第1話
≪page1≫
〇吹雪が吹き荒ぶ現世の雪山。その森の中を徘徊している主人公の雪女。
白装束に身を包んだ黒髪ショートの雪女。雪女は無表情のまま、アテもなく雪山を歩き回る。そんな彼女の前に大型の熊が立ちはだかった。冬眠から目が覚め、気が立っている熊は、雪女を見つけると攻撃対象として睨み付けた。雪女はやれやれと思いながら熊を見る。
熊「グアウウウウウウッ!!」
唸り声を上げながら熊は突進してきた。
≪page2≫
雪女は冷たい視線を向けながら、熊に向かって右手をかざす。
SE『パキンッ 』
雪女の冷気で熊は全身が凍り付いていた。そんな熊の横を、雪女は何事もなかったかのように通り過ぎる。
≪page3≫
○猛吹雪の雪山
雪女は一人、吹雪の中を歩き続ける。
雪女(私は、物心ついた時から雪山の中で暮らしていた。寒さは全く感じない。そして、冷気を操る能力を持っていた。それが私には普通だった)
○雪山にある洞窟。雪女の住処。
雪女は、虚無感に押し潰されるような表情で、膝を抱えて座り込んでいる。
雪女(私の周りには仲間や家族なんて者はなく、何もない雪山の中、ずっと一人で過ごしていた。それはもう寂しくて寂しくて気が狂いそうだった)
雪女が雪山を降り始める。
○雪山の麓にある街
林の中から街の様子を窺う雪女。恐る恐る街中へと一歩を踏み出す。
≪page4≫
雪女(そんな生活に耐えられなくなった私は雪山を降り、人間という存在を知る。自分と姿形は似ている。仲良く出来るのではないかと思った)
雪女(しかし、現実は非情だった)
雪女から逃げ惑う人々。悲しげな表情の雪女。
雪女(話し掛けようとするとみんな悲鳴を上げて逃げてしまう。私の白装束がどうやら恐怖心を煽るようだった…)
○夕暮れの街中
フラフラとひと気のない路地を歩く雪女。
雪女(私は…どうすればいいんだろう…)
○路地にある自動販売機、その隣には、段差に座りスマホをいじる白い肌のギャル。
≪page5≫
ギャルに気が付く雪女。ギャルに怖がられるのを恐れ、雪女は今来た道を引き返そうとする。
ギャル「もしかしてあんた雪女?」
あっさりと声を掛けてきたギャルに、目を丸くしてビクッと猫のように飛び上がる雪女。その反応を見てギャルは明るく笑う。
ギャル「ぶっ、何そのリアクション! マジウケるんだけど!」
ギャルのテンションの高さに、どう接したら良いのか分からない雪女。どんどんギャルと距離を取り、電柱に隠れて様子を窺う。
ギャル「ちょ…ちょっとちょっと! 隠れなくてもいーじゃん!」
≪page6≫
ギャル「あたし、怖くないよ? ほれ!」
ギャルは両手を広げて、自分は武器など何も持ってないとアピールした。それを見て雪女は笑った。
雪女「ふふふっ…!」
笑った自分に気が付き、ハッと我に返る雪女。
雪女(怖くないよなんて初めて言われて、つい、おかしくて笑ってしまった…)
ギャル「笑ってくれた!よっしゃ! ほれほれ、こっち来て座りなよ!」
≪page7≫
ギャルは馴れ馴れしく、雪女を隣の段差に座らせた。雪女から発せられる冷気に、ギャルは飛び上がって驚いた。
ギャル「うわっ! 冷たっ! マジもんの雪女じゃん! すごーっ! 自撮りしても良い? ミンスタに上げる…のは駄目か!」
雪女の返事を聞く前に、ギャルはスマホで自分と雪女のツーショットを撮影した。スマホが気になる雪女はギャルに尋ねる。
雪女「あ…あの…。なんですかそれは…?」
ギャル「え? …これのこと? これはスマホ! なんかいろいろ出来んの!」
説明になっていない説明を聞きながら、とりあえず納得したフリをする雪女。
雪女「はぁ…。スマホ…」
ギャル「スマホ知らないってマジヤバイね! 人間のことあんま知らない系な感じ?」
雪女「は、はい…。知らない系な感じです…」
ギャル「マジかー…。じゃ、あたしが教えてあげるよ! WINEやってる?」
雪女「わ…わいん…?」
≪page8≫
ギャル「あー!ごめんごめん! やってる訳ないっつーの! スマホ知らないんだから! 馬鹿だね! あたし! あはははっ!」
顎に指を当て、考えるギャル。
ギャル「んじゃそうだな~…。ここで待ち合わせでいっか? このくらいの時間に気が向いた時にここに来てよ!」
ギャル「あたしも気が向いたら来るから! 来ない時もあるかもしんないけど、そん時はごめんね!あははっ!」
雪女「は、はい…。分かりました…」
満面の笑みで手を振り、その場から立ち去ろうとするギャル。
ギャル「んじゃまたねー!」
立ち去ろうとするギャルを呼び止めようと、雪女は慌てて立ち上がる。
雪女「あ、あの…! お名前は…!?」
≪page9≫
雪女の問いに、ギャルは足を止め後ろを振り返る。
ギャル「あー! だよねー! 名前言ってないつーの! あたしは朝風 鈴子! じゃあねー! バイバーイ!」
明るく颯爽と立ち去る鈴子。雪女はギャルを静かに見送る。その表情は嬉しさを押され切れず、自然と笑みが溢れ、頬はほのかに赤く染まっている。
○雪山の洞窟
鈴子のことを思い出しながらソワソワする雪女。
雪女「鈴子ちゃん…。明日も会えるかな…」
≪page10≫
○一夜明け、夕方の路地裏
翌日、鈴子が指定した時間に、彼女と出会った路地へ雪女は緊張しながら向かう。
雪女が待ち合わせ場所に到着すると、鈴子が段差に座りながら笑顔で手を振っていた。
鈴子「おっ! 来た来た! 雪ちゃん元気ー?」
雪女「は、はい…。元気です…」
鈴子「なんかテンション低くない!? もっとアゲて行こうよー! ほら! あたしからプレゼントあげるから!」
鈴子は大きな袋からガサゴソとワンピースを取り出した。
≪page11≫
鈴子「じゃーん!どうこれ!? 可愛くね!?」
鈴子はワンピースを広げ、雪女に見せていた。
鈴子「これノリで買ったは良いけど、似合わなくてどうしようかと思ってたんだよねー! 売るのもめんどくさいし! 捨てるのもあれだから雪ちゃんにあげるよ!」
雪女「ほ、ほんとに良いの…?」
鈴子「いいって、いいって! そのかっこじゃ目立つじゃん! イメチェンよ! イメチェン!」
ワンピースを雪女に手渡し、近くにある公園を指差す鈴子。
鈴子「あそこに公衆トイレあるから、さっそく着替えて来なよ!」
雪女「う、うん…」
≪page12≫
○公園の公衆トイレ
着替えを終え、雪女は鈴子の元へ戻った。ワンピース姿の雪女を見て、鈴子は目を輝かせながら喜んだ。
鈴子「うわっ!? かわいー!! 超美少女じゃん!! 雪ちゃんマジヤバイね!?」
雪女「あ、ありがとう…!」
鈴子「笑顔もかわいー! 雪ちゃん笑った方が良いって! んじゃ、行こっか?」
雪女「い…行くってどこへ…?」
≪page13≫
鈴子「決まってんじゃん! 遊びにだよー!」
満面の笑みを浮かべ、鈴子は雪女の腕を掴んで街へと連れ出した。
ゲームセンターへ向かい、クレーンゲームやプリクラを楽しむ雪女と鈴子。
ゲームセンターを満喫した後、ハンバーガーショップを向かい、店内の窓際の席で、隣り合って座り、仲良くハンバーガーを食べる2人。
≪page14≫
鈴子「さすがにそんなお金持ってないから、あんま遊べなくてごめんねー!」
雪女「そ、そんな…!ここまでいろいろしてもらっているのに…」
雪女は節目がちに、鈴子のことを横目で見る。
雪女「…なんでここまで良くしてくれるの?」
雪女は恐る恐る鈴子に尋ねた。
鈴子「あ…。えと、うーん…」
終始明るい鈴子が初めて見せる曇った表情。話しづらそうにしながらも、鈴子は口を開いた。
鈴子「実はあたし…学校でいじめられてて…」
雪女「えっ…!?」
≪page15≫
鈴子「私のことがウザいんだって…。まいっちゃうよね。ほんと…。先生に言っても、きっと仲良くなれるとか適当なこと言って放置されて…。大人の言うことなんて信じちゃ駄目だね…。あはは…」
心配そうに鈴子を見つめる雪女。そんな雪女の顔を見て、ハッと我に返る鈴子。
鈴子「だから寂しくてさ…! 雪ちゃんで紛らわしちゃったの! ごめんね…!」
雪女「…ううん」
雪女(鈴子ちゃんは人間なのに、独りぼっちで…。私と同じ気持ちを味わっているの…? そんなの、悲しすぎるよ…)
唇を噛み締め、ワンピースの裾を握り締める雪女。
≪page16≫
雪女は真剣な眼差しで鈴子に向き直った。
雪女「お…お金は無理に使わなくて良いから…! 鈴子ちゃんが寂しいなら、私がずっとそばにいるよ…!?」
雪女の言葉に涙が溢れる鈴子。涙を必死に拭いつつ、雪女に笑顔を向けた。
鈴子「雪ちゃん…! あんた…マジヤバイね…!」
雪女(私たちは友達…。私は鈴子ちゃんと2人でいられるなら、それで良いと思った…)
≪page17≫
○雪女と鈴子が仲良く遊ぶ光景
雪女(私と鈴子ちゃんはたびたび会って、遊んだり、お喋りしたり、とにかく楽しい時間を過ごした。私は本当に鈴子ちゃんのことが大好きだった。彼女のためなら何をしても良いと、そう思えた)
○夕方、待ち合わせの自販機前
いつも通り鈴子の元へと向かう雪女。いつもの場所に鈴子がいた。雪女はおーい!と声を掛けようとするが、様子がいつもと違うのに気が付く。
≪page18≫
鈴子の周りを同じ年頃の制服姿の少女が3人取り囲んでいる。
少女A「鈴子、あんた最近何やってんの?」
鈴子「…別に。どうでもいいでしょ…?」
ただならぬ雰囲気に、雪女は咄嗟に電柱の裏に隠れ、様子を伺う。
少女B「その髪色と服装、ギャルにでもなったつもりぃ?」
鈴子「…ほっといてよ」
少女B「はぁ…?」
鈴子「うッ…!?」
鈴子は突然、少女Bに髪を掴まれ引っ張られる。その光景を見た雪女の表情は、怒りに染まっていく。
少女B「久しぶりに会ったんだからさぁ。一緒に遊びましょうよぉ?」
鈴子「い…嫌ッ…!!」
少女たちに無理矢理連れて行かれそうになる鈴子。雪女は、目を見開き、怒りの感情に支配される。背景にどす黒い闇が浮かぶ。
雪女(あんなに優しい鈴子ちゃんが…暴力を振るわれてる…)
≪page19≫
雪女(あんなに優しい…鈴子ちゃんがッ!!)
SE『パキンッ』
少女A「なんの音?」
少女C「……え?」
鈴子の髪を引っ張っていた少女Bは、一瞬で全身が凍り付いた。街頭に照らされ氷の彫刻のように光っていた。凍り付いた友人を見て、泣き笑いのような表情の少女A。少女Cは腰が抜け、地面に力なくへたり込む。
少女A「は、はは…。どういう、こと…?」
少女C「嘘だよね…。これ…? ねぇ…!?」
凍った電柱の裏から雪女が姿を現した。2人の不良少女に加え、鈴子の表情も恐怖に染まっていた。
鈴子「ゆ…雪…ちゃん…?」
雪女は冷たい笑みを浮かべていた。
≪page20≫
雪女(これでもう暴力は振るわれない。良かった。でも、他の2人も野放しにしてたら、また鈴子ちゃんがいじめられちゃうかもしれないよね?)
鈴子「や……」
鈴子「やめて雪ちゃん…ッ!!」
必死の形相で雪女を止めようとする鈴子。
SE『パキンッ』
雪女「ふぅ…。やっと邪魔者は消えた…。これで私と鈴子ちゃんはふたりっきり…。ふふふ…。良かったね? 鈴子ちゃん?」
凍り付いた少女3人組を見て、雪女は満足そうに穏やかな笑顔を浮かべた。
≪page21≫
雪女は、そのまま鈴子の方へ視線を向けるが、鈴子は凍っていて動かなかった。
鈴子まで凍らせてしまった雪女は我に返った。その表情は絶望と後悔、複雑な負の感情が渦巻いているかのようだ。
雪女「あ……あぁ……」
雪女「ば…化け物…!!」
氷に映った自分自身に向かって、化け物と叫ぶ雪女。
○雪山の洞窟
洞窟内で横になっていた雪女。今までのは全て悪夢だった。目を開けた瞬間、彼女は飛び起きた。
雪女「うわああああっ!!」
息を必死に整える雪女。
雪女「はぁ…はぁ…はぁ…」
雪女「はぁ……」
雪女は辺りを見回し、洞窟で寝ていたことをしっかりと確認する。彼女の身体は汗でぐっしょりと濡れていた。
雪女は、膝を抱えながらガタガタと震えている。涙が溢れて止まらない。
≪page22≫
雪女(今のはただの夢じゃない。そう思えた)
悪夢の恐怖に耐えられず、雪女は目をぎゅっと瞑った。
雪女(何故なら私には、今の夢を簡単に現実に変えてしまえる力があるのだから…!)
○夕方、鈴子との待ち合わせの自販機
とびっきりの笑顔で手を振る鈴子。
鈴子「お! 雪ちゃん来た来た!…どったの? いつもにも増して白い顔してるけど…?」
雪女は手をブンブン振りながら、自身の異変を気付かせまいと振る舞った。
雪女「いや! 別になんでもないの…! あははは…」
○ハンバーガーショップ内
窓際の席で、横並びに座りながらハンバーガーを食べる雪女と鈴子。上機嫌で世間話をする鈴子。
≪page23≫
鈴子「でさー!教頭が挟まっててさー! あそこに挟まるか普通!?って思ってマジウケたんだけどー!」
雪女は、鈴子の話をニコニコしながら聞いている。鈴子が買ってくれた紙カップのコーラを手に取り、ストローをくわえた。
だが、いつまで経ってもコーラは上って来ない。不思議そうに雪女は手にしている紙カップを見た。
手元のアップ。コーラの紙カップは凍り付いていた。
雪女「ひッ…!?」
雪女は悲鳴を上げて紙コップを倒してしまう。凍っているので中身は溢れない。
鈴子「どうしたの?」
鈴子が心配そうに雪女を見る。雪女は慌てて凍ったカップを後ろ手に隠した。
雪女「い…いや大丈夫…! なんでもないから…!」
雪女の表情が恐怖で凍り付く。
雪女(こんなことは今まで一度もなかった…。
なんで急に…!?)
≪page24≫
○夕暮れ、ハンバーガーショップの外
ハンバーガーショップを後にした2人。
雪女(さっきのは何かの間違い…。少し落ち着こう…!)
外の空気を吸って落ち着こうとする雪女。
雪女「ふうぅ…」
雪女が深呼吸すると目の前がキラキラと光った。彼女の口から冷気が漏れていた。
雪女「うぐっ!?」
雪女は慌てて両手で口を塞いだ。
雪女(なんで…!? 力がコントロール出来てない…!?)
雪女の様子がおかしいことに気付き、鈴子が再び心配そうな顔をする。
鈴子「どうしたの…? 雪ちゃん…? やっぱり何か変だよ…?」
口を両手で塞ぎ喋れない雪女。鈴子に首をふるふると左右に振る。
雪女(口から手を離して返事でもしたら、鈴子ちゃんが凍っちゃう…!)
≪page25≫
そこへ、夢の中で見た少女3人組とそっくりの3人組が現れる。
少女A「あれ?もしかしてあんた鈴子?」
その声と姿を確認した雪女は、驚愕の表情を浮かべた。
雪女(夢で見た子たちとそっくり…!? そんな…こんなことって…!)
鈴子「…あんたたちは…」
少女B「誰ぇその子? 見ない顔だけどぉ」
鈴子「…別に誰でもいいでしょ。私たち用事があるから…。行こ。雪ちゃん…」
鈴子ちゃんは雪女を連れてさっさとこの場から立ち去ろうとする。雪女はそそくさと彼女の後について行こうとする。
少女A「ちょっと待ちなよ~」
雪女と鈴子の前に立ちはだかる3人。
≪page26≫
少女C「用事ってどうせ遊んでたんでしょ? うちらも混ぜてよ…?」
少女B「トモダチでしょぉ? 私たち? いひひひっ…」
鈴子「そういうのいいから…!」
鈴子は苛立って少し声を荒げた。
少女B「あ?」
鈴子「うッ…!!」
鈴子は少女Bに胸ぐらを掴まれ、鈴子ちゃんが電信柱に叩き付けられていた。雪女は怒りが湧いてきてしまうが必死で抑える。
少女B「人が遊んでやるって言ってるのになんだその態度…?」
鈴子「だ…誰も頼んでない…ッ!!」
≪page27≫
少女A「ほんとウザいな鈴子はー」
少女C「いいから一緒に来いっつってんだよ」
雪女(やめろ…)
鈴子「やめて…! 離して…!」
雪女(やめろ…)
雪女「やめろォッ!!」
≪page28≫
雪女の絶叫が辺りに響く。雪女の足元や近くに停めてある車が凍り付いていた。
少女B「……え?」
少女A「なにこれ…」
雪女は手のひらから冷気を大量に放出する。それを鋭く尖らせ大きな槍を作った。
SE『ドガアァンッ!!』
雪女は、氷の槍を地面に突き刺し、コンクリートに大きな亀裂を作った。
雪女「殺すぞ…」
≪page29≫
少女B「ば…化け物…!?」
少女C「うわああああっ!?」
少女たちは慌てて逃げ出した。彼女たちを殺さずに済んだ雪女は、安心して泣き崩れた。
雪女「うぅっ…!!」
雪女(良かった…! 殺さずに済んだ…! 本当に良かった…!)
雪女の涙は、体から漏れ出る冷気ですぐに凍り、氷の粒がコロコロと辺りに転がった。
鈴子「雪ちゃん…! ありがとう…! あたしのこと助けてくれて…」
鈴子は雪女にお礼を言いながら近づこうとしていた。
雪女「近づくなッ!!」
鈴子「…雪ちゃんっ」
雪女は氷の涙を流しながら鈴子を睨みつける。
鈴子は拒絶されたのかと思い悲しそうな顔をしていた。
雪女(私の体からは絶えず冷気が溢れている。
今近づかれたら、間違いなく鈴子ちゃんを凍らせてしまう…。鈴子ちゃんだけは、何があっても絶対に凍らせる訳にはいかない…!)
≪page30≫
氷の涙を流しながら、鈴子に向き直る雪女。
雪女「ごめんね鈴子ちゃん…。私たち、もう一緒にいられないから…」
鈴子「え…」
困惑する鈴子。雪女は必死に笑顔を作ろうとしている。
雪女「今までありがとう…。本当に楽しかった…!!」
鈴子「雪ちゃんっ…!!」
雪女は駆け出した。鈴子が雪女の名前を叫んでいるのが聞こえているが、振り返らずに走り続ける。
雪女「うぅ…ッ! ううぅッ!!」
雪女(なんでこんなことに…! 大好きな友達と一緒にいることも出来ないなんて…!)
雪女(生まれ変われるなら、こんな氷の力なんてない普通の人間として生まれ変わりたい…)
≪page31≫
○複数の車が走る道路
道路に飛び出した雪女の右半身は明るく照らされていた。無我夢中で走っていたせいでトラックの目の前に飛び出してしまっていた。
雪女「あ…」
トラックに衝突することへの恐怖を一瞬覗かせるが、運転手を気遣い、雪女はトラックを凍らせる素振りは見せなかった。
トラックの衝突音が響く。
≪page32≫
○巨大な山脈や城がそびえ立つ異世界
平原で倒れていた雪女。身体を起こすと、彼女は立ち尽くしながら、見たことのない景色を呆然と眺める。
さらに雪女から離れた地で、鈴子によく似た少女の姿のカット。
≪page1≫
〇吹雪が吹き荒ぶ現世の雪山。その森の中を徘徊している主人公の雪女。
白装束に身を包んだ黒髪ショートの雪女。雪女は無表情のまま、アテもなく雪山を歩き回る。そんな彼女の前に大型の熊が立ちはだかった。冬眠から目が覚め、気が立っている熊は、雪女を見つけると攻撃対象として睨み付けた。雪女はやれやれと思いながら熊を見る。
熊「グアウウウウウウッ!!」
唸り声を上げながら熊は突進してきた。
≪page2≫
雪女は冷たい視線を向けながら、熊に向かって右手をかざす。
SE『パキンッ 』
雪女の冷気で熊は全身が凍り付いていた。そんな熊の横を、雪女は何事もなかったかのように通り過ぎる。
≪page3≫
○猛吹雪の雪山
雪女は一人、吹雪の中を歩き続ける。
雪女(私は、物心ついた時から雪山の中で暮らしていた。寒さは全く感じない。そして、冷気を操る能力を持っていた。それが私には普通だった)
○雪山にある洞窟。雪女の住処。
雪女は、虚無感に押し潰されるような表情で、膝を抱えて座り込んでいる。
雪女(私の周りには仲間や家族なんて者はなく、何もない雪山の中、ずっと一人で過ごしていた。それはもう寂しくて寂しくて気が狂いそうだった)
雪女が雪山を降り始める。
○雪山の麓にある街
林の中から街の様子を窺う雪女。恐る恐る街中へと一歩を踏み出す。
≪page4≫
雪女(そんな生活に耐えられなくなった私は雪山を降り、人間という存在を知る。自分と姿形は似ている。仲良く出来るのではないかと思った)
雪女(しかし、現実は非情だった)
雪女から逃げ惑う人々。悲しげな表情の雪女。
雪女(話し掛けようとするとみんな悲鳴を上げて逃げてしまう。私の白装束がどうやら恐怖心を煽るようだった…)
○夕暮れの街中
フラフラとひと気のない路地を歩く雪女。
雪女(私は…どうすればいいんだろう…)
○路地にある自動販売機、その隣には、段差に座りスマホをいじる白い肌のギャル。
≪page5≫
ギャルに気が付く雪女。ギャルに怖がられるのを恐れ、雪女は今来た道を引き返そうとする。
ギャル「もしかしてあんた雪女?」
あっさりと声を掛けてきたギャルに、目を丸くしてビクッと猫のように飛び上がる雪女。その反応を見てギャルは明るく笑う。
ギャル「ぶっ、何そのリアクション! マジウケるんだけど!」
ギャルのテンションの高さに、どう接したら良いのか分からない雪女。どんどんギャルと距離を取り、電柱に隠れて様子を窺う。
ギャル「ちょ…ちょっとちょっと! 隠れなくてもいーじゃん!」
≪page6≫
ギャル「あたし、怖くないよ? ほれ!」
ギャルは両手を広げて、自分は武器など何も持ってないとアピールした。それを見て雪女は笑った。
雪女「ふふふっ…!」
笑った自分に気が付き、ハッと我に返る雪女。
雪女(怖くないよなんて初めて言われて、つい、おかしくて笑ってしまった…)
ギャル「笑ってくれた!よっしゃ! ほれほれ、こっち来て座りなよ!」
≪page7≫
ギャルは馴れ馴れしく、雪女を隣の段差に座らせた。雪女から発せられる冷気に、ギャルは飛び上がって驚いた。
ギャル「うわっ! 冷たっ! マジもんの雪女じゃん! すごーっ! 自撮りしても良い? ミンスタに上げる…のは駄目か!」
雪女の返事を聞く前に、ギャルはスマホで自分と雪女のツーショットを撮影した。スマホが気になる雪女はギャルに尋ねる。
雪女「あ…あの…。なんですかそれは…?」
ギャル「え? …これのこと? これはスマホ! なんかいろいろ出来んの!」
説明になっていない説明を聞きながら、とりあえず納得したフリをする雪女。
雪女「はぁ…。スマホ…」
ギャル「スマホ知らないってマジヤバイね! 人間のことあんま知らない系な感じ?」
雪女「は、はい…。知らない系な感じです…」
ギャル「マジかー…。じゃ、あたしが教えてあげるよ! WINEやってる?」
雪女「わ…わいん…?」
≪page8≫
ギャル「あー!ごめんごめん! やってる訳ないっつーの! スマホ知らないんだから! 馬鹿だね! あたし! あはははっ!」
顎に指を当て、考えるギャル。
ギャル「んじゃそうだな~…。ここで待ち合わせでいっか? このくらいの時間に気が向いた時にここに来てよ!」
ギャル「あたしも気が向いたら来るから! 来ない時もあるかもしんないけど、そん時はごめんね!あははっ!」
雪女「は、はい…。分かりました…」
満面の笑みで手を振り、その場から立ち去ろうとするギャル。
ギャル「んじゃまたねー!」
立ち去ろうとするギャルを呼び止めようと、雪女は慌てて立ち上がる。
雪女「あ、あの…! お名前は…!?」
≪page9≫
雪女の問いに、ギャルは足を止め後ろを振り返る。
ギャル「あー! だよねー! 名前言ってないつーの! あたしは朝風 鈴子! じゃあねー! バイバーイ!」
明るく颯爽と立ち去る鈴子。雪女はギャルを静かに見送る。その表情は嬉しさを押され切れず、自然と笑みが溢れ、頬はほのかに赤く染まっている。
○雪山の洞窟
鈴子のことを思い出しながらソワソワする雪女。
雪女「鈴子ちゃん…。明日も会えるかな…」
≪page10≫
○一夜明け、夕方の路地裏
翌日、鈴子が指定した時間に、彼女と出会った路地へ雪女は緊張しながら向かう。
雪女が待ち合わせ場所に到着すると、鈴子が段差に座りながら笑顔で手を振っていた。
鈴子「おっ! 来た来た! 雪ちゃん元気ー?」
雪女「は、はい…。元気です…」
鈴子「なんかテンション低くない!? もっとアゲて行こうよー! ほら! あたしからプレゼントあげるから!」
鈴子は大きな袋からガサゴソとワンピースを取り出した。
≪page11≫
鈴子「じゃーん!どうこれ!? 可愛くね!?」
鈴子はワンピースを広げ、雪女に見せていた。
鈴子「これノリで買ったは良いけど、似合わなくてどうしようかと思ってたんだよねー! 売るのもめんどくさいし! 捨てるのもあれだから雪ちゃんにあげるよ!」
雪女「ほ、ほんとに良いの…?」
鈴子「いいって、いいって! そのかっこじゃ目立つじゃん! イメチェンよ! イメチェン!」
ワンピースを雪女に手渡し、近くにある公園を指差す鈴子。
鈴子「あそこに公衆トイレあるから、さっそく着替えて来なよ!」
雪女「う、うん…」
≪page12≫
○公園の公衆トイレ
着替えを終え、雪女は鈴子の元へ戻った。ワンピース姿の雪女を見て、鈴子は目を輝かせながら喜んだ。
鈴子「うわっ!? かわいー!! 超美少女じゃん!! 雪ちゃんマジヤバイね!?」
雪女「あ、ありがとう…!」
鈴子「笑顔もかわいー! 雪ちゃん笑った方が良いって! んじゃ、行こっか?」
雪女「い…行くってどこへ…?」
≪page13≫
鈴子「決まってんじゃん! 遊びにだよー!」
満面の笑みを浮かべ、鈴子は雪女の腕を掴んで街へと連れ出した。
ゲームセンターへ向かい、クレーンゲームやプリクラを楽しむ雪女と鈴子。
ゲームセンターを満喫した後、ハンバーガーショップを向かい、店内の窓際の席で、隣り合って座り、仲良くハンバーガーを食べる2人。
≪page14≫
鈴子「さすがにそんなお金持ってないから、あんま遊べなくてごめんねー!」
雪女「そ、そんな…!ここまでいろいろしてもらっているのに…」
雪女は節目がちに、鈴子のことを横目で見る。
雪女「…なんでここまで良くしてくれるの?」
雪女は恐る恐る鈴子に尋ねた。
鈴子「あ…。えと、うーん…」
終始明るい鈴子が初めて見せる曇った表情。話しづらそうにしながらも、鈴子は口を開いた。
鈴子「実はあたし…学校でいじめられてて…」
雪女「えっ…!?」
≪page15≫
鈴子「私のことがウザいんだって…。まいっちゃうよね。ほんと…。先生に言っても、きっと仲良くなれるとか適当なこと言って放置されて…。大人の言うことなんて信じちゃ駄目だね…。あはは…」
心配そうに鈴子を見つめる雪女。そんな雪女の顔を見て、ハッと我に返る鈴子。
鈴子「だから寂しくてさ…! 雪ちゃんで紛らわしちゃったの! ごめんね…!」
雪女「…ううん」
雪女(鈴子ちゃんは人間なのに、独りぼっちで…。私と同じ気持ちを味わっているの…? そんなの、悲しすぎるよ…)
唇を噛み締め、ワンピースの裾を握り締める雪女。
≪page16≫
雪女は真剣な眼差しで鈴子に向き直った。
雪女「お…お金は無理に使わなくて良いから…! 鈴子ちゃんが寂しいなら、私がずっとそばにいるよ…!?」
雪女の言葉に涙が溢れる鈴子。涙を必死に拭いつつ、雪女に笑顔を向けた。
鈴子「雪ちゃん…! あんた…マジヤバイね…!」
雪女(私たちは友達…。私は鈴子ちゃんと2人でいられるなら、それで良いと思った…)
≪page17≫
○雪女と鈴子が仲良く遊ぶ光景
雪女(私と鈴子ちゃんはたびたび会って、遊んだり、お喋りしたり、とにかく楽しい時間を過ごした。私は本当に鈴子ちゃんのことが大好きだった。彼女のためなら何をしても良いと、そう思えた)
○夕方、待ち合わせの自販機前
いつも通り鈴子の元へと向かう雪女。いつもの場所に鈴子がいた。雪女はおーい!と声を掛けようとするが、様子がいつもと違うのに気が付く。
≪page18≫
鈴子の周りを同じ年頃の制服姿の少女が3人取り囲んでいる。
少女A「鈴子、あんた最近何やってんの?」
鈴子「…別に。どうでもいいでしょ…?」
ただならぬ雰囲気に、雪女は咄嗟に電柱の裏に隠れ、様子を伺う。
少女B「その髪色と服装、ギャルにでもなったつもりぃ?」
鈴子「…ほっといてよ」
少女B「はぁ…?」
鈴子「うッ…!?」
鈴子は突然、少女Bに髪を掴まれ引っ張られる。その光景を見た雪女の表情は、怒りに染まっていく。
少女B「久しぶりに会ったんだからさぁ。一緒に遊びましょうよぉ?」
鈴子「い…嫌ッ…!!」
少女たちに無理矢理連れて行かれそうになる鈴子。雪女は、目を見開き、怒りの感情に支配される。背景にどす黒い闇が浮かぶ。
雪女(あんなに優しい鈴子ちゃんが…暴力を振るわれてる…)
≪page19≫
雪女(あんなに優しい…鈴子ちゃんがッ!!)
SE『パキンッ』
少女A「なんの音?」
少女C「……え?」
鈴子の髪を引っ張っていた少女Bは、一瞬で全身が凍り付いた。街頭に照らされ氷の彫刻のように光っていた。凍り付いた友人を見て、泣き笑いのような表情の少女A。少女Cは腰が抜け、地面に力なくへたり込む。
少女A「は、はは…。どういう、こと…?」
少女C「嘘だよね…。これ…? ねぇ…!?」
凍った電柱の裏から雪女が姿を現した。2人の不良少女に加え、鈴子の表情も恐怖に染まっていた。
鈴子「ゆ…雪…ちゃん…?」
雪女は冷たい笑みを浮かべていた。
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雪女(これでもう暴力は振るわれない。良かった。でも、他の2人も野放しにしてたら、また鈴子ちゃんがいじめられちゃうかもしれないよね?)
鈴子「や……」
鈴子「やめて雪ちゃん…ッ!!」
必死の形相で雪女を止めようとする鈴子。
SE『パキンッ』
雪女「ふぅ…。やっと邪魔者は消えた…。これで私と鈴子ちゃんはふたりっきり…。ふふふ…。良かったね? 鈴子ちゃん?」
凍り付いた少女3人組を見て、雪女は満足そうに穏やかな笑顔を浮かべた。
≪page21≫
雪女は、そのまま鈴子の方へ視線を向けるが、鈴子は凍っていて動かなかった。
鈴子まで凍らせてしまった雪女は我に返った。その表情は絶望と後悔、複雑な負の感情が渦巻いているかのようだ。
雪女「あ……あぁ……」
雪女「ば…化け物…!!」
氷に映った自分自身に向かって、化け物と叫ぶ雪女。
○雪山の洞窟
洞窟内で横になっていた雪女。今までのは全て悪夢だった。目を開けた瞬間、彼女は飛び起きた。
雪女「うわああああっ!!」
息を必死に整える雪女。
雪女「はぁ…はぁ…はぁ…」
雪女「はぁ……」
雪女は辺りを見回し、洞窟で寝ていたことをしっかりと確認する。彼女の身体は汗でぐっしょりと濡れていた。
雪女は、膝を抱えながらガタガタと震えている。涙が溢れて止まらない。
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雪女(今のはただの夢じゃない。そう思えた)
悪夢の恐怖に耐えられず、雪女は目をぎゅっと瞑った。
雪女(何故なら私には、今の夢を簡単に現実に変えてしまえる力があるのだから…!)
○夕方、鈴子との待ち合わせの自販機
とびっきりの笑顔で手を振る鈴子。
鈴子「お! 雪ちゃん来た来た!…どったの? いつもにも増して白い顔してるけど…?」
雪女は手をブンブン振りながら、自身の異変を気付かせまいと振る舞った。
雪女「いや! 別になんでもないの…! あははは…」
○ハンバーガーショップ内
窓際の席で、横並びに座りながらハンバーガーを食べる雪女と鈴子。上機嫌で世間話をする鈴子。
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鈴子「でさー!教頭が挟まっててさー! あそこに挟まるか普通!?って思ってマジウケたんだけどー!」
雪女は、鈴子の話をニコニコしながら聞いている。鈴子が買ってくれた紙カップのコーラを手に取り、ストローをくわえた。
だが、いつまで経ってもコーラは上って来ない。不思議そうに雪女は手にしている紙カップを見た。
手元のアップ。コーラの紙カップは凍り付いていた。
雪女「ひッ…!?」
雪女は悲鳴を上げて紙コップを倒してしまう。凍っているので中身は溢れない。
鈴子「どうしたの?」
鈴子が心配そうに雪女を見る。雪女は慌てて凍ったカップを後ろ手に隠した。
雪女「い…いや大丈夫…! なんでもないから…!」
雪女の表情が恐怖で凍り付く。
雪女(こんなことは今まで一度もなかった…。
なんで急に…!?)
≪page24≫
○夕暮れ、ハンバーガーショップの外
ハンバーガーショップを後にした2人。
雪女(さっきのは何かの間違い…。少し落ち着こう…!)
外の空気を吸って落ち着こうとする雪女。
雪女「ふうぅ…」
雪女が深呼吸すると目の前がキラキラと光った。彼女の口から冷気が漏れていた。
雪女「うぐっ!?」
雪女は慌てて両手で口を塞いだ。
雪女(なんで…!? 力がコントロール出来てない…!?)
雪女の様子がおかしいことに気付き、鈴子が再び心配そうな顔をする。
鈴子「どうしたの…? 雪ちゃん…? やっぱり何か変だよ…?」
口を両手で塞ぎ喋れない雪女。鈴子に首をふるふると左右に振る。
雪女(口から手を離して返事でもしたら、鈴子ちゃんが凍っちゃう…!)
≪page25≫
そこへ、夢の中で見た少女3人組とそっくりの3人組が現れる。
少女A「あれ?もしかしてあんた鈴子?」
その声と姿を確認した雪女は、驚愕の表情を浮かべた。
雪女(夢で見た子たちとそっくり…!? そんな…こんなことって…!)
鈴子「…あんたたちは…」
少女B「誰ぇその子? 見ない顔だけどぉ」
鈴子「…別に誰でもいいでしょ。私たち用事があるから…。行こ。雪ちゃん…」
鈴子ちゃんは雪女を連れてさっさとこの場から立ち去ろうとする。雪女はそそくさと彼女の後について行こうとする。
少女A「ちょっと待ちなよ~」
雪女と鈴子の前に立ちはだかる3人。
≪page26≫
少女C「用事ってどうせ遊んでたんでしょ? うちらも混ぜてよ…?」
少女B「トモダチでしょぉ? 私たち? いひひひっ…」
鈴子「そういうのいいから…!」
鈴子は苛立って少し声を荒げた。
少女B「あ?」
鈴子「うッ…!!」
鈴子は少女Bに胸ぐらを掴まれ、鈴子ちゃんが電信柱に叩き付けられていた。雪女は怒りが湧いてきてしまうが必死で抑える。
少女B「人が遊んでやるって言ってるのになんだその態度…?」
鈴子「だ…誰も頼んでない…ッ!!」
≪page27≫
少女A「ほんとウザいな鈴子はー」
少女C「いいから一緒に来いっつってんだよ」
雪女(やめろ…)
鈴子「やめて…! 離して…!」
雪女(やめろ…)
雪女「やめろォッ!!」
≪page28≫
雪女の絶叫が辺りに響く。雪女の足元や近くに停めてある車が凍り付いていた。
少女B「……え?」
少女A「なにこれ…」
雪女は手のひらから冷気を大量に放出する。それを鋭く尖らせ大きな槍を作った。
SE『ドガアァンッ!!』
雪女は、氷の槍を地面に突き刺し、コンクリートに大きな亀裂を作った。
雪女「殺すぞ…」
≪page29≫
少女B「ば…化け物…!?」
少女C「うわああああっ!?」
少女たちは慌てて逃げ出した。彼女たちを殺さずに済んだ雪女は、安心して泣き崩れた。
雪女「うぅっ…!!」
雪女(良かった…! 殺さずに済んだ…! 本当に良かった…!)
雪女の涙は、体から漏れ出る冷気ですぐに凍り、氷の粒がコロコロと辺りに転がった。
鈴子「雪ちゃん…! ありがとう…! あたしのこと助けてくれて…」
鈴子は雪女にお礼を言いながら近づこうとしていた。
雪女「近づくなッ!!」
鈴子「…雪ちゃんっ」
雪女は氷の涙を流しながら鈴子を睨みつける。
鈴子は拒絶されたのかと思い悲しそうな顔をしていた。
雪女(私の体からは絶えず冷気が溢れている。
今近づかれたら、間違いなく鈴子ちゃんを凍らせてしまう…。鈴子ちゃんだけは、何があっても絶対に凍らせる訳にはいかない…!)
≪page30≫
氷の涙を流しながら、鈴子に向き直る雪女。
雪女「ごめんね鈴子ちゃん…。私たち、もう一緒にいられないから…」
鈴子「え…」
困惑する鈴子。雪女は必死に笑顔を作ろうとしている。
雪女「今までありがとう…。本当に楽しかった…!!」
鈴子「雪ちゃんっ…!!」
雪女は駆け出した。鈴子が雪女の名前を叫んでいるのが聞こえているが、振り返らずに走り続ける。
雪女「うぅ…ッ! ううぅッ!!」
雪女(なんでこんなことに…! 大好きな友達と一緒にいることも出来ないなんて…!)
雪女(生まれ変われるなら、こんな氷の力なんてない普通の人間として生まれ変わりたい…)
≪page31≫
○複数の車が走る道路
道路に飛び出した雪女の右半身は明るく照らされていた。無我夢中で走っていたせいでトラックの目の前に飛び出してしまっていた。
雪女「あ…」
トラックに衝突することへの恐怖を一瞬覗かせるが、運転手を気遣い、雪女はトラックを凍らせる素振りは見せなかった。
トラックの衝突音が響く。
≪page32≫
○巨大な山脈や城がそびえ立つ異世界
平原で倒れていた雪女。身体を起こすと、彼女は立ち尽くしながら、見たことのない景色を呆然と眺める。
さらに雪女から離れた地で、鈴子によく似た少女の姿のカット。