「彼女は、誰を殺したと言っていた?」
「さて、何のことやら」
「惚けるつもりかい」
「まさか。僕は彼女の言う通りにしただけだよ」
「彼女だって、僕に訊かれれば、きっと同じことを言うはずだ」
「それに、そんなことを知って、一体何の意味があると言うのか」
「意味はあるさ」
「彼女が何を考えていたかを知ることは、彼女の無念を晴らすことになる」
「そして、それができるのは、この世界でただ一人、僕しかいないんだ」
「ならば、それを為すのが、残された者の義務というものじゃないかな」
「違うかね?」
「……」
「どうしたの、黙り込んでしまって」
「別に」
「そうか」
「ところで、今日の夕飯は何が良い?」
「何でも良い」
「駄目だよ、そんな答えは」
「もっと自分の意見を主張しないと」
「何を食べたいか、食べたくないかをきちんと言わなくちゃ」
「分かった」
「カレーライスが食べたいな」
「カレーライスね」
「よし、任せておきたまえ」
「美味しいのを作ってあげるから」
「期待しているよ」
「楽しみにしておいて」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あの、ちょっと良いかな」
「何だい」
「そんなに見つめられると恥ずかしいんだが」
「あ、ごめん」
「で、何の用なのかな」
「その、あんまり見つめられ続けるのも困るというか」
「だって、仕方がないんだよ」
「だって、君が目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうから」
「どこへも行ってないよ」
「そんなことはない。だって君はすぐそばにいたのに、いつの間にか消えているじゃないか」
「だって、そんなことを言われても、どこにも行きようが無いし……」
「とにかく、今はじっとしていてくれないと、私としても色々と都合が悪いので」
こうして嘘つきな女であり罪作りな男でもある『私』は相方に毒針を刺した。交差したアームがまだ暖かい肉塊を炉に投げ込む。そしてスマートスピーカーが本日の死者を読み上げる。弔う間に後継者が準備される。