そんな私の反応を見て面白そうに尋ねてくる。
滅多に恋バナをしない私がこんな反応をするのは珍しいので面白がっているのはわかるけど。
あ、あんまりいじらないで欲しい……。
「い、いろいろはいろいろ!とにかく話すの楽しかったの!」
誤魔化すことが下手くそな私はそう言うので精一杯だった。もっと上手く誤魔化せたはずなのに……。
うう、紗夜の意地悪!
「あはは!ごめんて。初優が可愛い反応するから思わず」
「もー。紗夜のアホ」
恥ずかしすぎて穴があったら入りたいと思ってしまった……。
人の恋バナを聞いたり、少女漫画を読んだりするのは好きだけど自分の恋の話をするのは相当下手なんだなと思い知らさた。
自分の恋バナって苦手分野だったんだ……。
「長らく恋をしていない初優が新しい1歩を踏みだそうとしてるから嬉しくって思わずね質問責めにしちゃった」
ぺろっと可愛く舌を出して謝る紗夜。
嬉しい……か。最初は紗夜の半ば強引な紹介だったけど今はワクワクしてるから許すとするか。
「別に気にしてないよ。むしろいいひとを紹介してくれてありがとう。これから時間かけてゆっくり仲良くするよ」
「珍しく初優が素直!そうだね、焦らずゆっくり初優たちのペースで進めばいいよ」
紗夜はいーこいーことおふざけモードで私の頭を撫でくりまわす。
紗夜に本当の気持ちを言っただけなのになんだか胸の当たりがスっとして心地よかった。
私は私のペースで、ゆっくりとこの関係をいい方向に持っていけたらいいな……。改めてそう思えた。
その後はしばらく紗夜と話しているとホームルームの始まる前のチャイムが鳴った。
紗夜は自分の席に戻り、私は机の上の荷物を片付けていると、スマホが光ったのが見えた。
なんだろう、と思ってスマホを取り出すと遥陽さんからメッセージが届いていた。
私は思わずスマホを机の下に隠し、メッセージの確認をする。先生が教室に入ってきたのでバレないように視線だけを下に向けた。
『寝坊したんだ笑これから学校だよね?今日1日頑張って!』
短いメッセージだったけど何度も繰り返して読んでしまう。
遥陽さんのメッセージはこんなにも暖かくて人を喜ばせてくれる。私は思わずガッツポーズをした。
いつもなら憂鬱なホームルームなのに今日はそんなの吹き飛んでしまうくらいワクワクでいっぱいだった。
私は頬が緩まないように必死に抑えながらメッセージに返事を返した。
『ありがとうございます!はるひさんも学校頑張ってください!』
そうメッセージを打ち、送信ボタンを押す。
そしてスマホの画面をそっと閉じた。
君の声を聞いていると楽しくて、時間を忘れてしまう。
この2人の時間がずっと続いて欲しいと思った。
優しい君の声、話し方。
そんな君の声に私はきっと恋をしていたのだろう。
声の魔法はいつまでも溶けることはなかった……。
遥陽さんとメッセージのやり取りを初めて数日後。
すっかり週間になってしまったスマホのやり取りは毎日のように続いた。遥陽さんと話していると楽しくてずっとスマホを見ていた。
メッセージのやり取りをたくさんして遥陽さんのことを少しでも知ることができたと思う。
遥陽さんの趣味は体を動かすこと、美味しいものを食べること。たまに本を読んだりするとも言ってたっけ。
そして遥陽さんには妹がいてとても可愛がっていることまで知ることができた。この数日間でグッと距離が縮まった気がする。
まだ画面越しでしか話をしていないのに、友達に慣れた気がした。
『初優ちゃん、お願いがあるんだけど』
そんなある日の夜。
宿題をしながらメッセージのやり取りをしていると、遥陽さんからそんなことを言われた。
私はそのメッセージを呼んで首を傾げる。
遥陽さんからのお願いってなんだろう……。
『どうしたんですか?』
メッセージを送ってすぐに返事が届いた。
「え?ほ、本気……?」
私遥陽その返事を読んで思わず小さな声を出してしまった。思いもよらぬ返事に固まる私。
『今度さ、初優ちゃんの声が聞きたいと思って。良かったら週末辺りに電話しない?』
電話……電話!?
返事が届いて数分が経ったのにまだ戸惑いを隠せなくて返事を送れないでいた。だって……私、電話苦手だもんなぁ……。
昔から電話が苦手な私は自分のスマホを持ってからもあまり電話はしなかった。
友達でさえやり取りをする時はメッセージかメール機能を使うし。
それにメッセージだと返事を考えるのに時間を作れるからいいけど電話だと会話が途切れないか心配。
うーん……これはいったいどうしたらいいんだろう……。
遥陽さんの声を聞きたくないわけじゃないけど……。それからまた数分、メッセージを見ながら唸り続け、返事をした。
『いいですよ。上手く話せるか分からないですけどそれでも良ければ』
送信……っと。
なんだか素っ気ない返事になっちゃったかな。だけどここまで言わないと遥陽さんに期待させてしまうから、前もって言っとかないと。
『全然大丈夫!やった!初優ちゃんの声が聞けるの楽しみにしてる!日曜日のよる9時くらいからでいいかな?』
相変わらず返事早いな……。
返事を送ってふぅと一息ついているとすぐに返事が届いた。メッセージを読み、胸がまたきゅうと甘く締め付けられる。
あんなに素っ気ない返事を送ったのに楽しみなんて言ってもらえるなんて。
遥陽さんと話ていると色んな“初めて”を感じることができて毎回会話をするのが楽しい。
『はい!わかりました!私も楽しみにしてます!』
さっきまで電話に対して不安しかなかったけど遥陽さんのメッセージを読んで少し心が軽くなった。
難しく考えないでいいんだ。
そんなことを考えながらその日のメッセージのやり取りを終えておやすみと送る。
週末の日曜日。
なんだか小さな約束をしただけで気持ちが一気に上がった。日曜日、楽しみだな。
どんなことを話そう。
どんな声が聞けるのかな。
その日から頭の中は遥陽さんとの電話のことで頭がいっぱいになっていった。
***
「え?冷泉さんと電話するの?」
「ちょ、紗夜声が大きいよ!」
翌日の体育の時間。
私は早速電話の約束をしたことを紗夜に話した。紗夜は驚いたように目を丸くし、私を見ている。
大きな声で反応されたので思わず私は紗夜の口を抑えた。
「ごめんごめん。マジですか!えー、すっごい進歩じゃん!あの電話嫌いな初優が!」
「……紗夜、言い過ぎ」
私が電話嫌いなことを知ってる紗夜は感心したように何度も頷く。紗夜の言い分は当たっているけどなんだか面白がってない?
今日の体育はバレーで2人1組になり今はパス練習の真っ最中。周りのクラスメイトは楽しそうにボールを高くあげたり、話をしながらパス練習をしていた。
私はいつものように紗夜とペアになり、体育館の隅でボールで遊びながら話していた。
「いや、だってさ私との電話も断固拒否するじゃん?電話の方が楽なのにって言っても折れなかったあの初優が電話の約束をするなんて天地がひっくりかえってもありえないことだったよ?」
「…………」
紗夜のあまりのいいように思わず黙り込む。
私の電話嫌いはそこまで達していたのか?
それとも紗夜の考えるスケールが大きすぎるだけ?どっちにしろあまり良くない方向に言われているのだけはわかった。
「まぁ冷泉さんと上手くいってるなら私は文句ないけどさ。あまり無理はしないでよ?」
紗夜は持っていたボールを私の方に飛ばす。
私は反射的にそれをキャッチした。