八代襟人。私のいた現代において、殺人の疑いで、警察から追われていた人物。

 2022年11月1日に、都内の川崎(かわさき)家に侵入し、主人の大和(やまと)さんと妻の樹里亜(じゅりあ)さん。そして、その日川崎家に招待されていた男性の三人を、殺害したと見なされている。

 八代は、大和さんが働く会社と懇意にしている、個人事業主だった。
 八代が社内に来た時には、よく大和さんと話していたことから、二人の仲は、周囲の目には、良好に映っていたそうだ。
 しかし実際は、そうではなかったのだろう。

 事件翌日に、大和さんの携帯と繋がらず、緊急連絡先の自宅に電話しても反応がないのを心配した上司は、大和さんの自宅を訪ねたそうだ。
 訪ねたところ、人の気配が全くせずに、雨戸も閉ざされたままだった。悪い予感がした上司は警察に通報した。それで事件は発覚した。

 警察が家に入ると、川崎夫妻と夫妻が招いたとおぼしき男性の三人が、リビングで息絶えているのが、発見された。

 食卓に、リボンが巻かれたワインボトルと、三人分のグラスがあったことから、友人を招いてパーティーするつもりだったことが、予想された。

 また、夫妻は何ヵ所も執拗に切りつけられた状態で、怨恨からくる殺人だとはっきりわかったが、友人の方は首にしか傷がなかったことと、死亡推定時刻が夫妻よりも遅かったことから、口封じとして殺されたのだと判断された。

 八代が三人を殺した人物と疑われた理由は、二つある。

 一つ目は、川崎家近くの防犯カメラの映像。そこに映っていた血をつけた男の姿が、八代の背格好と一致した。

 二つ目は、事件発生の11月1日から、連絡が取れていないこと。取引先にも何も言わずに、八代は行方をくらませてしまった。

 また、何日か前、大和さんは職場の友人に、
 「最近家に、気持ち悪いイタズラ電話がくるんだ。そいつの声が、八代に似てるんだよなぁ」と笑い話として話していた。
 イタズラ電話も八代の仕業ではないかと、世間ではまことしやかに囁かれていた。

 八代は指名手配され、私が現代にいた最後の日も、逃亡中だった。

 私は、その八代に刺され、意識が遠のいたと思ったら、8年前に戻っていたのである。