『どんなことがあっても、俺は理人の味方だ!』
 八代がさっき言ったことが、頭の中でこだました。

 「人の道を外れても……」
 半開きの口から、特に何も考えずに溢れた言葉が、耳に届いた時、電流が流れたような衝撃が、脳に走った。

 八代が現代で、犯人と見なされていた殺人事件――大和さんと樹里亜がズタズタに殺された残忍な事件。

 あれは、本当に八代の犯行だったのか?
 抱き締め合う二人に、おそるおそる視線を向ける。
 あの事件が、理人君が起こしたものだとしたら?

 八代は、理人君が疑われないように、自分が犯人だと思われるように、逃亡していたんだとしたら――。
 樹里亜に、役に立たない、と見なされ、捨てられた理人君が、大和さんとの新居を突き止めて、家に押し入った――。

 頭の中で組み立てたその考えは、とても自然で納得できるものだと思った。
 私を後押しするように、ニュースキャスターが言っていたことを、ふと思い出した。
 事件が起きる前、被害者宅には、男の声でイタズラ電話が何度か掛かっていた、と。

 その声が八代に似ている、と大和さんは周囲に話していた。
 だから世間も、八代襟人が犯人、という説を、より一層信じていた。私もその一人だった。今この瞬間まで、疑いもしなかった。
 でも、似ているのだ。

 八代と理人君の声は、似ている。初めてちゃんと喋る理人君に、八代と声が似ている、という感想を抱いたことを、思い出す。兄弟は、声質も遺伝するものなのかな、と。
 現代で大和さんと樹里亜を殺したのは、理人君だという考えが、頭の中から離れなくなる。

 「そういえば……」
 事件が起こったのは、確か11月1日だった。
 八代の誕生日は、彼の父の日記を見るに、10月29日だ。
 事件当日、祝われる予定だったのは、八代だったのではないか。

 八代と大和さんは、本当に仲が良かった。怨恨など何もないただの仕事仲間だった。遅れた誕生日祝いを、川崎家でする予定だったのではないか。
 つまり川崎夫妻と共に倒れていた男性が犯人だったのだ。『招かれていた友人』とは、本当は八代のことで、口封じに殺されたと思われていた男性が実は、目的を達成した後に、自殺した理人君だった……。

 頭の中に、映像が浮かぶ。
 2022年の11月1日。川崎家に招かれた八代は、事件現場を目の当たりにした。
 この世の地獄かと思える惨状の中に、何年もの間、音信不通だった弟の姿を見つけて、これはどういうことか、と問いただす。
 心の壊れた理人君は、事の顛末を洗いざらいぶちまける。

 「あっ……!」
 驚きがもれ、口元を手で押さえ込む仕草を、無意識で行う。
 八代が私を殺した理由――。
 それがわかったかもしれない。