早く朝になれ、と願い続けていたら、いつの間にか眠っていたらしい。
 半開きのままのカーテンの隙間から、朝日が部屋中に降り注いでいた。
 枕元の時計を見遣る。6時を少し過ぎたところだった。

 「起きるか……」
 一晩眠れば、暗い気分も結構軽くなるみたいで、昨夜私を襲ったわけのわからない感傷は、もう消えていた。

 今日は、マミに会いに行く日。
 犯人を確かめに行く日。
 洗面台の前で、覚悟を固めるように、そう呟いた。



 病室の入り口近くのベンチに、八代は座っていた。
 手を振りながら近づくと、八代の隣にもう一人座っていることに気づく。
 理人君だ。相変わらず元気がなさそうに、地面を見つめている。

 「おはよう、理人君も来たんだ」
 「おう。『病院行くけどどうする?』って訊いたら、行きたがったから」

 幸の様子を見たいのだろうか。そう思っていると、八代が察したように耳打ちしてきた。

 「大丈夫だ。一人で幸のところへは行かせないから」
 それを聞き、安心する。

 今の屍のような理人君なら何もしなさそうだが、一度幸を殺そうとした人物である以上、どうしたって不安は拭えなかったから。

 「じゃ、行こうか。マミのところへ」



 「マミ? 悠だけど……。今入っても良い?」

 病室の扉をコンコンと叩く。そもそも起きてるのかな、と思って耳をすましてみると、「いいよ」とか細い声がした。
 扉を開けると、マミはベッドに仰向けで寝そべっていた。

 「ごめん。身体起こすのキツくて。襟人さんと――誰?」

 八代の後ろにいる理人君を、マミは訝しそうに見遣る。

 「俺の弟だ。朝からゾロゾロと悪い」
 「へぇ……弟さんですか」

 弟、という言葉に、興味を示したようで、理人君をじいっと見るが、好奇の目を向けられた彼は、居心地悪そうにそっぽを向いてしまった。
 マミは、関心を失ったみたいで、私に視線を移す。

 「お見舞いに来てくれたの? ありがとう」
 血色が良さそうな彼女を見て、胸を撫で下ろす。

 「体調は、どう?」
 「昨日、点滴打ってもらってから、だいぶ楽になった。まだあちこち痛いけどね」

 長時間苦しい体勢でいたのだから、当然だろう。気の毒そうに眉をよせると、マミが言った。

 「わたし話さなきゃいけないことがあるの。悠と襟人さんに。ううん、他にも色々な人に説明しなきゃなんだけど……」
 「ああ。俺たちも折野に確認したいことがある」

 八代が、真剣な表情でマミを見下ろす。その隣で私も、固唾を飲む。

 「えっと、弟さんはどうします? 暗い話になるんで、聞くのはおすすめしませんけど……」

 そう言って理人君を、困ったように見る。あまり他人に聞かれたくないみたいだ。
 けれど理人君を病院で一人にするわけにはいかない。どうする? と八代にアイコンタクトすると、

 「若葉が聞いて、後で俺に話してくれ。朝と同じ場所で待ってるから」
 と返ってきたので、わかった、と頷く。

 「こっちの話もちゃんとしとくから」
 「頼んだ」

 理人君を連れて廊下へ出ていく八代を、マミは不思議そうに見送った。

 「何なの? あの弟さん。ちょっと様子がおかしかったし……」
 「それも追々説明するよ。とりあえず――」

 部屋の隅にもたれ掛かっていたパイプ椅子を、ベッドの脇に設置する。
 腰を落ち着けたのを合図に、以前と比べて活力が減った、彼女の顔を覗き込む。

 「幸の家で縛られていた経緯について、話してくれる?」