交番で幸が警官に説明している最中、私の携帯の通知音が鳴った。
八代からのメッセージだ。
『田所はシロだった』
簡潔にそれだけが書かれている。
内容にこれ以上ないほど納得した。私はさっき犯人に会ったのだから、田所のはずがない。
今は返信できる状況ではないため、再び鞄の中へと押し込んだ。
「あなたは彼の顔を見たそうですね? 特徴を教えていただけませんか?」
もう一人の女性警察官がメモとペンを握って、私に尋ねてくる。
「はい。高校生くらいの風貌で、鼻は高くて目は――凄んでいたのでよくわかりませんでしたが、確か二重でした」
警官に説明しながら、フードが取れた少年の頭が坊主だったことを思い出した。
以前幸の家の庭に入り込んだ男も坊主頭だった。こんなに短い感覚で、再び現れたということになる。
幸は転倒した際に擦りむき、手のひらの皮が少し剥がれた。実際に危害を加えられたのだ。
悪寒が這い回る。改めて危険が迫っていることを実感して、焦燥感と恐怖で胸が苦しくなる。
なんとかしなきゃ。幸にもしものことがあったら――。
頭から大量の血を流した幸の姿が、フラッシュバックする。またあんな結末になってしまったら――。
一気に身体中の血の気が引く。ガタガタ震える私を、警官が優しく抱き締めてくれた。
「大丈夫ですよ、ここは安全だから。怖かったでしょう」
その温もりと優しい言葉がスイッチになる。ひっきりなしに溢れ出てくる滴が顎をつたって、床や警官の服に染み出す。
迷惑だとわかっていながら、私は嗚咽と涙をせき止められなかった。
事情聴取が終わり、お暇しようとした時警官が、「自宅まで送ります」と言ってくれた。なので、生まれて初めてパトカーに乗る運びになった。
幸を送り届けた後、私の家へと向かっている道中、今日は疲れたな、と思い、どっしりとシートに沈む。
待ち時間が長い信号にぶつかり、何とはなしに窓の外を見ていると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
ほんの数メートルの歩道に、八代とマミがいた。それだけなら、別に何ということはないのだけれど――。
問題は、二人が腕を組んで歩いていることだ。
マミが何か話し掛け、八代がそれに小さく笑いながら応じる。次の瞬間、マミが甘えるように、八代の半身へ重心を傾けた。
「……!?」
八代は驚くことに、拒む素振りを見せずに、穏やかに歩き続けた。その足が向かうのはマミの家がある方角だ。
私は、その光景をどこか遠い世界の出来事のようにぼんやりと眺めていたが、車が走り出したと同時に、ハッと意識が戻る。パトカーが走行するのと比例して、二人が小さくなっていった。
しかし私の脳裏には、さっき見たものが、いつまでもこびりついていた。
八代からのメッセージだ。
『田所はシロだった』
簡潔にそれだけが書かれている。
内容にこれ以上ないほど納得した。私はさっき犯人に会ったのだから、田所のはずがない。
今は返信できる状況ではないため、再び鞄の中へと押し込んだ。
「あなたは彼の顔を見たそうですね? 特徴を教えていただけませんか?」
もう一人の女性警察官がメモとペンを握って、私に尋ねてくる。
「はい。高校生くらいの風貌で、鼻は高くて目は――凄んでいたのでよくわかりませんでしたが、確か二重でした」
警官に説明しながら、フードが取れた少年の頭が坊主だったことを思い出した。
以前幸の家の庭に入り込んだ男も坊主頭だった。こんなに短い感覚で、再び現れたということになる。
幸は転倒した際に擦りむき、手のひらの皮が少し剥がれた。実際に危害を加えられたのだ。
悪寒が這い回る。改めて危険が迫っていることを実感して、焦燥感と恐怖で胸が苦しくなる。
なんとかしなきゃ。幸にもしものことがあったら――。
頭から大量の血を流した幸の姿が、フラッシュバックする。またあんな結末になってしまったら――。
一気に身体中の血の気が引く。ガタガタ震える私を、警官が優しく抱き締めてくれた。
「大丈夫ですよ、ここは安全だから。怖かったでしょう」
その温もりと優しい言葉がスイッチになる。ひっきりなしに溢れ出てくる滴が顎をつたって、床や警官の服に染み出す。
迷惑だとわかっていながら、私は嗚咽と涙をせき止められなかった。
事情聴取が終わり、お暇しようとした時警官が、「自宅まで送ります」と言ってくれた。なので、生まれて初めてパトカーに乗る運びになった。
幸を送り届けた後、私の家へと向かっている道中、今日は疲れたな、と思い、どっしりとシートに沈む。
待ち時間が長い信号にぶつかり、何とはなしに窓の外を見ていると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
ほんの数メートルの歩道に、八代とマミがいた。それだけなら、別に何ということはないのだけれど――。
問題は、二人が腕を組んで歩いていることだ。
マミが何か話し掛け、八代がそれに小さく笑いながら応じる。次の瞬間、マミが甘えるように、八代の半身へ重心を傾けた。
「……!?」
八代は驚くことに、拒む素振りを見せずに、穏やかに歩き続けた。その足が向かうのはマミの家がある方角だ。
私は、その光景をどこか遠い世界の出来事のようにぼんやりと眺めていたが、車が走り出したと同時に、ハッと意識が戻る。パトカーが走行するのと比例して、二人が小さくなっていった。
しかし私の脳裏には、さっき見たものが、いつまでもこびりついていた。