夜になって、八代に電話で相談する。
 「……ってことなんだけど、八代はどう思う?」
 「乗るに決まってる。可能性があるなら潰していくべきだ」
 「やっぱりそう言うと思ったよ」
 「若葉は無理に協力しなくてもいいんだぞ。犯人と会ったら、嫌な思いすんだろうし」
 「ううん。私も幸のためになりたい」
 「そうか。じゃあよろしくな」
 「うん。あの、さ」
 「どうした?」
 「マミのことなんだけど……」


 私は昼間のマミの言動と様子を話した。
 「償いたい、か」
 「マミは悔い改めたんじゃないかって。だから今後は警戒を解いて、素直にマミの言うことを信じられるような気がする」
 八代にもわかってもらいたいと思い、そう告げる。

 「そうだな。若葉が信用できるって言うなら、俺は信じられる。俺よりも折野と関わってるしな」
 「じゃあ――」
 「折野のことを信じてみる。疑ったままじゃあ、協力関係にもヒビが入りそうだし」
 「ありがとう、八代。マミにオーケーって伝えておくね」
 「ああ、頼む」

 このまま電話を切るのがもったいなくなって、私たちは他愛ないお喋りをしばらく続けた。

 「うわ、もうこんな時間じゃん。そろそろ寝なきゃ。八代も暇じゃないのに、遅くまで付き合わせてごめんね」

 時計は23時を過ぎていた。私よりも多忙だろうに、申し訳ない。

 「いいんだ。俺が若葉と話したかったんだから。また電話しよう」
 どことなく甘い声音で、八代が言う。
 「……うん。おやすみ」
 通話を切って、ベランダに出る。冷たい空気にあたりたかった。

 「顔、合わせづらいなぁ……」
 最後の八代の言葉に嬉しさが喉までこみ上げたことで、自分の気持ちを思い出した。
 これからこんな風に浮かれる自分を客観視しては、戒める日々が続くのか。

 ようやく気付いたこの気持ちは、封印しようと決めた。封印は難しくとも、絶対に表に出したりはしない。
 両親のことや、これまで何度となく別れてきた熱々カップルを思い返す。
 踏み出したところで、いずれああなる。相手を嫌いになったり、どうでもよくなる。

 八代を嫌いになるくらいなら、一生叶わないまま想い続けられた方が、幸せだ。破滅へと導くための感情など持ちたくなかった。