あれからエルとシルフィアは、どうするか話し合っていた。
 そしてその話し合いの結果、グリモエステルスに危険だと言われた出入口じゃなくて別の扉を探すことにする。

 現在、二人は壁伝いに出入口を探し歩いていた。

 「この部屋は、罠がない代わり広すぎる」
 「そうだね。ん? エル……」
 「クッ……流石に、長時間はキツいな」

 そう言いエルは、ふらつき地面に膝をつく。

 「大丈夫!?」

 シルフィアはエルが倒れないように支える。

 「すまない……今から、能力を解除する」
 「分かったわ」

 それを確認するとエルは魔導書に左手を乗せた。

 《古より存在し力 我が体内へと封印 現在ある能力を解除されたし! グリモエステルス!!》

 そう唱えると魔法陣が浮かび上がる。そしてエルを覆い包むと能力が解除された。
 エルの目は黒っぽい赤紫から、黒っぽい青紫へと変わっている。表情も穏やかな顔に変化していた。

 「……ハァハァ……以前よりも、まだましだけど……長時間は無理みたいだ」
 「エル……だね。……そうだ! 回復しないと」

 そう言いながらシルフィアは、バッグから回復薬を取り出してエルに渡す。
 エルは回復薬を受け取ると飲んだ。

 「あ、ありがとう……助かった」

 そう言いエルは頭を下げる。

 「大丈夫よ。それよりも、無理しないでね」
 「うん、気をつける」

 そうエルは言うと立ち上がり歩き出した。
 それをみたシルフィアは、エルのあとを追いかける。
 少し歩くと岩戸らしきものをみつけた。

 「ここだけ異質だよな」
 「そうだね。なんか、岩壁に若干隙間があるみたい」
 「ああ、そうだな。んー、どうしよう……ん? そういえばシルフィア、感知宝石箱の方の反応ってどうなってる?」

 そう聞かれシルフィアは感知宝石箱へ視線を向ける。

 「んー、今のところ大丈夫だね」
 「じゃあ、危険はないのか?」
 「どうだろう……だけどその前に、ここどうやって開ける?」

 そう言いシルフィアは岩戸らしい場所を指差した。

 「あー確かに、そうだよなぁ。それにここが出入口なのか分からないし……とりあえず普通に調べてみる」
 「そうだね。私も、その方がいいと思う」

 それを聞きエルは軽く頷く。その後、岩戸らしい場所に目掛け左手を翳した。

 《エステルス・サーチ!!》

 そう魔法を唱える。すると手を翳している岩壁に魔法陣が現れた。それと同時に、エルの頭の中に岩壁の情報が入ってくる。

 「……そうか。トラップはないけど、ここが正規の出入口みたいだ」
 「えっ! じゃあ、他は?」
 「恐らくだけど……フェイクだと思う」

 それを聞きシルフィアは首を傾げた。

 「待って……なんで、そんなことする必要があるの?」
 「もしかしたら、さっきグリモエステルスが危険だって教えてくれた所って……宝物庫かもしれない」
 「でも、それならなんで危険なの?」

 そう問われエルは、さっきの場所を振り返りみる。

 「多分、強いボス級の怪物が居たのかもしれない。……そうなると、能力を解放してる俺だと無謀に突っ込んでいくな」
 「そっか……。んーエル、能力を解放している自分のことって覚えてるの?」
 「ああ、覚えてる……それがどうしたんだ?」

 シルフィアの言いたいことが分からずエルは首を傾げた。

 「うん、まるっきり別人にみえちゃうんだよね。だから、誰かと入れ替わってるのかと」
 「そういう事か……俺にも分からない。だけどグリモエステルスは、アレが本当の俺だって言うんだよな。でも俺は、信じたくない」

 そう言いエルは俯く。

 「そうなんだね……」
 「ああ……。んーそれよりも、ここを早く脱出しよう」

 そうエルが言うとシルフィアは頷いた。