そこには、十代後半くらいの青年が佇んでいた。
 背が高いその青年は、どことなく大人びた雰囲気をまとっている。スリムだが、しっかりした体つきと切れ長の鋭い目付きに、反射的に身体が強ばった。

 しかし彼の先ほどの言葉でどうやら味方らしいと気付き、ホッとする。
 この青年が、幸が気を揉んでいた“エリちゃん”なのだろう。

 エリちゃんは、私のことを怪訝な表情で見ている。
 それもそうだ。学生は登校している時間帯なのだから。

 「エリちゃん無事? どこも怪我してない?」
 幸が青年に話しかける。やはりこの人がエリちゃんらしい。

 よく見ると青年の服装は乱れていた。乱闘でもしてきたかのように、シャツやズボンには、ところどころ土がついていたし、顔も少し汚れていた。

 「ああ、俺は何ともねぇよ。少し汚れちまったけどな。それよりお前の方が重傷だろ」
 そうだ、幸の手当てをしなければ。

 「ねえ幸。応急処置したいから救急箱どこにあるか教えてくれる?」
 「体調が悪い悠ちゃんにさせるわけにはいかないよ。大丈夫、悠ちゃんは休――」
 「熱中症とか嘘だから。サボりたくなっただけ。だから私に任せて」
 有無を言わせぬ口調で、幸の言葉を遮る。

 休んでいる場合ではない。それほど酷い怪我でもないようだが、とにかく傷口を消毒した方がいい。
 私の勢いに押されるようにして、幸は左腕を押さえながら、「こっちだよ」と、私を案内しようとする。

 左腕――――。
 私は、気付く。
 『階段を降りてるときにすべった』と幸は学校を休んだ翌日に、私に伝えたけど――。
 これが本当の理由だったんだ。

 幸は、正直に話したら余計な心配をかけると思って、話さなかったのかもしれない。幸はいつもどこか遠慮がちな子だったから。
 何があったのかちゃんと聞き出さないと。

 幸は、救急箱のある部屋へ案内する前に、振り向いてエリちゃんに話しかけた。

 「エリちゃん。良かったら洗濯機と浴室使って。けっこう汚れちゃったみたいだから……」
 「じゃあありがたく使わせてもらう」

 そう言うと彼は、外に出ていった。汚れを可能な限り落としてくるのだろう。
 幸についていきながら、私は青年について考えていた。

 幸とどんな関係なのだろう。それに――。
 何だか同じような人を、最近見た気がする。