地図の通りに進んでいくと、目的の建物は周りの石造りとは異なり、風情が感じられる木造の建物だった。
 田舎の祖父母の家へよく遊びに行っていた太一は、同じ雰囲気を味わえたこともあり、まだ中に入っていないにもかかわらず感慨深い思いに浸ってしまう。

「……よし、いくぞ!」

 そして、冒険者として初めての依頼を成功させようと気合いを入れて扉を開けた。

 ――カランコロンカラン。

「いらっしゃい。今日はどういったご用かな?」

 出迎えてくれたのは白髪の老婆だった。

「あの、冒険者ギルドで依頼を受けてきた太一と申します!」
「あらあら、そうだったのかい? 今日が締め切りだったから、ダメかと思っていたよ」

 太一が依頼を受けてきた冒険者だと知った老婆は、相好を崩して微笑んだ。

「わしはリーザじゃ、よろしくねぇ、タイチよ」
「よ、よろしくお願いします!」

 お互いに自己紹介を終えると、太一はすぐに仕事内容の確認を行う。

「それで、店番だと聞いて受けてきたんですが、俺は何をしたらいいんでしょうか?」
「そうだねぇ、簡単に説明しておこうか」

 リーザはそう口にすると、最初に彼女のお店が何を取り扱っているのかを説明してくれた。

「わしの店は主にポーション類の販売をしておるのだ」
「ポーションって、いわゆる傷とかを治す、あのポーションですか!」
「そうじゃが……なんじゃ、タイチはポーションを知らんのかぃ?」
「えっと……はい。実は俺、迷い人なんです」

 当たり前の知識だろうとリーザが首を傾げると、太一は自分が迷い人であることを伝えた。

「ほほう、迷い人かぃ」
「はい。それで、冒険者ギルドに保護してもらって冒険者になったんですけど、今回の依頼が初めての依頼でして」
「なるほど、それならポーションを知らないのも頷けるねぇ」
「い、一応、クレアさんからは計算が必須だと聞いていて、簡単な計算なら問題なくできます! だからその……俺なんかでも、大丈夫でしょうか?」

 取り扱っている商材について知らない人間はお断りだと言われれば、太一の初めての依頼は失敗に終わってしまう。
 相手に迷惑をかけるわけにはいかないものの、太一としては全力で取り組みたいという思いがあり、このまま依頼を継続したいと強く願っていた。

「ほほほほ、もちろん大丈夫だとも。むしろ、計算ができるならこちらからお願いしたいところだよ」
「あ、ありがとうございます!」
「それにしてもクレアがタイチを紹介してくれたのか……あの子も変な気を回したみたいだねぇ」

 そう口にしたリーザは嬉しそうに微笑んだ。

「さて、それじゃあ説明の続きなんだけど、各ポーションには値札が付いている」
「えっと……これですね?」
「そうじゃ。あとは簡単、カウンターに商品を持ってきたお客さんからお金を貰い、お釣りを返す。ただそれだけじゃ」
「……えっ? 本当にそれだけ、ですか?」

 それでは本当にただの店番だと思った太一は驚きのまま確認を行ったが、リーザは微笑んだまま頷いた。

「その通りだよ」
「もしもですけど、お客様から商品の説明を求められたらどうしたらいいでしょうか? 俺は商品の説明なんて、できませんよ?」
「それはわしがやるから大丈夫だよ」
「リーザさんが? ……あの、今回の依頼って、店番でしたよね? 受ける人がいたら、リーザさんはどこかに出掛けられるとかではないんですか?」

 わざわざ依頼まで出して店番をお願いしようとしていたのだから、当然出掛けるものと勝手に思っていた太一だったが、そうではないようだ。

「ほほほほ、そうじゃないんだよ」
「……それなら、どうして?」
「少し前から腰が痛くなっていてねぇ、調子の良い時は問題ないんだけど、最近はどうにも痛みが抜けなくて。それで、代わりに店内で動ける人を探していたんだよ」
「そうなんですか? でも、計算が必須だって聞いてましたけど?」
「計算もできたらなおのこといいと思ってね、そうさせてもらっていたのさ。まあ、いなかったらいなかったで、痛みが酷かったら店を閉めればいいかと思っていたくらいさ」

 まさかの展開に太一は唖然とし、リーザは柔和な笑みを浮かべる。

「それに、初めての人に店の全てを任せて外に行くのもおかしな話じゃないかい?」
「……まあ、言われてみれば、確かにそうですね」
「そうだろう? だからねぇ、タイチ。そこまで肩ひじ張らず、リラックスしてくれていいんだよ」

 それでいいのかと疑問を抱いた太一は、ならばと自分にできることをリーザのためにやってあげようと思うことにした。
 何故なら太一にとって、これが冒険者として初めて受けた依頼だからだ。

「できることがあったらなんでも言ってください! 俺、全力で頑張りますので!」
「そうかい? ありがとうねぇ。それじゃあまずは……わしの話し相手になってくれるかい?」
「はい! ……えっ? 話し相手、ですか?」

 元気よく返事をしたものの、まさかの話し相手になってほしいという仕事内容に、太一は続けて驚きの声を漏らした。