嫉妬深い女って怖いしいいことなんか何もないよ。
 年取ったらありがたい奥さんになる?だれだそんな無責任なこと言ったの。
 蛇になったり天災になって襲い掛かってくるってそんな怖い話あるもんか。人としてどうなの? むしろ女が塩漬けにされたほうがよくない?
 まあ旦那がつつましーくおとなしーくしてればいいとは言うけども。



「占いの結果最悪! 結婚絶対やめたほうがいい!」
 裕福な家、家業。なのに息子はろくに働かないで酒! 女! 遊びとほんとうにろくでもない。結婚させたら大人しくなるかなぁ、なんて思ってたら良家のお嬢さんとの話が持ち上がった。
 いやいやうちなんてとても、と恐縮したけど向こうも乗り気だったしせっかくのご縁なのでと受け入れることにした。

 なのに占いの結果がこれ。吉備国(岡山~兵庫のあたり)で御釜払いという占いがあって釜がなると吉、鳴らなければ凶。詳しい作法は置いといてとにかく占いは凶だった。
 けども結婚は予定通りやることになって、最初はよかった。嫁の磯良は夫になった庄太郎をよく愛して妻としてよくやった。

まあしかし浮気者の根っこっていうのはそうそう変わらない。

 いつの間にか風俗嬢のそでてゃにガチ恋してはなれに住まわせて、嫁のとこには帰りませ~んなんていうのが1ヶ月も続いたら嫁だってキレてもいいと思う。実際怒ってたわけだし。
 それを聞いた義父が鬼ギレ。家から出るな! と正太郎を閉じ込めた。
 でもまあそんなんでうまくいけば最初からこんなことにはなっていないわけで……。



「聞いてくれって、あの女はかわいそーな身の上なんだよ。このままじゃ底辺の風俗嬢になっちゃうと思って拾ってやったんだ。京都ならまともな仕事につけるかもっていうしお前の器量でなんとかなんない? そしたら俺はあの女とは縁を切るから」
 旦那がこういったんだから嫁としては喜んでいろいろ準備するわけ。自分のもの売ってまで金の工面して準備してやったのに、気づいたら旦那と女は一緒に消えていた。最低である。
 ひどい裏切りだと病んだ磯良はそのまま病気になって儚くなっていく一方だった。まわりがどんだけ心配しようと治らない、原因はまあわかりきっているけど。



そのころ正太郎がどこにいたかというとそでてゃの従兄妹の家に居候していた。が、しばらくして女は病気になってサクッと死んでしまって「もしかして嫁の呪いなんじゃ…?」とは思ったものの思ったところで特にどうにかする方法はなかった。

そこまできても女癖の悪さというのはどうにもならなくて、そでてゃの墓参り先で会った未亡人の女があんまり綺麗だから「少しお話しませんか?」なんて言われてほいほいついていく。
案内された家でいざ彼女と話をしよう、としたらふすまを開けて現れたのは病で見た目がすっかり変わってしまった磯良だったので驚いて気絶して、目を覚ました時にはお堂にいた。未亡人の女なんかどこにもいなかった。

結局帰るところはその従兄妹の家だから、話してみたら「きつねに化かされたんじゃないの?」と。本当に? きつねならどれだけいいか。「じゃあ陰陽師に相談するとか…」それだ。そうしよう。やっぱりこういう時は本職に聞くのが良い。



「悪いこと起きますね。呪いですよ呪い。ここ1週間で死んだ人に心当たりありませんか?」

 簡単に言ってくれるな! と思うが心当たりなんかない。そでてゃが死んだのもおなじ呪いらしいということで陰陽師は体中に呪文を書いてお札を渡してくれた。

「これ張ってしばらくおうちに引っ込んでなさい。四十二日。ちゃんと神様仏様にお祈りしないとだめですよ」

 しろと言われて守れるもんなら今頃陰陽師にこんな相談してないんだが? 日に日に家の周囲は怨霊の気配で満ち満ちてめちゃくちゃ怖かったがさすがに死ぬかもとなった正太郎は大人しく家の中に引きこもっていた。

 あと一日耐えれば、これを越えたらどうにかなる。人間「もうちょい」が見えたら気が緩むもので外も明るくなってきたからと正太郎は外にいたそでてゃのいとこに声をかけた。

「もう明るいし平気じゃね? 暇だし、外出たい」
「あー、まあ、いいんじゃない?」

 どっちもあんまりきちんと物事を考えられるほうじゃなかったのでさっと扉をあけたら短い悲鳴が聞こえて、さっきまでもう朝じゃん? と思っていた周囲はまだ夜中。
 慌てて建物の中を見ると血は残ってるけど遺体はなかったらしい。

 ……あーあ。