愛の電子証明

タクシーのドアが閉まる。走り去る車を見送ってから、私はマンションの中へと入っていく。
オートロックの玄関を抜けて、エレベーターに乗り込む。
「……」
ポケットの中の携帯端末を取り出す。
起動させて、ブラウザを立ち上げる。
検索するのは、今朝の記事。
「……ふぅん」
記事を流し読みして、溜息をつく。
くだらない。
「くだらないわね、本当に」
こんなものは、ただの娯楽小説にすぎない。
「……」
だが、これが現実だということも、また確かだった。
姉が死んだのは、つい先日のことだ。
姉は死んだ。
殺されたのだ。
「馬鹿じゃないの」
私は吐き捨てるようにそう言った。
「……」
部屋の前で立ち止まる。
鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。
ガチャリと音を立てて、錠が開く。
「おかえり」
部屋に足を踏み入れた途端、声をかけられた。
視線を向けると、そこには男が立っていた。
「……ただいま」
男の顔を見て、答える。
「ご飯にする? それともお風呂?」
「……」
男の問いかけを無視して、奥の部屋へと向かう。
「おいおい、無視はないだろう」
男は不満げに言って、こちらの後を追ってくる。
「……」
黙ったまま、私は部屋の隅にあるクローゼットを開いた。
中には、着替えや化粧道具が入っている。
「何度言えば分かるんだ。俺は君の夫なんだぞ」
「……」
「まったく、これじゃあどっちが妻か分からないな」
「……」
「君が俺の妻になってくれるというなら、もう少し仕事はセーブしてもいい」
「……」
「どうだね。そろそろ考えてくれたまえよ」
「……」
「おーい」
「……」
「もしもし」
「……」
「……」
「もしもし」
「……」
「もしもし」
「……」
「もしもし」
「はい」
「おはよう」
「……」
「今日は良い天気だよ」
「……」
「ほら、雲ひとつ無い青空が広がっている」
「うん、いい日和だ」
「そうだね、とてもいい日和だ」
「……」
「……」
「ねぇ」
「うん」
「昨日も聞いたけど」
「ああ」
「どうして、君はいつもここに来るの?」
「……」
「それはこっちの台詞だ」
「ここは僕の家でもあるんだけど」
「ここだって、お前の家だろう」
「そういうことじゃなくてさぁ……まあいいか」
「それで、今度は何の話だい?」
「聞きたいことがある」
「何のことかな」
「お前が殺した女についてだ」
「……」