ー彼は心臓の病だったー

彼との出会いは、私が風邪をこじらせ、入院した時だった。私は入院生活にも飽きて暇になり、談話室で眠っていると、「君、最近入院したの?」と彼は声をかけてきた。私はその時、彼に一目惚れをした。そして同時に「この人と仲良くなりたい」と思い、「友達になってくれませんか?」と気付けば言ってしまっていた。彼は快くOKしてくれ、そこから彼とは仲良くなった。でも、私は気付かなかった。彼が重い病だということを。

一見、元気そうだし病人ぽいものを感じなかったため、彼は怪我か何かで入院したとばかり思い込んでいた。ある日、彼の病室へ行くと、彼からこう告げられた。「僕はずっと前から入院していて、心臓の病なんだ。昨日の検査でもう余命は少ないって言われたよ」と力なく笑って言った。私は「まさか」と思い、「本当なの?」と言ってしまっていた。彼は、「流石にこんな笑えない冗談なんか言わないよ」と言った。その時思った。「なぜ、もっと早く彼の病気に気付くことが出来なかったのだろう」と。そして、同時に彼の残り少ない人生を私が楽しませよう、私が彼の最期まで一緒にいようと決意し、彼に「付き合ってください」と私の思いを伝えた。でも、彼は最初、OKしようとはしてくれなかった。「僕も君のことが好きだけど、君を1人残して旅立ってしまうのは辛い」と。でも、私は大丈夫だと、最期まで一緒にいると伝えると、彼は「ありがとう。短い間かもしれないけどよろしくね」と言い、私たちは付き合った。

その後、私の容体は良くなり退院したが、時間がある時は必ずと言っていいほど彼に会いにきた。でも、彼は日に日に弱っていき、自力で歩くことが出来なくなったり、体がやせ細っていったりなどとして、しまいには寝たきりとなってしまった。私は彼が弱っていく姿を見るのは、辛くてたまらなかった。でも、彼の最期まで一緒にいると決めたのは自分だと言い聞かせ、彼の前では極力笑顔を心がけ、一緒に居続けた。

ある日、彼の病室へ入ろうとした時、誰かに名前を呼ばれた。それは、彼の母親だった。彼の母親は、「いつも会いに来てくれてありがとう」と私に優しく微笑みかけた。そのあと、世間話など色々と話をした後に彼の病気の話になった。どうやら彼が助かるにはもう心臓の移植しかないらしい。でも、何年待っても彼に合う心臓は見つからなかった。彼の両親の心臓が合うかもしれないと検査をしたが、やっぱり彼の心臓には合わなかった。彼の母親は、「もっと丈夫な子に産んであげればよかったのに…」と悔しそうに涙を流しながら言った。そして、私は思った。彼の心臓と私の心臓が合うかどうか分からない。でも、調べるだけでもと思い、後日検査を行った。

彼はもう死の寸前まできていた。その時、彼に合う心臓が見つかった。医師は「奇跡だ」と言い、彼の両親は泣いて喜んだそうだ。私はこの事を知り、泣いてしまうほど嬉しかった。

そして、運命の手術の日。私は彼に手術室に行く前、「心臓と心臓の相性が合うなんてすごい運命だね!」と言った。彼は「そうだね」と言い、手術室へ向かって行った。私は見送った後、涙が零れていた。
数時間後、手術は無事成功した。でも、私は彼に会いに行くことができず、数日後この世を去った。そして、彼に私の死が告げられた。彼は唖然としていたらしい。彼はすぐには私の死因が分からなかった。そして、母親は、「あなたの心臓は死んだあの子の心臓なのよ」と泣きながらそう言った。そこでやっと分かった。手術室に行く前にあんな事を言った意味・そして急な死の理由が。「本当に君と僕は色んな意味で運命だったんだね」と言い、僕は泣き崩れた。