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 全て読み終わった私は、愕然としていた。
 こんなの初めてだ。顔面をフルスイングされたみたいな衝撃だった。
 八代の父がタイムリーパーだったことも驚愕だが、私の胸を占める感情はそれだけじゃない。

 「胸糞悪い……!」
 フィクションだと信じたかった。これを書いた奴は、人間のクズだ。
 自分が幸せになることしか考えず、家族や他人のことなど何とも思ってない。

 たとえ弟君に能力を移すことに成功したとしても、この調子じゃあ、いつか父親としての威厳を失っていただろう。
 なんて利己的なんだ。彼のこの行動がどれほど八代や弟君の人生を狂わせたことか。

 それに母の百合さんはもう帰って来ないのだ。これがどれだけ悲しいことか。
 殺された人だけじゃなく、残された者はやりきれない気持ちを抱え続ける。
 よりにもよって父が母の命を奪って、その父もこの世からいなくなるなんて、子どもたちはどんな思いを抱くんだろう。

 先ほど別れた八代の顔が脳裏に浮かんだ。
 八代は夏祭りの日に、この日記のことを話そうとしていた。
 日記の内容について訊いた時の、迷うような表情を思い出す。

 私に打ち明けたかったのか? ひとりで抱えるには重すぎる父の秘密について、私と共有したかったのか?
 私が昨日、ずっと抱えてた家族へのわだかまりをぶちまけたみたいに。
 八代もあの日家族のことを話した拍子に、止められなくなっていたのかもしれない。

 『お前だから話したいことがある』
 八代はあの日、そう言って何か切りだそうとしてた。
 私だったら信じてもらえるかもと期待して、タイムリープについて話そうとしたのか。
 私にはそう思えてならなかった。

 それなら私も、彼に今まで隠してたことを打ち明けよう。
 そうして全て話したら、彼にも協力を仰ぐのだ。
 素敵な思いつきに、胸が躍る。
 ああ、私が阻止したいことについて八代に話せたら、どんなに心強いだろう。これからは一人で悩まなくて良いんだ。

 早速八代に電話をかけようとして、ハッと我に帰る。
 明日は大切な予定があるじゃないか。
 山田と会う日だ。
 打ち明けるのは、幸のストーカー被害が解決してからにしよう。まずその問題を片付けるべきだ、と思った。

 「とりあえず明日。山田に会わなきゃ」
 よしっ! と口に出して、その勢いでスッと立ち上がり歩き始める。
 なんだか全てうまくいきそうな予感が湧いてきて、久しぶりに晴れ晴れとした気分だった。