「ありがとう悠ちゃん」
 包帯を巻き終えると、幸がペコリと頭を下げた。

 「どういたしまして。あのさ……一体何が起こったの?」
 さっきからずっと気になっていたことを切り出す。

 幸は、「うーん……」と悩ましげにうなると、
 「私もよくわからなくって……。何が何だか。あ、でも」
 幸が、浴室の方へ視線を向ける。

 「エリちゃんが来てから話すよ。同じことを聞きたがると思うから。あっ、エリちゃんのことまだ話してなかったよね?」
 「うん。あの人って何なの?」
 「家事代行を頼んでるの。今17歳なんだけど、通信制高校に通いながら、うちで働いてもらってるの」

 幸の家へ遊びに行く度に、こんな広いと掃除が大変そうだなと思っていたが、なるほどそういう人を雇っていたのか。

 「あだ名で呼ぶほど仲良いんだね。ていうかあだ名可愛すぎない? エリちゃんって聞くと、女子としか思えないよ」
 「実はちっちゃい頃から一緒に遊んでたりしてたんだ。幼馴染みってやつだね。それからずっとエリちゃんで定着してる」

 幸は、幼馴染みのエリちゃんについて話しているうちに、少し元気になってきたみたいだ。

 「私も昔は気にならなかったけど、今のエリちゃんの姿とは、ギャップがありすぎる呼び方だと思う」
 「まあ強面だったよね。彼」
 「けどね悠ちゃん」

 幸が、とっておきの耳寄り情報を教えるかのような雰囲気を、醸し出してくる。

 「エリちゃんって優しくて面倒見良いんだよ。もうすっごい良い人なの」
 「そっか。彼のこと、かなり信頼してるんだね。――ところでフルネームは何て言うの?」

 名字と名前、どっちから着想を得て、あのキュートな呼び名をつけたのか。気になる。
 幸は朗らかに笑って、教えてくれた。

 「八代襟人だよ」