「クソッ、ここにも魔獣が……なんで、こんなに沢山いるんだ!」

 ここはダグル迷宮の地下第七階層。石橋の上では、紫色の髪の男性が魔獣の群れと戦っていた。


 ――この男性は、この物語の主人公エル・ラルギエである――


「うわぁぁー!!」

 そう叫びながら魔獣の群れへと突っ込んでいく。それと同時に、大剣をギュッと握りしめ魔力を注いだ。すると、漆黒のオーラが大剣を覆い包み込む。

「闇に燃えし漆黒の炎、裁きの刃にて敵を殲滅せよ」

 そう詠唱しながら、大剣を右斜めに振り上げる。

 《ギルティック・メティオ・バスター!!》

 大剣を左斜めに振り下ろす。それと同時に、大剣を覆う漆黒のオーラを放つ。その漆黒のオーラは、轟々と燃え盛る闇の炎になり魔獣の群れを次々と襲った。

「うおぉぉぉー!!」

 大剣を振るい魔獣を薙ぎ倒しながら突進する。魔獣たちは闇の業火に焼かれ暴れ、大剣の刃にバタバタと倒れていく。
 そしてエルは全ての魔獣を倒した。

「……た、倒せた。だけど、なんであんな数の魔獣が?」

 ハァハァハァと肩で息をする。

「だが、まだだ。まだ、みんなの姿が……みえない」

 来た道を振り返った。

「もう後戻りはできない。いやそもそも、そんな選択肢は皆無だ」

 再びこの先にある地下第八階層へ続く出入口を見据える。

「うん……行こう、みんなの所に……」

 キッと気持ちを引き締めると駆け出した。



 ――時は過去へと……約半年前に遡る――


 ここはブブガス村。エルの生まれ育った村である。

「母さん。じゃあ、行ってくる」

 エルは母親のマルセに視線を向けると、左手を上げ軽く振った。

「気をつけて行っておいで。今日は、お前の誕生日だからね」

 それを聞きエルは、ウンと頷き扉を開け外に出る。


 ――そう今日は、エルの十八歳の誕生日だ――


「今日、買う物は……と」

 村の出入口に向かい歩きながらエルは、紙に書かれている内容を確認した。

(……ククルド鳥の玉子と肉か。ってことは、今日の晩御飯、肉玉とじだな。俺の大好物だ。あっ、そうか。そういえば、さっき母さんが俺の誕生日だって言ってたな)

 そう考えると肉玉とじを脳裏に思い浮かべる。
 色々なことを考えながら村の出入口まできた。
 すると見慣れない者たちとすれ違う。エルは振り返りその者たちに視線を向ける。

「珍しい、冒険者か?」

 この村に冒険者がくるなんて珍しいと思った。だが、たまたま村に立ち寄ったのだろうとも思う。
 そしてエルは村の外に出て、サリドデの町へと向かい歩きだす。
 その時その冒険者の一人は、エルが村の外に出て行くまでみていた。