「悠は一回来たよね~、うち」
「うん」
駅前を離れて、私たちは現在、マミの家へと向かっていた。
「若葉が?」
八代が大きく目を見開いて、私を見る。酷く驚いている様子だった。マミを毛嫌いしている私が、マミの自宅を訪問するのが不思議なのだろう。
「樹里亜さんに連れてこられたの。それで不審な男についての調査の協力を頼まれた」
言い訳するように、早口に言い切る。
「樹里亜に?」
「話したいことがあるって言われて――私とマミに頼み事があったの」
「それで、これからは三人で登下校してほしいってお願いされたんですよ、樹里亜先輩に」
「人数いた方が、幸も安心できるだろうしな。しかし意外だな」
「意外? 何がですか?」
「いや、何でもない」
私には八代が言いたいことがわかった。樹里亜が幸をそれほど心配していることが、予想外だったのだろう。
けれど樹里亜は表に出さなかっただけで、妹を愛していたのだ。
真実を告げようとする私に、余計なことをするな、と釘を刺した樹里亜を思い返す。
樹里亜は不器用なのかもしれない。愛情の伝え方がド下手くそなだけで、ちゃんと家族を思っていた。
それに対して、良かったね、と心から祝福しているはずなのに、本当に喜ばしいはずなのに、何故だか胸に棘が刺さったような感じが、わずかに私を苦しめる。
もしや仲間を失ったような気がして、寂しいのだろうか。私は、そんなに勝手な人間なんだろうか。
そんなわけはない、と頭に浮かんだ考えを打ち消し、先導するマミの背中を見据えた。
「お邪魔します」
八代とほぼ同時にそう口にして、折野家の玄関に足を踏み入れる。
「家族はいないのか?」
八代が静まり返った室内に気付き、マミに尋ねる。
「放課後は家族は出払ってます。7時くらいまで誰も帰って来ませんよ」
靴を脱ぎながら、マミが説明する。家族がいないなら、作戦会議も捗ることだろう。
「襟人さんは誰か一緒に暮らしてる人いますか?」
「いや、一人暮らしだ」
「そうなんですね! じゃあ次は襟人さんちに行きましょうよ! どんなところかわたし気になります」
マミのはしゃいだ様子を目の当たりにして、胸が針で刺されたように痛んだ。
八代の自宅へ招かれるマミや、机を挟んで言葉を交わす二人を想像したのだ。脳裏に浮かんできたその光景は、無性に私の心をかきむしった。
こんな感覚、初めてだ。
「俺んちの周りは、治安悪いから来るべきじゃないぞ」
八代がピシャリと断ったのを見て、私は安堵した。そして騒がしいほどの心情の変化に、うろたえた。
私は一体どうしたのだろう。マミと八代の他愛ないやり取りに、これほど心を乱されるなんて……。
もちろん今までだって、いい気はしなかった。けれど日増しに不快感が膨れていっている気がする。いつか爆発するんじゃないか、と思うほどに。その時私は、どうなってしまうんだろう……。そこまで考えて、慌てて意識を現実に引き戻す。
何だかわからないことに気を取られないようにしなくては。これから大事な話し合いなのだから。
集中しないと。
通されたリビングのソファーの上で、私はピンと背筋を伸ばした。
「うん」
駅前を離れて、私たちは現在、マミの家へと向かっていた。
「若葉が?」
八代が大きく目を見開いて、私を見る。酷く驚いている様子だった。マミを毛嫌いしている私が、マミの自宅を訪問するのが不思議なのだろう。
「樹里亜さんに連れてこられたの。それで不審な男についての調査の協力を頼まれた」
言い訳するように、早口に言い切る。
「樹里亜に?」
「話したいことがあるって言われて――私とマミに頼み事があったの」
「それで、これからは三人で登下校してほしいってお願いされたんですよ、樹里亜先輩に」
「人数いた方が、幸も安心できるだろうしな。しかし意外だな」
「意外? 何がですか?」
「いや、何でもない」
私には八代が言いたいことがわかった。樹里亜が幸をそれほど心配していることが、予想外だったのだろう。
けれど樹里亜は表に出さなかっただけで、妹を愛していたのだ。
真実を告げようとする私に、余計なことをするな、と釘を刺した樹里亜を思い返す。
樹里亜は不器用なのかもしれない。愛情の伝え方がド下手くそなだけで、ちゃんと家族を思っていた。
それに対して、良かったね、と心から祝福しているはずなのに、本当に喜ばしいはずなのに、何故だか胸に棘が刺さったような感じが、わずかに私を苦しめる。
もしや仲間を失ったような気がして、寂しいのだろうか。私は、そんなに勝手な人間なんだろうか。
そんなわけはない、と頭に浮かんだ考えを打ち消し、先導するマミの背中を見据えた。
「お邪魔します」
八代とほぼ同時にそう口にして、折野家の玄関に足を踏み入れる。
「家族はいないのか?」
八代が静まり返った室内に気付き、マミに尋ねる。
「放課後は家族は出払ってます。7時くらいまで誰も帰って来ませんよ」
靴を脱ぎながら、マミが説明する。家族がいないなら、作戦会議も捗ることだろう。
「襟人さんは誰か一緒に暮らしてる人いますか?」
「いや、一人暮らしだ」
「そうなんですね! じゃあ次は襟人さんちに行きましょうよ! どんなところかわたし気になります」
マミのはしゃいだ様子を目の当たりにして、胸が針で刺されたように痛んだ。
八代の自宅へ招かれるマミや、机を挟んで言葉を交わす二人を想像したのだ。脳裏に浮かんできたその光景は、無性に私の心をかきむしった。
こんな感覚、初めてだ。
「俺んちの周りは、治安悪いから来るべきじゃないぞ」
八代がピシャリと断ったのを見て、私は安堵した。そして騒がしいほどの心情の変化に、うろたえた。
私は一体どうしたのだろう。マミと八代の他愛ないやり取りに、これほど心を乱されるなんて……。
もちろん今までだって、いい気はしなかった。けれど日増しに不快感が膨れていっている気がする。いつか爆発するんじゃないか、と思うほどに。その時私は、どうなってしまうんだろう……。そこまで考えて、慌てて意識を現実に引き戻す。
何だかわからないことに気を取られないようにしなくては。これから大事な話し合いなのだから。
集中しないと。
通されたリビングのソファーの上で、私はピンと背筋を伸ばした。