校門を出て、幾分か歩いた頃だった。
何者かが砂利を踏んだような足音が、背後からしてきた。
後ろをそっと振り返る。
そこには、誰もいなかった。
ただの空耳だった?
「悠ちゃんどうしたの? 急に後ろを見て」
「いや――何でもない」
気のせいのような感じもする。この前のことで、神経過敏になってるだけかもしれない。
しかし――。
「幸。たまには違う道通って帰ってみようよ」
「えっ? ちょっ、悠ちゃん?」
幸の手を掴み、街灯の多い道へと歩を進める。
ずんずんと歩いていく私に若干戸惑いつつも、幸は大人しく手を引かれている。
私は急ぎつつも、早足になりすぎないように注意する。誰かがつけてきているかもしれないのなら、その人物を下手に刺激しないために。
素知らぬ顔をして歩きながら、背後へと気を配る。空を見上げるふりをして、さりげなく後ろを見て、悲鳴が飛び出そうになった。
早歩きでこちらに向かってくる人影があった。距離は着々と縮まってきていて、驚きと恐怖のあまり、私の心臓は止まりそうだった。
「幸、走るよ。全力で」
「わっ! ちょっ……」
手を繋いだまま急に駆け出したので、幸は一瞬よろけそうになったが、すぐに全力疾走の体制になり、そのタイミングで手を離して、並走する。
走りながら、幸も後ろへ目をやる。「ひっ」とひきつった声を出して、さらにスピードを上げた。
荒い息遣いで走る私たちの背後――少し離れた場所から、バタバタとした一人の足音が聞こえた。
向こうも走って追いかけて来てる――身体中の毛穴がぞわりと粟立った。
早く早く――明るくて大勢の人がいるところまで急がなくちゃ。それまで絶対に追い付かれてはいけない。
「あそこ曲がるよ!」
「うんっ!」
もう少しだ。目と鼻の先の角を曲がれば、大通りに出れる。
「きゃっ!」
「幸!?」
私の一歩後ろを走っていた幸の身体が、急に後ろ向きにひっくり返った。
振り返ると、一人の人間が、地面にうずくまった幸を見下ろしていた。
その人物は、パーカーのフードを深く被っているため、口元しか見えなかったが、その口角が興奮しているかのように上がっているのを見た途端、私の中から冷静さが消えた。
「幸から離れて!」
不安も危機感も吹き飛び、幸を転がしたそいつへ突進していく。
「悠ちゃん!」
幸の制止する声を無視して、そいつを地面に引きずり倒す。
その衝撃でフードがずれ、隠されていた顔が露になった。
そいつは、私たちと同い年くらいに見える少年だった。
整った鼻筋と綺麗な肌が印象的な少年は、痛そうに顔を歪ませ、憤怒に満ちた瞳で私を下から睨み付ける。
その視線に怯み、ほんの少しだけ拘束する力が緩んでしまった。
彼は、チャンスを逃さなかった。
少年は私を振り切ったかと思えば、目にも止まらぬ素早さで撤退していった。
「あっ! 待て!」
「もういいよ、悠ちゃん!」
遠ざかる彼へと伸ばした私の手を、幸が掴む。
「相手は男の子だし、勝てないよ。危ない」
宥めるようなその声音で、少し落ち着きを取り戻す。
「それもそうだね……あ、じゃあせめて――」
ついた汚れを落としながら、立ち上がる。
「交番に行ってこのこと話そう。確かこの近くだったはず」
何者かが砂利を踏んだような足音が、背後からしてきた。
後ろをそっと振り返る。
そこには、誰もいなかった。
ただの空耳だった?
「悠ちゃんどうしたの? 急に後ろを見て」
「いや――何でもない」
気のせいのような感じもする。この前のことで、神経過敏になってるだけかもしれない。
しかし――。
「幸。たまには違う道通って帰ってみようよ」
「えっ? ちょっ、悠ちゃん?」
幸の手を掴み、街灯の多い道へと歩を進める。
ずんずんと歩いていく私に若干戸惑いつつも、幸は大人しく手を引かれている。
私は急ぎつつも、早足になりすぎないように注意する。誰かがつけてきているかもしれないのなら、その人物を下手に刺激しないために。
素知らぬ顔をして歩きながら、背後へと気を配る。空を見上げるふりをして、さりげなく後ろを見て、悲鳴が飛び出そうになった。
早歩きでこちらに向かってくる人影があった。距離は着々と縮まってきていて、驚きと恐怖のあまり、私の心臓は止まりそうだった。
「幸、走るよ。全力で」
「わっ! ちょっ……」
手を繋いだまま急に駆け出したので、幸は一瞬よろけそうになったが、すぐに全力疾走の体制になり、そのタイミングで手を離して、並走する。
走りながら、幸も後ろへ目をやる。「ひっ」とひきつった声を出して、さらにスピードを上げた。
荒い息遣いで走る私たちの背後――少し離れた場所から、バタバタとした一人の足音が聞こえた。
向こうも走って追いかけて来てる――身体中の毛穴がぞわりと粟立った。
早く早く――明るくて大勢の人がいるところまで急がなくちゃ。それまで絶対に追い付かれてはいけない。
「あそこ曲がるよ!」
「うんっ!」
もう少しだ。目と鼻の先の角を曲がれば、大通りに出れる。
「きゃっ!」
「幸!?」
私の一歩後ろを走っていた幸の身体が、急に後ろ向きにひっくり返った。
振り返ると、一人の人間が、地面にうずくまった幸を見下ろしていた。
その人物は、パーカーのフードを深く被っているため、口元しか見えなかったが、その口角が興奮しているかのように上がっているのを見た途端、私の中から冷静さが消えた。
「幸から離れて!」
不安も危機感も吹き飛び、幸を転がしたそいつへ突進していく。
「悠ちゃん!」
幸の制止する声を無視して、そいつを地面に引きずり倒す。
その衝撃でフードがずれ、隠されていた顔が露になった。
そいつは、私たちと同い年くらいに見える少年だった。
整った鼻筋と綺麗な肌が印象的な少年は、痛そうに顔を歪ませ、憤怒に満ちた瞳で私を下から睨み付ける。
その視線に怯み、ほんの少しだけ拘束する力が緩んでしまった。
彼は、チャンスを逃さなかった。
少年は私を振り切ったかと思えば、目にも止まらぬ素早さで撤退していった。
「あっ! 待て!」
「もういいよ、悠ちゃん!」
遠ざかる彼へと伸ばした私の手を、幸が掴む。
「相手は男の子だし、勝てないよ。危ない」
宥めるようなその声音で、少し落ち着きを取り戻す。
「それもそうだね……あ、じゃあせめて――」
ついた汚れを落としながら、立ち上がる。
「交番に行ってこのこと話そう。確かこの近くだったはず」