「山田と会えることになった」
 幸を送り届けた後、八代から電話がきた。
 外はまだ日が落ちきっておらず、夕焼けが家々をオレンジ色に染めている。それに安心感を覚え、八代の言葉に耳を傾ける。

 「山田の友達だっていう女子が、約束を取り付けてくれてな。今度の日曜日ファミレスで、とのことだ」
 「やったね。その子から何で山田に会いたいの、とか質問されたりしなかった?」

 山田の場所を素直に教えてくれないかもしれない――と言っていたマミを思い出して、そんなことを訊いてみる。

 「大丈夫だったよ。折野がその女子と秒で意気投合してな。そのおかげで不審がられることもなかったんだ」
 「マミとはすぐに別れたの?」
 「ああ。『今日は樹里亜先輩とガールズトークの約束があるので!』って言ってたよ。本当仲が良いな、あいつらは」
 「今回は、ということは、前回は二人でどっか寄ったりしたの?」
 「折野が、『お腹減ったんでどっか食べに行きましょうよ』って言ったから、ファミレスに飯食いに行った」
 「そうなんだ……そう、だったんだね……」

 言葉が詰まりそうになる。その理由を私はもう自覚している。だから余計に嫌な気分になった。
 ああ、もう。恋愛感情なんてくだらないもの、早く捨て去って楽になりたい。
 私の動揺は気付かれなかったらしく、「あ、そうだ」と八代が続ける。

 「日曜日若葉も来るよな?」
 「当たり前じゃん。山田って人が犯人かどうかこの目で確かめなくちゃ」
 この騒動をちゃんと最後まで見届けたいし。

 それから私たちはまた、何の益にもならない、くだらないお喋りを続けた。
 その一時のみ私は、気まずさなどを意識することなく、純粋に楽しめた。
 夜の帳がおりていくのをぼんやりと見つめながら、こんな時間が壊れないといいなぁ、と思った。