやいや…。ごめんね…。あたしがしっかりしてれば、マイに痛い思いさせずに済んだのに…」
マイ「あんなの全然痛ぐながっだ〜! リンは命の恩人だよ〜!! うおおお〜ん!!」
ミナ「はいはい…。ちょっと落ち着いてください…」
ミナがマイをなだめる。泣き続けながらも大人しくなるマイ。
≪page22≫
ミナ「フロウナさん、本当にありがとうございました…! 私も…フロウナさんみたいに強くなりたい…!」
リン「ミナ…」
ユキ「……」
マイとミナにお礼を言われ、照れるリン。そんなリンをユキは笑顔で見つめていた。
○任務後、学校に帰還したユキたち。
ユキは、寮の近くの小川で魔法の特訓を続けていた。
≪page23≫
ユキ「うぅ〜! えいっ!」
魚を捕まえようと奮闘するユキ。だが、相変わらずユキの指先から魔法は出なかった。そんなユキの背後から、リンが声を掛けた。
リン「まだ駄目みたいね…」
ユキ「うん…。イメージはバッチリだと思うんだけどな…」
リン「決まったの? 魔法のイメージ?」
ユキ「あっ…! えっと、まぁ、うん…」
リン「…?」
ユキの歯切れの悪い回答に、リンは不思議そうな表情を浮かべた。
≪page24≫
リン「またあたしが手伝ってあげても良いけど…。でも結局、自分の魔力で魔法が使えないと意味ないのよね…。もし、ユキに魔法が使える時が来たら、頭の中に呪文が浮かぶはずよ」
ユキ「頭に呪文が…。もう少しだと思うんだ…。だから、自分の力で頑張ってみる…!」
リン「分かった…! 頑張って…!」
○一方、魔法学校の花壇。
植物が植えられていない花壇の前で、モエがしゃがんでいる。
モエ「ユキさんとリン先輩が頑張っているんすから、私も、もっと強くならないと…!」
≪page25≫
懐から種を取り出し、花壇に植えるモエ。
モエ「プランナー!」
種は一気に成長し、花壇からツル状の植物が伸びた。そして、花壇の側に生えていた木に絡みつく。ツルは木をへし折ろうと力を込めるが、木を折ることは出来ず、そのまま力尽き枯れてしまった。
モエ「植物に流す魔力が足りない…。でも、これ以上どうすれば良いんすか…?」
≪page26≫
ミスティ「モエ君」
モエ「うっひゃあああああ!?」
突然、モエの背後から現れたミスティ。モエは可愛い悲鳴を上げ、飛び上がって驚いていた。
ミスティ「おやおや…。大丈夫かい…? すまないね。驚かせるつもりはなかったんだ」
モエ「い、いえ…! 大丈夫っす…!」
モエ(ミスティ先生は普段から不気味っすから…!)
≪page27≫
ミスティ「自主訓練かい? 感心だね。私は研究は好きだけど、特訓は苦手だったからねぇ」
モエ「あはは…。でも、思ったように行かなくて、特訓になっているのかは怪しいっすけど…」
ミスティ「そうか…。じゃあ、驚かせてしまったお詫びに、良い物をあげよう」
ミスティはダボダボのローブから、手のひらサイズの布袋を取り出し、モエに手渡した。
モエ「? なんすか、これ…?」
ミスティ「これは魔力が込めてある植物の種だよ。そうすると、成長が早まったり品質が良くなったりすることが、最近の研究で分かったんだ。植物の魔法を使う君には、ピッタリの品だと思ってね」
モエ「あ、ありがとうございますっす…!」
ミスティ「ふふふ…。じゃあ、頑張って」
ミスティは手をヒラヒラ振りながら、その場から立ち去った。モエは、ミスティから貰った種をしげしげと見つめている。
モエ「種に魔力を込める…」
≪page28≫
モエは、ミスティから受け取った種を手のひらに乗せ、握り締め、さらに自分の魔力を注ぎ始めた。そして、花壇に種をひと粒植えた。
モエ「プランナー!」
先程のように、モエの呪文で種は急成長を始めた。
モエ「あ…あわわわ…」
植物の成長を見守るモエは、驚愕の表情を浮かべながら影で覆われていた。
○一方、ユキたちの女子寮前。
ユキ「ううううう…!」
リン「ユキ〜。そろそろ休憩しなさいよ〜。風邪引くわよ〜…?」
ユキ「もうちょっと〜!」
ユキ(呪文…呪文…。呪文が浮かばない〜!)
リン「はぁ…馬鹿ユキ…」
マイ「リン〜!」
なかなか特訓を切り上げないユキに呆れているリン。そこへ、マイとミナがやって来た。
≪page29≫
マイ「何やってんの〜?」
リン「馬鹿が風邪引かないか見守ってんのよ…」
ミナ「へ…?」
マイ「そんなことより! これ! 受け取ってくだされ〜!」
リン「これは…?」
マイ「任務に行く前、約束したじゃん! スイーツ奢るってさ!」
マイは紙袋に入った購買のスイーツを手渡した。リンは申し訳なさそうにしながら袋を受け取る。
リン「えぇっ!? 良いって言ったのに…」
ミナ「あの時、フロウナさんがいなかったらどうなっていたか…。これでも足りないくらいですよ…!」
ユキ(…!!)
リンたちの会話が聞こえていたユキ。ミナが発したフロウナという言葉が、ユキの脳裏にこびり付いていた。
≪page30≫
リン「ユキー! マイたちがスイーツ持って来てくれたわよー! これで休憩しましょうー!」
ユキ「フロウ!!」
リン「えっ!?」
急にユキにラストネームを呼ばれ、驚くリン。次の瞬間、小川を泳いでいた魚は空中に弾き飛ばされていた。
ユキ「で…出来た…」
リン「それ…あたしの名前…」
≪page31≫
ユキ「出来たよリンちゃん! 私の“風魔法”!」
リン「え…ええええええ〜!?」
リンは、ユキが風魔法を習得したこと。その呪文が自分の名前であること。2つのことに驚愕していた。
○女子寮内。ユキたちの部屋。
モエ「ただいまっす〜!」
満面の笑みで帰宅したモエ。ユキは上機嫌のモエを不思議そうに見つめている。
≪page32≫
ユキ「おかえり、モエちゃん! なんだか嬉しそうだけど、何か良いことあったの…?」
モエ「えへへ、ちょっと…。あれ? リン先輩、どうしたっすか? 膝を抱えて…」
リン「知らない…! 馬鹿ユキに聞いて…!」
ユキ「リンちゃん! ごめん! 何回も謝ってるでしょ! 風魔法を覚えたこと、まだ怒ってるの〜!?」
リン「なんでよりによってあたしの名前にするのよ! 恥ずかしいでしょうが!」
ユキ「だって、浮かんじゃったんだからしょうがないじゃん!」
顔を真っ赤にしてふてくされるリン。言い争う2人を、モエはキョトンとしながら見つめていた。