「おお~こりゃ立派な部屋だな!」
「すごいな。街の高級宿と比べても遜色ないぞ!」
「すごく綺麗なお部屋!」
勇者の間も他の客室もクリエイトで作成した和洋折衷の部屋となっている。ストアによって、ベッド、テーブル、イスなどを購入し、掛け軸や花瓶などといった装飾品も和室のほうに飾ってある。
「それにとっても明るいわね」
「確かにロウソクの火もないのに部屋全体が明るいな。あの天井にあるやつが光を発しているのか」
「あちらはライトと言って魔道具となっております。こちらのスイッチを押すとオンオフを切り替えられます」
「おお、こりゃすげえ!」
「就寝の際はこちらの小さなライトをお使いください」
ポエルが部屋の中の説明をしていく。ちなみにこの温泉宿の電気代は無制限らしいが、月々でポイントとして消費されるらしいので、あまり無駄に使うことはできない。
「おふたりはこちらのベッドで寝ていただいて、もうおひとりはこちらにあります布団というものを下に敷いてお休みください」
「なるほど、下は地面じゃないもんな」
「こちらは畳と申しまして、私の故郷で使用している床材です。刈り取ったいぐさという草を編み込んで作ったものになります。適度に柔らかく、特有の良い香りがしますよ」
そういえば畳についてはみんなに説明していなかったな。あとでみんなと共有しておくとしよう。
「草を織り込んだのか!?」
「はあ~手間のかかることをするもんだな」
日本伝統の畳は平安時代から存在する歴史の深いものだ。他にも優れた保温性やリラックス効果なんかもあったりするぞ。
本当は客室にもっといろいろと置きたいところだが、まずはポイントを貯めて少しずつ客室を増やしてから客室の中も整えていくことにしよう。
「有料ですが、防具や衣類などを浄化の魔法によって綺麗にするサービスなどもございますので、よろしければご利用ください!」
「おお、そりゃありがてえ!」
「ああ、目的の街まではまだ数日はかかるからな。ちょうど川で洗おうと思っていたんだ」
「私達は誰も魔法が使えないから本当に助かるわ!」
この温泉宿ではフィアナの魔法による防具や衣類のクリーニングサービスも行う。フィアナの魔力は常人のそれよりもはるかに多いらしいので、部屋の掃除の他にお客さんの服を綺麗にする余裕まであるらしい。
本当に護衛もこなすし、掃除や洗濯もこなしてくれるし、マジで有能である。フィアナを雇うことができて本当に助かったよ。
「お食事には準備が必要となりますので、少し前にフロントまでお申し付けください」
「おう、わかったぜ」
「それと宿内では武器の携帯が禁止されておりますのでご注意ください。貴重品はそちらの金庫に入れることが可能です。入らないものはフロントでも預かることが可能ですので、よろしければお声掛けください」
「なるほど、了解した」
「温泉に入る際は、こちらのタオルをご利用ください。また、温泉から上がりましたら、こちらの浴衣という服も無料でご利用できます」
各客室にはタオルと浴衣が5つずつ用意してある。フィアナの浄化魔法を使っても、タオルはフワフワな感触にはならなかったので、真っ白なタオルだけはしっかりと柔軟剤で洗濯をして用意している。
「ほお~服まで貸してくれるのか」
「確かに風呂から上がったあとに汗と埃だらけの服なんて着たくないから助かるぜ」
「ねえ、早速温泉に入りましょうよ!」
「ああ、そうしよう」
「温泉はあちらになります。中にはこの温泉宿でしか見られないようなものが多くありますので、脱衣所に貼ってあります説明をよく読んでからお楽しみください」
「ああ、了解だ」
「丁寧にありがとうね!」
「ふう~さすがにこっちの世界での初めての接客は少し緊張したな」
相手が武器を向けてきた時は仕方がないこととはいえ、やっぱり少し怖い。相手が外国人っぽい普通の人族だったからよかったが、見たこともない種族だったらもっとビビっていたかもな。
「あんな感じでよろしかったですか?」
「ああ、表情はあれだけど、言葉遣いは丁寧だからあんな感じでいいと思うよ。もちろん笑顔だったら、もっといいと思うけどね」
ポエルの表情は普段通り無表情な接客であったが、言葉遣いはとても丁寧なので、総合すると問題ないレベルだ。そもそも異世界の街のお店での接客はそこまでレベルの高いものではなかったからな。
もちろん笑顔での接客のほうが望ましいが、あれだけ丁寧かつ聞かれたことにもすぐに答えられるならば、クレームなどが入る可能性はないだろう。
「わかりました。とはいえヒトヨシ様の笑顔はあまり参考にできないので、フィアナ様かロザリー様の笑顔を参考にするとしましょう」
「おいこら喧嘩売ってんのか!」
いや、俺も自分のことをイケメンだなんて思ったことはないが、そこまでひどい笑顔ではなかったはずだ。……はずだよね?
「あ、おかえりなさい」
「ただいま、まだ新しいお客さんは来てないみたいだな」
「はい」
うちの実家の温泉宿と同じで、カウンターの裏には従業員の休むスペースがある。基本的には常に従業員をひとりはフロントに置いておくつもりである。
ガラガラガラッ
と思っていたら、ちょうど引き戸が開いた。
「んなっ、なんじゃここは!?」
「この扉は魔道具か!?」
先ほどの冒険者達よりも低い身長、白髪と白い髭に覆われている顔。どうやら2組目のお客さんはドワーフと呼ばれる種族の人たちのようだ。