早朝の歓楽街は予想通り閑散としていた。
「いつもだったら人が落ちてたりすんだけど。昨日の台風のせいで誰も遊びに来てないようだな」
「歌舞伎町みたいだね」
歌舞伎町に行ったことはないが。聞くところによると、酔っぱらいが朝には道端で寝ているらしい。
いくら進んでいっても誰にも会わず、世界に二人しかいないような気分にさせられる。
爽やかな澄んだ空気にも関わらず、私の心中はそれどころではなかった。
「歌舞伎町はどんだけ汚れてんのかって思うよ」
「うん」
「俺のアパートの前にもしょっちゅうゴミが散らかっててさ。もう慣れたけど」
「うん」
「最近朝、寒くなってきたよな」
「うん」
「何か上の空じゃね? 体調でも悪いのか?」
いけない。会話に身を入れなさすぎた。不自然に思われてしまったようだ。
「あー……朝弱くて」
「そういうことか」
「八代はどう? 強い?」
「普通だよ。朝は好きでも嫌いでもない」
「そうなんだ。あっ、八代」
歓楽街を抜けて、小学校の通学路に入ったところで、そろそろいいかな、と立ち止まる。
「ちょっと寄りたいところあるから、ここまででいい」
「じゃ、また明日な」
「あっ、そっか。明日が約束の日曜日か」
「忘れんなよ」
「忘れないって。スケジュール帳に書いてあるし。ちょっとボーッとしてただけ」
今はあなたの父の日記の内容について、頭がいっぱいなんだよ。
こうして話している間にも、バレないか気が気じゃない。今は大丈夫でも、八代が帰宅したらすぐに紛失に気付かれるんじゃないか心配だ。
肩にかけたスクールバッグを気にする。早く読みたい――。
家に帰る時間さえもどかしくて、今すぐに中身を開きたかった。
「じゃあ明日ね。色々とありがとう。今度絶対にお礼するよ」
角を曲がって八代が見えなくなった途端、私は走り出した。
公園のベンチに腰を下ろしふぅ、と息を吐き出した。
全速力で走るのなんて、あんまりないからぐったりきてしまう。
公園内には誰もいなかった。やっとみんな起き出した頃だろう。土曜日だからもっと遅いかもしれない。
ここなら誰にも邪魔されない。
バッグの中から、手帳を取り出す。
よし。気を引き締めて1ページ目を開いた。
「いつもだったら人が落ちてたりすんだけど。昨日の台風のせいで誰も遊びに来てないようだな」
「歌舞伎町みたいだね」
歌舞伎町に行ったことはないが。聞くところによると、酔っぱらいが朝には道端で寝ているらしい。
いくら進んでいっても誰にも会わず、世界に二人しかいないような気分にさせられる。
爽やかな澄んだ空気にも関わらず、私の心中はそれどころではなかった。
「歌舞伎町はどんだけ汚れてんのかって思うよ」
「うん」
「俺のアパートの前にもしょっちゅうゴミが散らかっててさ。もう慣れたけど」
「うん」
「最近朝、寒くなってきたよな」
「うん」
「何か上の空じゃね? 体調でも悪いのか?」
いけない。会話に身を入れなさすぎた。不自然に思われてしまったようだ。
「あー……朝弱くて」
「そういうことか」
「八代はどう? 強い?」
「普通だよ。朝は好きでも嫌いでもない」
「そうなんだ。あっ、八代」
歓楽街を抜けて、小学校の通学路に入ったところで、そろそろいいかな、と立ち止まる。
「ちょっと寄りたいところあるから、ここまででいい」
「じゃ、また明日な」
「あっ、そっか。明日が約束の日曜日か」
「忘れんなよ」
「忘れないって。スケジュール帳に書いてあるし。ちょっとボーッとしてただけ」
今はあなたの父の日記の内容について、頭がいっぱいなんだよ。
こうして話している間にも、バレないか気が気じゃない。今は大丈夫でも、八代が帰宅したらすぐに紛失に気付かれるんじゃないか心配だ。
肩にかけたスクールバッグを気にする。早く読みたい――。
家に帰る時間さえもどかしくて、今すぐに中身を開きたかった。
「じゃあ明日ね。色々とありがとう。今度絶対にお礼するよ」
角を曲がって八代が見えなくなった途端、私は走り出した。
公園のベンチに腰を下ろしふぅ、と息を吐き出した。
全速力で走るのなんて、あんまりないからぐったりきてしまう。
公園内には誰もいなかった。やっとみんな起き出した頃だろう。土曜日だからもっと遅いかもしれない。
ここなら誰にも邪魔されない。
バッグの中から、手帳を取り出す。
よし。気を引き締めて1ページ目を開いた。