新幹線七不思議のひとつ「下田モーニングブギ」現象が沿線を騒がせている事件についてついに地元協議会が設立され対策に乗り出した。高度成長期から続く謎の騒音は生き物とも機械ともつかず界隈の不安を募らせてきた。新幹線の始発直前「ずんちゃずんちゃ♪」と閑静な住宅街に鳴り響く怪サウンド。果たしてその正体とは?

JR東日本は、新幹線の車内で発生している奇妙な音を「モーニングブギ現象」と名付け、調査に乗り出すと発表した。早朝に発車した新大阪行きのぞみ号の車内でも、同じ時刻発のこだま号でも発生していた不思議な音の正体は一体何だったのか?また、「下田モーニングブギ」現象とは何か。新幹線の謎を解き明かすため、地元の有識者や専門家とともに対策会議を設立。

謎に包まれた「モーニングブギ」の正体を探るべく、JR東日本品川支社に協力を依頼し、調査を開始することに決定しました。新幹線の車内から聞こえてくる「モーニングブギ」と呼ばれる不思議な音の出どころはどこにあるのか? 調査の結果次第によっては、乗客からの苦情も予想されます。JR西日本ならびに東海各社には引き続き協力を要請しつつ、原因究明に向けた対策を進めていきます。
【取材後記】
東海道新幹線を走る列車内では今年に入ってからも、早朝の新大阪発東京行きのこだま号で「ずんちゃずんちゃ」という謎の電子音が鳴っている。JR東日本によると、これは東京駅到着直前ののぞみ号内でも確認されており、JR西日本とJR九州にも同じような報告があるらしい。
また、一部のネットメディアが報じているように、新幹線の音は生き物の声ではないかという噂もあるようだ。もしこれが生物によるものなら、「七不思議の一つ」と言われるほど多数の人間が聞くことができるようになるまでには数百年以上の時間がかかるだろうから、「七つ全部見つけるまでには死ぬ」ようなことはないはずだが……。
『月刊 旅の手帳・22年春夏特大号』

伊豆急下田駅駅前の低層アパート。寝姿山に向かうロープウェイを恨めしそうに眺める女がいた。九頭竜智恵理。18歳。今年の春から成人年齢の引き下げが行われ、晴れて大人になる。つまり養育者の庇護下から脱するわけで一から十まで自己責任である。大人になったらとか社会人になるまでとかあらゆる面で待ったをかけられた。お転婆ではねっ帰りの智恵理は「大人になったら」棒で打たれ強くなった。ところがいざ時が来ればどうだ。唯一無二の母は変な男に刺されて死んだ。育ち盛りの子を抱えたパート主婦に蓄えなどあるはずもなく、遺産と言えば…。
「ウッドベース一本でどーしろってのよ! おか~さ~ん」。
父と名乗る人物は何度か訪れたものの追い返したり、突然やってきて家賃を立て替えろと言い出し断ったら殴られたりする日々を送っていた智恵理だが、ついに限界が来た。今日こそあの親父が家に来る日だと気合いを入れ玄関を開けると見覚えのない長身の男が立っていた。男はスーツに身を包み黒い髪をオールバックにし口元からは鋭い犬歯のような八重歯が見える以外はごく普通の人間に見える。しかし目が異様に赤く光っていて不気味であった。身長は百八十センチを超えるくらいであろうか?見上げると少し怖かったが、声をかけてくる顔はとても人の良さそうなものだった。
「初めまして智恵理さん。お父さんのことで話があります。ちょっといいですか?」
その男は智恵理を安心させるかのように笑顔を見せたが、やはり目は赤々と燃えていて不吉だった。

「え?あ、あのどちら様でしょうか?」その男が差し出した名刺に印刷された社名は聞いたこともないものだった。ただ、そこにある電話番号には見覚えがあった。父の携帯電話と同じ番号だ。父の名前が書かれているのになぜか胸騒ぎがした。嫌な予感がしてたまらない。

男の車で向かった場所は病院ではなく大きな屋敷の前庭らしきところ。
「さあ入ってください」言われるままに敷地に入るも、広い。門柱のプレートには、見たことのないような漢字が書かれてあるが、おそらく苗字だろうとあたりをつけた。表札も見当たらないが、誰かいるのかと思わせるように、奥の方から物音がしている。

玄関ドアも表札もないためどこの家に上がるのかと悩んでいると「お入りになってお待ち下さい」と言われてしまった。仕方なしに中に入ると廊下は真っ暗で何も見えないが電気のスイッチはすぐそばにあったのだろう、男がパチリという音と共に部屋が照らし出されるとそこは居間と思われる和室だったがそこにはすでに先客がいた。背広姿の中年男性だ。

「やあやあお疲れさまです、早速本題に入りましょう。単刀直入ですみません、私はあなたの父親の上司に当たる者です。」
男は名刺を渡してきたがやはり知らない会社で、肩書きは課長となっていた。
しかし、「父親がどうとかって、いきなり何言ってんの?」
すると男が説明を続ける。