「家にいなかったとは……」

 何とも肩透かしだ。期待と不安で膨らんでいた心が、落胆に染まっていく。

 「友達のところ、って……意外だな。てっきり塞ぎ込んで、ずっと家にいるのかと思ってた。でもわかんないか。楽しいことをして、気持ちをまぎらわせたいのかもしれないし」
 「それもそうだね」

 八代の言葉に頷く。
 辛いことがあった時の対応の仕方は、千差万別なのだから。
 住宅街の中を、すたすたと歩いていく。

 「それにしても、無駄足になっちゃったね。友達の家か――。正直マミの交友関係に詳しくないんだよね。八代はどう? マミからそういう話されたことある? もし心当たりがあるんなら言って。――八代?」

 反応がないのを不審に思って振り返ると、すぐ後ろにいると思っていた八代は、20メートルくらい離れた場所に立っていた。

 「どうしたの? ぼんやりして」

 引き返して様子を伺うと、彼は眉間に皺を寄せて、黙考していた。
 大事なことを思い出そうとしているような真剣な姿に、私も黙って彼の顔を見る。

 「犯人は、折野を眠らせたんだよな?」

 八代は、私の存在に気づいたみたいで、確認を取るように訊いてくる。

 「うん。その間に携帯を操作して、制服を隠した――。私の考えではね」
 「だったら、折野の携帯で送ったメッセージの、送信取り消しをするんじゃないか? 折野が起きた時に、内容を見られないように」
 「あっ!」

 そうだ。そうしないとマミに犯行がバレてしまう。

 送信取り消しをしたことは、表示されるけれど、私たち学生の間で、せっかく送ったメッセージを削除するのは、ありがちだった。

 グループなどでは、殊更に見受けられる。
 当たり障りのない普通のメッセージが、少し経ったら取り消されていて、『えっ、何が駄目だったの?』と首を傾げたことが、何度もあった。

 それに最悪、寝ぼけていた、ということにして、マミを納得させられる。メッセージを残したままよりずっと良いはずだった。

 「犯人が、マミが目覚めるっていう万が一を考えてたんなら、携帯だって隠すなり持っていくなりするんじゃないか?」
 「それは……」

 マミの携帯の存在。
 言われてみれば、すぐにわかることだった。どうして考えている時や、話している最中に気付けなかったのだろう。

 「じゃあ犯人は、マミが目覚めた時の保険として、制服を隠したんじゃなくて――着ていった……?」

 制服は目的を遂行するのに、必要不可欠な道具だった。だからマミの家からなくなっていた。
 私の思考を読んだように、八代が言葉を続ける。

 「万が一は考えてなかった。折野が途中で目を覚ますなんて、犯人にとって予想外のことだったんじゃないか?」

 だとすれば、犯人は……。
 私は半ば独り言のように言う。

 「幸を突き落とすことに成功したら、マミの家に制服を返しに来て、メッセージもその時消すつもりだった――」

 ということは、犯人は大和さんじゃない。マミの制服を着ていくのだから、年の近い女性に絞られる。

 「じゃあまさか――」

 口を鯉のように、パクパクと動かす。間抜けな様だが、そんなふうにならざるを得ないほどの衝撃が、全身を撃ち抜いた。

 八代も、小さく唸りながら顔を覆ったり、聞き取れない声で、何か言っていたりと、酷く困惑している様子だった。